展 望
平成18年度の空気圧分野研究活動の動向*
川嶋健嗣**
*平成19年5月28日原稿受付
**東京工業大学精密工学研究所,〒226-8503 横浜市緑区長津田町4259 R2-46
本稿では平成18年度に発刊された日本フルードパワーシステム学会論文集およびInternational
Journal of Fluid Powerに掲載された空気圧関連の研究論文,ならびに日本フルードパワーシステム学会春季および秋季講演会における講演論文の中から空気圧分野に関する研究動向を調査し,要素技術,システム化技術・制御,ロボット・メカトロ機器への応用の3つのカテゴリーに分類して以下に示す. 特に本年度印象に残ったのは,ロボット・メカトロ機器への応用研究が活発であった点であり,春季講演会ではソフトメカニズム,秋季講演会ではニューアクチュエータのOSが企画実施され,興味深い研究発表が行なわれた.
空気圧機器の流量特性計測についてはISO6358に日本から測定方法を提案中であり,本年度も活発な研究が行なわれた.参考文献1),40)〜42),54) がそれに該当する.特に妹尾らは42)では圧力測定管のあり方を検討しており,空気圧システムの計測において大変重要となるものである.同様に管路の研究はCarelloら8),香川ら18) 飯村ら52) が行なった.
空気圧システムではコンプレッサの小型化・軽量化がロボットなどの分野への展開を考えた際に必要不可欠であり,呉,北川ら4) は二酸化炭素の層変化を応用した携帯空圧源を開発し,歩行支援用の空圧アシスト肢に応用している.小藪,築地ら21)ら自動車空調用のコンプレッサ内の吸入弁の可視化を,植木ら20) は送風エアポンプのベーンの挙動を実験によって観察している.藤田,小山ら56) は双方向型空気圧コンプレッサを開発し,空気圧シリンダへ応用した.
バルブの研究としては,浦田ら5) の分離型調節弁ポジショナの制御特性の研究,佐々木らの精密圧力弁の研究11) 16) が行なわれた.赤木,堂田らは57) On/off弁を用いたタイムシェアリングによる小型圧力制御弁の試作を行った.また,田島,藤田ら19) は非接触駆動のスプールの挙動を解析した.空気圧システムの高機能化のためにはそれを制御するバルブの性能向上が必要不可欠であり,これらの研究の重要性は益々高まっている.
アクチュエータの研究は上述したように秋季講演会でOSが企画されたこともあり,例年以上に活発な研究発表が行なわれた. Ravaina
9) は空気圧ゴム人工筋の繰り返し駆動における温度分布の可視化計測を行なった.赤木,堂田ら28) 30) 32)
33) は空気圧ゴム人工筋を応用した湾曲動作を実現するなどの新しいアクチュエータを研究開発した.鈴森ら22) 45) はセンサやマイクロバルブを内臓したインテリジェントシリンダやセンサ一体型ソフトアクチュエータの製作とセンサのモデリングの研究を実施した.久,田中ら23) は空気圧電動ハイブリッドアクチュエータの研究を行なった.吉満,山本ら24) はフィードフォワード機構を用いた光流体変換素子の開発を行なった.西岡,鈴森ら46) は空気疎密波の重畳による空圧アクチュエータ駆動システムの基礎研究を実施した.
空気圧システム化技術・制御の研究は多岐に渡っており,空気圧システムの利点が再確認できる.梅田,池田ら2) はオゾン濃度の自動制御の研究を行った.Sellierら7) はハイブリッド制御方法を用いた空気圧シリンダの力制御の研究をまとめた.山崎ら3)6)12)13)50) は鉄道車両のブレーキの制御にスライディングモード制御などの制御方法を導入する研究を実施した.絵鳩,川上ら10)は空気圧リフタの制御,加藤,川嶋ら14) は圧力微分計という新しいセンサを用いた空気ばね式除振台のモデル追従制御,只野,川嶋ら17) は空気圧シリンダを用いたマスタスレーブシステムの制御,藤原,小山ら25) は光−流体サーボシステムの制御,相吉,大内ら47) は近接スイッチを利用した空気圧シリンダの位置決め制御,小木曽,宮島ら48) は空気圧サーボ弁の動特性を考慮した静圧軸受け機構を有する空気圧サーボテーブルの精密位置決め制御,山田,則次ら49) は空気圧シリンダを用いた移動する物体に対する押し付け力制御,また宮崎,藤田ら26) は空気圧ベローズを用いた微動ステージの制御手法によるナノオーダの位置決め制御に関する研究をそれぞれ進めた.さらに早川,櫟ら15) はソフトラバーアクチュエータの制御性能に関する研究を田中,中田ら51) は電気・空気圧複合駆動システムにおける負荷変動制御方式に関する研究を実施した.川上ら53) は空気圧駆動システムの空気消費量低減化の検討を行なった.
