展 望

 

平成14年度学会誌のレビュー*

 

則次俊郎**

 

* 平成15616日原稿受付

** 岡山大学工学部システム工学科,〒700-8530 岡山市津島中3-1-1

 


1.はじめに

平成14年には,会誌「フルードパワーシステム」は第33巻第1号〜第7号まで発行された.会誌の企画・編集は編集委員会の所掌するところである.編集委員会は2ヶ月に一回開催され,ほぼ1年先までの特集企画の内容について議論している.本稿では,編集委員会の体制について簡単に説明した後,平成14年に発行された会誌の内容を簡単に紹介する.

 

2.編集委員会の体制

本学会が関係する分野は,基礎的な流動現象からフルードパワー技術の応用,それに関わる教育や諸規定の整備,環境問題などきわめて広範である.このような広範な内容をバランスよく会誌に反映させるため,平成11年より会誌特集のためのWG体制を設け,それぞれの巻号の企画を各WGが担当している.会誌特集WGの構成とそれぞれの担当分野は下記のようである.

WG1 基礎分野:流動現象,トライボロジー,振動騒音,材料,CAD,シミュレーション,電気電子など

WG2 機器分野:アクチュエータ,制御弁,ポンプ,空気圧機器,センサ,配管など

WG3 制御分野:制御理論の導入,サーボ技術,シーケンサなど

WG4 応用分野:現場(建設,航空)における応用例,問題点,新応用分野など

WG5 先端分野:ロボット,メカトロニクス,マイクロマシン,宇宙,バイオなど

WG6 社会分野:環境,省エネルギー,安全,フルードパワー教育,関連情報,学会活動,資格制度など

ジェネラルWG:その他

 すべての編集委員がWG16のいずれかに所属している.ジェネラルWGは委員長,副委員長および幹事を中心に構成され,社会の要請に応じて臨機応変な特集企画を行う.

 

3.会誌のレビュー

 3.1 第33巻 第1号 特集「アミューズメントシステム」 

伊藤雅則委員を主担当として,WG4により企画された.新年号を飾る企画として,子供だけでなく大人にも「遊び心」と「夢」を与えてくれるアミューズメントの話題が取り上げられている.アミューズメントシステムには,油圧駆動や空気圧駆動が数多く使用されている.人間との直接的な触れ合いが存在する分野であり,安全性,リアリティ,感性表現など,これからの機械システム工学に求められる多くの機能がすでに実現されている分野である.下記題目の解説記事が掲載されている.一般産業機械,ロボットなどの研究開発に携わる研究者・技術者にとってもきわめて興味ある特集である.また,本特集号の紙面はカラー印刷としている.

・日本最大の観覧車 それを支える技術力 ・お化け屋敷昨今 ・恐竜ロボット ・ヨットシミュレータ

・ローラーコースター(Roller Coaster)について ・絶叫マシン「リニアゲイル」 ・アトラクション施設におけるアニメーテッド・フィギュア

 

3.2 第33巻 第2号 特集「フルードパワー技術における産学連携」

伊藤容之委員を主担当として,WG6により企画された.我国の経済状況改善の切札として,産学官連携が政府主導の下に推進されている.また,平成164月からの国立大学の法人化に伴い,大学においても研究成果を知的財産として適切に保護し,活用することが求められている.大学の研究者も従来のような学術論文の発表だけでは社会から適正な評価を得られなくなりつつある.このような状況において,学会は何をすべきであろう.本学会は,少なくともフルードパワー技術に関連する産学連携には全責任を負うべきである.本特集は,このような想いから企画されたものである.下記題目の記事が掲載されている.本学会および学会所属機関における産学連携の取り組みが紹介されている.本特集を機会に,フルードパワー技術の分野において産学官連携の新たな動きが産まれることを望む.

