展 望
平成18年度学会誌のレビュー*
鈴木 勝正**
*平成19年5月29日原稿受付
**武蔵工業大学機械システム工学科,〒158-8557 東京都世田谷区玉堤1-28-1
1.
はじめに
平成18年には,会誌「フルードパワーシステム」第37巻第1号〜第6号,および電子出版緑陰特集号第37巻第E1号を発行した.会誌の企画・編集は編集委員会が所掌している.編集委員会は2ヶ月に一回開催され,ほぼ1年先までの特集企画の内容について議論している.本稿では,編集委員会の体制について説明した後,平成18年に発行された会誌の内容を紹介する.
2.編集委員会の体制
本学会が関係する広範な分野の内容をバランスよく会誌に反映させるため,平成11年より会誌特集のためのワーキンググループ(WG)体制を設け,それぞれの巻号の企画を各WGが担当している.会誌特集WGの構成とそれぞれの担当分野は下記のようである.
WG1 基礎分野:流動現象,トライボロジー,振動騒音,材料,CAD,シミュレーション,電気電子など
WG2 機器分野:アクチュエータ,制御弁,ポンプ,空気圧機器,センサ,配管など
WG3 制御分野:制御理論の導入,サーボ技術,シーケンサなど
WG4 応用分野:現場(建設,航空)における応用例,問題点,新応用分野など
WG5 先端分野:ロボット,メカトロニクス,マイクロマシン,宇宙,バイオなど
WG6 社会分野:環境,省エネルギー,安全,フルードパワー教育,関連情報,学会活動,資格制度など
編集・企画合同企画WG:編集委員会と企画委員会の合同企画
ジェネラルWG:その他
すべての編集委員がWG1〜6のいずれかに所属している.またこれらのWGに属さないテーマに関しては,随時臨時のWGを結成して対応している.ジェネラルWGは委員長,副委員長および幹事を中心に構成され,社会の要請に応じて臨機応変な特集企画を行う.
3.会誌のレビュー
以下で,平成18年中に発行された学会誌の内容を発行順に説明する.
第37巻 第1号 特集「第6回JFPSフルードパワー国際シンポジウムに観る世界の研究動向」
日本フルードパワーシステム学会では3年ごとにJFPSフルードパワー国際シンポジウムを開催している.2005年は第6回目の国際シンポジウム開催年度に当たり,11月7日から4日間にわたり筑波研究学園都市で開催された.本特集号は,早瀬前編集委員長,鈴木前副委員長,藤田幹事よりなるジェネラルWGが企画を担当し,国際シンポジウム実行委員会および事務局の協力の下につぎの構成により実現した.
特集「第6回JFPSフルードパワー国際シンポジウムに観る世界の研究動向」の発行にあたって(早瀬)
第6回JFPSフルードパワー国際シンポジウムの開催に当たって(中田)
JFPS国際シンポジウムの歴史(田中)
特別講演 フルードパワー制御への最新制御理論の応用(Tsu-Chin TSAO)
特別講演 人間支援技術のための空気圧ソフトアクチュエータ(則次)
海外の先生の感想 (Monika IVANTYSYNOVA, Ming Chang SHIH, John WATTON)
OS「Mobile Hydraulics and Pneumatics」に観る研究動向(藤田)
OS:Simulation of Fluid Power
Systems and Elementsに見る研究動向(田中)
オーガナイズドセッションに見る研究動向−Human-Machine
System−(則次)
オーガナイズドセッションに見る研究動向−Water Hydraulics−(真田,風間)
油圧分野の研究動向(海外)(大内)
空気圧分野の研究動向 (村松)
第37巻 第2号 特集「技術者の義務と責任 −技術者倫理一」
「技術者倫理」とは何か?を起点に,これらの関心の対象と技術者倫理との関わり,および,企業・教育機関における技術者倫理教育の実践事例を,各界で技術者倫理技術者教育について積極的に啓蒙活動されておられる方々に解説いただいた.本特集号は,学会誌を担当する編集委員会とセミナーフォーラムなどの企画事業を担当する企画委員会との年1回の合同企画である.編集委員会合同企画WGの佐藤恭一委員を主担当にして,伊藤,関根,吉田(伸)の各委員が担当し以下の構成より成り立っている.
