随 想

 

技術功労賞を受賞して*

 

小松 隆**

 

* 平成28613日原稿受付

** 株式会社コガネイ,〒184-8533 東京都小金井市緑町3-11-28

 

 

1.はじめに

このたびは日本フルードパワーシステム学会より,平成27年度技術功労賞というフルードパワーに係わる技術畑を歩んで来た者として,身に余る名誉ある賞をいただき誠に光栄であります.

学会とは主に日本フルードパワー工業会での活動を通じての接点であり,直接的な貢献ではありませんが,本受賞に至るまでに係わって戴いたすべての関係者各位のご指導,ご協力の賜物であり,この場をかりて厚くお礼を申し上げます.

2.企業の技術者としての歩み

1975年に株式会社コガネイに入社し,技術部門を中心に歩んで来たが,技術者として関わって来た主なものをフルードパワーの視点より触れさせていただく.

入社後間もなくして調質機器(フィルタ,レギュレータ,ルブリケータ等)の開発メンバーとなり開発に取組んだ.フィルタの水分分離の最適化,レギュレータの流量特性の最適化,ルブリケータの滴下特性の最適化等々,駆動に関するものではなく流体そのものの制御となる要素が強いため,空気流体について改めて専門書にて勉強したのがフルードパワーとの本格的な出会いであった.しかしながら,実際の機器は形状等のパラメーターが多く,モデル化,単純化するのが難しく,最適化の正解が計算結果にて容易に得られるものではなかった.

当時は,現在のような流体のシミュレーションソフトはなく,フィルタだけでも何とか空気流れを可視化して見ることができないかと,可視化技術を文献等により調査し,可能性がある方法を試して見たが,小型のフィルタではボウルの内表面部分が若干可視化できる程度であり,3D的な可視化にはほど遠く,結果的にはフルードパワーの理論を頭の片隅においた「想像シミュレーション」による形状設計と実験を繰り返した開発案件であった.

 1986年頃より半導体製造装置市場向けの薬液用バルブやポンプの開発担当部門のリーダーとなり,各種の開発案件を取組んだ.私として一番キャリアが長い技術分野である.

主な流体は各種の薬液や純水であり,流体そのものが半導体・(後には)フラットパネルディスプレイ製造のプロセスに使用されるため,クリーン化,ノズル部等での液状態の制御,滞留や発泡に関する技術等々の,油圧や空圧とは違う側面の技術が求められた.

各種薬液や純水には粘性,揮発性,発泡性,帯電性等のさまざまな流体としてのパラメーターがあり,そのものずばりで最適の機器設計や制御条件を導き出せる使い勝手の良いフルードパワーの理論はないという印象を現在でも持っているが,開発当初は油圧関連のキャビテーションに関する技術関係書物は興味を持って勉強し,参考になった.

 当時の実務者としての開発案件について振り返れば,現在のようにPCの発達やインターネットの普及がない時代であり,シミュレーションソフト,3Dプリンタ,各種の充分な評価用機器がない状況での開発環境

であり,かなり苦労はしたが,自分自身技術力が身に付き,技術者として充実した時期であったなと思い返される.

このような経験より,若手技術者が研究・開発において種々の技術的な課題で苦しんでいる姿を見ると「今,技術者として一番おいしい時だね」と声を掛け,課題を乗り越えることを楽しんでもらいたいと思っている.

3.空気圧部会長として

ISOJIS化が進められた時期に,空気圧部会の複数の分科会にて工業会に参画する機会が増える中で,工業会より空気圧部会長への就任要請があり,会員企業の持ち回りで順番とのこともあり,私自身で引き受けることとした.

通常は3年程度の任期であるが,途中で弊社社長が工業会の会長に就任したため,その間で交代する訳にはいかないなという思いもあり,5年間務めさせていただいた.この間が学会との接点と交流が一番あった時期であった.

3.1 若手技術者懇談会

 油圧・空気圧部会では,フルードパワー業界の将来を担う会員各社の若手技術者の交流の場を設け,将来のための人脈および知識を広める一助となることを期待して,年に12回の若手技術者懇談会として実施している.

空気圧部会では,従来はユーザー・関連企業の事業所や研究所への訪問見学や講演依頼が主だったと思うが,若手技術者にフルードパワー関連の研究をされている高等教育機関(大学や高等専門学校)の研究室が最近どのような研究をされているのかを実感してもらい,若手技術者間だけではなく,先生や研究者の方々との交流が図れたらとの思いがあり,関東近郊となるが研究室への訪問と交流を企画実施した.