4.ロボット・メカトロ機器への応用
空気圧システムの応用研究,特に医療・介護・福祉分野への適用を目指した研究は,近年最も活発である.呉,北川ら4) は上述した携帯空圧源を開発し,歩行支援用の空圧アシスト肢の開発を行なった.千葉,塚越ら29) は偏平チューブ内に水を流した時に生じる自励振動を用いたマッサージデバイスへの応用研究を発表した.宇田,小山ら31) は空気圧歩行支援システムの開発,嵯峨,長南ら34) は人工筋アクチュエータによる上肢支援装置の開発,齋藤,佐藤ら35) は空気圧バルーン形アクチュエータによる足関節拘縮予防器械の開発,高岩,則次36) は空気圧アクチュエータを用いた足関節歩行支援装置の開発をそれぞれ行なっている.また内野,高橋ら37) は装着型生活支援装置のマスタスレーブ方式ハンドの開発,石井,山本ら38) はパワーアシストスーツのローズ型アクチュエータの開発,秋山,眞田39) は空気圧駆動パワーアシスト椅子における動作感応型制御に関する研究,正子,高岩ら43) は多自由度空気圧アクチュエータを用いた手首リハビリ支援装置の開発をそれぞれ進めている.さらに早川,池田44) はソフトラバーアクチュエータを用いた安定歩行用高機能靴開発に関する基礎研究,櫟,早川ら27) は人間親和性を有する生体把持ハンド開発に関する基礎研究を実施している.安田,川嶋ら55) は空気圧を用いた低侵襲外科手術用タ自由由度鉗子の研究開発を進めている.
以上より,空気圧の持つ柔らかさ,人間親和性に優れている利点を活かしたリハビリ支援に着目した研究が盛んであることがわかる.介護現場との連携研究が増えており,実用化を目指した研究開発が進められており,今後の展開が楽しみである.
1)王,蔡,川嶋,香川:準等温化圧力容器を用いた空気圧機器の流量特性計測に関する研究(熱伝達を考慮した等温化放出法の温度補償の提案),日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.37,No.2,(2006), pp.15/23
2)梅田,飯尾,池田,香川,鎌田:オゾン濃度の自動制御,日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.37,No.2,(2006),pp.24/28
3)山崎,鎌田,永井:スライディングモード制御理論に基づいた鉄道車両の滑走制御,日本フルードパワーシステム学会論文,Vol.37,No.3,(2006),pp.36/42
4)呉,北川,塚越,留:携帯空圧源を利用した歩行支援のための空圧アシスト肢の開発,日本フルードパワーシステム学会論文,Vol.37,No.4,(2006),pp.43/49
5)浦田,藤田,香川,黒田,稲垣:分離型調節弁ポジショナの制御特性,日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.37,No.5,(2006), pp.67/72
6)山崎,狩野,鎌田,永井,木村:鉄道車両の車輪滑走防止のためのスライディングモード制御,日本フルードパワーシステム学会論文,Vol.37,No.6,(2006),pp.73/79
参考文献(International
Journal of Fluid Power)
7) Sellier, Brun, Sesmat, Retif,Kin-Shi, Thomasset, Smaoui:
HYBRID
FORCE CONTROL WITH ON/OFF ELECTROPNEUATICS STANDARD DISTRIBUTORS, Vol.7, (2006),No.1,pp51/60
8) Carello, Ivanov and Mazza: EXPERIMENTAL AND THEORETICAL METHODS
TO EVLUATE THE PRESSURE LOSSES IN AIR DISTRIBUTION LINES, Vol.7,No.2, (2006),pp.5/9
9) Ravaina: MONITORING OF FLUIDC MUSCLES BY INFRARED,Vol.7,No.3,
(2006), pp.5/12
OS フルードパワー制御技術の現状と将来動向
10) 絵鳩,川上,佐藤,中野:空気圧リフタの制御手法に関する検討,pp.46/48
11) 佐々木,平山:精密圧力制御弁(NF弁),pp.49/51
12) 宮上,木村,山崎:編成車両における鉄道用空気圧ブレーキへのVSS制御の応用,pp.52/54
13) 山崎,鎌田,永井:フル・ビークルモデルによる鉄道車両のロバスト滑走防止制御の効果,pp.55/57
14) 加藤,川嶋,香川:圧力微分計を用いた空気ばね式除振台のモデル追従制御,pp.58/60
15) 早川,櫟:ソフトラバーアクチュエータの制御性能に関する研究,pp.61/63
16) 佐々木:精密圧力制御弁(スプール弁),pp.67/69
17) 只野,川嶋,香川:空気圧シリンダを用いたマスタスレーブシステムの制御に関する考察,pp.70-72
管路・弁
18) 香川他:分岐合流を含む圧縮性流体管路の動特性とシミュレーション,pp.76/78
19) 田島,藤田,中田:空気圧スプール弁内流れの数値シミュレーション,pp.79/81
20) 植木,柴田,稲葉:可動翼型吸込・送風エアポンプのベーンの挙動観察,pp.85/87