・フルードパワーシステム学会における産学共同研究の展開 ・TLOの現状―TLO(Technology Licensing Organization 技術移転機関)とは ・産・官・学連携のあり方について ・世界の常識を破った技術開発における産学共同の成果 ・出前方式の産学連携 ・横浜ティーエルオー紹介 ・各大学における産学連携の取り組み ・企業(ベンチャー)から産学連携への期待 ・産学連携のための特許と契約の基礎知識

 

3.3 第33巻 第3号 特集「マイクロフルードパワー」

藤田壽憲委員を主担当として,WG5により企画された.IT,バイオに続く新産業分野として,マイクロマシンが期待されている.マイクロマシンの応用分野はきわめて多岐にわたり,フルードパワー技術が貢献できる場面も数多いと考えられる.たとえば,小型化に伴う寸法効果などに対応するためには,パワー密度が高いフルードアクチュエータが有利となる可能性もある.本特集では,マイクロマシンと融合したフルードパワー技術を「マイクロフルードパワー」と表現し,フルードパワー技術の新たな分野へのチャレンジを期待して本特集を企画した.下記題目の記事が掲載されている.

・マイクロシステム(マイクロマシン,MEMS/MOEMS)とその応用 ・ワンチップ集積化圧力センサ

・マイクロフローセンサを用いた流量計測 ・機能性流体を用いたマイクロアクチュエータ ・双方バルブレスマイクロポンプの研究 ・マイクロマシニング技術を用いるマイクロパワー源 ・マイクロ化学/生化学システム用マイクロ流体デバイスの研究動向 ・マイクロガスレートジャイロ

 

 3.4 第33巻 第4号 特集「最適設計とシミュレーション」

 真田一志委員を主担当として,WG1により企画された.「最適」の意味は多様であり,評価基準の与え方によって最適性の中身は大きく異なる.例えば,最適制御というのは,設定した評価関数を最小化すると言う意味での最適であり絶対的な最適ではない.そこで,設定した重み行列に対して設計された制御系の真の最適性をシミュレーションにより検証する必要がある.シミュレーションは設計されたシステムの最適性を吟味するための強力な手法であり,フルードパワーシステムの設計においても効果的に利用すべきである.本特集では,下記題目の解説により,最適設計の概念と具体的なシミュレーションツールが紹介されている.

・同時最適設計のフルードパワーへの適用 ・最適化手法の応用による制御系設計の自動化の試み

・静圧軸受の最適設計 ・空気圧システムの最適な機種選定ツール ・油圧回路設計・動特性解析用シミュレーションパッケージOHCSim ・油圧回路設計/解析システムICAD/SX-OCSの有効性と事例紹介 ・建設機器開発におけるシミュレーションの適用 ・EASY5によるシミュレーション

 

  3.5 第33巻 第5号 緑陰特集「フルードパワー開発プロジェクト」

 大内英俊委員を主担当として,WG2により企画された.フルードパワーの世界にも多くの「プロジェクトX」が存在するはずである.という発言から,本特集の企画が始められた.現在のフルードパワー技術に至るまでには,その時々の時代の要請に応じてブレークスルーを産み出した開発プロジェクトが存在したはずである.このようなプロジェクトを推進するためには,新技術に対する夢と心意気,成功の喜び,強力なリーダシップなどが原動力となるが,すべてのプロジェクトにおいて「フルードパワーの達人」と呼ばれる人達の存在がある.本特集の前半部では,このような役割を果した8名の人達からそれぞれのプロジェクトについて解説していただいた.プロジェクトの始まりから製品化に至るまでのご苦労や喜び,そして,研究者・技術者としての心構えなどが記述され,後に続く我々後輩にとって示唆に富んだ内容である.後半では,比較的最近の5件の開発プロジェクトが紹介されている.新製品開発における苦労話しや成功の喜びなど,フルードパワー技術に携わる者を元気付ける内容が記述されている.

