解 説
橋梁送り出し専用シンクロジャッキ及び制御システムと
無荷重時推進可能型油圧自走台車の開発*
佐藤 宏**,高橋昌義**,高橋 匠**,岩松 聖**
* 平成21年6月5日原稿受付
**大瀧ジャッキ株式会社,〒121-0056 東京都足立区北加平町4番16号
近年,橋梁技術の進歩から継ぎ目の無い連続桁の設計・製作が可能となったため,ひとつの橋桁が何本もの橋脚にまたがっている状態で送り出しを行う工事が増えてきている.また,河川上から都市部への工事が主力になり,橋梁架設は安全を考慮し下部の道路を通行止めにして行うのが常識となっている.しかし従来の橋梁送り出し工法に使用される送り出し装置は,鉛直ジャッキにて橋桁を支持した状態で1m移動させ,つぎに仮受けジャッキで受替えて鉛直ジャッキを1m引き戻す,いわゆる尺取虫作動を繰り返し行うことにより橋桁を送り出すため,1日の送り出し量は20〜40mが限界であった(写真1参照).通行止めを行う際には莫大なコストがかかるため,時間が掛かる従来の装置では対応することが困難となってきた.そこで送り出し速度を上げるために,下記の条件を満たす機能を備えた新型送り出し装置の開発に着手した.
・尺取虫型ではなく,連続的に送り出し可能な構造を有すること.
・橋桁の大型化に従い,大荷重を支持する能力を有すること.また必要な受け長さを有すること.
・橋桁は完成状態で送り出すため,表面塗装を傷つけないこと.
・橋桁の形状であるキャンバーに追従する機能を有すること.(橋桁は上方に湾曲した形状を有することにより強度を保っており,この形状をキャンバーと呼ぶ)
・小型・軽量であること
これらの条件を満たすために,連続的に送り出しが可能な構造としてブルドーザなどに使用されるクローラ方式を採用した(写真2参照).ブルドーザは自重+α分の重量を走行させるために数mのクローラ長さを有するが,送り出し装置の場合は橋桁の全重量を支えることが可能であり,なおかつ設置・撤去が容易であることが要求されるので,小型高荷重用として一からの設計・開発となった.
シンクロジャッキの構造を図1に示す.クローラには強い荷重がかかるため,4フッ化エチレン樹脂(以下PTFE)をクローラ下部に設置することによって摩擦を軽減する方法を採用した.これにより回転摩擦抵抗はμ=0.02〜0.04となっている.またPTFEの直下に押上げジャッキを複数配置し同圧とすることで,PTFEの受ける圧力を均一化しPTFEの耐久性を向上させると共に,橋桁への圧力を均一化している.
シンクロジャッキに内蔵している鉛直ジャッキの機能は,1本当りの能力は25tonと小さいが複数使用することにより大きな力を得ている.400tonシンクロジャッキの場合,鉛直ジャッキを16本使用している.
このような構造とした目的は,1本の能力を小さくすることにより全体高さを低くすることや,流体の特徴を生かしシンクロジャッキの受け面の支持荷重を均等に分散させること,橋桁への局部荷重を防止することなどが挙げられる.また本体は一体ブロックで構成されているため,小型でありながら十分な強度を保持している.
図3はある送り出し現場の側面図である.この現場ではシンクロジャッキと油圧ポンプユニットを各橋脚・仮支柱に設置し,各箇所に荷重検出用圧力変換器・ジャッキストローク検出用変位計を設置し,すべてのデータを制御管理室に送信し一括管理を行った.この時の機材の配置距離は約450mと広範囲であり,またデータの量が膨大であることから,各橋脚・仮支柱にデータ収集機を設置して信号をデジタル化し,LANによる通信を採用した.また橋桁の最後部にはレーザー式距離計を設置し,送り出し量の管理を行った.
本システムの特徴は工場内の管理システムとは異なり,現場ごとに構築する必要があることと,すべてが屋外仕様であることを前提としている.そのためシステムの構築完了後には全体の通信テストを欠かさず行うことは当然であるが,雨天時の対策・違法電波などの外乱にも影響を受けない機材の選定が必要となる.
またクレーンなどの重機には使用制限があり,人力による機材設置の場合も考慮し軽量・小型を意識した構造となっている.
制御管理システムでは,あらかじめインプットした送り出し量に対する各橋脚・仮支柱の荷重データと実際に計測した荷重値と比較し,許容範囲を超えた場合にはその箇所の油圧ポンプユニットを作動させ,許容範囲内に修正する制御を行っている(図4参照).主に荷重調整の自動制御は橋桁の送り出し移動中に行われるが,制御による修正には時間がかかるため,誤差が限界値を超えようとした場合は送り出しを自動停止し,強制的に荷重調整を行うこととしている.
