総 論

 

産業に役立つフルードパワーシーズ小特集*

 

早瀬敏幸**

 

* 平成157月8日原稿受付

** 東北大学流体科学研究所,〒980-8577仙台市青葉区片平2-1-1

 


学会ホームページを通じて広く会員外へも情報発信を行う電子出版緑陰特集号として,本小特集では,特にこれまでフルードパワーの利用経験がない読者をも考慮して,わが国の大学等の研究機関における最新のフルードパワーシーズをわかりやすく取り纏めることとした.そのため,油圧,空気圧,水圧,機能性流体その他のフルードパワーシーズについて,大学等の教育研究機関にアンケートを実施し,その結果を取り纏めて本小特集を編集した.

会誌編集委員会電子出版緑陰特集号WGでは,平成154月に,大学等教育研究機関に所属するフルードパワーシステム学会員に電子メールによるアンケート調査を実施した.430日までに,30機関からアンケート結果が寄せられ,98件のフルードパワーシーズが寄せられた.本性特集では,これらのシーズを,油圧,空気圧,水圧,機能性流体その他の4つの分野に分け,それぞれの分野を専門とする若手の先生方に解説をお願いした.なお,本稿の表1には,98件全てのシーズ番号(ID),シーズ名,内容の説明がまとめてある.各シーズに対する,研究機関名,研究者名,電子メール,ホームページ等の連絡先は,以下の分野毎の記事において表にまとめられている.各シーズは,シーズ番号(ID)で一意に対応している.シーズによっては,複数の分野にわたるものもあるが,分野ごとに独立のシーズ番号を割り当てている.

なお,本小特集は,今回実施したアンケート結果に基づき構成したものであり,わが国のフルードパワーシーズが本小特集の内容のみに限定されるものではないことを念のため付記する.

 

1 本小特集のフルードパワーシーズの説明

 

ID

タイトル

説  明

1

一般産業用油圧サーボ系へのロバスト制御理論応用に関する研究

電気・油圧サーボ機構を一般産業用油圧機器,特に油圧式バックホーや活線工事用マニピュレータへ応用するにあたり,インピーダンス制御の剛性の変調に加速度到達則を適用したスライディングモード制御則を用いたスライディングモード変調法(SMC変調法)を適用することで,シリンダ駆動力の安定性向上を実現している.また,インピーダンスモデルから求めることのできる仮想速度,仮想加速度を導入することで更なる性能の向上を試みるとともに,一般産業用油圧機器へのロバスト制御理論の応用に対する総合的な評価を行っている.

2

作動油の浄化に関する研究

石油資源が枯渇することが危惧されている中で,作動油のリサイクルを考えている.また,フィルタを使用せずに,リアルタイムで作動油が浄化できないかを考えている.これまで,微弱電流による浄化装置を設計製作し,作動油の浄化に関する実験的研究を行っている.その結果,浄化が可能であることが明らかになった.今後はその理論的な裏付けに関する検討を行う予定である.

3

油圧シリンダの知能化に関する研究

油圧制御システムを一つのセンサだけで構成することが可能であれば,そのシステムの単純化,低廉化が図れると考えられる.本研究では,精度の面で劣る超音波センサの多機能化についての実験的研究を行っている.シリンダの位置・速度・力制御はもちろんのこと,作動油の劣化の評価が可能であることを明らかにした.

4

制御弁の流動解析ソフトウエア

サーボ弁内の三次元非定常流動解析ソフトを開発している.複雑な弁形状への柔軟な対応や,数値安定性に関する研究成果に基づく計算精度と安定性の両立が特徴である.これまで,数値解の格子収束性など,本ソフトウエアを用いて,信頼できる数値解を効率的に得るための研究を行っている.弁に作用する非定常流体力の正確な予測のために本ソフトウエアを用いれば,流体騒音や振動に対する最適な弁形状の設計等を行うことが可能である.

5

直動型ポペット弁回路の安定性解析

直動型ポペット弁は,構造が単純かつ応答性に優れているので,様々な油圧回路の調圧弁や安全弁として用いられているが,回路に組み込むことにより,弁単体では安定であるはずの動作条件においても自励振動が発生することがある.そのため,弁と管路を組み合わせたシステムを例に採り,管路の存在が回路の安定性に与える影響を調べている.また,弁のダンパ減衰力を増加させても必ずしも回路が安定にならないことから,アキュムレータによる制振の効果を調べている.

6

水圧用圧力補償型流量制御弁の流動特性解析

近年の環境問題の高まりなどとともに液圧機器の作動流体として水が注目されているが,水はその低粘度故に潤滑性能が低いため,機器の設計において摺動部のクリアランスを大きくする必要がある.ここでの水の流れが機器の特性に大きな影響を与えることが考えられるため,Danfoss社製圧力補償型流量制御弁Type VOH 30PMを例に採り,圧力補償弁に働く流体力に注目した弁の数学モデルを構築し,その特性を調べている.

7

Brake-by-wire 油圧システム

高機能で信頼性の高い鉄道車両用の機械式ブレーキを実現するシステムとして鉄道車両用BBW (Brake-by-wire)油圧システムを提案している,これは小形で高機能な油圧制御システムを台車に配置し,航空機のFBW(Fly-by-wire)と同様,電線(wire)を通じて制御するものである,油圧システムはポンプから制御弁までを小形ユニット化し,各台車に分散多重配置するので非常に信頼性が高く,メンテナンス性が良い.既にその中枢となる油圧制御弁として,内部漏れが無く圧力センサを必要としないポペット形ブレーキ圧力制御弁を開発し,その性能を確認している.

8

位置・力制御油圧シリンダ

このシリンダは,片ロッドシリンダと制御弁が一体化されており,機械的フィードバックによって入力用ステッピングモータ本体を回転することにより位置制御が行われる.制御弁は本体に収納されたスリーブさらにその内部のスプールからなり,スリーブがばねで支持されているため,任意の位置近傍での力制御が実現できる.さらに入力用小形モータ軸の回転角およびモータ本体の回転角を検出し,これらを任意の比率でフィードバック制御すれば,コンプライアンス(柔らかさ)制御が可能であり,ロボット用などの小形高出力多機能アクチュエータとして優れた性能を有する.

9

定圧力源油圧駆動システム(CPS

CPSは動力源を常に高効率運転できることおよびエネルギーの回収・再利用ができることから,省エネルギー油圧システムとして注目されている.エネルギー蓄積装置としてフライホイールを用いたCPSハイブリッドカーを製作・試験し,省エネルギー効果の検証を行っている.また,油圧プレスなどへの応用を念頭にしたトランスフォーマを用いたシリンダの駆動について実験およびシミュレーションを行い,省エネルギー効果の推定法の確立を目指している.

