資 料

 

国際交流委員会の活動報告*

 

伊藤 和寿**

 

*平成26526日原稿受付

**芝浦工業大学システム理工学部,〒337-8570 さいたま市見沼区深作307

 

 

 1.はじめに

国際交流委員会はほかの委員会と異なり,原則として担当理事1名のみから構成されており,必要な時に然るべき方に委員委嘱をお願いすることで任務が遂行されるというやや風変わりな組織である.このことは,恥ずかしながら私自身も担当に着任する際に初めて知った次第である.本稿により学会における国際交流委員会の活動の報告をさせていただくとともに,学会員の皆さまにもこの委員会の存在をご認識いただければ幸いである.

委員会の任務は,(1)海外からの来訪研究者と学会の連絡窓口,(2)海外諸国との共同開催国際事業(ワークショップ)の企画提案および開催提案,(3)国際交流促進に係る事業の検討,である.現在のところこれに対応する具体的なタスクは,主に企画委員会と共同で進めている中国との以下の二事業であり,これらは(2)に該当する.

A.日中若手研究者交流事業

B.フルードパワーに関する日中ジョイントワークショップ開催

以下ではこの二事業に関して簡単に報告する.

2.定期交流事業

日本と中国における研究者交流にはすでに35年以上の歴史があり,本学会の前身に当たる油空圧学会の頃からアジアにおける親しい隣人としての交流が継続している.

A 日中若手研究者交流事業

JFPSでは,2003年より中国の機械学会に相当する中国機械工程学会内にある流体伝動および制御分会との間で若手研究者交流事業を継続している.これは毎年交代でフルードパワーに関する研究者一名を自国に招聘し,フルードパワーシステム学会で活躍されている先生方の研究室訪問,賛助会員企業見学,定期講演会での特別講演および学会幹部との懇親を企画するというものである.昨年2013年度は日本側がホスト国となり,浙江工業大学の阮健(Ruan Jian)教授をお招きした.このときの招聘に関する報告および成果については,学会誌での報告1)に詳細を譲る.私も2008年にこの事業に採用されて北京航空航天大学で講演を行わせていただいた際には,多くの中国人研究者と知り合えた上,私が以前知っていた制御工学分野の先生方とはコミュニティが異なると価値観も異なることを知ることができるなど,大変良い機会をいただいた.本年度は加藤友規先生(福岡工業大学)が若手研究者として中国側に招聘されることが決定している.加藤先生のバイタリティ溢れる研究成果発表と中国側の研究者らとの化学変化が大変に楽しみである.

B.フルードパワーに関する日中ジョイントワークショップ開催

上記A.の事業が進む中,両国間の交流をさらに加速させる目的で二国間ジョイントワークショップ(以下,JWS)開催の提案がなされた.その後,規模,論文数およびマンパワーの観点から,二年に一度の割合で両国の国内学会に同期させた形式で開催することが適切であることが確認され,2010810日に甘粛省蘭州理工大学にて熱烈歓迎のもと第一回目のJWSが開催された.当時は,横田眞一学会長および田中豊国際交流担当理事の指導の下で準備が進められ,日中双方から五編ずつの研究論文が提出された.現地での交流は,日本で学位を取られた後に帰国されて活躍されている先生方も数多く参加し,新たな研究のディスカッションとともに白酒での(やや過激な)乾杯も繰り返される大変盛況なものであった.この時の開催報告については文献2)を参照されたい.これを受けた第二回目は,同様な規模にて2012523日に機械振興会館で行われた春季講演会に同期させて開催された.

再び中国での開催となる第三回目は,本年815日に山西省太原理工大学での開催が計画されている.今回も日中双方から五編ずつの論文が提出され,田中豊先生(法政大学),佐藤恭一先生(横浜国立大学),高岩昌弘先生(岡山大学),加藤友規先生(福岡工業大学),伊藤が参加予定である.今回の準備は大幅に遅れており,前二回の実行をすべて指揮された田中前国際交流担当理事のご苦労を想像するに難くない.ただし念のために申し上げるが,日本側の参加者からの提出物は各重要期日までに常に準備が終わっており,実行担当者としてこの上ないご支援に感謝する次第である.今後同企画の担当者は,双方の時定数のうち長い方に合わせたお付き合いを前提にすることが肝要である.今回も日中両国双方の将来にとって有益な研究交流となることを祈念する.

どの学会においても国際交流の重要性はすべての研究者が認識しているところであるが,国際学会を除き学会単位での国際交流事業はなかなか容易には進まないということを痛感している.これは,大学でも企業でもダイバーシティが進むごとにお付き合いする相手も広く浅くなるため,国際学会と明確な差別化が図れるイベントとして国際交流企画を立案・遂行するのが難しくなることが大きな要因と考えられる.国際交流担当者としては中国以外の交流先の開拓も大きな仕事であり,たとえば日中韓三国でのJWSなども模索すべきと考えている.

3.おわりに

日本で学位を取得して現在UAEのフルードパワーに関連した学術機関に勤務している先生に先日国際交流の可能性について伺ったところ,つぎのような手厳しい指摘をいただいた.すなわち,日本との交流においては書類手続きが煩雑で進めにくく,また参加者のもう一人の主役でもある日本人学生が既成の価値観からなかなか抜け出せず,共同研究をしても異文化になじみにくい,というものであった.今や日本の全人口の約67人に1人はいわゆる外国人であり,もはや異文化とのコミュニケーション抜きには大学運営も成り立たない.諸外国から,学術交流はしてもお付き合いはしにくい国,というレッテルを貼られないようにするにはどうすべきかを,この報告が学会全体で国際交流を考える機会になれば幸いである.

JFPSの活動を支えて来られた先生方の中には,Aachen工科大学,Bath大学,Cardiff大学,L’Aquila大学,Linköping大学,Purdue大学,Tampere工科大学,Washington大学,などで短期あるいは長期の留学経験をお持ちの方も多い.そのような先生方は在外研究とともに現地で人脈も広げられており,それが十数年を経ても共同研究や人材交流として続いている例をいくつも拝見している.私が以前助手として奉職していた大学でも,その研究室の教授が懇意にされていらっしゃる大学から十数名程度の学生がほぼ毎年研究室訪問として来日しており,これは学生にとってもグローバル化の持つ意味を考える良い機会であったと思う.学会の国際交流にはこのような個人の力に期する面も大きく,日々大変お忙しいことを承知の上,若手の先生方の在外研究に期待する次第である.

参考文献

1)         伊藤和寿:日中若手研究者交流事業,フルードパワーシステム,Vol. 45, No. 3, (2014).

2)         鈴木健児:第2回フルードパワーに関する日中共同ワークショップ,フルードパワーシステム,Vol. 43, No. 4 , (2012).

著者紹介

いとう  かずひさ

伊藤 和寿君

1995年上智大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士前期課程修了,同年コマツ入社.2001年上智大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士後期課程修了,同大学助手,鳥取大学准教授を経て,2009年芝浦工業大学システム理工学部機械制御システム学科准教授.2011年同大学教授,現在に至る.水圧駆動システムを代表とする油空圧システム制御と省エネルギー化,ロバスト非線形制御理論とその応用,農業工学の研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本生物環境工学会,計測自動制御学会,電気学会などの会員.博士(工学).

E-mail:kazu-ito@shibaura-it.ac.jp  URL: http://www.web.se.shibaura-it.ac.jp/kazu-ito/