解 説
平成20年度学会誌レビュー*
眞田一志**
* 平成21年6月1日原稿受付
**横浜国立大学大学院工学研究院,〒240-8501 横浜市保土ヶ谷区常盤台79-5
本学会が関係する広範な分野の内容をバランスよく会誌に反映させるため,平成11年より会誌特集のためのワーキンググループ(WG)体制を設け,それぞれの巻号の企画を各WGが担当している.会誌特集WGの構成とそれぞれの担当分野は下記のようである.
WG1 基礎分野:流動現象,トライボロジー,振動騒音,材料,CAD,シミュレーション,電気電子など
WG2 機器分野:アクチュエータ,制御弁,ポンプ,空気圧機器,センサ,配管など
WG3 制御分野:制御理論の導入,サーボ技術,シーケンサなど
WG4 応用分野:現場(建設,航空)における応用例,問題点,新応用分野など
WG5 先端分野:ロボット,メカトロニクス,マイクロマシン,宇宙,バイオなど
WG6 社会分野:環境,省エネルギー,安全,フルードパワー教育,関連情報,学会活動,資格制度など
編集・企画合同企画WG:編集委員会と企画委員会の合同企画
ジェネラルWG:その他
以下で,平成20年中に発行された学会誌の内容を発行順に説明する.
第39巻第1号 特集「ビークルダイナミクスとその制御に於けるフルードパワー」
自動車や鉄道では,ブレーキや変速機などに油空圧が用いられており,安全や快適性の向上に大きく貢献している.本特集では,自動車や鉄道などのビークルに活用されている油空圧機器・システムを制御の観点からとらえた解説が掲載されている.
年頭にあたって (中田 毅)
「ビークルダイナミクスとその制御に於けるフルードパワー」発行にあたって (山崎大生)
ビークルダイナミクスとその制御 (永井正夫)
鉄道車両用ブレーキバイワイヤ油圧システム (北川 能)
プロープ車両による鉄道の状態監視 (綱島 均)
鉄道車両のアクティブ制御 (榎本 衛)
車両用空圧ブレーキのモデル化 (藤田壽憲)
自動変速機のスライディングモード制御 (横山 誠)
VSS制御に基づいた空圧鉄道ブレーキの制御 (木村哲也)
スマート構造技術による鉄道車体の弾性振動制御 (鎌田崇義)
カルマンフィルタを用いた自動車の運動制御 (ポンサトーン・ラクシンチャラーンサク)
二輪車のアクティブ操舵制御 (丸茂喜高)
油圧システムの応答性とACCの車群安定制御(山村吉典)
第39巻第2号 特集「流動を利用するフルードパワー」
流れの動きを利用することにより,さまざまな機能や特長を有する新しい機器などを作り出すことができる.本特集では,流動を利用したさまざまなフルードパワーを紹介し,その原理や特長がわかりやすく解説されている.
「流動を利用するフルードパワー」発行にあたって (築地徹浩)
旋回流を用いた非接触搬送装置 (香川利春,黎しん)
旋回流を利用した気泡除去装置 (田中 豊,鈴木隆司)
ウォータージェット加工技術(ウォータージェット技術で用いられる各種噴流)(清水誠二)
純流体素子 (清水久記)
雪庇(せっぴ)処理への流体力の利用と展望 (上村靖司)
円すいころ軸受内部の油流れ制御による軸受性能の向上 (戸田一寿)
シリンダのクッション機構 (斉藤賢治)
すきま流れの理論と液圧機器のトライボロジー (風間俊治)
空気浮上式ベルトコンベア (磯崎俊明,清瀬弘晃,和泉徳喜,中上雄吾)
ロストモーションポンプ (小西義昭)
油撃を用いた増圧装置 (鈴木勝正,遠藤陽介)
第39巻第3号 特集「海・空のフルードパワー」
航空機や船舶は,従来からフルードパワーの特長が評価され,広く利用されている分野である.しかし,産業機械と比較して,どのような機器が使われ,どのような特長を発揮しているのか,その情報に触れることは比較的少ないといえる.本特集では,航空機と船舶にターゲットを絞り,貴重な情報が解説として紹介されている.
