展 望

 

平成26年度の空気圧分野の研究活動の動向*

 

赤木 徹也**

 

* 平成2665日原稿受付

** 岡山理科大学工学部知能機械工学科,〒700-0005 岡山市北区理大町1-1

 

 

1.はじめに

本稿では,平成26年度に発行された本学会主催の春季講演会および国際シンポジウム,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会,日本ロボット学会学術講演会の中から,空気圧分野に関する研究動向を調査し,著者の独断的な判断に基づき,その応用や開発事例についていくつか分類して紹介する.

2.圧力源・弁などの要素技術開発

空気圧アクチュエータは力/重量比が高く,圧縮性によるコンプライアンスもあるため人体に接する環境で使用するウェアラブルアクチュエータに適している.しかし,アクチュエータの駆動には弁やコンプレッサ(圧力源)など比較的容積や重量の大きい周辺機器が必要である.そこで,以下に弁や小型圧力源などの要素技術開発について紹介する.なお,研究者名は,講演者でなく研究代表者と思われる方としている.

福岡工業大学の加藤ら1)は,ゴム人工筋内部の低沸点流体を沸騰させ,蒸気圧によりゴム人工筋を駆動するアクチュエータを提案した(図1(a)参照).同様に岡山理科大学の堂田ら2)も沸点34℃の低沸点流体と柔軟なヒータを内封した封筒型アクチュエータを提案している(図1(b)参照).これらは低沸点流体の気液相変化を利用したアクチュエータである.一方,東京工業大学の鈴森ら3)は燃料電池の原理を応用し,水素の気液可逆反応を利用したガス圧アクチュエータを開発した.

また制御弁に関して,関西大学の廣岡ら4)は複数のオリフィスを有する管内にある粒子を,圧電素子により振動させ流量を調節する制御弁を開発した(図2(a)参照).さらに著者ら5)も,チューブの屈曲角をRCサーボモータで変えることで流量を調整する安価(900円程度)なサーボ弁を開発(図2(b)参照)し,その静特性の改善について報告した.また,光信号で駆動される弁として明治大学の小山ら6)が温度によって磁力が変わる整磁合金に光を当て,その温度変化によりパイロットを開閉する弁を報告している.

3.福祉機器・医療分野への応用

空気圧アクチュエータは電動や油圧アクチュエータに比べ,洗浄がしやすく,内圧を測定することでセンサなしに動作端の力を推定できるなど,厳重な衛生管理を必要とする医療機器への応用に適している.東京工業大学の只野ら7),8)は,アクチュエータ内圧から腹腔鏡手術用の鉗子に加わる力を,高度な空気圧サーボ系を使って推定するシステムを構成し,操作者への力提示可能な空気圧駆動のマスタースレーブ手術ロボットを開発7)した(図3(a)参照).また,執刀医の頭の位置で視野を操作できる空気圧駆動の腹腔鏡制御システムも開発8)している.岡山大学(現徳島大学)の高岩ら9)も外乱オブザーバを制御則に用いた空気圧サーボ系を構成し,空気圧シリンダを使った医師訓練用の乳がん検査シミュレータを開発している(図3(b)参照).

また,空気の圧縮性に起因するコンプライアンスを利用し,多くの福祉機器の開発が行われている.滋賀県立大学の西岡ら10)は,プラスチック封筒を用いた空気圧アクチュエータを用いて,原因不明の手の震えである本態性振戦の抑制を目的とした小型で軽量な空気圧式装具を開発している.また,奈良工業高等専門学校の早川ら11)はスポンジコア・ソフトラバーアクチュエータを中敷きに使った靴を用い,歩行訓練時の荷重情報を無線通信で使用者に提示するとともに,搭載の小型コンプレッサや弁を使って中敷き剛性を変えることで,理想的なバランス状態を提示できる高機能靴を報告している(図4(a)参照).また,東京工業大学の塚越ら12)は,介護作業で必要となる人体を抱え上げる作業を短時間で実現するため,人体とベットなどの隙間にエアバックが滑り込む機構を有する空気圧駆動の大型ハンドの開発を行った(図4(b)参照).

4.ロボット用アクチュエータへの応用

空気圧アクチュエータは,力/重量比が高く,圧縮性によるコンプライアンスが衝撃を緩和するなどの特徴があり,近年多くロボットにアクチュエータとして用いられてきた.東京工業大学の塚越ら13)は,災害時用のロボットとして,蛇腹状の袋型空気圧アクチュエータを使ったアームと小型ポンプや吸盤を搭載し,ノブを回してドアを開けることができる飛行ロボットを開発した.また,東京農工大学の水内ら14)は,空気圧駆動系を搭載した自立駆動可能な跳躍ロボットを実現するため,525g程度の質量で1.1MPaの高圧空気を出力可能な超小型コンプレッサを開発し,ロボットの跳躍を実現している(図5参照).岡山大学の脇元ら15)は細径のMcKibben型人工筋を集積し,タコの腕を模倣したアクチュエータを構成し,その駆動特性について報告している.

