このたび,平成29年度通常総会で日本フルードパワーシステム学会学術論文賞を頂戴し,大変光栄に感じている.このたびの受賞にあたり,まずこれまで私共の研究グループをご指導・ご支援くださった皆様方,特に香川利春先生(東京工業大学特命教授),川嶋健嗣先生(東京医科歯科大学教授),故:加藤重雄先生(日本工業大学名誉教授)に対して,深く御礼申し上げる.本稿では,受賞論文である「気液相変化により駆動されるゴム人工筋アクチュエータの製作」1)について,概要をご紹介させていただく.
空気圧駆動のロボットに使用される空気圧アクチュエータの一種である空気圧ゴム人工筋(Pneumatic artificial rubber muscle,以下PARM)は,筋肉の収縮原理を模したものであり,空気圧をPARM内部に供給し,圧力を上昇させることで径方向に膨張し,軸方向に収縮して変位を生じる.PARMは軽量でやわらかく,同径のエアシリンダと比較して数倍の引っ張り力を発揮できる(軽量高出力)という特徴や防爆性や姿勢保持の点で優れており,柔軟な接触動作が要求される対人間用ロボットなど,パワーアシスト機器やマニピュレータへの適用の研究が進められている1)2).しかし問題点として,PARMの駆動源として使用されるコンプレッサは大型で,周辺装置等を組み合わせると装置全体の小型化が困難になることが挙げられる.空気圧アクチュエータが直面するこの問題の解決策として,コンプレッサを使用しない気液相変化により駆動されるアクチュエータに関する研究が進められているが3),気液相変化を用いてPARMを駆動する際は,0.3 [MPa gauge]以上の圧力発生に約200秒の時間を必要としており,圧力応答性の改善が課題となっていた4)-6).そこで,著者らは応答性の改善を目的とし,本論文では気液相変化により駆動されるアクチュエータについて,特に力制御に注目した.
まず,PARMの特性を一般的な方法7)-9)で同定し,つぎに気液相変化による圧力発生を確認して,PARMの駆動実験を行った.さらにPI制御系を適用し内圧制御を行った.最後に気液相変化により駆動されるPARMの動特性を把握するため周波数応答実験を行い,性能を検証した.
気液相変化アクチュエータとは液相が気相へ変化する際,体積が膨張する現象を利用したアクチュエータである.装置に取り付けた自作のコンスタンタン製のヒータ(材料:TOKYO WIRE WORKS LTD, 0.231 [mm],単位長さあたりの抵抗値16.02 [Ω/m])に電力を与えることで,加熱された液体が膨張した後,沸騰し気体へ変化する.その際に体積が膨張し発生する圧力によってアクチュエータが駆動する.また,装置から熱を取り除くと,変化していた気体は液体に戻り体積は収縮する.気液相変化を用いたアクチュエータは,コンプレッサレスのためPARMの長所を生かしたまま,装置全体の小型化が可能となる.
本研究では作動流体にフッ化炭素(C5F11NO)を用いた.フッ化炭素は沸点が大気圧下においてが50 [°C]と低く,蒸発熱が104.65[kJ/kg] と水の22分の1程度しかないため,わずかな熱エネルギーの供給・放出で相変化する.熱膨張率は,20 [°C]において0.00154 [°C -1]であり,水の約7倍である.また,毒性がなく不燃性で安全である.
本論文では,気液相変化により駆動される高応答なアクチュエータの力制御を実現することを目的とし,装置の製作および制御系を適用し,PARMの駆動実験を行い,性能を検証した.まず,PARMの静特性を求め,内圧・収縮率・力の関係式と収縮率・体積の関係式を得た.つぎに,気液相変化を用いた圧力発生実験を行い,気液相変化による圧力の発生を確認した.
その後,圧力のPI制御系を構成し,PARMの内圧を気液相変化により制御する実験を行った(図1).ステップ応答実験の目標圧力は0.3→0.35→0.3 [MPa gauge]であり,内圧を変動させた際の圧力,電圧,PARM出力,液温を測定した.目標圧力0.35 [MPa gauge]に上昇する際の時定数は0.12 [s],目標圧力0.3 [MPa gauge]に下降する際の時定数は0.32 [s]となった.また,PARMの出力は制御を行うことで,約26.4 [N]の保持に成功した.この内圧制御を行った場合の消費電力量は4.39 [kJ]と求められた(図2).
さらに,周波数応答実験を行い,圧力・力・周波数の関係を求めた(図3).これらの結果より,気液相変化により駆動されるPARMは,数ヘルツの動特性を要するロボットアームや鉗子などの制御に十分適用できる可能性が示された.
2007年東京工業大学大学院博士課程修了.東京都立工業高等専門学校助手~助教を経て,2010年福岡工業大学工学部知能機械工学科助教,2012年同准教授となり現在に至る.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会,計測自動制御学会,精密工学会,日本技術士会などの会員.博士(工学),技術士(機械部門).
E-mail: t-kato@fit.ac.jp
図1 気液相変化によるPARMの駆動実験(装置構成)
図2 実験結果(PARMの駆動実験,ステップ応答)
図3 実験結果(周波数応答)