10

駆動方式(油圧,水圧,電動)の棲み分け

射出成形機においては従来油圧駆動が主流であったが,近年電動射出成形機にその座を奪われつつある.射出および保圧を行う単純な駆動パターンを設定し,消費動力に着目し,どのような条件のときにどの駆動方式(油圧,水圧,電動)が適しているのかを実験およびシミュレーションにより検討している.

11

低騒音な油圧制御弁の開発

我々で開発している渦法による三次元流れ解析用プログラムと実験的な可視化解析手法を用いて,種々の油圧制御弁内の流れおよび振動解析を行い,キャビテーション現象や弁の振動・騒音の現状を捉え,環境に良い制御弁の開発設計を行っている.本解析プログラムの特徴は,計算格子が不要で,弁が振動する場合の移動境界問題に簡単に適用でき,乱流モデル無しで乱流計算ができる点である.今後,本解析手法を三次元圧縮性流れに拡張し,空気圧制御弁の解析および開発を行う予定である.

12

ダイレクトドライブ流量制御油圧システム

油圧システムの小型化および省エネルギを目的に,サーボモータ駆動の可逆転油圧ポンプとアクチュエータを直結するシステムを開発し,利用技術確立のための研究を進めている.アクチュエータの位置・速度等をモータの回転数制御により目標値に追従させるもので,船舶用操舵システムに適用し,従来型に比べ,容積比1/10,電力消費量1/20の効果を確認した.このシステムは分散化や高速化への対応も可能で,今後,広汎な応用が考えられる.

13

油圧サーボパラレルリンク機構の制御

油圧サーボパラレルリンク機構は大パワー・多自由度運動を簡単な機構で実現できるので,油圧の利点を発揮した大パワー機械制御が可能である.注意を要するのは複数のアクチュエータ間の,運動の相互干渉であり,特に多自由度振動試験機など,動的運動機構におけるこの干渉の程度を解析する手法を提供する.

14

負荷反力の動的シミュレータ

例えば,振動杭打ち機は負荷(地盤)の粘性・弾性・慣性など動的性質により杭打ち性能が変わる.これを製作段階でテストする装置として,負荷反力の動的シミュレータが必要とされるが,これを油圧サーボで実現する設計・制御方法を提供する.杭打ち機にかぎらず,反力が数10〜数100トン級の大出力駆動機械の性能テスト装置のニーズに応えることが出来る.

15

複数の偏芯回転体の回転速度と回転角位相の同時制御

例えば,4個の偏芯回転体を回転させて加振力を発生させる振動杭打ち機では,4個の偏芯回転体の回転速度と回転角位相の同時制御が必要である.しかもこれらの回転体全体が振動する場合には,その運動は非常に複雑になり,その制御は簡単ではない.一般に,振動する複数の偏芯回転体の同時制御を,油圧制御により実現する方法を提供する.

16

薄膜センサーの開発

流体潤滑されたすべり軸受等のしゅう動面は,油膜圧力により支えられているので,この圧力を知ることは重要である.従来,油膜圧力は基礎方程式を仮定のもとに解いて求められているが,エンジン軸受等においてこれを実測により確かめる事は,適当なセンサーがないため,実現できなかった.そこで,転がり軸受や歯車など高面圧用に開発された薄膜マンガニンセンサーを元に,すべり軸受のような低い圧力でも感度良く測定出来る圧力センサーを開発している.この他,薄膜温度センサーや薄膜ひずみセンサーも開発している.

17

油撃を利用する増圧装置

油撃により高圧が発生する現象を利用して増圧装置を開発した.これを利用して油圧モータの制御をした.次に油圧シリンダ内の圧力を実用レベルの圧力まで増圧することを試みて30MPaを超える圧力を得た.

18

液体管路系の動特性シミュレーションのためのブロック線図表示法

従来,コンピュータプログラムを作成して行われている液体管路系の動特性を求めるための計算過程を,離散時間型の1つのブロック線図ですべて表示できることを明らかにした.これにより,GUI型のシミュレーションソフトを用いてパソコンのディスプレイ上にブロック線図を書くことにより,直ちに高精度のシミュレーション結果が得られるようになった.

19

油中気泡の除去による油圧システムのタンクの小型化

油中気泡の除去装置を用いて油温の上昇が抑制できることを踏まえ,油中気泡除去装置と一体化した油圧用小型タンクシステムの搖動実験装置により,建設機械や農業機械,自動車等,実環境でのタンクの振動による空気の混入とその除去にともなう油温上昇の抑制効果を実証している.移動型油圧システムにおけるタンクの小型化を実現できる.

20

複合管路内の流体過渡現象解析用ソフトウェア

複合管路内の流体過渡現象を高速・高精度で予測できる“SMA法”と呼ぶ汎用的な数値計算法を開発している.一般に,管路系は複数個の管路要素や分岐・合流継手から構成されているが,従来,このような複合管路に発生する流体過渡現象を精度良く予測できる数値計算法は開発されていない.本開発の“SMA法”の計算法の有効性は既に油圧管路系に対して検証済みである.今後は,空気圧配管系,エンジンの燃料配管系や吸・排気管路系,各種流体輸送管路などの分野への適用を計画している.なお,解析の目的は流体過渡に伴う管路系の衝撃・振動・騒音の低減化対策を見出すことにある.

21

低騒音油圧ポンプの開発

各種油圧ポンプの低騒音化設計に必要なシミュレーション解析技術や計測技術の開発を行っている.具体的には,油圧ポンプの脈動源特性のシミュレーションプログラム,油圧ポンプの脈動源特性の計測法(“2圧力/2システム法”),油圧ポンプに起因する管内圧力脈動解析用シミュレーションパッケージ,FEM/BEMによるポンプ騒音の推定法,油圧ポンプ騒音の音質改善法(例えば,不等ピッチによる)などの開発を行っている.近年実用化(United States Patentも取得)された自動車パワーステアリング用の低騒音可変ベーンポンプも,これらの技術を基に開発されたものである.

22

油圧機器の最適化設計

指定された制約条件の下で指定された目的関数を最小にする(すなわち,最大の能力を発揮する)ように機器の設計変数を探索する最適化設計法の研究を行っている.これまでに,自動車パワーステアリング用レゾネータホース,多段ヘルムホルツ形共鳴器,可変共振モード形サイドブランチなどの脈動吸収器の最適化設計を行い,実験により設計法の妥当性と工業的有用性を検証している.今後は,本最適化設計法を脈動吸収器以外の機器へ適用することを計画している.

