資 料

アクアドライブシステムの新たな構成機器の開発と
その制御に関する研究委員会
*

鈴木 健児**

* 平成30年8月7日原稿受付

**神奈川大学,〒221-8686 神奈川県横浜市神奈川区六角橋3-27-1

1.はじめに

本研究委員会では,「アクアドライブシステム」の新たな構成機器(ポンプ,制御弁,アクチュエータ)の開発と,その制御に必要な基礎実験およびその応用について,技術的課題の調査・研究や委員間の情報共有を目的とする.ただし,研究対象のトピックはこれに限定せず,水圧技術関連全般だけでなく,その周辺要素も扱った.

2.活動の状況

本研究委員会は,平成28年度から設置された.アクアドライブシステムの様々な分野への適用例や解析手法の事例をご講演いただき,講演者と委員との質疑応答を通して,新たな機器開発における要求仕様や技術的課題を検討した.2年間の活動期間中,研究委員会を5回開催し,各回で2件ずつの話題提供が行われた.それぞれの講演について,概要は以下のとおりである.

2.1 第1回研究委員会(於機械振興会館)

1件目は,神奈川大学の藤本滋教授より,配管の振動を低減する「3次元動吸振器」に関する講演が行われた.3次元的に引き回された配管の振動を低減するための,高減衰合金を用いた3次元動吸振器について紹介された.

2件目は,アドバンスソフト(株)の富塚孝之様より,「液体管路系流体解析ソフトウェアAdvance / FrontNet /Ω 解析事例」について講演が行われた.主にポンプ急停止時やバルブ遮断時において配管内で発生する,水撃や液柱分離といった過渡現象を解析するためのソフトウェアについて,機能概要と解析事例について紹介された.

2.2 第2回研究委員会(於神奈川大学)

1件目は,神奈川大学の中尾陽一教授より,「水静圧軸受による超精密工作機械用スピンドルや直動テーブルの制御」に関する講演が行われた.水静圧軸受をフィードバック制御することによって,ナノメートルオーダのスピンドルの変位制御事例や直動テーブルの真直度や姿勢制御に関する研究事例などが紹介された.アクアドライブシステムの長所を超精密工作機械に生かした応用事例として,今後の発展が見込まれる.

2件目は,オリオン機械(株)の寒川賢二様より,「オリオン機械・酪農事業本部取扱機器の解説概要」について講演が行われた.まず,日本酪農の市場規模および将来性や世界の酪農概要などの酪農の現状と将来について展望した後,オリオン酪農機械製品について説明がなされた.これらのシステムでは油圧・空圧が使用されているが,これを水圧にした場合の利点や問題点について解説された.

2.3 第3回研究委員会(於機械振興会館)

1件目は,(株)共和電業の難波修様より,「ひずみゲージとその応用」について講演が行われた.ひずみについての説明と,ひずみゲージ,ひずみゲージ式変換器,圧力変換器を用いたアプリケーション例などについて,概要が説明された.水圧システムを制御する上で不可欠な圧力測定において,圧力センサの選定や設置に関する注意点など,基礎的な事項を検討する機会となった.

2件目は,シールテック(株)の白鳥卓志様より,「水用シールの実際と問題点」に関する講演が行われた.一般に使用されている水用シールの材質・特徴とそれに代わる材料に関する考察や,ある用例における問題点の洗い出しおよびその対策についての検討結果が報告された.アクアドライブシステムの構成機器開発において,キーとなる要素であるシール技術について,示唆に富む内容であった.

2.4 第4回研究委員会(於機械振興会館)

1件目は,芝浦工業大学環境システム制御研究室の八木澤遼様より,「ポンプ供給圧低減による水圧モータシステムの高効率化」に関する講演が行われた.固定容量ポンプを用いた水圧モータ駆動回路に対し,ポンプの供給圧を低減させるための回路の提案および実験を行った結果が報告された.水圧モータの制御弁における圧力損失を低減してシステム全体を高効率化するための回路構成について,シミュレーションおよび実験によって効果が確認された.

2件目は,神奈川大学の鈴木健児助教より,「水圧用の制御弁(サーボ弁,リリーフ弁)に関する研究報告」の講演が行われた.2017年度に行われた水圧用制御弁の研究(水圧ロータリー型サーボ弁の開発および水圧揺動モータの角度制御のためのモデル化,水圧リリーフ弁の静特性改善およびキャビテーション抑制に関する研究)について報告された.新たに設計開発した水圧ロータリー型サーボ弁による水圧揺動モータの角度制御に関して,シミュレーションによって検討された.また,キャビテーション抑制のために2段絞り構造にした主弁を有するバランスドピストン型水圧リリーフ弁について,その静特性に及ぼす各部の絞り径の影響についてシミュレーションによって比較検討し,実験で検証を行った.

2.5 第5回研究委員会(於機械振興会館)

1件目は,芝浦工業大学環境システム制御研究室の古田優悟様より,「水道水圧用ベローズ型増圧器の開発と水道水駆動ゴム人工筋の変位制御」に関する講演が行われた.水道水駆動人工筋は駆動圧力が低いために収縮率が低いといった問題を有するため,増圧比2倍程度の水道水圧用の増圧器が必要とされている.本研究で提案されたベローズ型増圧器では,ベローズが収縮することでピストンが駆動し,内部漏れは一切生じないという特長を持つ.ベローズ型増圧器の設計,その性能としての増圧力,増圧器に人工筋を接続してモデル予測変位制御を適用した結果について紹介された.

2件目は,(株)エー・アンド・デイの近藤大吉様より,「MATLAB/Simulinkを用いたリアルタイムシミュレーション環境を構築可能なプラットフォームの御紹介」の講演が行われた.制御系のモデルベース開発用途で主に使用されているMATLAB/Simulinkモデルで,容易にリアルタイムシミュレーションを実行するための開発環境,プラットフォーム,およびツールが紹介された.

3.おわりに

「アクアドライブシステム」の新たな構成機器の開発とその制御に関する研究委員会の活動内容について総括した.今後も,「アクアドライブシステム」の特長が生かせる新たな適用分野や応用事例を継続的に調査し,研究委員間の情報共有の機会を設けたいと考えている.

著者紹介

Suzuki

すずき  けんじ

鈴木 健児 君

1969年11月12日生まれ.

1995年神奈川大学大学院博士前期課程修了.同年光洋精工(株)を経て,1998年神奈川大学工学部助手,2013年同助教,現在に至る.水圧駆動に関する研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会,日本設計工学会などの会員.博士(工学).
E-mail: suzuki(at)kanagawa-u.ac.jp
URL: http://www.mech.kanagawa-u.ac.jp/