随 想

 

学術貢献賞の受賞について*

 

鈴木 勝正**

 

*平成2665日原稿受付

** 東京都市大学,〒158-8557 東京都世田谷区玉堤1-28-1

 

 

このたび,学会より学術貢献賞をいただきまして,大変光栄に思います.

昭和454月大学院に進学した時から現在まで大学において油圧の研究を一貫して進めてきた.最初はスプール弁サーボモータの研究であったが,つぎに管路の研究に入った.

三角関数を含んで複雑な式で表示される管路の周波数特性の計算が,まったく他分野である高周波電流の伝播の解析に使われているスミスチャートの考えを用いると非常に容易に理解できることを示した1)

管路の過渡現象を利用した増圧装置を開発した.管路に圧力を加えて作動油を流しておいて下流端の弁を急閉すると管路内に油撃が発生する.この時の高圧をチェック弁により取り出すことによって,加えた圧力よりも高圧の作動油を発生させることができる.これにより油圧シリンダの発生力を高めることができた2),3)

これらの流体過渡現象をシミュレーションするための計算方法を改善した.管路の過渡的な流体抵抗を計算するのにコンピュータの計算時間とメモリが多く必要であったが,これを大幅に短縮した4).またこれらの計算過程を離散時間系のブロック線図で表示して,計算過程の理解を容易にするとともに,最近使われているブロック線図を利用するコンピュータソフトが利用できるようにした5)

最近は油圧ポンプの間欠運転による省エネルギーの研究に取り組んでいる.現在,エネルギー資源の枯渇や地球温暖化対策の点から省エネルギーが重要になっている.油圧装置では油圧ポンプがもっともエネルギーを消費するのでこの省エネルギーが重要である.対象物を制御するために油圧を使用する場合に油圧ポンプの負荷流量が大幅に変動する場合が多い.一般的に負荷流量が多い時は効率が高いが,流量が少なくなると効率が落ちる.そこでポンプは常に最大の流量で運転し,余った作動油をアキュムレータに蓄積させる.一定量蓄積したら,ポンプを停止させる.停止中はアキュムレータから負荷に作動油を送り,蓄積量が一定値より少なくなったら,ポンプを再起動させる.すなわちポンプを常に高い効率の状態でのみ運転させるので,平均の効率が高くなる.このようにして省エネが実現できた6),7)

今まで学会の皆様にさまざまな形でご支援いただいてここまで研究を続けて来ることができた.もっぱら研究上の興味を優先させて研究して来たが,少しでも社会に貢献できていれば幸いである.今後もできる限りフルードパワー技術の発展に協力させていただきたい.

参考文献

1)  鈴木勝正:液体菅路系の周波数特性の図式計算法,油圧と空気圧,Vol.6, No.4, (1974), pp.197/202

2)  Suzuki, K.Application of a New Pressure Intensifier Using Oil Hammer to Pressure Control of a Hydraulic Cylinder, ASME Journal of Dynamic Systems, Measurement, and Control, Vol.111, No.2, (1989), pp.322/328

3)  Suzuki, K.A New Hydraulic Pressure Intensifier Using Oil Hammer, ASME Journal of Fluids Engineering, Vol.112 , No.1, (1990), pp.56/60

4)  Suzuki, K., Taketomi, T., Sato, S.Improving Zielke's Method of Simulating Frequency-Dependent Friction in Laminar Liquid Pipe Flow, ASME Journal of Fluids Engineering, Vol.113, No.4 , (1991), pp.569/573

5)  鈴木勝正,尾園邦明:液体管路系の動特性シミュレーションのための離散時間型ブロック線図表示法,日本フルードパワーシステム学会論文集,第33巻,第2, (2002) , pp.36/41

6)  杉村健,大田真平,土井哲郎,鈴木勝正,野中謙一郎:アキュムレータを用いたアイドリングストップ方式による油圧源の省エネルギー(第1報 3種類の油圧源による省エネ性能比較), 日本フルードパワーシステム学会論文集,第42巻,第4号,(2011), pp.74/80

7)  杉村健,大田真平,鈴木勝正,野中謙一郎:アキュムレータを用いたアイドリングストップ方式による油圧源の省エネルギー(第2報 負荷流量一定時の省エネルギー),日本フルードパワーシステム学会論文集,第44,2,(2013), pp.29/34

 

著者紹介

すずき  かつまさ

鈴木 勝正君

昭和50年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程満期退学.昭和50年東京工業大学精密工学研究所助手.昭和52年相模工業大学(現湘南工科大学)講師.昭和53年同助教授.昭和56年武蔵工業大学(現東京都市大学)助教授.平成13年同教授.平成24年同定年退職.電気油圧サーボシステム,油圧管路の動特性,油圧源の省エネの研究に従事.日本フルードパワーシステム学会理事.工学博士.

E-mail: ksuzuki@tcu.ac.jp