展 望

 

平成26年度学会誌のレビュー*

 

吉田 和弘**

 

* 平成2761日原稿受付

** 東京工業大学 精密工学研究所,〒226-8503 横浜市緑区長津田町4259-R2-42

 

 

1.はじめに

平成26年には,例年通り,(一社)日本フルードパワーシステム学会誌「フルードパワーシステム」第45巻第1号〜第6号,および電子出版緑陰特集号第45巻第E1号を発行した.各号は,数件の記事からなる特集と,その他の多様な記事により構成した.特集以外の記事としては,学会長および学会副会長の年頭挨拶,新学会長および新学会副会長の就任挨拶,学会関連行事のニュース,会議報告,連載形式の教室(入門講座「トライボロジー」),駐在員日記,国際標準化(連載),特許電子図書館(連載),研究室紹介,随想,および学会企画行事の報告記事などである.以下では,各号の特集の概要について紹介する.

2.学会誌特集のレビュー

45巻第1号 特集「フルードパワーを活用した移動ロボットの最前線」

フルードパワーの特長を活かした移動ロボットの最新技術について特集し,マッキベン空気圧人工筋の特長を活かしたヒューマノイドロボット,軽量で高速および柔軟な動作が可能な油圧式2足歩行ロボット,小形でソフトな移動デバイスとなるバブラアクチュエータ,電界共役流体ECFを応用した圧力源一体形吸盤を用いた小形壁面移動ロボット,柔軟袋状構造を複数有する流体駆動形クローラ機構,および先端成長動作により狭あい地形をしゅう動なしで移動する探査ロボットを紹介している.

 

45巻第2号 特集「フルードパワーに貢献する材料,加工,表面処理技術」

フルードパワーに貢献する材料,加工および表面処理技術について特集し,材料関係では,再生可能な植物を原料とするバイオプラスチックである電子機器用難燃ポリ乳酸複合材と,水環境下で高い耐食性を有し水圧システムに貢献する電磁ステンレス鋼について,加工関係では,油圧制御用比例電磁弁の純鉄系材料のためのバリレス加工技術について,表面処理技術関係では, 全輪駆動車用電磁クラッチしゅう動面のDLC-Siコーティングと,油圧ポンプ・モータのしゅう動部品材料と表面処理技術について紹介している.

なお,本特集は本学会の企画委員会と編集委員会の合同企画であり,平成26 528 日に本特集の著者を講師とし本号をテキストとした平成26年春季講演会併設セミナーが開催され,好評を博している1)

 

45巻第3号 特集「エアコンプレッサの最新技術」

空気圧駆動システムの動力源として重要なエアコンプレッサの最新技術について特集し,エアコンプレッサの省エネルギー化技術,オイルフリーと高効率を実現する水噴射式スクリューコンプレッサ,必要な場所で高圧を供給するオイルフリーブースタ圧縮機,システムとして高性能化を図る最適コンプレッサ運転制御と減圧制御,小形エアポンプにより配管および漏れを低減した生産工場の省エネルギー化技術,再生可能エネルギーである水力を用いた魚の養殖のためのエアレーション装置について紹介している.

 

45巻第4号 特集「これがフルードパワーの魅力だ!」

油圧,空気圧,水圧,機能性流体の最新技術動向を紹介し,学会活動の基盤強化と企業ユーザへのフルードパワーの魅力浸透を図るため平成25年秋季講演会会期中に行われた同名の公開技術フォーラムをベースとした特集で,「油圧分野の最新動向と特徴的な事例紹介」,「空気圧サーボシステムのロボットへの展開」,「ここまで来た水圧システム」,「機能性流体の応用事例:次世代フルードパワーシステムを目指して」の4編の記事により詳細な解説を行っている.

 

45巻 第E1号 電子出版緑陰特集号

フルードパワー技術に関する展望として,平成25年度の油圧分野,空気圧分野,水圧分野,および機能性流体分野の動向について解説している.また,小特集「日本フルードパワーシステム学会活動の紹介」として,常設の編集,企画,基盤強化,論文集,情報システム,国際交流の各委員会の活動報告,研究委員会および研修会の活動報告,学術論文賞受賞者,技術開発賞受賞者および油空圧機器技術振興財団顕彰受賞者による解説記事,技術功労賞受賞者,学術貢献賞受賞者およびSMC高田賞受賞者による随想を掲載している.

 

45巻第5号 特集「フルードパワーにおける最新の計測技術」

フルードパワーシステムの制御やモニタリングのため必要な計測の最新技術について特集し,液体が流れるとき生じるAE(音響の放出)信号を用いた液体流量計測法,管路の動特性モデルとカルマンフィルタを用い3点の圧力から非定常流量を得る計測手法,微小領域で流速分布を計測するマイクロPIV(粒子画像流速測定法),圧力により発光強度が変化する感圧塗料を用いた圧力計測技術,超音波の伝播により潤滑診断を行う超音波法の可能性,機械の異常検出などへの応用が期待される音源分離技術について紹介している.

 

45巻第6号 特集「アディティブ・マニュファクチャリング」

最近注目されており,フルードパワーシステム開発への貢献も期待される3Dプリンタ技術について特集し,総論として積層造形技術の概要,歴史的経緯および現状,3Dプリンタなどを活用した市民工房であるファブラボの活動とその広がり,大学における3Dプリンティングを活用した実習系授業の取り組み,中小企業における3Dプリンタ活用の可能性,ラピッドプロトタイピング造型機によるシェル鋳型の超短納期製作技術について紹介している.

3.おわりに

平成26年の学会誌のレビューを行った.学会誌編集委員会は,会員の皆様に情報を提供するとともに学会の広報活動にも役立つ,内容が充実し読みたくなる学会誌の実現を目指している.学会誌へのご意見,ご要望をお待ちしております.

参考文献

1)武田稔:平成26年春季講演会併設セミナー開催報告「フルードパワーに貢献する材料,加工,表面処理技術」,フルードパワーシステム,Vol.45, No.5p.242-244 (2014)

 

よしだ  かずひろ

吉田 和弘君

1989年東京工業大学大学院博士課程修了,同大学助手,助教授(准教授)を経て,2015年教授.200810月〜20093月米国UCSB客員研究員.流体マイクロマシン,機能性流体の研究に従事.JFPSJSMEIEEEなどの会員.工学博士.

E-mail: yoshida@pi.titech.ac.jp

                                                                            

 

 
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