23

自励振動法による油圧サーボシステムの同定

伝達関数を実験的に明らかにするため,油圧機器を対象としてバンバン制御系を構成し,制御系が発生する自励振動の振動特性から機器の2次遅れ近似伝達関数を同定する方法(自励振動法)を提案している.この自励振動法を理論的に導きサーボ弁および油圧モータ・負荷系に適用して実験を行い,同定結果を検証している.この自励振動法は,計測周波数特性から二次遅れ近似伝達関数を求める方法に比べ著しく簡単であるという利点があり,油圧機器以外にも適用でき工業的な有用性が評価されている.

24

油圧サーボアクチュエータのニューラルネット制御

帰還回路にNN補償器を置く油圧サーボ系に関して,規範モデルによる適応制御システムを提案し,油圧モータの角速度および油圧シリンダの位置の目標値に対する追従性能について調べ,負荷外乱やパラメータ変動に対してロバスト性が十分あることを確認している.特に油圧サーボモータの角度制御では,微小なサーボ弁入力信号を与えても駆動しない不感帯領域をもつ汎用歯車モータを制御プラントに選び,状態フィードバックニューラルネット補償器とディザーおよびPWM信号を利用した微小な角度制御系の研究を進めている.

25

ベーンポンプの内部挙動

ベーンポンプ内のシングルベーンやデュアルベーンの挙動とポンプ室圧力の関連を理論的かつ実験的に解明している.今までにカムリングとベーンの離間を抑制する二つの手法を提案し,ポンプの高効率化・低騒音化を図っている.すなわち,ポンプ室の圧縮閉じ込み過程に付加容量ならびにばね式アキュムレータを設置することによりサージ圧力が吸収され,ベーン離間が抑制されることを検証した.これらの設計基準を確立しており,ポンプ駆動条件から寸法などの決定することが可能である.

26

油圧回路のシミュレーション

油圧回路における圧力や流量などの変化を数値シミュレーションにより予測する.個別の回路構成に応じて,また知りたい内容に応じて,シミュレーションの内容をカスタマイズし,サージ圧や油温変動などの解析にも対応する.

27

流体制御用電磁アクチュエータ(電磁式および超磁歪)

流体制御機器用の電磁アクチュエータの開発,高性能化を行っている.電磁弁用オンオフソレノイド,比例ソレノイド,ラッチソレノイド,特殊ポンプ駆動用電磁アクチュエータ,リニアモータ,および磁界の変化に応答して伸長する合金の超磁歪素子をベースとした高応答アクチュエータなどを対象に,FEM磁場解析,可動部の動特性解析を駆使して,発生力,応答性など各種要求仕様に着目した設計最適化を行っている.

28

電子油圧によるモーションコントロール

油圧アクチュエータ,制御弁,電気-流体のインターフェースとなる電磁アクチュエータ,各種センサー,および制御法を統合した電子油圧制御システムとモーションコントロールに関する研究を行っている.モーションコントロールには,アクチュエータ,センサー等のハードウェアの設計開発と,各種制御理論のソフトウェア開発の両面からのアプローチを進めている.

29

電子油圧/空気圧制御弁,燃料噴射弁の設計と開発

磁場解析(比例ソレノドや高速電磁弁用ソレノイド,超磁歪素子の静磁場と動磁場解析)と流体工学解析による電子油圧/空気圧制御弁,デーゼルエンジン用及び,代替燃料用インジェクタの設計と開発を行っている.

30

アキシアルピストンポンプの騒音低減

油圧アキシアルピストンポンプの騒音発生の原因として,吐出シリンダ内の圧力変動に基づく加振力に着目し,傾転角制御用シリンダを利用してアクティブに制振することにより騒音の低減を図っている.斜板の見かけの支持剛性を変更して振動伝搬特性を変化させるもので,騒音の周波数成分に対して選択的に補償加振力を与えるものと,最も低次の加振周波数を利用する方法がある.いずれも偶数ピストンポンプに適している.

31

管路内流体の圧力脈動の動特性シミュレーション技術

パソコンレベルで実行可能な,管路内流体の分布定数系モデルに基づく圧力脈動の高速・高精度な時間応答シミュレーションパッケージを開発している.油圧管路(剛体壁管路,ゴムホース),燃料噴射系,インクジェットプリンタ他,多くの分野に適用可能である.

32

高速ON/OFF電磁弁を用いた油圧式精密駆動システム

NC工作機械等で採用されている電動式の駆動テーブルは,装置が大規模・複雑かつ高価となる.そこで,従来の電動式装置が占める設置スペースを大幅に縮小しつつ,電動式に匹敵またはそれを上回る位置決め精度と加工能力を有するマイクロ加工機が簡素で安価なものとして開発されることが望まれる.本シーズは,それを実現するための油圧式小形テーブル駆動システム(約A4版サイズ)であり,4個の高速ON/OFF電磁弁によってディジタル制御される.

33

油圧制御システムのバーチャルリアリティへの応用

油圧制御システムのバーチャルリアリティ(以下VR)への応用研究として,(1)遠隔操作・臨場感提示建設ロボット,(2)VRを応用した車椅子シミュレータ,(3)6軸パラレルメカニズムを用いた力覚提示ディスプレイシステムなどの開発を行っている.これらのテーマでは,@油圧パラレルメカニズムによる揺動感覚提示法の研究,A油圧マスタ・スレーブ制御の研究,B視覚提示などの研究などを行っている.

34

油圧システムへの各種制御手法の適用

油圧サーボシステムや油圧アクティブサスペンションシステム等に対し,各種制御手法を適用している.これまでに適用した制御手法は,現代制御,H制御,スライディングモード制御,予見制御,予測制御,ファジー・ニューロ制御などである.

35

PZT素子を用いた高速ディジタル弁の開発

PZT素子を用いてPWM制御によりオンオフ駆動するディジタル弁の高速化を図っている.これまで,積層型PZT素子やバイモルフ型PZT素子を用いた高速ディジタル弁の試作を行い,その性能について実験とシミュレーションにより検討している.

36

油圧システムの回路設計と動特性解析

ボンドグラフを利用したフルードパワーシステムのモデリングと動特性シミュレーション,これを生かした回路設計手法の開発を行っている.動特性解析ではコンポネント,アセンブリ,システムとそのモデル化のレベルは違ってくるが,ボンドグラフを利用すればこれに随時対応できる.シミュレーションはOHC-Sim,Mr.Bond,20Sim等を利用している.また,回路内の熱発生・熱移動を伴う油圧システムの動解析と回路設計をも手がけている.