私自身も入社後間もない若手時代に「空気圧動特性研究委員会」のアクチェータの動特性解析段階より,先輩の後を受け参加することとなり,シリンダの空気浮上式の無摺動負荷の設計・製作・設置を引継ぎ,その後の委員会活動にて大学の先生や研究室に接することができた新鮮な経験と,学会誌の研究成果を拝見させていただくだけでなく,実際に研究現場を見て直接お話を聞けたらとの興味があった.

懇談会の内容としては,研究室を訪問し,先生や研究生のみなさんなどより研究内容の紹介を受け,その内容についての質疑応答の後,研究室において実際に研究装置や機器の実演・説明を受け,意見交換を行った.また,先生をはじめ学生の皆さんとの懇親会をお願いし,若手技術者間はもちろんのこと,先生や学生の皆さんとも非常に有意義で活発な交流ができたと思っている.

また,参加していただく若手技術者も一回限りの参加では堅苦しい交流となってしまうため,参加メンバーには半分冗談まじりとはなるが「部会長の許可なくメンバー変更はまかりならない」とお願いし,できる限り複数回参加をしていただいた.回を重ねるにつれ,お互いの顔と名前も一致するようになり,集合時より打ち解けた雰囲気でスタートでき,活発な交流会となっていった.

 このような若手技術者懇談会を重ねることにより,参加した各社の若手技術者は空気圧の将来の実用化を目指した数多くの研究や各種のアプリケーションに接することができ,日常の業務を離れた新鮮な刺激を受け,学会との接点化が図れたと思う.

訪問させていただいた多くの研究室の先生方や研究生の皆さんには大変なご負担をお掛けしたことと思います.当時を振り返り改めて御礼申し上げます.

3.2 フルードパワー活性化委員会

 2008年に工業会で1992年に発行した小冊子「メカトロを活かす油空圧」もすでに16年を経過し,全面的に改訂することとなった.目的は,油圧,空気圧,水圧の魅力を解り易く若い世代(工業高校や高専等の生徒)に紹介し,油圧,空気圧,水圧分野を志そうとする人を一人でも増やそうとすることにあった.空気圧部会長として空気圧分野の内容を各社に執筆をお願いし,まとめる役を務めた.

空気圧機器はFA用途が多く,油圧機器の様に四輪車,二輪車,建設機械,農業機械,船舶,航空機への使用例といった興味を引く内容とすることができず,一般的な空気圧機器の解説が主になってしまった反省はあるが,空気圧関係の参加者で企画を検討する中,「研究が進む空気圧の用途」として,何人かの学会の空気圧関連の研究をされている先生に投稿をお願いし,大学での研究内容の一端を紹介させていただくことができたことは良かったと思っている.

3.3 フルードパワー活性化委員会

 工業会と学会より油圧,空気圧,水圧に関連するメンバーが出席し,産学連携の推進と活性化をテーマとした産学懇談会に空気圧の主査として参加させていただき,学会への空気圧関連企業の要望等をまとめ,学会の先生方といろいろ検討・議論をさせていただいた.

企業側からは省エネ,環境,福祉,対電動またはハイブリッド化,家庭内用途等,いろいろな取組み要望が出ましたが,漠然とした内容であった.空気圧の特性を活かした成長が見込める分野を創造し得るアプリケーションを提案し,研究と商品化の推進を個別の研究室と企業間になると思うが産学連携にて進めて行くべきであり,その種と成り得るアイテムをいかに創出するかが一番の課題であると感じた.

4.おわりに

 最近は各種の見本市を見ると,主催者側の思惑もあるが,大学の研究室が産業界との接触機会を増やすために積極的に出展し,分野によっては大学発のベンチャーも増え,JST(国立研究開発法人 科学技術振興機構)やNDEO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の利用も進んで来ています.

フルードパワーの活性化については,学会の方針にある産学連携の強化が重要です.そのために,流体を幅広く捉え,業種・業態を超えることも必要であり,そこで生まれるいろいろの研究やアプリケーションが商品として上市されることにより,フルードパワーがより幅広く活性化された分野になって行くのではと感じております.

最後に,フルードパワーシステム学会の更なる発展を願って,本稿を終えさせていただきます.

こまつ   たかし

小松 隆君

1953 131日生まれ.長野県伊那市出身

1975年山梨大学工学部精密工学科卒業.

同年 株式会社小金井製作所(現在の株式会社コガネイ)技術部入社.

現在 開発本部エグゼクティブ・エンジニア.

日本フルードパワーシステム学会フェロー

E-mail:komatsu-ts@koganei.co.jp

                                                                                          

 
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