「海・空のフルードパワー」発行にあたって (佐藤恭一)
深海探査機器の油圧システム (月岡 哲,田原淳一郎,宮崎 剛)
可変ピッチプロペラの油圧装置について (濱本 稔)
船舶におけるDDVCによる分散型油圧システムの構成 (伊藤雅則)
油圧駆動式アジマススラスタと位置制御システム (多田剛士)
多目的水中バックホウについて (熊谷崇信)
ヘリコプターの操縦系統に使われる油圧について (江連恭行)
航空機用IDG(Integrated Drive Generator)の油圧制御システム (五井龍彦)
航空機の油圧/空圧システム及びそれに係る装備品 (川口正史,津田恵三)
航空ジェットエンジン用低発熱燃料ポンプの開発 (松永 易,増田精鋭)
航空機用油圧ポンプ仕様 (西岡 潤)
ロケットの油圧システム (小林 清)
第39巻第4号 特集「フルードパワーとシミュレーション」
計算機を活用したシミュレーション技術は広範に使用されるようになった.油圧および空気圧のシミュレーションも,その単独領域におけるシミュレーションだけでなく,機構系などの他分野と融合したマルチドメインシミュレーションとしても盛んに利用されるようになった.本特集号では,最近のシミュレーション技術の動向が解説として紹介されている.
「フルードパワーとシミュレーション」発行にあたって (山田宏尚)
空気圧システムにおけるシミュレーション手法 (川上幸男)
流れのシミュレーションの基礎と応用 (築地徹浩)
流体の非定常数値解析の現状と将来展望 (加藤千幸)
油圧システムにおけるシミュレーションの基礎とOHC-Sim (桜井康雄)
ブロック線図による油圧システムのシミュレーション (眞田一志)
計測融合シミュレーションによる流れ解析 (早瀬敏幸)
ソレノイド弁の磁場解析シミュレーション (佐藤恭一)
有限要素解析ソフトANSYSを使った設計者用CAEシステム (満嶋弘二,渡辺博仁)
鋳物の湯流れ・凝固シミュレーションソフト (村上俊彦,迫 伸生)
路面評価におけるCarSimとDSの応用 (川村 彰)
第39巻 第E1号 電子出版 緑陰特集号
学会ホームページを活用した学会活動活性化の一環として,本特集号を電子出版で発行した.緑陰特集号は,平成15年から従来の印刷形式から,アクセスの高速化や,コンピュータ上で見やすい画面構成などの工夫をし,本格的な電子出版号とした.油圧,空気圧,水圧,機能性流体の研究活動動向,第27期通常総会で学会賞などを受賞された方々の研究・技術論文,随筆および前年度の学会誌のレビューを掲載して,会員のみならず会員以外へもフルードパワー技術や学会活動に関する継続的な情報発信を行っている.