特集「技術者の義務と責任−技術者倫理−」発行にあたって(佐藤)
技術者倫理とは何か(札野)
日本技術者教育認定機構(JABEE)と技術者倫理教育(大輪)
技術のプロフェッショナルと技術者倫理(高城)
技術者倫理と学協会(三上)
企業の社会的責任−技術者倫理の視点から考える(坂)
企業における技術者倫理(小西)
職業能力評価基準の整備について〜「技術者倫理」も含めて〜(山浦)
大学における技術者倫理教育の取り組み(藤木)
技術系社員教育にとっての技術者倫理/その導入可能性を探る(三宅)
企業における技術者倫理教育−人間力教育の観点から−(山村)
第37巻 第3号 特集「フルードパワーシステムの省エネルギー化技術」
近年,環境問題への関心が高まっており,フルードパワーシステムにおいても省エネルギー化,低騒音化,低振動化,油圧作動液の環境適合化などのさまざまな試みが行われている.本特集号では,これらのフルードパワーシステムの環境適合化技術のうち省エネルギー化技術を取り上げ,省エネルギー化による効果,パワー源および制御弁の個別省エネルギー化技術について最新の話題を提供している.本企画は吉田和弘委員を主担当にして大川,杉本,寺島の社会分野WGが担当し以下の構成になっている.
特集「フルードパワーシステムの省エネルギー化技術」発行にあたって(吉田)
京都議定書とCO2削減対策(甲斐沼・相沢)
空気圧システムの省エネルギー化における問題と方策(香川・蔡)
用途特化形インバータモータによる流体の省エネ制御(下尾)
ハイブリッド形油圧システム(山本)
インバータ駆動式省エネ油圧ユニット(鈴木・大津)
圧縮機の省エネルギー(亀谷)
省エネルギー油圧電磁切換弁(木原)
空気圧省エネバルブ(栗林)
省エネルギー油圧サーボ(大塚)
油圧作動油の省エネルギー化(小西)
エアブローのブロワ化−ブロワ化実現への道のり−(市橋)
第37巻 第4号 特集「ユニバーサルデザイン」
本特集では,ユニバーサルデザインとは何か,また企業・大学などでどのような取り組みが行われているのかなどについて,前知識がなくても理解できるよう記事を構成した.記事のカテゴリを主にユニバーサルデザインの「概要と紹介」,「適用手法」,「開発事例」,「研究事例」にわけ,ユニバーサルデザインの基礎から応用までの概要を見渡せるような特集企画とした.本特集号は,先端WGの山田宏尚委員を主担当として,大内,小倉,野澤の各委員の協力支援に基づき以下のように企画された.
特集「ユニバーサルデザイン」発行にあたって(山田)
人間中心のモノづくりとは(岡田)
ユニバーサルデザインとユーザビリティテスト(易)
ユニバーサルデザイン開発評価システム(澤田)
ユニバーサルデザインに基づく商品開発支援(三澤・尾形)
エレベータにおけるユニバーサルデザインの取り組み(濱田・三井・青木)
鉄道車両のユニバーサルデザイン(町田)
ホームメディカルケア血圧計のユニバーサルデザイン(小池)
建設機械の高機能化とユニバーサルデザイン(小倉)
第37巻 第E1号 電子出版 緑陰特集号
本号は電子出版号であり,学会ホームページ上から会員以外でも閲覧できる.フルードパワーシステム分野の平成17年度研究活動および先輩による随筆などを掲載している.本特集号は鈴木委員長を主担当として,ジェネラルWGの吉田,藤田により以下のように企画された.