37

流体圧を利用した生活支援機器の試作

流体圧(主として安全・清浄・簡易な空気圧)の長所を生かした歩行,介護,楽器演奏等の支援装置を開発,試作している.例えば,市販の空気圧シリンダと比例弁を用いて単純な機械構造の下肢持上げ装置を駆動するため,持上げ角度と支持力を同時に制御する最適サーボ系を構成して,自然な歩容の歩行動作を行わせることができる.また,体重を流体力に変換して,歩行器のブレーキ力や推進力を得ることも可能である.

38

圧力センサ出力の波形復元

流体制御回路の圧力信号を,止むを得ず測圧孔(検出オリフィスまたは導圧管と受圧チャンバー)を介して圧力センサに導く場合には,動的測定誤差によって誤動作を引き起したり,流動現象の誤解を招いたりするおそれがある.測圧孔による波形の変形を正しい圧力信号に戻すため,測圧孔の動特性理論を用いた復元回路を開発している.この問題は制御素子や配管等の小型化,動作の高速化に伴ってますます重要になると思われる.

39

非線型特性を考慮した空気圧駆動システムの制御

空気の持つ圧縮性やシール摩擦に起因する非線型性より,一般に空気圧駆動システムは電動機駆動システムより制御性能が悪いとされ,また制御系設計では制御パラメータ調整に手間がかかることが多い.ここでは,ロバスト制御,VSS制御,厳密線形化などのアドバンスト制御を空気圧駆動システムへ応用して,停止位置精度などの制御性能向上をはかっている.また,実際の応用を考え制御パラメータの調整が容易になる手法を開発している.

40

管路遅れを有する空気圧駆動システムの制御

管路遅れを有する空気圧駆動システムの制御では,一般に位相余裕が少なくなり不安定になりやすい.ここでは,遅れ時間を考慮したロバスト制御を応用することで,管路遅れが問題になる場合でも安定な制御系設計を体系的に行う手法を提案している.

41

サンプリング時間を考慮した空気圧駆動システムのディジタル制御

安価な組み込み型CPUによりディジタル制御を行う場合,計算時間の問題でサンプリング時間を十分短く取れない場合がある.ここでは,サンプル値制御を用いることでサンプリング時間を陽に考慮した空気圧駆動システムのディジタル制御を提案している.提案手法を用いることで,既存の制御手法より長いサンプリング時間で制御が可能になる.

42

空気圧ばね式除振台のアクティブ制御

空気は振動を遮断するためには大変望ましい材料であり,空気圧ばねによる除振制御には,安全・クリーン・低発熱・安価など,さまざまな優位点がある.半導体露光装置などの超精密機器の微振動除振には,空気圧ばね式の防振台が広く用いられており,それらは空気圧サーボ弁によって,高周波なアクティブ制御がなされている.本研究では,空気圧サーボ弁の特性解析や高速非定常流量計測を制御システムに取り入れることにより,除振性の向上及び空気消費量の低減を目指して研究をしている.

43

局所排気装置を有する実験室環境の空調システムモデリング

より安全な研究環境を研究者に提供するために,空調制御系を対象としたクリティカル環境シミュレーターを開発する.通常は化学系研究室にて,研究者が危険なガスを吸い込むのを防ぐためにヒュームフードが用いられることが多い.本研究では,ヒュームフードを含む実験室の圧力応答,給排気量を再現する集中定数系シミュレーターを開発し,様々な使用環境に対しての動特性をシミュレーションする.開発されたシミュレーターは実際の研究室に対する制御機器の試験運転に使用することができる.

44

層流形流量計の特性解析

差圧式流量計の一種である層流形流量計は,測定流量が圧力差と線形関係を有しているため,レンジアビリティを広く確保でき,かつ動特性も優れていると言われている.しかしながら,実際に動特性を検証した例はほとんど見受けられない.そこで本研究では,動特性,なかでも周波数応答特性に着目して校正を行うとともに,加圧下を含めた流量特性の検証,これを用いたアプリケーションについて研究を進めている.

45

ゴム人工筋を用いた建設機械遠隔操縦用空気圧ロボットアーム

2次災害の危険性を伴う災害復旧作業においては,短時間で簡単に普通の建設機械を遠隔操縦する装置の開発が望まれていた.本研究では,どんな機種でも操縦席に簡単に取付けられ,人間とほぼ同様の動作が可能なヒューマノイド型のロボットアームを製作し,建設機械の遠隔操縦を実現した.ロボットアームの駆動部は空気圧ゴム人工筋より構成されている.本研究は文部科学省大都市大震災軽減化特別プロジェクトに参加している.

46

等温化圧力容器を用いた非定常流量計測

本研究では,等温化容器を用いて流量特性の測定方法を提案した.等温化圧力容器は,空気の熱容量が鉄と比較して小さいことに着目し,圧力容器の内部に金属綿を詰めただけの簡単な構造のものである.充填と放出する際,普通容器の空気温度変化が40 [K]である場合に,等温化圧力容器内空気の温度変化が2 [K]以内である.この特性により,等温化圧力容器内の圧力変化から出入りしている空気の非定常流れの瞬時流量を精確に求めることが可能である.

47

静圧軸受機構を利用した非接触型空気圧サーボステージ

空気圧システムは磁場や発熱の影響を受けにくいという特長があり,半導体製造環境に適合する.本研究では空気圧駆動により位置決め精度が1μm以下の高精度なシステムを実現するため,気体静圧軸受により浮上したスライダを完全非接触で駆動する駆動機構及びその制御方式を提案した.本研究のシステムは静圧軸受により摺動摩擦が全くないという特徴を持っている.1μmの分解能および位置決め再現性が実験で確認できた.

48

可変開口型流量計の特性解析

差圧式流量計の代表格であるオリフィス流量計では,測定流量が圧力差の平方根に比例するため,低流量域での精度確保が困難であり,レンジアビリティも小さい.しかし,絞り部に可動機構を付加し,絞り前後で生じる圧力差に応じて開口面積が変化する可変開口型流量計によれば,レンジアビリティを飛躍的に向上することが出来る.本研究では,その流量特性およびレンジアビリティ向上に寄与する要因を明らかにし,測定原理の基礎メカニズムの解明を進めながら,高レンジアビリティ実現に向けた研究を行っている.

