この度,図らずも日本フルードパワーシステム学会名誉員を拝命した.身に余る光栄と感じる.空気圧に関して圧縮性の扱いによる仕事に対してと考えられるが,その技術に関する単なる解説,自慢話ではなく,その技術に至った経緯と現在の執り行っている事を紹介する.
著者と圧縮性流体研究とは学生時代の研究テーマにさかのぼる.東工大制御工学科の卒業論文テーマとして純流体素子(フルイディクス)の研究を行った.PID制御器を流体素子で構成するものである.偏差信号にゲインをかけて,積分器を通過させて,出力信号を作成する回路である.一定時間空気を復調である空気圧容器に充填する.この時充填された空気は容器内に当初からあった空気を圧縮し,従って温度上昇をもたらす.充填終了後に容器内空気温度は周囲との熱伝達によって大気温度に戻ろうとする.その結果圧力は行き過ぎを生じて戻ると現象を示した.この現象はその後ストップ法と名付けた容器内空気の熱力学的平均温度計測法につながった.
その後,就職し計装メーカのソフトウェア技術部に配属された.仕事の内容はその頃実用に用いられ始めた計算機によるプラントの制御である.制御対象は鉄鉱石の供給量の制御や,脱硫のための水素製造である.いわゆるDDCのカスケード制御系が5,6つに及ぶ制御系のプログラム制御や,チューニングを経験した.北海道のプロジェクトに合わせて,自分が必要であるとの要望を出させ,スキーを持参して,出張を行った事もあった.卒業後2年を経過した時点で,研究室からお呼びがかかった.当時の助手は吉田松陰のお兄さんの孫である吉田さんであったが,不幸にして病に倒れてしまった.お葬式は世田谷区若林の松陰神社で行われた.夏の大変暑い時期で,大汗をかいた記憶がある.もっと驚いたのは中曽根康弘氏や三木武夫氏が参列していた.
その吉田さんは同じ制御工学科の7年先輩で,流体論理素子,フルイディクスを研究テーマとしていて,著者にも多くの影響を与えた.1976年5月に東工大制御工学科の助手に採用されたものの,弱小研究室でろくな実験設備もなく,翌年には研究室が無くなってしまった.学生実験で担当するプロセス制御,圧力計測の実験装置のみが利用できる機器であった.
圧力センサのみが実験装置として利用可能で,圧力容器はウイスキーの空瓶を用いて,ひたすらに充填と放出の実験を行った.従来では空気の質量流量を入力として圧力を出力とする場合,質量の連続の式のみの利用で,空気の状態変化はポリトロープとして1から1.4の不確定性を持っていた.充填の場合は放出に比べてポリトロープ数は明らかに小さく実験データとして現れた.この原因を考えて行くうちに,容器内の流動と熱移動が圧力応答に関係する事がわかり,つぎの等温化圧力容器の考案につながった1).
空気は圧縮すると,空気の体積は容易に変化する.水の部分はその体積は殆ど変化しない.これが圧縮性流体の空気と非圧縮性流体の水の性質である.また,ゆっくり押した場合は定常状態であるため,温度の変化は無く,小学生の教科書の問題である.しかしながら,ある程度の速度で押した場合は空気の部分の温度が上昇し,周囲の水面やシリンダ内壁との熱移動が発生する.実際の空気圧システムはこれらの複雑な現象を伴いながら動作している.
等温化圧力容器とは,空気の状態変化を,銅などの細線を容器に封入することで,等温変化に近くするものである.図1に等温化圧力容器と右図に温度変化を示す.温度変化では空の容器と等温化圧力容器では大きな相違が確認できる.空気の状態変化を等温とする事で,圧力変化のみの計測で容器内空気の質量変化を求めることができるため,さまざまな応用が期待できる.
JFPA日本フルードパワー工業会がまとめ役となり, JFPS日本フルードパワーシステム学会が協力してISOTC131の空気圧委員会において空気圧機器の表示方法と測定方法を提案して,多くの活動の結果,認められた.産学連携の良い例と言える.従来米国では主に空気圧機器の流量特性は非圧縮性流体のCv値を使っていた.それに対して,英国バース大学の研究結果を参考にして,空気圧機器に良く合致する表示法を作成した.図2に臨界圧力比と音速コンダクタンスの流量表示式を示す.
図3に従来のISO6358の測定法と代換測定法を示す.4.で示した流量特性の表示にはソニックコンダクタンスと臨界圧力比が必要である.どれだけの流量が流れるかであるので,基本的には流量計が必要である.しかしながら,一点一点計測するのは膨大な時間と労力とエネルギーが必要となる.そこで等温化圧力容器を用いた圧力応答法の一種である等温化放出法を提案した.従来の測定法と比べ約1/4の測定時間及び1/10以下の空気消費量で同精度の測定が実施できるようになった2) 3).
空気圧システムでは非定常な流量の計測の必要性な場合が多々ある.これらの必要性に対して,微細パイプを用いた層流型非定常流量計を提案した4) 5).図4に非定常流量センサ:QFSの概要と動特性を示す.この動特性は非定常流量発生器を用いた.直線性は極めて良く,50ヘルツまで追従している様子が示されている.
空気圧の省エネが求められて久しいが,エネルギーの評価方法が確定していなかった.そこで熱力学法則を用いて,エアパワーメータを提案した6).図5に初期型のモデルを示す.流量,圧力,エネルギー値の表示が可能で積算機能も有している.
近年多くの自動化ラインの空気圧供給圧力は下げられる傾向にあり,自動車メーカの圧力設定は0.35MPaにまで下げられたと聞き及んでいる.供給圧力がここまで下げられた場合は,静的バランス特性を満たしていても,各アクチュエーターの速度が十分に出なくなってしまう.そこで現場技術者は増圧器に頼ることとなる.増圧器の例を図6に示す.同径のシリンダが接続されているため,理論的には2倍の圧力の空気が得られるような構造になっている.
動作を考えていただければ直ぐに推察できるが,たとえば0.35MPaの空気を一往復で2回大気に捨てている計算となる.これを捨てている空気のエネルギーを回収するための膨張室を設けて,エネルギー効率を改善した増圧器を提案した.図7に示す.
空気圧容器の充填,放出時の圧力応答の差異から空気の状態変化の考察を行い,単なる計算法のみならず,等温化圧力容器の提案,ISO化,JIS化に立ち合わせていただいた.さらに社会のエネルギー評価に対する取り組みから,ISOにおいても同様の動きがあり,10年前に留学生との共同研究が幸運にもそのベースとなった.
考てみれば,空気圧の研究の半分以上は留学生と共に考え,実験してきた結果であり,今回の受賞は留学生と共同研究者の皆さんのお陰であると考える.また学会の先輩方々,フルードパワー工業会の皆様に一方ならないお世話になったことを記して感謝する.