展 望
平成30年度の空気圧分野の研究活動の動向*
中尾光博**
* 2019年7月29日原稿受付
** 鹿児島大学大学院,〒890-0065 鹿児島市郡元1-21-40
2.1 制御バルブ
井上ら1)は,軽量かつ大流量を通過可能なバルブを実現するため,空気圧アクチュエータを用いた簡便な内部構造を持つ2ポート型エアオペレートバルブを開発した.本バルブはシリコーンチューブを管路とし,圧縮空気により駆動されるベローズにより流路を閉じるピンチバルブであり,個体差はみられるものの,供給圧力が40 kPaのときにシリコーンチューブ単体と同等の有効断面積が得られたサンプルもみられた.
大林ら2)は,チューブの屈曲を利用した低コストサーボ弁の改良として,複動式シリンダの操作を1つの弁で実現できる4ポート型サーボ弁を提案・試作し,その有効性を空気圧シリンダの位置決め制御により確認した.多点位置決め制御の結果から,シリンダは定常状態で標準偏差0.8 mmの誤差で目標値に追従できており,試作弁の材料費は約4,000円と安価である.また,試作弁を搭載したリハビリテーション機器を提案・試作し,機器の操作や姿勢制御を行った結果,この試作弁は複動式アクチュエータの左右の複動運動が可能で,両圧力室の封鎖によるブレーキ動作が実現できるなどの機能を有し,軽量・コンパクトで安価な搭載型の弁が実現できたといえる.
2.2 アクチュエータ関連
小島ら3)は,高出力,高変位であるが疲労寿命が短いという欠点がある軸方向繊維強化型空気圧ゴム人工筋肉の長寿命化のために,ゴムの伸長結晶性の影響を確認した.ゴムの伸張結晶性の有無が寿命に及ぼす影響を収縮率0-20%と2.5-22.5%で比較し,伸張結晶性があるゴムでは収縮率2.5-22.5%の場合に大幅に長寿命化されることを確認している.伸張結晶性がないゴムでは変化がなかったことから,これは伸張結晶化により,亀裂先端に結晶層が形成され,亀裂の成長を抑制することによるものであると考えられる.
安藤ら4)は,空気圧ゴム人工筋肉の耐久性向上を目指し,負荷特性と繰り返し耐久性の調査をした結果, 金属リング付近から破損しており,カーボンファイバーが破断していることが確認できた.そこで,アラミド繊維を用いることにより 8倍以上の繰り返し耐久性を示しており,耐久性を向上することができた.また,修復可能な人工筋肉として 熱可塑性エラストマー(TPE) を用いた人工筋肉を作製し,負荷特性と繰り返し耐久性について試験を行った.その結果, TPE を用いた人工筋肉を作製することは可能であるが,繰り返し耐久性が著しく低いことが確認できた.
杉本ら5)は,長期間使用時のMcKibben 型空気圧アクチュエータ(MPA) の特性の変化を調べるために,MPA の引張り試験を行い,引張り回数に対して,MPA の発揮張力がどのように減少していくのかについて検証を行った.その結果,極大値,平均値については強い負の相関があることがわかった.また,極大値,極小値,平均値のすべてにおいて,同じ圧力で周波数が大きくなっても同じ時間での張力の変化にあまり差がないことが確認でき,MPA が発揮した力積が張力の変化に大きな影響を与えていることが示唆された.
小川ら6)は,変位量が測定可能な人工筋として,繊維の一部にエナメル線を使用したインダクタンス変化型のスマート人工筋を製紐機によって自動で製作する手法を提案した.人工筋の32本の繊維のうち8本をエナメル線に変更することで表面にコイルを形成している.偏角が30°の収縮駆動するスマート人工筋と70°の伸張駆動するスマート人工筋を製作しており,いずれの人工筋でもインダクタンスの変化からアクチュエータの変位が推定可能であることを確認した.
近年,リハビリや労働支援を目的とした装着型動作支援装置の研究が盛んであるが,空気圧アクチュエータ駆動の装置では空気圧源が装置のモバイル化の障壁となっており,携帯可能な空気圧源の開発は重要である.奥井ら7)は,複数の圧縮空気生成手法を組み合わせるハイブリッド空気圧源を提案しており,空気圧駆動装着型アシスト装置駆動のための600 NL程度の流量供給が可能な空気圧源を開発した.高圧空気圧源として液化二酸化炭素の気液相変化を,低圧空気圧源としてジメチルエーテルの相変化を用いており,センサで計測された供給圧力の値に応じて電磁2ポートバルブを開閉して制御している.
川上ら8)は,低コストで製造可能かつ術者の負担を減らすことを目的に,ソフトアクチュエータを用いた眼科手術支援デバイスを提案した.本デバイスは駆動部に側面が金属バネで拘束されたシリコンゴム製のソフトアクチュエータを採用しており,予め取得した平均刺突力を取り入れた制御によって豚眼球刺突実験での有用性を確認した.