49

マイクロフルードセンサの開発

半導体製造技術の飛躍的な進歩に伴い,流量計測技術にも高機能なセンサデバイスが投入されるようになってきた.そのような中で本研究では,特にMEMS技術を利用した熱式流量センサに着目し,これまで十分に行われてこなかった動特性補償を踏まえた次世代流量センサの研究・開発を行っている.現在,センサの製作およびセンサデバイスの構造解析,測定部における熱流動解析,設置条件下での流動解析などを進めている.

50

空気圧システムのエネルギー消費の評価方法

従来,圧縮空気によるエネルギー消費は圧縮空気消費量で示されているが,この評価方法は各機器要素のエネルギー収支や損失などを解明することが不可能である.本研究では,圧縮機から駆動機器までのエネルギー変換に注目し,空気圧機器内部のエネルギー損失のメカニズムを解明して圧縮空気の持つエネルギーの定義及び定量化に成功した.これにより,空気圧システム全体のエネルギー収支や機器内部のエネルギー損失原因の特定が可能となった.

51

エアパワーメータ

エアパワーメータは体積流量計の代わりに,圧縮空気の有効エネルギーの流束(単位kW)を計測するものである.また,エアパワー算出に必要な圧力と流量を測っているため,圧力計と流量計の機能も備わる.エアパワーメータを工場配管に付けることにより,エネルギー管理において圧縮空気は電力と同様に扱えるようになった.エアパワーメータが将来,工場で電力の省エネ管理に常用される“パワーテスター”のように,空気圧の省エネに役立つことを期待する.

52

Wound Tube Actuator (螺旋型チューブアクチュエータ:WTA)

断面の予め潰れたチューブを螺旋状に巻き,その内部を加圧すると螺旋スラスト軸方向に伸長する空圧アクチュエータを開発した.螺旋構造のため,様々なものに巻きつけて駆動力を生成できるという,全く新しい駆動系を構成することが可能となる.耐圧は0.7[MPa]あり,80gで80[W]の出力を生成できるため,出力重量比も高い.伸縮動作だけでなく,湾曲やスクリュー動作を行うことも可能である.

53

ウェアラブル・フルードパワー

身体に装着することが可能な人工筋肉を提案している.アクチュエータの基本要素として上記WTAを用い,装着前の自然体となるべく近い条件になるような軽量高出力の駆動系機構を開発した.上肢の3D運動や,歩行支援をアシストすることができる構成を有し,健常者の6割程度のトルク生成が実現できている.

54

能動ホース

狭隘空間を移動することのできる能動的に動くホースを提案している.上記WTAを駆動の基本要素とし,湾曲動作や伸縮動作が可能なユニット構造となっており,外径45程度の小型サイズであるためそれらを連結して瓦礫空間などを移動して要救助者を発見したり,延命用水を供給する作業などに期待されている.

55

跳躍・回転移動体

凹凸の激しい不整地では跳躍しながら俊敏に移動し,整地では車輪のように回転運動して移動効率を高められる移動機械を提案している.カプセル構造体の内部に,ロー軸とピッチ軸まわりに回転できるジンバル構造で支えられた直動機構を有している.整地においては,直動機構が小さい加速度で地面を蹴り,カプセル構造体の長軸まわりに回転運動を生成することが可能となる.また不整地においては,直動機構が大きな加速度で地面を蹴って跳躍運動が実現され,転倒の憂慮なくどのような姿勢からでも容易に着地可能である.さらに,カプセル構造体を変形し,安定に静止することも可能となる.このような移動機械は,カメラなどを搭載することによって,災害のために崩壊した建物の下敷きになった被災者探索に役立つものと考えられる.

56

カメレオン形直動アクチュエータ

シリンダと比較すると,極めて大きい割合で伸長できる直動空圧アクチュエータを発明した.カメレオンの舌のように渦巻き状に巻かれたホースの先端は2つのローラーで挟まれ,さらにその先からホース内部を空気で加圧し,その空圧を制御することでホース長を調節できる方式をとっている.また,ホース巻き軸と同軸に取り付けられたコンストンフォースばねを利用して受動的にホースを巻き取ることも可能である.このようなアクチュエータは,地雷撤去など遠隔地からの危険物処理作業に有効と思われる.

57

ペダル式人力空圧ポンプ

自転車をこいで空圧エネルギーを効率的に発生できる「人力ポンプ」を提案している.「人力ポンプ」は,車輪と接触回転するローラー,回転から直動運動への変換機構,および2本の空圧シリンダとから構成しており,シリンダ内の圧力変化を人間に感じさせにくい機能を具備しているため,既存の手漕ぎ式や足踏み式ポンプに比べ高効率な特性を有する.よって,例えば震災現場のレスキュー作業におけるエネルギー源として適用できるものと考えられる.

58

空気圧制御弁内の流れと流量特性

空気圧制御弁の流量特性は音速コンダクタンスと臨界圧力比で表わされる.弁内の流れの数値解析を行い,流れの状態と音速コンダクタンスおよび臨界圧力比との関連を検討している.この手法が確立されれば設計段階での流量特性の推定が可能になる.

59

ニューラルネットワークを用いた空気圧シリンダの位置決め制御

ニューラルネットワークを用いて空気圧シリンダの位置決め制御システムの開発を行っている.RBF(Radial Basis Function)ネットワークは非線形な関数を滑らかに補間する汎化能力を高速に実現できる特徴をもっている.そこで,このネットワークを用いて非線形システムを同定し,その結果を使って安定なモデル追従型制御系を構成する方法についての研究を行っている.

60

空気圧を用いた力接触感覚の提示

人工現実感生成技術における力接触感覚の提示に空気圧を用いている.指先に取り付けたマトリックス状に配置した噴流口から適当な流速で空気噴流を送出し,接触感覚を伴う仮想物体の形状や姿勢を提示する事を試みている.また空気圧ベローズを手袋状に配置し,仮想物体の把持における力感覚の提示を試みている.両者を統合することにより,計算機内の仮想物体とのインタラクションをともなう把持と移動が可能となる.

61

複合管路内の流体過渡現象解析用ソフトウェア

複合管路内の流体過渡現象を高速・高精度で予測できる“SMA法”と呼ぶ汎用的な数値計算法を開発している.一般に,管路系は複数個の管路要素や分岐・合流継手から構成されているが,従来,このような複合管路に発生する流体過渡現象を精度良く予測できる数値計算法は開発されていない.本開発の“SMA法”の計算法の有効性は既に油圧管路系に対して検証済みである.今後は,空気圧配管系,エンジンの燃料配管系や吸・排気管路系,各種流体輸送管路などの分野への適用を計画している.なお,解析の目的は流体過渡に伴う管路系の衝撃・振動・騒音の低減化対策を見出すことにある.