[挨拶]
会長就任にあたって (北川 能)
[展望]
平成19 年度学会誌のレビュー (鈴木勝正)
平成19 年度の油圧分野研究活動の動向 (柳田秀記)
平成19 年度の空気圧分野研究活動の動向 (早川恭弘)
平成19 年度の水圧分野研究活動の動向 (塚越秀行)
平成19 年度の機能性流体分野の研究動向 (青山藤詞郎,柿沼康弘)
—— [ 小特集 ] ——
[巻頭言]
小特集「日本フルードパワーシステム学会賞受賞者および研究委員会の紹介」 (吉田和弘)
[随筆]
ポンプそして人生(U) (小曽戸 博)
SMC賞を受賞して (豊田 希)
[解説]
水圧サーボモータシステムのロバスト制御に関する研究 (伊藤和寿,池尾 茂)
新型耐圧シール (安杖 馨)
鉄道車両の車輪滑走防止のためのスライディングモード制御 (山崎大生)
多段磁極式電磁比例アクチュエータの試作研究 (近藤尚生,日比 昭)
[資料]
OHC-Sim特別研究委員会 (桜井康雄)
機能性流体を活用した次世代型フルードパワーシステムに関する研究委員会 (中野政身)
水圧駆動システムの新しい応用に関する研究委員会 (北川 能)
トライボロジー研究委員会の活動状況 (小曽戸 博)
空気圧システム基礎特性研究委員会(流量特性に着目した省エネ化及び信頼性研究)(香川利春)
FLUCOME研究委員会(流体計測制御と可視化に関する研究) (香川利春)
空気圧機器・システムのロードマップに関する研究委員会 (藤田壽憲)
国際交流奨学生について (田中 豊)
編集室
第39巻第5号 特集「フルードパワー機器・システムの小形化」
油空圧機器の小形化により,省スペースにつながり,応用分野の拡大にもつながる.モバイルや産業機器では,設置場所の取り合いなどからも,重要な技術課題である.本特集では,油空圧機器や機能性流体,福祉介護機器における小形化についての解説が紹介されている.
「フルードパワー機器・システムの小形化」発行にあたって (柳田秀記)
フルードパワー機器の小形・高効率・省エネ・環境に関する動向 (田中 豊)
建設機械用油圧ポンプの高出力密度化 (大見康生)
二輪車用油圧機械式CVT (吉田圭宏)
作動油タンクの小型化 (小西晃子,石井庄太郎,野原達郎)
電界共役流体(ECF)を応用した強制液冷用薄形平面ポンプ (横田眞一,吉田和弘)
小形携帯空圧源 (北川 能)
ウエアラブルデバイス用小型エアポンプ (佐々木大輔,則次俊郎,前田祐司)
空気疎密波重畳によるアクチュエータ駆動 (鈴森康一,西岡靖貴)
小形精密圧力制御弁(スプール弁) (佐々木 隆)
油用静電フィルタの小形・高性能化 (柳田秀記)
第39巻第6号 特集「フルードパワーを活用したロボット」
ロボット分野では,小形軽量で出力の大きい油空圧機器がアクチュエータとして注目されている. ゴム人工筋がその代表例である.本特集では,ロボットで活躍するフルードパワーについての解説が紹介されている.
「フルードパワーを活用したロボット」発行にあたって (村松久巳)
パワーアシストスーツの進化 (山本圭治郎)
McKibben型人工筋肉を用いた人間を物理的に支援するロボット技術
−マッスルスーツ,アクティブ歩行器:ハートステップの開発と今後の展開 − (小林 宏)
空気圧ソフトメカニズムを用いた人間親和型ロボット (高岩昌弘)
空気圧ゴムアクチュエータを用いた柔軟把持 (早川恭弘)
空気圧サーボ制御を用いた力覚提示機能を有する多自由度鉗子システム (川嶋健嗣,只野耕太郎)
空圧ジャンピングの跳躍高度を高める設計 (塚越秀行,北川 能)
消防防災とフルードパワーシステム (天野久徳)
人道支援のための対人地雷除去機の開発 (中上博司)
油圧駆動式水中排砂ロボットおよび水圧駆動式角溝清掃装置 (寺田禎光,戸塚 勝)
平成20年度の学会誌の特集内容を概説した.それぞれの分野の第一線で活躍されている研究者・技術者の方々に解説記事等を執筆いただき,フルードパワー技術の基礎から今後の展開にわたる広い範囲をカバーできたと考えている.フルードパワー技術の新しい展開のためにも,編集委員会では,今後とも幅広い視野に立って新たな特集を企画して行きたいと考えている.
眞田 一志 君
昭和61年3月東京工業大学大学院理工学研究科修士課程制御工学専攻修了.昭和61年4月東京工業大学助手,平成10年横浜国立大学工学部生産工学科助教授,平成13年横浜国立大学大学院助教授,平成16年横浜国立大学大学院教授,現在に至る.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会,計測自動制御学会などの会員.博士(工学).