現場は基本的に広範囲であるため連絡を取り合う手段として無線機を使用するが,工事には時間制限があり,会話時間を最小限に抑える必要がある.そこで状態確認スイッチを導入した.このスイッチは準備完了の信号を制御管理室に送る機能と,非常停止機能を兼ねている.このスイッチを全橋脚・仮支柱に設置することによって,各箇所のスイッチの切替え状態を制御管理システム画面上にて確認することが可能となり,無線機での会話時間を最小限に抑えることに成功した.
4.無荷重時推進可能型油圧自走台車の開発
送り出し工法に使用される橋桁推進設備として,以前はH形鋼クランプとロングストロークジャッキを水平方向に配置して使用していたが,尺取虫方式であるため送り出しに時間がかかることが欠点であった.通行止めにて送り出す工事では完了までの時間短縮を要求されるため,上記の設備では不十分であった.一時は装置を前後に設置し交互に作動させる方法を採用したが,クランプの盛替えに一度停止する必要があり,送り出し速度に限界があった.そこで時間短縮の方法として,自走台車を橋桁に取り付け送り出す方式を考案した.しかしこの方法では橋桁の重心が前方に移動した際に,後方にある台車の車輪がスリップしてしまう可能性が懸念された.台車がスリップしてしまう原因は,支持荷重が減少したことにより車輪とレールの間に鉛直方向に発生する圧力が減少して,摩擦力が減少することにある.そこで,荷重が減少しても油圧にて強制的に圧力を発生させる装置を開発した(図5参照).構造を下記に記す.
レールは通常のH形鋼にウェブを2枚追加した3ウェブのH-300を使用する.H形鋼の上フランジの下面に回り込んだ位置に油圧ジャッキを設置し,駆動車輪と油圧ジャッキとで上フランジを挟み込むことで強制的に摩擦力を発生させる構造としている.しかし油圧ジャッキとH形鋼クランプが面と面で接していると,駆動車輪と油圧ジャッキとで上フランジを挟み込んでしまいH形鋼の上を走ることができない.そこで油圧ジャッキの上にチルタンク(重量物運搬用ローラ)を設置しこの問題を解決した.また大きな駆動力を発生させるため車輪の両側に油圧モータを配置し,無荷重状態であっても1輪当り約10tonの推進力を得ることに成功した.
つぎに自走台車の駆動力を橋桁に伝達する構造について説明する.どれだけ台車の推進力が大きくても台車の支持荷重が減少してしまうと,橋桁と台車間の摩擦が減少し台車のみが移動して橋桁が移動しないという現象が起きてしまう.これを防ぐために橋桁と台車本体の前後を斜材ジャッキで連結し,駆動力を伝達する構造を採用した(図6参照).特にこの構造の効果は大きく、送り出し最終状態において後方の台車上にある橋桁が浮いている状態であっても,支持荷重が発生している状態と変わらず橋桁を推進することができる.
橋桁の浮き沈みに応じて斜材ジャッキの芯間距離を変化させなければならないが,絶えず斜材ジャッキの内圧を調整しながら送り出すことで解決した.
5.おわりに
この設備を使用し,三菱・宮地・大島JV広島高速2号線における平成20年11月15日第三回目の送り出し工事においては,総重量2000tonの橋桁を約4時間30分で100m送り出すことに成功した.その後もさまざまな現場にて大きな功績を挙げており,現在では橋梁送り出し工事を行う際に非常に重要な設備となっている.今後はさらに小型化・軽量化を目指し開発を進めていく.
1979年日本大学理工学部精密機械工学科卒業後,大瀧ジャッキ株式会社に入社. 技術部にて計画・開発に従事.現在、技術部長. 担当物件の代表例:レインボーブリッジ・明石海峡大橋のハンガー引き込み装置の開発横浜アリーナ・福岡ドームの屋根ダウン
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高橋 昌義 君 979年東京都立工業高等専門学校卒業後,大瀧ジャッキ株式会社に入社. 技術部にて計画・開発に従事.現在、技術部長. 担当物件の代表例:ワイヤクランプ装置の開発 女神大橋斜ベンド解体工事計画
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高橋 匠 君 1997年東京工科大学工学部機械制御工学科卒業. 同年 大瀧ジャッキ株式会社に入社し,現在入社12年目,技術部課長. 主に,ジャッキに関するシステム設計・ソフトウェア製作を担当. 担当物件の代表例:エンドレスキャリー 制御システム開発 アンダーピニングジャッキシステム 開発 |
岩松 聖 君 2001年武蔵工業大学工学部卒業後、同年大瀧ジャッキ株式会社に入社 現在技術部にて設計、開発を担当。現在入社9年目、技術部主任 担当物件の代表例:矢作川橋のケーブル緊張装置の開発 マジックスライドジャッキ(2軸スライド装置)の開発 駆動シンクロジャッキの開発 |