展 望

 

平成30年度の学会誌のレビュー*

 

塚越秀行**

 

* 201982原稿受付

** 東京工業大学 工学院システム制御系,〒152-8552 東京都目黒区大岡山2-12-1

 


1.はじめに

平成30年には,(一社)日本フルードパワーシステム学会誌「フルードパワーシステム」第49巻第1号〜第6号,および電子出版緑陰特集号第49巻第E1号を発行した.各号は,数件の記事から成る特集と,その他の多様な記事により構成されている.特集以外の記事としては,学会長および学会副会長の年頭挨拶,学会関連行事のニュース,会議報告,特許文献を調べる(連載),駐在員日記,トピックス(Youは日本をどう思う?, 学生さんへ,先輩が語る, など),研究室紹介,および学会企画行事の報告記事などである.以下では,各号の特集の概要について紹介する.

2.学会誌特集のレビュー

49巻第1号 特集「IFPEX2017

2017913日〜15日までの期間,東京ビッグサイトで開催された国際見本市IFPEX2017において公開されたフルードパワーシステム機器およびシステムに関する開発・研究事例を特集している.前半では,企業から発表された最新の機器・システムに関する空気圧・油圧・水圧の各分野の最新技術動向を紹介している.後半では,活用事例に関する技術動向として,鉄道車両におけるフルードパワー技術の応用,建設現場のIoT スマートコンストラクション,液浸露光装置の技術動向,ADS(新水圧技術)の更なる市場展開とその施策,新型ワイドレンジ副変速機付CVTの油圧システム,などを紹介した後,最後にカレッジ発表の情報も掲載している.

 

49巻第2号 特集「フルードパワーにおける設計技術のトレンド−品質向上と最適化を目指して−」

フルードパワーシステムの高品質化および高機能化を実現するための設計技術のトレンドについて特集している.具体的には,タグチメソッドと呼ばれる品質工学の基礎的な最適化手法とパラメータ設計について解説された後,ロケット用ターボポンプのダイナミック設計手法,CAE解析技術の精度向上,AMESimを用いた油圧シリンダのクッションの最適形状の設計,深層学習を応用した油圧システム設計におけるテスト設計プロセス,オートマチックトランスミッション開発における流体最適化事例,自動車用ショックアブソーバーの減衰力調整用比例ソレノイドの応答性を品質工学により最適化した事例,品質工学を用いたサスペンションの設計の最適化,などを紹介している.

 

49巻第3号 特集「JFPS国際シンポジウム2017

20171024日〜27日までの期間,福岡市アクロス福岡と福岡工業大学を会場として開催された国際シンポジウム第10JFPSにおいて発表された研究動向および実施報告を掲載している.具体的には,記念講演会の報告,油圧・空気圧・機能性流体・水圧の各分野,およびフルードパワーを適用したロボティクスに関する主な研究内容を紹介している.また,ポスターセッション・展示で紹介された研究の概要,および最優秀論文賞・最優秀学生論文賞・GFPSアワードなどの各賞の紹介,さらにGFPS受賞者の参加記なども掲載している.

 

49巻第4号 特集「モーターサイクルにみるフルードパワーの最新技術」

モーターサイクルに適用されている様々なフルードパワー技術について特集している.まず,ライダーから見た技術的魅力を紹介している.次に,風洞可視化技術を用いた車体デザインの開発プロセス,エンジンの熱効率向上および排気浄化技術,過給装置の流れ解析を用いた設計手法,モーターサイクル発生音に対する評価実験,エアスプリング方式の最新ショックアブソーバーに関する情報などを掲載している.

 

49巻 第E1号 電子出版緑陰特集号

平成29年度のフルードパワー技術に関する展望として,油圧分野,空気圧分野,水圧分野および機能性流体分野の動向について解説している.また,小特集「日本フルードパワーシステム学会賞受賞者および研究委員会の紹介」として,学術論文賞,技術開発賞,SMC高田賞の各受賞者による解説,および技術功労賞,学術貢献賞の各受賞者ならびに名誉員による随想,および活動中の研究委員会およびフルードパワー特別研修会の活動報告を掲載している.

 

49巻第5号 特集「バイオミメティクスにみられるフルードパワー」

バイオミメティクスとフルードパワーをキーワードとし,それらの適用事例や可能性について,周辺技術とともに解説している.具体的には,タコの吸盤を参考とした臓器吸着用ソフトフィンガー,空気圧人工筋肉を用いた腸管の蠕動運動を模擬したポンプ,蝶型はばたきロボットの開発とCFD解析,フナムシを模したポンプレス微量液体輸送システム,サメ体表の微細構造に着目したバイオミメティックデザイン,バイオミメティクスによる家電製品の価値創造,航空機の機体形状に適用された生物模倣の事例,などを紹介している.

 

49巻第6号 特集「フルードパワーとサーボ技術」

フルードパワーを利用したサーボ技術の開発の歴史とその最新情報を特集している.具体的には,電気油圧サーボ弁の歴史と技術開発,油圧サーボ・比例弁駆動ドライバの技術,デュアル・ハルバッハ・マグネット・アレーによる強磁界直動型高速サーボ弁,半導体製造装置における空気圧サーボ技術,水圧サーボ弁の新技術,小型サーボ弁とアクチュエータとセンサが一体化したスマートアクチュエータ,マイクロ流体制御バルブ,などに関する情報を紹介している.

3.おわりに

平成30年の学会誌のレビューを行った.学会誌編集委員会は,会員の皆様にフルードパワーに関する最新情報を提供するとともに,学会の広報活動としても役立ち,さらに楽しんで読んでいただけるような学会誌の発行を目指している.学会誌へのご意見,ご要望をお待ちしております.

 

著者紹介

http://falcon.forest.me.ynu.ac.jp/menber/sato_photo11.jpgつかごしひでゆき

塚越秀行 君

1998年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了. 同年日本学術振興会特別研究員,1999年東京工業大学助手,2004年同大学院助教授,准教授 現在に至る. 2001年〜2004年科学技術振興事業団さきがけ21研究員兼任.生物に学ぶ流体駆動原理・レスキューロボット・医療福祉用アクチュエータなどの研究に従事.2007年度文部科学省若手科学者賞, 2012年IEEE Robotics and Automation Best Service Robotics Paper Award, 2015年Journal of Robotics and Mechatronics Best Paper Award, などを受賞. 博士(工学).

E-mail: htsuka(at)cm.ctrl.titech.ac.jp