62

油圧機器の最適化設計

指定された制約条件の下で指定された目的関数を最小にする(すなわち,最大の能力を発揮する)ように機器の設計変数を探索する最適化設計法の研究を行っている.これまでに,自動車パワーステアリング用レゾネータホース,多段ヘルムホルツ形共鳴器,可変共振モード形サイドブランチなどの脈動吸収器の最適化設計を行い,実験により設計法の妥当性と工業的有用性を検証している.今後は,本最適化設計法を脈動吸収器以外の機器へ適用することを計画している.

63

パワーアシスト椅子

椅子からの立ち上がりと座り込みを補助することを目的としたパワーアシスト椅子を研究している.回転可能な座部の下に空気シリンダとリンク機構を込みこんで,あたかもばねが入っているかのような動作をするようマイコンで制御している.体重やばねの硬さの好みなどに応じて自在に調整できる.

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流体制御用電磁アクチュエータ(電磁式および超磁歪)

流体制御機器用の電磁アクチュエータの開発,高性能化を行っている.電磁弁用オンオフソレノイド,比例ソレノイド,ラッチソレノイド,特殊ポンプ駆動用電磁アクチュエータ,リニアモータ,および磁界の変化に応答して伸長する合金の超磁歪素子をベースとした高応答アクチュエータなどを対象に,FEM磁場解析,可動部の動特性解析を駆使して,発生力,応答性など各種要求仕様に着目した設計最適化を行っている.

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電子油圧/空気圧制御弁,燃料噴射弁の設計と開発

磁場解析(比例ソレノドや高速電磁弁用ソレノイド,超磁歪素子の静磁場と動磁場解析)と流体工学解析による電子油圧/空気圧制御弁,デーゼルエンジン用及び,代替燃料用インジェクタの設計と開発

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空気圧機器の流量特性の測定法

空気圧機器の流量特性の測定法に関する研究を実施している.ISOでは,空気圧機器を流れる空気の流量,圧力及び温度から,音速コンダクタンスと臨界圧力比を求め,これによって流量特性を表示するように規定している.しかし,ISO の適用範囲は口径の呼びが20 mm以下の機器であり,口径の呼びが20 mmを超える機器の流量特性をISO の方法で測定する場合には,きわめて大型の試験装置が必要となり,一般には試験の実施が困難であった.本研究室では,小型の試験装置で空気圧機器の流量特性を測定することができるだけでなく,省エネルギーで低騒音の新しい測定法を開発した.

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圧電アクチュエータを利用したオンオフ弁の開発

積層形圧電アクチュエータは小形,強力,高応答である反面,変位量が小さく,一般的な大きさの弁体を駆動するのは困難である.そこで,素子に急激に印加電圧を与えたときに発生する衝撃的な力で弁体を跳ね上げる方式の空気圧オンオフ弁を開発した.一回のオン時間には制約があるが,弁体を連続的に打撃することが可能なため,微小物体を吹き飛ばすような用途のほか,シリンダを微小変位させることも可能である.

68

センサスイッチを利用した空気圧シリンダの位置決め

空気圧シリンダシステムは簡便な搬送手段として,工場の自動化ラインなどで広く使われている.中間停止が必要な場合はサーボ系を構成する必要があり高コストとなる.そこで,搬送物体や停止位置が決まっている繰り返し動作に対して,2つのセンサスイッチを目標位置手前に配置して停止させる手法について検討している.二段階に制動することにより停止精度を向上させている.長ストロークシリンダにも対応可能である.

69

人間親和性を有するソフトアクチュエータの開発

福祉介護用要素として,空気圧を用いた柔軟要素の開発を行っている.具体的には,発泡ゴムの外側をシリコンでコーティングすることにより,発泡ゴム多孔部に空気を充填する構造であるシリコン外殻型発泡ゴムアクチュエータを提案している.本アクチュエータは,発泡ゴムが単層構造の場合,内圧により剛性を容易に調整できることから,サポータ,拘束ベルトに応用可能である.また,二層構造の場合は,形状変形を生じることから姿勢変化用サポータ,ベットシートに利用できる.

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空気圧アクチュエータを用いた福祉介護装置

力センサとアクチュエータの同時利用が可能なベローズアクチュエータ及び空気圧シリンダーを用いることにより,座位姿勢から立位させる自立型移乗機を開発している.使用者がもたれかかるサポータ部にベローズアクチュエータを使用していることから,もたれかかる力を測定することができる.そこで,サポータへもたれかかる力及びサポータ部の傾きにより使用者の移乗姿勢を推定し移乗軌道を生成している.そして,使用者の体格に合わせた柔軟移乗動作を実現している.

71

ゴム人工筋を用いた人体機能支援ロボットの開発

軽量かつ高出力という特徴を有する空気圧ゴム人工筋を用いたロボットシステムを開発している.これまで,2自由度のゴム人工筋マニピュレータに対し,インピーダンス制御手法の適用によるリハビリテーション支援ロボットへの応用や,ゴム人工筋を直接人体に装着したウエアラブルな人体機能支援装置に関する研究を行っている.このような人間親和型ロボットの使用により,高齢者や身障者の日常生活支援,ならびに肉体労働における疲労緩和などの効果が期待できる.

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ソフトアクチュエータの開発と応用に関する研究

外郭部も柔軟な材質で構成されたソフトアクチュエータを開発している.これはシリコーンゴムを成型して作成するもので,金型さえ作成できればアイデアを容易に具現化できる特徴を有する.このようなソフトアクチュエータを用いて,平面搬送モジュールや管内移動ロボット,また,ロボットフィンガーへの応用に関する研究を実施している.本アクチュエータの柔軟性という特徴により,不定形状の対象物や,壊れやすく傷つきやすい物のハンドリング等が期待できる.

73

空気式パラレルマニピュレータのモーションコントロールとコンプライアンス呈示装置としての応用

空気圧アクチュエータを用いたパラレルマニピュレータにおいて,位置制御やインピーダンス制御を実施し,その制御性能向上に関する研究を行っている.また,力センサを使用することなく,マニピュレータ外郭部に作用する接触力・接触点を推定し,その点に対して任意のコンプライアンスを呈示する手法を提案している.後者では,例えばスイッチのように,微妙な押し込み感覚の調整が要求される装置の設計・製作段階における,プロトタイプとしての応用等が考えられる.

