資 料

 

平成27年度油空圧シミュレーション研究委員会報告*

 

田中 和博**

 

* 平成2866日原稿受付

** 九州工業大学,〒820-8502 飯塚市川津680-4

 

 

訃報:この間,当委員会の委員として,また,ボンドグラフによるシステムダイナミクスの研究活動を長期にわたり旺盛に進めて来られた幸田武久先生(京都大学)が,2015101日にご逝去なさいました.ここに生前のご厚誼に感謝し謹んでお知らせいたします.

 

1 平成27625日(木)15001700機械振興会館本館 13名出席

ボンドグラフによるシミュレーションの経験から−理解が得られぬ理由,統合技術ドメインシミュレーションの難しさ- 鎌田正雄委員((株)エイ・エス・アイ総研)SimTechhttp://simtec.jp/).

要素数合計が71という大規模なシステムは,判読が容易なボンドグラフにまとめるのが困難であり,シミュレーションを成功させるためにコンポーネント毎の検証が必要である.完成したシステムのボンドグラフモデルは第三者からみると判読が困難であるため,大規模なシステムのボンドグラフモデルを作成する際には改訂歴が必要である.ボンドグラフ法をベースとしたシミュレーションソフト,更には,モデル表現上の利点として,ボンドグラフはハードウエアとの直観的対応が付け易いこと,表現が簡易であり,ブロック図によるシステム表現が困難な場合でもボンドグラフなら可能となる場合があることなどが紹介された.

 

2 平成27824日(月)15001700 機械振興会館本館 12名出席

ボンドグラフの活用・展開−山本耕治委員((株)タダノ)

油圧クレーンの旋回モータを例に取りそのボンドグラフモデルとモデル化の問題点について,次に,油圧ブースター回路(圧力を増圧する回路)を例に取りそのボンドグラフモデルの説明およびボンドグラフ法によるモデル化の限界,すなわち,素子・接点数が多数になるとモデル化およびそのモデルを読み解くのが困難であるためアイコン化の検討が重要であること,物理システムの理解にはボンドグラフが有効であることが紹介された.解析レベルについては,油圧システムの動特性のシミュレーションには,レベル1(市販モデルベースデザインソフトでの解析),レベル2(市販モデルベースデザインソフト+モデルのカスタマイズ),レベル3(モデリングと動特性のシミュレーションの基礎から理解して解析)に分けられる.企業はレベル3を求めているが,現場では実際にはレベル1であり,このレベルで問題が生じていないのが現状である.

 

3 平成271119日(月)15001700 機械振興会館本館  8名出席

1DCAEの考え方に基づくモデルベース開発 − 大富浩一教授(東京大学特任研究員)

 近年のものづくりでは,開発期間・資金が制約され,顧客ニーズの多様化により,機械・電気・ソフトが混在した問題を扱う必要があり,以下の3つの設計概念が提案された.@Delight設計:顧客満足度を高いレベルで実現,デザインコンセプトが最重要,多くのヒット商品がここから生まれている.ABetter設計:顧客満足度と要求充足度の両方をある適度なレベルでバランスさせて実現.BMust設計:要求充足度に重きをおいた設計,デザインコンセプトの保障が必須で多くのトラブルはこの設計領域で発生.0Dが概念設計,1Dが機能設計,2Dが配置設計,3Dが構造設計,4Dが製造設計である.最初は主に設計者の頭の中にある曖昧な情報が主であるが,設計情報の次元が進むにつれ図面等の実態のある設計情報の割合が増える.機能設計を念頭においた1DCAEは設計の上流に位置し全体適正設計を行う.1DCAEは仕様を明確にし,これを具体化することが目的であり,設計対象の本質を見極めつつIT技術を利用することが必要である.

4 平成28314日(月)15001720 機械振興会館本館 7名出席

1.油圧式変速機構における低速/高トルク・デジタル油圧ポンプの開発・・・林光昭委員(()IHI

再生可能エネルギ分野における動力伝達機構を構成する際に必要な,低速から高速まで動力変換効率の良いポンプの開発を,デジタルフルードパワー技術を用いて行った. 1DシミュレーションソフトAmesim上の物理モデルをMatlab上で構築した制御ロックで動かすというシミュレーションを行い,流量分配弁の制御シーケンスの検討を行い,良好な実績を実現した.

 

2. 空気圧システムモデル化のためのボンドグラフ法に関する一提案 ・・・桜井康雄委員(足利工業大学)

圧縮性流体系と熱系を含み動的な温度変化を考慮しなければならない空気圧システムをボンドグラフ法でモデル化する際,熱系と圧縮性流体系のパワー変数に新しい定義を導入したボンドグラフ法が提案された.そこでは擬似ボンドグラフを用いられ,1ボンド2変数の基本ボンドグラフと信号を伝達するアクティブボンドを積極的に活用することで,通常のボンドグラフ法の知識のみで空気圧システムをモデル化することが可能となる手法が提案された.実験結果と比較の結果,提案したモデル化手法の妥当性が示された.(以上)

 

たなか  かずひろ

田中 和博君

1983年東京大学大学院博士課程修了(工学博士).1984年上智大学理工学部助手.1988年東京大学工学部助手.1989年九州工業大学助教授(情報工学部).1999年同大教授.現在に至る.CFD解析,流体システムのモデル化等の研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会(フェロー)などの会員.

E-mail:kazuhiro@mse.kyutech.ac.jp

URL: http://tanakafutiwaki-lab.jp/

                                                                                           

 
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