高齢者の自立支援および歩行訓練効率の上昇のためには,靴と足との間の不必要な空間を埋めて個人の足に靴をフィットさせるシューフィッティングが必要であるが,職人の手によって行われ,一般的な技術として確立されていない.そこで前川ら9)は,効率的なシューフィッティング技術を開発するために,使用者にフィット感を与えるインソール形状を表現できる新しいゴムアクチュエータをジャミング転移減少を応用して製作した.このアクチュエータはゴム風船の中に粒子を入れて,ゴム風船の口にチューブを取り付けて密閉した構造になっており,形状変化特性と形状記憶維持特性を持っていることが実験により確認された.
朝野ら10)は,細径McKibben 型人工筋を使用した小児用前腕動力義手とその駆動システムの設計・製作を行った.外径2 mmの人工筋を3本束ねたものを1本の指に使用しており,指の長さや手掌部の寸法は子供の身体特性データベースと実測による縮尺から決定し,駆動システムには小型のコンプレッサとタンクを用いた.実験により,1.0Hz の連続駆動において圧力低下に問題がないことを確認し,開発した義手により物体の把持が可能であることを確認した .
八瀬ら11)は,空気圧ソフトアクチュエータと樹脂素材を組み合わせることによって,腹腔内圧の上昇による姿勢の安定化と,受動的な肩甲骨の内点動作の支援を行いつつ,脊柱への圧縮力発生を低減した装置を開発した.本装置は,McKibben型空気圧ゴム人工筋肉を身体背面の脊柱に沿うように配置し,計11個のPLA樹脂製の外郭で覆った構造をしており,総重量は1.1 kgと軽量である.装置を装着することで広背筋の活動を軽減しつつ姿勢の保持が可能であることが実験により確認された.
石橋ら12)は,低圧駆動型空気圧人工筋を用いて下肢運動をアシストするソフト型外骨格のスーツを開発し,サッカーにおけるキック動作を支援対象として評価を行った.本スーツは低圧域での出力特性が良い人工筋を用いているためスポーツなどの激しい動作中の使用に向いているという特徴がある.健常者を対象とした動作実験により,初心者ではキック速度の増加が認められた.
1) 井上 豊,佐々木大輔,高岩昌弘:空気圧駆動ウェアラブルデバイスのための2ポート型エアオペレートバルブの開発,ロボティクス・メカトロニクス講演会講演論文集,1P2-D13 (2018)
2) 大林秀幸,赤木徹也,堂田周治郎,藤本真作,小林亘,篠原隆,松井保子:屈曲チューブを用いた4ポート型低コストサーボ弁の試作と水道圧駆動ポータブルリハビリテーション機器への応用,p.28-30 秋季JFPS (2018)
3) 小島明寛,奥井学,辻知章,中村太郎:軸方向繊維強化型人工筋肉の耐久試験による伸張結晶化の長寿命化への影響確認,平成30年度秋季フルードパワーシステム講演会講演論文集,p.1-3 (2018)
4) 安藤真吾,戸森 央貴:空気圧ゴム人工筋肉の繰り返し耐久性向上に関する研究,ロボティクス・メカトロニクス講演会講演論文集,1P2-H10(2018)
5) 杉本靖博,花岡慧,吉田匠吾,中西大輔,浪花啓右,大須賀公一:繰り返し負荷によるMcKibben 型空気圧アクチュエータの特性変化に関する実験的解析,ロボティクス・メカトロニクス講演会講演論文集,2A2-I13(2018)
6) 小川草太,脇元修一,神田岳文,大村健人:インダクタンス変化による変位センサを一体化したスマート人工筋の製作手法,平成30年度秋季フルードパワーシステム講演会講演論文集,p.4-6(2018)
7) 奥井学,山田泰之,中村太郎:空気圧駆動ウェアラブルアシストシステムのためのハイブリッド型携帯空気圧減の開発,ロボティクス・メカトロニクス講演会講演論文集,2P1-H16(2018)
8) 川上知則,伊藤典彦,飯田 宏,菅野貴皓,宮嵜哲郎,川瀬利弘,川嶋健嗣:空気圧ソフトアクチュエータを用いた眼科手術支援デバイスの開発,平成30年度秋季フルードパワーシステム講演会講演論文集,p.79-81(2018)
9) 前川哲志,早川恭弘,櫟 弘:新型ゴムアクチュエータに関する基礎研究,平成30年度秋季フルードパワーシステム講演会講演論文集,p.73-75(2018)
10) 浅野皓洋,竹本薫生,谷口浩成,脇元修一,森永浩介,神田岳文:細径McKibben型人工筋を使用した小児用義手の設計,ロボティクス・メカトロニクス講演会講演論文集,2A2-H14(2018)
11) 八瀬快人,佐々木大輔:McKibben型空気圧ゴム人工筋の収縮・膨張を利用した脊柱型姿勢保持装置の開発,ロボティクス・メカトロニクス講演会講演論文集,1P2-C17(2018)
12) 石橋侑也,小川和徳,辻敏夫,栗田雄一:空気圧人工筋を用いたキック支援ソフトエグゾスケルトンスーツ,ロボティクス・メカトロニクス講演会講演論文集,2P2-G08(2018)
なかおみつひろ
中尾光博 君
2011年東京工業大学大学院博士後期課程修了.同年鹿児島大学助教,2015年同大学准教授,現在に至る.空気圧制御,流体の数値計算に関する研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会などの会員.博士(工学).
E-mail: nakao(at)mech.kagoshima-u.ac.jp