会長就任にあたって (中田)
[展望]
平成17 年度学会誌のレビュー
(早瀬)
平成17 年度の油圧分野研究活動の動向
(大内)
平成17 年度の空気圧分野の研究動向
(高岩)
平成17 年度の水圧分野の研究活動の動向
(伊藤)
平成17 年度の機能性流体分野の研究動向
(中村)
[随筆]
新しい道 (伊藤)
メカトロ開発エンジニアの果てしなき夢 (神田)
工学の愉しみ (佐々木)
FPS技術の将来(油圧は,生きられるか?) (落合)
第37巻 第5号 特集「医工連携とフルードパワー」
高齢化問題とともに医療,介護,福祉,健康に関する技術開発が不可欠になり,医工連携が大学内あるいは大学間で,場合によっては産学協同で行われている.本特集号の目的は,フルードパワーに関する医工連携への取り組み方やリサーチプロジェクト編成の現状を把握するとともに,今後のフルードパワーの研究および開発領域の拡大の可能性を探ることである.本特集号は,築地徹浩委員を主担当にして,塚越,張,佐々木の基礎WGで以下のように企画された.
「医工連携とフルードパワー」の発行にあたって(築地)
「医工連携とフルードパワート」(古荘,菊地)
福祉・健康機器への応用(井上)
MR流体クラッチを用いた臨床リハビリトルクの生成制御(箱木,大幅)
パワーアシストスーツの開発(山本)
車いす用緩衝器付きキャスター(荒井)
ERデバイスを搭載した歩行支援器の開発(川上,岡村)
医用画像を用いた大規模血流解析(大島)
超音波計測融合血流シミュレーション(早瀬)
磁性流体の医療応用(三田村)
フルードパワーシステムと人工心臓,補助循環,人工心筋(山家)
人工心臓システムの開発と医工連携(築谷,巽,妙中)
血液循環系の模擬循環システム(梅津)
第37巻 第6号 特集「液圧技術を支える基礎研究」
フルードパワーシステムは,多種多様な機器・要素から構成されており,個々の能力は,いずれも物理法則に支配されている.今後のフルードパワー技術の発展を考えるとき,関係する物理現象の深い理解と解明がなお一層必要であることはいうまでもない.そこで,この特集号では,フルードパワーを支える基礎研究や基盤研究に焦点を当て,学会員や本誌の読者に基礎研究の重要性を再認識して頂くために,それぞれの基礎分野で活躍している研究者・技術者の方々に執筆をお願いした.本特集号は西海孝夫委員を主担当として,大橋,堀田の機器WGで以下のように企画された.
「液庄技術を支える基礎研究」の発刊に寄せて(西海)
容積式熱流体機械におけるトライボロジーの重要性(中原)
コンタミネーションコントロールの基礎研究(浦田)
油で見つけたキヤビテーション初生の新事実(鷲尾)
油圧管路における流動帯電(高橋)
ウォータージェット加工技術(清水)
ピストンポンプ・モータにおけるトライボロジー(田中)
水圧技術に関する基礎研究の動向(大島)
ねじ部品の標準化とねじ締結部の信頼性(萩原)
フルードパワー機器におけるキャビテーション壊食(風間)
バルブ内の流れ解析(築地)
4.おわりに
平成18年度の学会誌の特集内容を概説した.それぞれの分野の第一線で活躍されている研究者・技術者の方々に解説記事等を執筆いただき,フルードパワー技術の基礎から今後の展開にわたる広い範囲をカバーできたと考えている.フルードパワー技術の新しい展開のためにも,編集委員会では,今後とも幅広い視野にたって新たな特集を企画して行きたいと考えている.
著者紹介
すずき かつまさ
鈴木 勝正 君
1975年東京工業大学大学院博士課程機械工学専攻修了,1981年武蔵工業大学工学部機械工学科助教授,2001年武蔵工業大学工学部機械システム工学科教授,現在に至る.管路動特性,流体制御の研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会,計測自動制御学会,ASMEの会員,工学博士. E-mail:ksuzuki@sc.musashi-tech.ac.jp |