展 望
平成24年度学会誌のレビュー*
吉田 和弘**
* 平成25年6月18日原稿受付
** 東京工業大学 精密工学研究所,〒226-8503 横浜市緑区長津田町4259-R2-42
平成24年には,(一社)日本フルードパワーシステム学会誌「フルードパワーシステム」第43巻第1号〜第6号,および電子出版緑陰特集号第43巻第E1号を発行した.各号は,数件の記事からなる特集と,その他の多様な記事により構成した.特集以外の記事としては,学会長の年頭挨拶,新学会長の就任挨拶,興味深い技術の解説記事,学会関連行事のニュース,会議報告,連載形式の教室(おもしろ油圧機構,おもしろ空気圧,入門講座「流体力学」),駐在員日記,国際標準化(連載),TCP/IPを用いたネットワーク通信(連載),学生による企業見学記,研究室紹介,および学会企画行事の報告記事などである.以下では,各号の特集の概要について紹介する.
2.学会誌特集のレビュー
第43巻第1号 特集「解析技術」
近年,重要さをますます増しつつある解析技術について特集し,数値流体力学(CFD)に関する解説として,計測融合シミュレーション,油圧機器内の流れ解析,およびキャビテーション流れ解析,油圧回路・システムのダイナミクス解析に関する解説として,油圧系のモデル化とHILS(Hardware In the Loop Simulation),および油圧機器・回路設計に用いられるCAE,応用事例の解説として,ダンプトラックの解析主導形設計,および自動車の油圧解析技術を紹介している.
第43巻第2号 特集「国際シンポジウム2011」
2011年10月25〜28日に沖縄国際コンベンションセンターで開催された第8回JFPSフルードパワー国際シンポジウムについて特集し,全体,プログラム,展示,およびJFPS Best Student Paper Awardの概要,特別招待講演,医療・福祉セッション,ロボティクス・メカトロニクスセッション,機能性流体セッション,および水圧セッションの講演内容の概要,参加学生の感想3編,および参加企業の感想を紹介している.なお,例年第2号は企画委員会との合同企画であるが,東日本大震災の影響で本号は通常の特集となっている.
第43巻第3号 特集「フルードパワーシステムと地震対策」
東日本大震災により重要性が増している地震対策に関するフルードパワー技術について特集し,フルードパワー技術を用いた免震・制震に関する総合的な解説,免震・制震関連の技術の解説として,高層ビル用制震オイルダンパ,3次元免震建物,および鉄道車両用地震時脱線防止対策左右動ダンパ,災害救済に関連する技術の解説として,遠隔操作建設ロボット,および危険建物内のアクセスを行う流体ロープウェイを紹介している.
第43巻第4号 特集「未来に向けた省エネルギー技術」
東日本大震災以降とくに重要になっているエネルギー問題に対し未来に向けた省エネルギー技術を特集し,油圧システムの省エネルギー化技術,空気圧システムの省エネルギー化と評価技術,水圧システムの省エネルギー化技術,油圧作動油の省エネルギー効果の評価技術,管路損失の低減技術,コンプレッサの高効率制御技術,アキュムレータを用いたアイドリングストップ式油圧源,および再生可能エネルギー普及のためのスマートコミュニティなどについて紹介している.
第43巻 第E1号 電子出版緑陰特集号
フルードパワー技術に関する展望として,平成23年度の学会誌,油圧分野,空気圧分野,水圧分野,および機能性流体分野の動向について紹介している.また小特集「日本フルードパワーシステム学会賞受賞者および研究委員会の紹介」として,技術功労賞受賞者および学術貢献賞受賞者による随想3編,学術論文賞受賞者,技術開発賞受賞者,SMC賞受賞者,および油空圧機器技術振興財団顕彰受賞者による技術解説4編を掲載している.また本学会の五つの研究委員会を紹介するとともに,名誉員による随想を掲載している.
第43巻第5号 特集「基礎研究の最新動向」
フルードパワー技術のイノベーションに重要な基礎研究の最新動向について特集し,油圧ポンプ摺動部の温度計測技術,摩擦を考慮した断熱管内空気定常流量特性の近似計算技術,ヘルムホルツ形油圧動吸振器,フルードパワーアクチュエータの動摩擦力特性とモデル化技術,高減衰空気圧ゴム人工筋のモデル化とシミュレーション技術,電界共役流体ECFの流動のモデル化技術,および超精密工作機械用流体駆動スピンドルについて紹介している.
第43巻第6号 特集「フルードパワーにおける組み込みシステム」
電子デバイスの高度化,複雑化,低コスト化により応用が広がっている組み込みシステムについて特集し,フルードパワーにおける組み込みシステムの総合的な解説,具体的な事例として,空気を用いたバランス補正提示機能を有する歩行訓練用靴,油圧電磁弁にマイコン制御を導入したショックレス切換弁,油圧駆動制御を電子化し低騒音,低燃費を実現する電子制御ミキサ車,高精度化および操作の簡素化を行うスマートポジショナ,およびシステムを小形化,低コスト化するデジタル電空レギュレータについて紹介している.
平成24年の学会誌をレビューした.学会誌編集委員会では,会員の皆様に情報を提供するとともに学会の広報活動にも役立つ,内容が充実し読みたくなる学会誌の実現を目指している.学会誌へのご意見,ご要望をお待ちしております.
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よしだ かずひろ 吉田 和弘 君 1989年東京工業大学大学院博士課程修了,同年同大学助手,1996年同大学助教授(現,准教授).2008年10月〜2009年3月米国UCSB客員研究員.流体マイクロマシン,機能性流体の研究に従事.JFPS,JSME,IEEEなどの会員.工学博士. E-mail: yoshida@pi.titech.ac.jp
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