 

 3.6 第33巻 第6号 特集「IT時代のロボット技術」

 石田義久委員を主担当とする,WG3により企画された.製造現場で働く通常の産業用ロボットの開発研究は収束した状態であり,特殊な用途を除いて産業用ロボットにフルードパワーが利用される場面は少ないようである.一方,最近のロボットは確実に人間に接近しつつある.高齢化社会を迎えて,介護ロボットや生活支援ロボットなど人間を作業対象とするロボットの研究が注目され,また,地震や火災などの大型災害に対応するロボットの研究開発も急務となっている.このような,ロボットには,従来のロボットにはない人間親和性,あるいは高出力が要求される.これらの要求に対応するためには,電動方式だけでは不十分であり,空気圧駆動や油圧・水圧駆動を積極的に利用すべきである.このような観点から,本特集では,空気圧や油圧・水圧を用いた次世代ロボットの研究開発状況が解説されている.掲載記事の題目は下記のようである.

・身体構造を機構化した歩行装置 ・高齢者の自立化と介護・介助を支える福祉機器 ・空気圧アクチュエータを用いた介護機器の開発 ・空気圧ロボットによる建設機械の遠隔操縦 ・簡易操作形レスキューロボットの開発 ・水圧駆動消化ロボットの開発 ・重量物ハンドリングマニピュレータ ・歩行支援ロボット ・仮想作業空間を用いた建設機械の遠隔操作

 

 3.7 第33巻 第7号 特集「フルードパワーにおける流れの数値解析入門」

  築地徹浩委員を主担当として,WG1により企画された.フルードパワーシステムを構成する各種機器内の流れを解析することは,高性能な機器設計においてきわめて効果的である.近年,電子計算機の急速な発達により,乱流,境界層流れ,脈動流れなどのかなり複雑な流れ場の数値解析が可能になっている.また,それぞれの用途に応じて解析手法が確立され,多種のシミュレーションパッケージが市販されている.従来は大型計算機により長時間かけて解析していたものが,パソコンによりきわめて短時間に解析できるようになっている.流れの数値解析はフルードパワー技術と流体力学との接点にあり,いわゆる数値流体力学の成果をフルードパワー技術の進展に有効に利用することが期待される.本特集では.現在利用されている数値解析手法の入門的解説ならびに解析事例が紹介されている.具体的な収録記事は下記のようである.

LESによる流体解析の動向 ・SSIMPLE法 ・有限体積法とSMAC法による油圧機器内流れの数値解析法 ・有限要素法による流れの解析 ・渦法による流れの数値解析 ・圧縮性流れの数値解析 ・乱流モデル(RANS,κ−εモデル法) ・並列計算 ・ノズルの噴流に関する数値解析 ・ファン廻りの流れ解析 ・超音速旋回乱流の実験におけるCFDソフトの効果的な利用法

 

4.おわりに

 平成14年の学会誌の特集内容を概説した.改めて全体を見直してみるとフルードパワーシステムの関連分野を幅広くを取り上げることができた.また,フルードパワー技術の発展の経過を記した記録として後世に伝えるに十分な内容であると自負するものである.会誌の企画・編集業務は編集委員各位の斬新なアイデアと熱意により成り立っている.また,貴重なご寄稿をいただいた執筆者各位のご協力の賜である.

 近年,産学連携が叫ばれる中,学から社会へ向けての情報発信が強く要請されている.学会誌は,そのための有効手段の一つである.会誌を通して,フルードパワーシステムに関する学術研究の成果を社会に発信するだけでなく,会誌を産学の融合を図る場として利用することも必要である.編集委員会では,このような観点から,今後の学会誌のあり方等についても議論したいと考えている.会員諸氏より多くのアドバイスやご意見をいただければ幸いである.

 

 

著者紹介

則次俊郎(のりつぐとしろう)

19491019日生まれ.

1974年岡山大学大学院工学研究科修士課程修了.津山工業高等専門学校を経て,1986年岡山大学工学部助教授.1991年同機械工学科教授.1996年同システム工学科教授.2002年岡山大学地域共同研究センター長併任,現在に至る.2003年度日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス部門部門長.1999年より日本フルードパワーシステム学会編集委員長.空気圧技術を中心としたロボティクス・メカトロニクスに関する研究に従事.工学博士(京都大学).

email:toshiro@sys.okayama-u.ac.jp