展 望

平成29年度の学会誌のレビュー*

塚越 秀行**

* 平成30年7月31日原稿受付

**東京工業大学 工学院システム制御系,〒152-8552 東京都目黒区大岡山2-12-1

1.はじめに

平成29年には,(一社)日本フルードパワーシステム学会誌「フルードパワーシステム」第48巻第1号~第6号,および電子出版緑陰特集号第48巻第E1号を発行した.各号は,数件の記事から成る特集と,その他の多様な記事により構成した.特集以外の記事としては,学会長および学会副会長の年頭挨拶,学会関連行事のニュース,会議報告,連載形式の教室(入門講座「エネルギー工学」),フルードパワー設計者のためのグローバルスタンダード(連載),特許文献を調べる(連載),駐在員日記,研究室紹介,随想,および学会企画行事の報告記事などである.以下では,各号の特集の概要について紹介する.

2.学会誌特集のレビュー

第48巻第1号 特集「柔軟構造のフルードパワーアクチュエータ」

柔軟性に優れたフルードパワーアクチュエータの最新情報について特集している.具体的には,総論として,柔軟構造のフルードパワーアクチュエータの可能性と課題を解説している.つぎに,バルーンアクチュエータを利用したマイクロフィンガーによる培養細胞組織の把持・解放操作,液圧アクチュエータを用いた低侵襲医療機器,フレキシブルERバルブを用いたマイクログリッパについて報告している.さらに,気液可逆反応を利用したガス圧アクチュエータ,螺旋状巻付き空気圧駆動ソフトアクチュエータ,タコの吸盤を参考にした空気圧駆動による投擲型柔軟吸着体の開発事例も紹介している.

第48巻第2号 特集「フルードパワーに役立つセンシング技術」

油圧・空気圧・機能性流体の各分野において活用され始めた,もしくはこれから活用される可能性の高い,センシング技術の最新情報について特集している.具体的には,磁気式アブソリュートエンコーダ,磁歪式リニアセンサ,柔軟空気圧シリンダ用変位センサなどの要素技術である.また,適用事例として,電磁緒音波共鳴法による高温配管の減圧モニタリング,ICT建機用ストロークセンサ付シリンダ,磁場印加型レオメータとMR流体の磁気レオロジー計測技術,材質認識システムを備えた人工指,なども紹介している.

なお,本特集は本学会の編集委員会と企画委員会との合同企画であり,平成29年5月に本特集の著者の一部を講師とし本号をテキストとした平成29年春季講演会併設セミナーが開催され,好評を博している.

第48巻第3号 特集「モデルベース開発とその活用事例」

モデルベース開発(MBD)をフルードパワーシステムや様々な機械システムに巧みに適用されている研究事・開発事例について特集している.まず,総論として,MBDの概念の概説とフルードパワーシステムへの適用事例の紹介が行われている.次に,自動車業界でのMBDの適用事例,油圧システムのモデリング,1DCAEの考え方に基づくMBDなどを解説している.さらに,大学のフルードパワー研究・教育におけるディジタルコントローラの活用,1DCAEによるフルードパワーシステム設計に関する研究委員会,コンバインのエンジン振動,騒音低減へのCAEモデルの適用事例,HILS技術を用いた仮想走行試験手法,などを紹介している.

第48巻第4号 特集「フルードパワー分野におけるトライボロジーの展開」

油圧・空気圧・機能性流体のシステムの性能向上に役立ちそうなトライボロジーの最新研究や技術について特集している.まず,弾性流体潤滑理論について解説している.次に,油圧作動油の耐摩耗性,転がり軸受けの高速化技術,工作機械摺動面のグリース潤滑を説明している.さらに,ワイブル分布の原理と機械材料およびトライボロジーへの応用,カーボンオニオンによる潤滑特性の改善,水潤滑システムにおける低摩擦発現のための表面テクスチャリング,表面微細構造により誘起されるマイクロ・ナノ気体潤滑機構,MR流体用回転軸シールなどを紹介している.

第48巻 第E1号 電子出版緑陰特集号

平成28年度のフルードパワー技術に関する展望として,油圧分野,空気圧分野,水圧分野および機能性流体分野の動向について解説している.また,小特集「日本フルードパワーシステム学会賞受賞者および研究委員会の紹介」として,学術論文賞,技術開発賞,SMC高田賞の各受賞者による解説,および技術功労賞,学術貢献賞の各受賞者ならびに名誉員による随想,および活動中の研究委員会およびフルードパワー特別研修会の活動報告を掲載している.

第48巻第5号 特集「人に優しいフルードパワーの最新技術」

フルートパワーの特徴を活用した「人に接して使用される器具や機器」の最新情報を特集している.具体的には,バイオメカニクス的観点からの快適な枕,空気圧を利用した線形状システムとその医療応用,空気圧アクチュエータを用いた力覚提示装置などである.また,レスキュー用アシストスーツ,パワーアシストスーツ,空気圧アシストレッグ,なおも紹介している.さらに,人に優しい機械としての油圧手術台,空気圧要素を用いた鬱血褥瘡防止マット,低圧型空気圧人工筋を用いたアンプラグド・パワード・スーツについても説明している.

第48巻第6号 特集「災害現場で活用されるフルードパワー技術」

災害現場への活用を目指したフルードパワーの最新技術を特集している.まず,総説として,フルードパワーの特長と災害現場の作業に適したフルードパワーの特長を説明している.次に,原子力災害対応の小型双腕重機型ロボット,バックホウ用遠隔操縦装置,防災用エアージャッキなどを紹介している.さらに,フラップゲート式可動防潮堤,低コストで多機能な油圧ハイブリッドロボット,油圧駆動ハイパワーの人工筋肉とロボットへの適用例を説明している.

3.おわりに

平成29年の学会誌のレビューを行った.学会誌編集委員会は,会員の皆様にフルードパワーに関する最新情報を提供するとともに,学会の広報活動としても役立ち,さらに楽しんで読んでいただけるような学会誌の発行を目指している.学会誌へのご意見,ご要望をお待ちしております.

著者紹介

顔写真(塚越)

つかごし ひでゆき

塚越 秀行 君

1998年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了.同年日本学術振興会特別研究員,1999年東京工業大学助手,2004年同大学院助教授,准教授 現在に至る. 2001年~2004年科学技術振興事業団さきがけ21研究員兼任.生物に学ぶ流体駆動原理・レスキューロボット・医療福祉用アクチュエータなどの研究に従事.2007年度文部科学省若手科学者賞, 2012年IEEE Robotics and Automation Best Service Robotics Paper Award, 2015年Journal of Robotics and Mechatronics Best Paper Award, などを受賞. 博士(工学).

E-mail: htsuka(at)cm.ctrl.titech.ac.jp