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2自由度制御器とニューラルネットワーク補償器を併用した空気圧サーボ系の構成

実用的でロバストな空気圧サーボ系の開発を目的とした研究を行っている.2自由度制御器は,I-PDスミス制御器により目標値応答特性を,外乱補償器により外乱に対する制御特性をそれぞれ独立に規定できるという特徴がある.また,ニューラルネットワーク補償器を2自由度制御器に付加することにより,制御対象のモデル化誤差と摩擦の影響により生ずる目標軌道への追従誤差を改善し,位置決めや力制御性能を向上させている.

75

電空ハイブリッドシステムの動特性解析

ボンドグラフを利用した電空ハイブリッドシステムのモデリングと動特性シミュレーション,これを生かした回路設計手法の開発を行っている.そのシステム内の様々な摩擦特性やシステムの応答性のシミュレーションを行い,実験結果との対応を確認することでモデリングの妥当性を検証している.

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水圧駆動用高速電磁弁

開発した水圧駆動用高速電磁弁は2段式の弁である,大流量の水圧システムに適用するためポペット形式の主弁とボール形式の小形のパイロット弁を組み合わせている.この弁の特長は主弁ポペットの周囲から漏れる水をパイロット流量として逆に利用するという特徴を持っており,高速の切換が可能である.現在は搬送周波数50HzのPWM制御による流量制御が可能なことを確認している.

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水圧駆動消火ロボット

回転する複数の棒が形成する波状の形を利用(これを「波形進行方式」と呼ぶ)して階段を昇降できるロボットを提案している.火災現場の環境は著しく劣悪であり,火災の中を移動するための耐熱機能,消火で水浸しになっても機能できる防水機能,そして高層ビルの階段を俊敏に昇っていく対地適応機能と階段踊り場における軽快な旋回機能などが要求される.このロボットは,波形進行方式により,平地だけでなく階段などの段差や障害物も乗り越え可能であり,水圧駆動であるため防水の必要がなく耐火性能に優れている

78

水道圧で駆動するIP Motor

機械可動部が流体と直接接触することなく,流体エネルギーから回転運動を取得できる流体圧モータを提案している.ドラム内壁に巻かれた柔軟チューブ内部に流体を流すと,柔軟チューブを摺動するローラーが高圧側から低圧側へ自転しながら公転し,回転トルクを生成できる構造である.また,柔軟チューブを2本対向して使用することにより,1本のみでは生じるローラー不動状態の特異点を回避することもできる.このような駆動方式は,漏れ防止のパッキンが不要なため低圧駆動が可能なうえに,錆や腐食の懸念もないため,いまだ実用化されていない家庭用水道圧モータとして適している.

79

共振駆動を用いた高出力圧電マイクロポンプ

高出力マイクロポンプとして,弾性体のポンプ室と慣性質量から成る振動系の共振により圧電素子の微小変位を拡大し高出力化を図ったポンプを提案,試作し,その有効性を実験的に確認している.直径9mm,高さ10mmの試作ポンプで水を作動流体としたとき,流量80mm3/s,圧力0.32MPa,パワー密度14mW/cm3を実現している.さらに,均一系ER流体などのポンピングのため,吸入弁,吐出弁の能動駆動を含む改良を試みている.

80

水圧駆動制御システム

環境負荷の小さい液圧媒体として水道水に注目し,実用化に向けての問題点とその解決法を研究している.水の持つ低い粘性は,実用上好ましくない非線形な摩擦現象などを引き起こす原因となる.ポスト現代制御理論を応用したロバスト制御で系内の不確かさに対処しようとする実験を行っている.また,低粘性,低潤滑性の水で用いられる水圧駆動制御用の機器について,特性改善に向けた実験およびシミュレーションによる検討を行っている.

81

駆動方式(油圧,水圧,電動)の棲み分け

射出成形機においては従来油圧駆動が主流であったが,近年電動射出成形機にその座を奪われつつある.射出および保圧を行う単純な駆動パターンを設定し,消費動力に着目し,どのような条件のときにどの駆動方式(油圧,水圧,電動)が適しているのかを実験およびシミュレーションにより検討している.

82

水圧制御システムの実用化手法の研究(ロバスト制御と高速運転化可能性)

環境負荷の小さい液圧媒体として水道水に注目し,実用化に向けての問題点とその解決法を研究している.水の持つ低い粘性は,実用上好ましくない非線形な摩擦現象などを引き起こす原因となる.これまで水圧モータを研究対象とし,ポスト現代制御理論を応用したロバスト制御で系内の不確かさに対処しようとする実験を行っている.一方で,水は鉱物油に比べて圧縮性が小さいことが特徴であるが,これを利用して従来よりも高速な動作を実現させる場合にどのような問題点が起きるかについて実験的研究を行っている.水圧システムで油圧並あるいはそれ以上の性能を実現することができれば,エミッションフリーな動力源としての水圧システムが実現できる.

83

水圧駆動システムに関する研究

環境性の向上や省資源の観点から,作動流体として清水を使用する水圧駆動システムの開発が期待されている.本研究では,介護機器などへの応用を考慮して,水道水程度の低圧力で駆動できる長い管路(10m)を有する水圧駆動システムを試作した.このシステムを用いて,制御弁をステップ上に変化させたときの,システム圧力,シリンダ圧力,ピストン変位特性を実験的に求めるとともに,油圧回路設計用ソフトウエア「OHC-Sim」を用いてコンピュータシミュレーションを行い,当該システムの動特性解析を進めている.

84

複合管路内の流体過渡現象解析用ソフトウェア

複合管路内の流体過渡現象を高速・高精度で予測できる“SMA法”と呼ぶ汎用的な数値計算法を開発している.一般に,管路系は複数個の管路要素や分岐・合流継手から構成されているが,従来,このような複合管路に発生する流体過渡現象を精度良く予測できる数値計算法は開発されていない.本開発の“SMA法”の計算法の有効性は既に油圧管路系に対して検証済みである.今後は,空気圧配管系,エンジンの燃料配管系や吸・排気管路系,各種流体輸送管路などの分野への適用を計画している.なお,解析の目的は流体過渡に伴う管路系の衝撃・振動・騒音の低減化対策を見出すことにある.

85

水圧駆動回路

水道水を使用した駆動回路について研究を行っている.作動流体として水道水をそのまま使用しているので作動油の管理が不要になり,火災の危険もない.水圧駆動回路に関する学会の研究委員会を中心に活動を行っている.

