展 望
平成23年度の空気圧分野研究活動の動向*
川上幸男**
* 平成24年6月20日原稿受付
** 芝浦工業大学システム理工学部,〒337-8570埼玉県さいたま市見沼区深作307
1.はじめに
平成23年には,例年通り6巻の日本フルードパワーシステム学会論文集が発行された.定期講演会については,国際シンポジウムの開催年にあたり,春季フルードパワーシステム講演会のみの開催であった.ただし,東日本大震災の影響により口頭発表は行わず,座長・副座長とのメールによる質疑応答を実施し,その結果をHP上に公開した(http://www.jfps.jp/Q&A.pdf).国際シンポジウムは沖縄コンベンションセンターにて8th JFPS International Symposium on Fluid Powerが開催された.
本稿では, 日本フルードパワーシステム学会論文集,春季フルードパワーシステム講演会講演論文集およびProceedings of 8th JFPS International Symposium on Fluid Powerの中から空気圧分野に関する研究を調査した結果を報告する.
2.日本フルードパワーシステム学会論文集
平成23年は空気圧に関する5件の論文が掲載された.概要を以下に示す.
門田ら1)は空気圧ゴム人工筋を用いたロボットアームにおけるアーム部のセンサレス化を行い,防塵・防水化を実現するために,圧力と収縮率から空気圧ゴム人工筋の収縮力を推定する方法を提案した.尹ら2)は空気圧管路の主要な構成要素である拡大管・縮小管に脈動流を流し,損失係数の定常及び非定常特性に関して解析検討した結果について報告した.同じく尹ら3)は空気圧管路の主要な構成要素であるねじ込み式エルボにいろいろな周波数の脈動流を流し,損失係数の非定常性について解析検討した結果について報告した.金ら4) は旋回流を用いた非接触搬送系について搬送物の先端部分と旋回流発生装置の位置関係による圧力分布の変化を検討しその相関関係を実験で明らかにした.加藤ら5) はゴムベローズダンパを使用した高減衰空気圧ゴム人工筋を2本用いて慣性負荷を有する1自由度の拮抗駆動系を構築し,従来の気圧ゴム人工筋と減衰性を比較する実験を行った結果について報告した.
なお,文献5)については,関連の内容がJ- STAGE内のJFPS International Journal of Fluid Power System(https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jfpsij)にて報告された6).
3.春季フルードパワーシステム講演会
本年度は3つのOSが企画された.そのうち空気圧に関係するものとして,OS@(福祉と医療を支えるフルードパワー)において,加藤ら7)がゴムベローズを用いた高減衰空気圧ゴム人工筋のモデル化に関する報告,OSA(フルードパワーの周辺技術)において,吉富8)が流体ダイオードを用いた空気圧駆動バルブレスポンプの送液特性に関する報告,近藤ら9)が平面三脚パラレルメカニズムに組み込まれた静圧空気圧軸受の浮上特性に関する報告を行った.
一般セッションでは7件の報告があった.吉満10)により空気圧アクチュエータに可変絞り機構を加えたレスキュー用下肢パワーアシストスーツの開発に関する報告,宮内ら11)により光—流体変換素子における光信号と伝達媒体となる光ファイバの出力の安定と性能向上に関する報告,松島ら12)により空気圧シリンダを用いた介護補助ロボットアームのサポート部についての検証結果の報告,米川ら13)により空気圧歩行支援システムを用いた歩行特性解析および歩行方法判別に関する報告,山口ら14)により空気圧ゴム人工筋を用いた二関節駆動ロボットアームの制御性能に関する報告,Mustaffaら15)により近接スイッチを用いた空気圧シリンダの繰返し位置決めにおける制動法に関する報告,柳田ら16)により空気圧シリンダの動的摩擦挙動に関する報告がなされた.
4.8th JFPS International Symposium on Fluid Power
本学会主催の国際シンポジウムは3年ごとに開催されてきており,平成23年は第8回目の開催となった.Proceedingsには空気圧に関する合計40件の研究論文が掲載された.プログラムは全てのセッションがOSとなるように構成されており,40件の研究論文をOSのトッピクスで分類すると次の通りである.
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(1) |
Basic
theory and technologies |
7件 |
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(2) |
Applications
of control theory |
4件 |
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(3) |
Fluid
components and systems |
7件 |
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(4) |
Robotics
and Mechatronics |
15件 |
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(5) |
Medical
and Welfare Equipments |
7件 |
これより,「Robotics and Mechatronics」の応用分野における研究件数が他のトピックスより倍以上となっており,多くの研究者が活発に取り組んでいることが伺える.
「Medical and Welfare Equipments」のOSにおいて,東京工大・川嶋健嗣先生が空気圧アクチュエータを用いた腹腔鏡手術用マスタ・スレーブ型ロボットシステム17)に関しての基調講演を行った.また,「Robotics and Mechatronics」のOSにて講演された可変タンクを用いた携帯省エネ型空気圧供給システムに関する研究18)に対して学生論文賞が贈られた.