21) 小藪,築地,喜文,松村,佐藤:自動車空調用コンプレッサ内の吸引弁に関する研究,pp.88/90
空気圧基礎・応用
22) 西岡,鈴森,神田,田中,佐々木:インテリジェントシリンダの開発,pp.91/93
23) 久,田中,橋本:空気圧電動ハイブリッドアクチュエータに関する研究,pp.94/96
24) 吉満,山本,小山:フィードフォワード機構を用いた光流体変換素子の開発,pp.97/99
25) 藤原,小山,山本,吉満:光−流体サーボシステムの制御に関する研究,pp.100/102
26) 宮崎,藤田他:空気圧ベローズを用いた微動ステージの制御手法による特性改善,pp.103/105
OS ソフトメカニズム
27) 櫟,早川,西郷:人間親和性を有する生体把持ハンド開発に関する基礎研究,pp.106/108
28) 赤木,堂田:ロングストローク型空気圧ゴム人工筋の改良,pp.109/111
29) 千葉,塚越,北川:偏平チューブ固有の自励振動とそのマッサージデバイスへの応用,pp.112/114
30) 濱元,赤木,堂田,松下:糸状柔軟変位センサの開発とゴム人工筋への応用,pp.115/117
31) 宇田,小山,山本,吉満:空気圧歩行支援システムの開発,pp.118/120
32) 南後,赤木,堂田,松下:柔軟空気圧シリンダを用いた湾曲アームの試作,pp.121/123
33) 趙,堂田,赤木,松下:ゴム人工筋を用いた湾曲アクチュエータの開発と応用,pp.124/126
34) 嵯峨,長南,佐山:人工筋アクチュエータによる上肢支援装置の開発,pp.127/129
35) 齋藤,佐藤,嵯峨,松山,長南,佐山:空気圧バルーン形アクチュエータによる足関節拘縮予防器械の開発,pp.130/132
36) 高岩,則次:空気圧アクチュエータを用いた足関節歩行支援装置の開発,pp.133/135
37) 内野,高橋,米田,Elsayeh:装着型生活支援装置の開発に関する研究 マスタスレーブ方式ハンドの開発,pp.136/138
38) 石井,山本,兵頭,若井:パワーアシストスーツの開発 ローズ型アクチュエータの開発,pp.139/141
39) 秋山,眞田:空気圧駆動パワーアシスト椅子における動作感応型制御に関する研究,pp.142/144
流量特性
40) 黒下:充填法による空気圧機器の流量特性の試験方法の改良,pp.175/177
41) 張,妹尾,小根山,苗,王:自然放出法による空気圧機器の流量特性試験法に関する研究,pp.178/180
42) 妹尾,小根山,張:空気圧機器の流量特性試験における圧力測定管のあり方,pp.181/183
参考文献(秋季フルードパワーシステム講演会講演論文集より)
OS ニューアクチュエータ
43) 正子,高岩,則次:多自由度空気圧アクチュエータを用いた手首リハビリ支援装置の開発,pp.19/21
44) 早川,池田:ソフトラバーアクチュエータを用いた安定歩行用高機能靴開発に関する基礎研究,pp.22/24
45) 小倉,鈴森,神田,脇元,久禮:センサ一体型ソフトアクチュエータの製作とセンサのモデリング,pp.25/27
46) 西岡,鈴森,神田:空気疎密波の重畳による空圧アクチュエータ駆動システムの研究(第1報;基礎動作の確認),pp.28/30
空気圧:制御
47) 相吉,大内,鈴木:近接スイッチを利用した空気圧シリンダの位置決め制御,pp.94/96
48) 小木曽,宮島,川嶋,香川,藤田:空気圧サーボ弁の動特性を考慮した空気圧サーボテーブルの精密位置決め,pp.97/99
49) 山田,則次:空気圧シリンダを用いた移動する物体に対する押し付け力制御,pp.100/102
50) 山崎,狩野,小原:オブザーバを用いた鉄道車両のブレーキシリンダ圧力推定,pp.103/105
51) 田中,中田,桜井,田中:電気・空気圧複合駆動システムにおける負荷変動制御方式に関する研究,pp.106/108
空気圧:基礎
52) 廣瀬,飯村,佐々木,土岐:圧力測定孔の動特性と波形復元,pp.109/111
53) 川上,武藤,河合:空気圧駆動システムの空気消費量低減化の検討,pp.112/114
54) 浅野,王,川嶋,香川,池田:等温化圧力容器内の平均温度計測時間の短縮化,pp.115/117
空気圧:応用
55) 安田,只野,川嶋,香川:空気圧を用いた多自由度鉗子の研究開発,pp.118/120
56) 藤田,小山,吉満:双方向型空気圧コンプレッサの開発と応用,pp.121/123
57)赤木,堂田:On/off弁を用いたタイムシェアリングによる多ポート小型圧力制御弁の試作,pp.124/126
かわしま けんじ
川嶋 健嗣 君
1997年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了.同年東京都立工業高等専門学校助手,2000年東京工業大学精密工学研究所助教授,現在に至る.流体計測制御,ロボット工学の研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会,計測自動制御学会,日本ロボット学会,精密工学会,IEEE等の会員.博士(工学). E-mail:kkawashi@pi.titech.ac.jp URL:
http://www.k-k.pi.titech.ac.jp/ |