随 想

JFPS名誉員を拝命して*

鈴木 勝正**

* 平成30年6月5日原稿受付

**元東京都市大学158-8557 東京都世田谷区玉堤1-28-1

1.はじめに

この度はJFPS名誉員を拝命して身に余る光栄と感謝申し上げる.

大学院の学生時に油圧の研究を始めてから大学を定年退職するまで終始油圧の研究を続けて来れたことに喜びを感じる.油圧は成熟産業なので革新的な研究テーマを見つけるのが難しく,研究活動が活発とはいい難い状況にあるが,社会では盛んに利用されているので,研究を続けていくことが重要と考えられる.

 私は40年余り,研究継続することができたので,ささやかではあるが種々の結果を得ることができた.その概要を紹介させていただく.

2.油圧管路の周波数特性計算方法の改善1)

 私が油圧の研究を始めた頃には管路の研究が盛んに行われていた.管路の計算にはサイン,コサインの三角関数が多数含まれており計算が複雑である.そこで反射係数とオイラーの公式を使うと式が単純化して見通しが良くなる.また図1のように図を使うと一層理解が容易になる.この考え方は電気の伝送線路や音響の分野で利用されているが油圧管路に導入して理解に役立てることができた.

3.油圧管路の過渡特性計算方法の改善2),3)

管路の過渡応答の計算には特性計算法が有効であるが,コンピュータの計算にメモリーを多く必要とし,計算時間も長かった.この計算方法を改良した.またその計算過程を図2のようにディジタルのブロック線図で表示した.この計算の問題点は非定常管路抵抗を求める際に過去のすべての流速変化の履歴を必要とすることにあったが,これが巡回型ディジタルフィルターの形式で表現できることを利用して改善した.これは図2に示したブロック線図の右側に示されている.

4.油撃による増圧装置4),5)

油撃は管路内の流れを急にせき止めるときに発生し,高圧が発生することから対策が必要であった.私達はこの増圧効果に注目して図3,図4のように増圧装置を作った.この装置は供給圧力の数倍に増圧することができる.

5.間欠運転方式油圧源の省エネルギー6),7)

 車のハイブリットが盛んに利用され飛躍的な省エネルギー効果をもたらした.その基本はエンジンを常に最大効率で運転し,残りの時間に停止させることにある.

 油圧機械においても負荷状態が大幅に変動することが多いので,油圧ポンプを最大効率で運転し,その他の状態では停止させる.停止中はアキュムレータから作動油を供給する.これによって図5に示すように油圧源の省エネルギーを実施できる.また停止中は静粛が得られる.

 油圧源の動力として電動機とエンジンが使われるが,電動機はスイッチによりON-OFFが容易に行える.エンジンでは再起動時に外部から回転力を加える必要があるので図6のように油圧ポンプモータにアキュムレータから作動油を供給しモータの働きをさせて再起動させる8)

6.MPC(モデル予測制御)によるパワーショベルの制御9)

 モデル予測制御は有限時間未来までの挙動をモデルに基づいて予測し最適な制御を行う制御手法である.私達はこれを図7のようにパワーショベルの軌道追従制御に適用して良好な結果を得た.本手法は最適制御理論をディジタル化したような理論であり,すでに30年ほど前にプラントの制御用に海外から導入されていた.最近のコンピュータの高性能化によりサーボのような高速な制御に適用できるようになった.数十ミリ秒のサンプリング時間内に膨大な計算を実行して最適な制御を行う.

7.おわりに

 今まで学会,大学の先輩,後輩の方々に支えていただきここまで研究を続けて来ることができた.お世話になった皆様に感謝申し上げる.

参考文献

鈴木勝正:液体菅路系の周波数特性の図式計算法,油圧と空気圧,Vol.6,No.4, p.197-202(1974)

Suzuki, K., Taketomi, T., Sato, S.:Improving Zielke's Method of Simulating Frequency-Dependent Friction in Laminar Liquid Pipe Flow, ASME Journal of Fluids Engineering, Vol.113,No.4 , p.569-573(1991),

鈴木勝正,尾園邦明:液体管路系の動特性シミュレーションのための離散時間型ブロック線図表示法,日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.33, No.2, p.36-41(2002)

Suzuki, K.:Application of a New Pressure Intensifier Using Oil Hammer to Pressure Control of a Hydraulic Cylinder, ASME Journal of Dynamic Systems, Measurement, and Control, Vol.111,No.2, p.322-328(1989)

Suzuki, K.:A New Hydraulic Pressure Intensifier Using Oil Hammer, ASME Journal of Fluids Engineering, Vol.112 ,No.1 , p.56-60(1990)

杉村健,大田真平,土井哲郎,鈴木勝正,野中謙一郎:アキュムレータを用いたアイドリングストップ方式による油圧源の省エネルギー(第1報 3種類の油圧源による省エネ性能比較),日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.42, No.4, p.74-80(2011)

杉村健,大田真平,鈴木勝正,野中謙一郎:アキュムレータを用いたアイドリングストップ方式による油圧源の省エネルギー(第2報 負荷流量一定時の省エネルギー),日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.44, No.2, p.29-34(2013)

糟谷修史,杉村健,野中謙一郎,鈴木勝正:アキュムレータを用いたアイドリングストップ方式による油圧源の省エネルギー(第3報 ガソリンエンジン駆動油圧源における油圧アシストを用いた間欠運転)日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.46, No.6, p.41-47(2015)

戸松匠,野中謙一郎,関口和真,鈴木勝正:油圧ショベルにおけるモデル予測追従制御の基礎実験(未知物体押しのけに起因する掘削形状からの逸脱の抑制)日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.49, No.1, p.1-9(2018)

著者紹介

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すずき  かつまさ

鈴木 勝正 君

昭和50年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程満期退学.昭和56年武蔵工業大学(現東京都市大学)助教授.平成13年同教授.平成24年同定年退職.電気油圧サーボシステム,油圧管路の動特性,油圧源の省エネの研究に従事.日本フルードパワーシステム学会評議員.工学博士.

E-mail:ksuzuki(at)ca.catv-yokohama.ne.jp

 

図1

図1 管路周波数特性のスミスチャート上の表示

 

図2

図2 管路系のブロック線図表示

 

 

図3

図3 油撃による増圧装置の原理

 

図4

図4 油撃による増圧装置の油圧シリンダーへの応用

 

図5

図5 間欠運転方式油圧源(ACC)とインバータ制御方式(INV)

および可変容量方式油圧源(VD)との効率の比較

 

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6 アキュムレータを用いたアイドリングストップ方式による省エネルギー油圧源

(ガソリンエンジン駆動油圧源における油圧アシストを用いた間欠運転)

 

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図7 MPC(モデル予測制御)を用いたパワーショベルの制御の実験装置