86

流体制御用電磁アクチュエータ(電磁式および超磁歪)

流体制御機器用の電磁アクチュエータの開発,高性能化を行っている.電磁弁用オンオフソレノイド,比例ソレノイド,ラッチソレノイド,特殊ポンプ駆動用電磁アクチュエータ,リニアモータ,および磁界の変化に応答して伸長する合金の超磁歪素子をベースとした高応答アクチュエータなどを対象に,FEM磁場解析,可動部の動特性解析を駆使して,発生力,応答性など各種要求仕様に着目した設計最適化を行っている.

87

アブレシブサスペンションジェット

研磨材を水に混入したスラリーを加圧・噴出することで形成するアブレシブジェット(アブレシブサスペンションジェット)システムの開発, およびその流動構造と加工特性との関連に関する研究を行っている. アブレシブサスペンションジェットは低い噴射圧力でも非常に高い加工能力を有し, 気中のみならず周囲圧力が高い水中での切断やせん孔作業も可能である. また, ノズル径を小さくすることで切断代が数十マイクロメートルの微細加工を行うことも可能である.

88

均一系ER流体を作動流体としたマイクロバルブ

印加電界で粘度を制御できる均一系ER(Electro-Rheological)流体を作動流体とした,固定電極から成る単純構造のマイクロバルブ(マイクロERバルブ)を提案,試作し,その特性を実験的に明らかにしている.試作マイクロERバルブは,異方性エッチングにより高精度に溝を形成したシリコン基板と,スパッタにより薄膜電極を形成したパイレックスガラスを陽極接合し構成している.均一系ER流体として数種類の液晶を用いて実験し,それらの粘度変化の静特性および動特性を実験的に明らかにしている.

89

共振駆動を用いた高出力圧電マイクロポンプ

高出力マイクロポンプとして,弾性体のポンプ室と慣性質量から成る振動系の共振により圧電素子の微小変位を拡大し高出力化を図ったポンプを提案,試作し,その有効性を実験的に確認している.直径9mm,高さ10mmの試作ポンプで水を作動流体としたとき,流量80mm3/s,圧力0.32MPa,パワー密度14mW/cm3を実現している.さらに,均一系ER流体などのポンピングのため,吸入弁,吐出弁の能動駆動を含む改良を試みている.

90

MR流体を作動流体としたフルードパワーシステム

印加磁界で見かけの粘度を制御できるMRMagneto-Rheological流体を作動流体とした,固定磁極から成る単純構造の制御弁(MRバルブ)を提案,試作し,その特性を実験的に明らかにしている.密度が低いフェライト微粒子を分散させた基底粘度の低いMR流体を試作し,2ポートMRバルブを用いた実験によりその静特性および動特性を明らかにしている.さらにその結果に基づき3ポートMRバルブを試作し,ベローズ駆動システムの制御を試みている.

91

機能性流体の流体工学的特性

機能性流体として,電気粘性流体である分散系ER(Electro Rheology)流体と混合液晶を使用している.研究の目的は,電場印加時での基本的な流れ場での機能性流体の流体工学的な挙動を調べるとともに流動特性を把握し,その特性を利用した機器やシステムを開発するための有用なデータを得ることである.特に,非定常な電場印加時でのせん断応力や圧力・流量の特性を調べている.最近は,新たに考案した円管電極の特性実験を行っている.

92

電界共役流体(ECF)を用いたリニアアクチュエータの開発

ECFは電圧印加により高電位から低電位の方向にジェット流を発生させるという特性を有する機能性流体である.本研究では,この特性を利用して,コイル電極型,ピストン電極型及びポンプ駆動型という3種類のリニアアクチュエータを開発し,それらの駆動特性について実験解析を行っている.

93

複合管路内の流体過渡現象解析用ソフトウェア

複合管路内の流体過渡現象を高速・高精度で予測できる“SMA法”と呼ぶ汎用的な数値計算法を開発している.一般に,管路系は複数個の管路要素や分岐・合流継手から構成されているが,従来,このような複合管路に発生する流体過渡現象を精度良く予測できる数値計算法は開発されていない.本開発の“SMA法”の計算法の有効性は既に油圧管路系に対して検証済みである.今後は,空気圧配管系,エンジンの燃料配管系や吸・排気管路系,各種流体輸送管路などの分野への適用を計画している.なお,解析の目的は流体過渡に伴う管路系の衝撃・振動・騒音の低減化対策を見出すことにある.

94

ロバスト制御の応用

制御をしているが運転条件が変わると制御特性が変わってしまう,安定性が確保できない,このようなときに有効なロバスト制御を実際問題に応用する研究を行っている.これまで自動変速機のブレーキ制御,半導体用樹脂封止プレスの荷重制御などに応用実績を持っている.

95

流体制御用電磁アクチュエータ(電磁式および超磁歪)

流体制御機器用の電磁アクチュエータの開発,高性能化を行っている.電磁弁用オンオフソレノイド,比例ソレノイド,ラッチソレノイド,特殊ポンプ駆動用電磁アクチュエータ,リニアモータ,および磁界の変化に応答して伸長する合金の超磁歪素子をベースとした高応答アクチュエータなどを対象に,FEM磁場解析,可動部の動特性解析を駆使して,発生力,応答性など各種要求仕様に着目した設計最適化を行っている.

96

トラクションドライブ式無段変速機の開発

歯車伝動にかわる動力伝達装置で,平滑な面を2~3GPaのヘルツ圧力で接触させ,油を液体から固体に変え動力を伝える無段変速機の開発

97

空気圧エネルギーを利用した高効率発電機構

空気圧シリンダを用いたサーボ機構のピストンの先端にコイルと磁石を取り付けるだけで,簡単な発電機構ができる.このとき,高効率であることが求められるが,空気圧サーボを空気圧系の共振点で駆動すると,消費流量/振幅が最小となり,この性質を利用すると空気圧エネルギーから電力を有効に取り出すことができる.余剰電力を空気圧エネルギーに変換して貯蔵するシステムの一部や,電気的なインフラのないプロセス機器用の電源としての利用を考えている.

98

電子部品搬送用マイクロエジェクタ

電子部品の小型化が進み,0.3×0.5mm角のものが用いられるようになっている.この小型化に対応するためにマイクロマシニングを用いて製作して,従来のエジェクタを著しく小型化しようということを試みている.具体的にはノズルとレジューサの一体製作法や,新しい構造のマイクロバルブを検討している.

 

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 巻頭言参照