その他の論文については件数が多いため参考文献リストからは割愛したが,暫くするとJ-STAGE内の次のHPに公開される予定なので,そちらを参照されたい.
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/isfp1989/-char/ja/
5.おわりに
平成23年は3月11日に未曾有の東日本大震災が発生し,その影響により春季フルードパワーシステム講演会はかなり縮小した形での開催となり,8th JFPS International Symposiumでは外国から若干の参加者がキャンセルする事態となった.研究活動を公表し,研究交流の場を提供する学会サイドの立場から見ると,少し残念な結果となってしまった.平成24年となり,産業界も復興の兆しも大分見えてきている.フルードパワーの研究活動においても復興の一翼を担うべく,今後大きく飛躍することを期待する.
参考文献
1) 門田,新谷,只野,川嶋,香川:等温化した空気圧ゴム人工筋の体積からの収縮力推定,日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.42, No.1, (2011), pp.1/6.
2) 尹,稲葉,川嶋,香川:拡大管・縮小管を通る定常及び脈動流れにおける圧力損失,日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.42, No.2, (2011), pp.31/37.
3) 尹,稲葉,川嶋,香川:ねじ込み式エルボをとおる脈動流れの圧力損失,日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.42, No.3, (2011), pp.39/45.
4) 金,黎,尹,稲葉,川嶋,香川:旋回流を用いた非接触搬送系に関する研究(第3報,ボルテックス・カップと搬送物の位置関係による影響),日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.42, No.4, (2011), pp.67/73.
5) 加藤,大野,東,只野,川嶋,香川:ゴムベローズを用いた高減衰空気圧ゴム人工筋の提案と特性解析,日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.42, No.6, (2011), pp.114/119.
6) T.Kato, M.Ono, T.Higashi, K.Tadano, K.Kawashima, T.Kagawa : Proposal and Analysis of a Pneumatic Artificial Rubber Muscle with High-Damping Characteristics That Uses a Rubber Bellows, JFPS International Journal of
Fluid Power System, Vol.4, No.1, (2011), pp.1/7
7) 加藤,大野,東,只野,川嶋,香川:ゴムベローズを用いた高減衰空気圧ゴム人工筋のモデル化とシミュレーション,平成23年春季フルードパワーシステム講演会講演論文集,(2011), pp.13/15.
8) 吉富:流体ダイオードを用いた空気圧駆動バルブレスポンプの送液特性,平成23年春季フルードパワーシステム講演会講演論文集,(2011), pp.22/24.
9) 近藤,志賀,五嶋,田中:平面三脚パラレルメカニズムを用いたフライトシミュレータの開発,平成23年春季フルードパワーシステム講演会講演論文集,(2011), pp.25/27.
10) 吉満:レスキュー用アシストスーツの開発,平成23年春季フルードパワーシステム講演会講演論文集,(2011), pp.52/54.
11) 宮内,小山,吉満:光−流体変換素子に関する研究,平成23年春季フルードパワーシステム講演会講演論文集,(2011), pp.55/57.
12) 松島,小山,吉満:空気圧サーボ制御による腱駆動介護補助ロボットアームの開発,平成23年春季フルードパワーシステム講演会講演論文集,(2011), pp.58/60.
13) 米川,小山,吉満:空気圧歩行支援システムの研究・開発,平成23年春季フルードパワーシステム講演会講演論文集,(2011), pp.61/63.
14) 山口,只野,川嶋,香川:空気圧ゴム人工筋を用いた二関節駆動ロボットアームの制御性能に関する研究,平成23年春季フルードパワーシステム講演会講演論文集,(2011), pp.64/66.
15) M.T.Mustaffa,大内:近接スイッチを用いた空気圧シリンダの繰返し位置決めにおける制動法について,平成23年春季フルードパワーシステム講演会講演論文集,(2011), pp.67/69.
16) 柳田,チャン:空気圧シリンダの動的摩擦挙動,平成23年春季フルードパワーシステム講演会講演論文集,(2011), pp.70/72.
17) K.Kawashima, K.Tadano : Master Slave Robot System for Laparoscopic Surgery with Haptic Perception Using Pneumatic Actuators, Proc. of the 8th JFPS Int. Symposium on Fluid Power, (2011), pp.9/14.
18) T.Iwawaki, T.Noritsugu, D.Sasaki, M.Takaiwa : Development of Portable Energy-saving Type Air Supply System Using Variable Volume Tank, Proc. of the 8th JFPS Int. Symposium on Fluid Power, (2011), pp.665/670.
著者紹介
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川上幸男君 1991年早稲田大学大学院工学研究科博士課程単位取得満期退学.1992年芝浦工業大学助手,講師,助教授を経て,2004年同大学システム工学部教授,現在に至る.空気圧システム制御の研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会などの会員.博士(工学). E-mail: kawakami@shibaura-it.ac.jp |