展 望

 

平成27年度学会誌のレビュー*

 

吉田和弘**

 

* 平成28630日原稿受付

** 東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所,〒226-8503 横浜市緑区長津田町4259-R2-42

 

 

1.はじめに

平成27年には,(一社)日本フルードパワーシステム学会誌「フルードパワーシステム」第46巻第1号〜第6号,および電子出版緑陰特集号第46巻第E1号を発行した.各号は,数件の記事から成る特集と,その他の多様な記事により構成した.特集以外の記事としては,学会長および学会副会長の年頭挨拶,学会関連行事のニュース,会議報告,連載形式の教室(入門講座「トライボロジー」),学会と産業界との連携に向けて(連載),特許文献を調べる(連載),駐在員日記,研究室紹介,随想,および学会企画行事の報告記事などである.以下では,各号の特集の概要について紹介する.

2.学会誌特集のレビュー

46巻第1号 特集「IFPEX2014

20149月に東京ビッグサイトで開催された第24回フルードパワー国際見本市(IFPEX2014)について特集している.まず,技術分野を空気圧,油圧,および水圧に分け,それぞれを専門とする著者により各展示の技術動向について概観している.つぎに,本学会主催の空気圧セミナー「空気圧の意外な側面と人の生活に利用される空気圧」および油圧セミナー「油圧の魅力とその可能性に迫る」の開催状況について報告している.また,国内の研究教育機関によるカレッジ研究発表コーナーの発表内容について紹介している.

 

46巻第2号 特集「フルードパワーにおける故障予知技術」

複雑化,大規模化するフルードパワーシステムにおいて重要となる故障予知技術について特集している.まず,予知保全技術など産業オートメーション技術のサービス体系化について概観している.つぎに,故障予知に役立つ最新技術として,色診断による潤滑油状態監視センサ,作動油の清浄度センサ,電動流量制御システムを用いた空気圧機器の故障予知技術,ビッグデータを用いた故障予知処理のアルゴリズム,高度複雑システムの故障予兆検出技術,および油圧システムのリモートモニタリングによる保守技術を紹介している.

なお,本特集は本学会の編集委員会と企画委員会の合同企画であり,平成275月に本特集の著者の一部を講師とし本号をテキストとした平成27年春季講演会併設セミナーが開催され,好評を博している1)

 

46巻第3号 特集「国際シンポジウム2014

201410月に島根県松江市において本学会主催で開催された第9回フルードパワー国際シンポジウムについて特集している.まず,本シンポジウムの実行委員長らにより,本シンポジウムの全体概要が述べられている.つぎに,本シンポジウムの内容に関連して,発表内容に基づくフルードパワー研究の動向,特別招待講演の概要,展示セッションの概要,および最優秀論文賞等の贈賞の概要について述べられており,最後に,参加者の所感が述べられている.

 

46巻第4号 特集「食品の加工と生産に活用されるフルードパワーの技術」

高圧技術の進歩などにより発展が著しい,食品の製造に活用されるフルードパワー技術について特集している.まず,食品に関する技術の総論として,食品の特徴と食品科学および食品工学について概観している.つぎに,個別の技術として,高圧技術を用いた食品加工技術,緑茶の亜臨界水抽出による苦渋味改善技術,食品用超高圧処理装置,植物工場に活用されるフルードパワー技術,およびADSAqua Drive System:水圧システム技術)を活用した食肉加工機について紹介している.

 

46巻 第E1号 電子出版緑陰特集号

平成26年度のフルードパワー技術に関する展望として,油圧分野,空気圧分野,水圧分野および機能性流体分野の動向について解説している.また,小特集「日本フルードパワーシステム学会賞受賞者および研究委員会の紹介」として,学術論文賞受賞者,技術開発賞受賞者(2件)およびSMC高田賞受賞者による解説,技術功労賞受賞者,学術貢献賞受賞者および名誉員による随想,および活動中の研究委員会およびフルードパワー特別研修会の活動報告を掲載している.

 

46巻第5号 特集「フルードパワー歴史探訪〜温故知新〜」

フルードパワー技術の発展に貢献した技術者達の活動や技術開発に関する歴史について特集している.まず,古代のフルードパワー技術として,紀元前2世紀頃のヘロンの消火用水ポンプ,蒸気機関,自動扉などについて紹介するとともに,「ヘロンの謎」について考察を加えている.つぎに,現在につながるフルードパワー技術として,空気圧制御弁,油圧ショベルおよび機能性流体の開発の歴史について解説している.最後に,本学会の歴史に関して,協会創成から学会揺籃期の状況について解説を加えている.

 

46巻第6号 特集「水素燃料自動車とフルードパワー技術」

近未来のエネルギー源として注目されている水素燃料を燃料電池や熱機関で用いた自動車に関連するフルードパワー技術について特集している.まず,総論として,自動車における水素燃料,水素エネルギー利用に関する展望が述べられている.つぎに,水素燃料自動車に関連する技術として,水素ステーション関連の機器技術,車載用の燃料電池スタック,準等温化圧力容器を用いた水素高速充填技術,および高圧縮水素ガス用減圧弁について紹介している.

3.おわりに

平成27年の学会誌のレビューを行った.学会誌編集委員会は,会員の皆様に情報を提供するとともに学会の広報活動にも役立つ,内容が充実し読みたくなる学会誌の実現を目指している.学会誌へのご意見,ご要望をお待ちしております.

参考文献

1)         内堀晃彦:平成27年春季講演会併設セミナー開催報告「フルードパワーにおける故障予知技術」,フルードパワーシステム,Vol. 46, No. 5p.238-239 (2015).

 よしだ かずひろ

吉田 和弘君

1989年東京工業大学大学院博士課程修了,同大学助手,助教授(准教授)を経て,2015年教授.200810月〜20093月米国UCSB客員研究員.2015 7月〜9月米国MIT客員研究員.流体マイクロロボット,機能性流体の研究に従事.JFPSJSMEIEEEなどの会員.工学博士.

E-mail: yoshida@pi.titech.ac.jp

                                                                                           

 
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