5.おわりに

以上,本稿では平成26年度に報告された空気圧分野の研究動向を独自の視点で,分類分けして紹介した.本稿で紹介したものは,従来基礎研究として行われている流れの解析や位置決め制御性能の向上など産業分野への応用に関するものではなく,近年,報告が増えているロボット・メカトロニクス,医療・福祉・介護分野に関するものである.今後,空気圧分野の新たな応用が開拓され,空気圧分野の研究がより活発に行われていくことを強く願うものである.

参考文献

1)         加藤他:気液相変化により駆動されるゴム人工筋アクチュエータの試作,日本フルードパワーシステム学会平成26年春季講演会講演論文集, p.97-99 (2014)

2)         堂田他:低沸点流体で駆動される封筒型アクチュエータの試作,日本フルードパワーシステム学会平成26年春季講演会講演論文集,p.94-96 (2014)

3)         鈴森他:気液可逆反応を利用したガス圧アクチュエータ2,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会講演論文集, 2A2-O04.pdfp.1-3 (2014)

4)         廣岡他:圧電振動による微粒子励振型空気圧制御弁第10報シリンダの速度制御実験,日本フルードパワーシステム学会平成26年春季講演会講演論文集,p.106-108 (2014)

5)         赤木他:チューブの屈曲を利用した低コスト・ウェアラブルサーボ弁の改良,日本フルードパワーシステム学会平成26年春季講演会講演論文集,p.100-102 (2014)

6)         小山他:光‐熱駆動によるパイロット式制御弁の開発,日本フルードパワーシステム学会平成26年春季講演会講演論文集,(2014),p.124-126 (2014)

7)         K.Tadano et.al.: Force Projection Type Bilateral Control of a Pneumatic Surgical Robot, Proceedings of the 9th JFPS International Symposium on Fluid Power 2014, p.205-208 (2014)

8)         K.Tadano et.al.: A Laparoscope Control System using a Pneumatic Robot Arm, Proceedings of the 9th JFPS International Symposium on Fluid Power 2014, p.201-204 (2014)

9)         M.Takaiwa et.al.: Breast Cancer Palpation Simulator Using Pneumatic Actuator, Proceedings of the 9th JFPS International Symposium on Fluid Power 2014, p.528-533 (2014)

10)     西岡他:本態性振戦の抑制を目的とした軽量・小型な空気圧式装具の試作,第32回日本ロボット学会学術講演会講演論文集,1M2-01.pdfp.1-4 (2014)

11)     早川他:歩行訓練用高機能靴に関する研究,日本フルードパワーシステム学会平成26年春季講演会講演論文集,p.103-105 (2014)

12)     H.Tsukagoshi et.al.: Pneumatic Big-hand Gripper with Slip-in Air-bag and Shape Adaptive Feature Aiming for Human Body Gripping, Proceedings of the 9th JFPS International Symposium on Fluid Power 2014, p.98-105 (2014)

13)     H.Tsukagoshi et.al.: Aerial Manipulator with Door Opening Function, Proceedings of the 9th JFPS International Symposium on Fluid Power 2014, p.195-200 (2014)

14)     I.Mizuuchi et.al.: Developing a Super-Small High-Pressure Compressor and a Regenerative Air Pressure System for High Efficiency of Self-Contained Pneumatic Robots, Proceedings of the 9th JFPS International Symposium on Fluid Power 2014, p.305-310 (2014)

15)     脇元他:細径McKibben型人工筋を集積したタコ腕模倣メカニズムの複合駆動特性,第32回日本ロボット学会学術講演会講演論文集, 1M1-02.pdfp.1-3 (2014)

あかぎ てつや

赤木 徹也君

1971118日生まれ.

1998年岡山理科大学大学院博士課程修了.同年津山工業高等専門学校助手.2005年岡山理科大学工学部知能機械工学科講師,2010年文部科学大臣表彰「若手科学者賞」受賞,2013年同教授,現在に至る.ソフトアクチュエータ,組込み技術を用いたウェアラブル空気圧制御機器の研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会,計測自動制御学会などの会員.博士(工学)

E-mail: akagi@are.ous.ac.jp  

URL: http://www.are.ous.ac.jp/are/staff/akagi/index_akagi.htm

                                                                                            

 

 
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