展 望

 

平成30年度の水圧分野研究活動の動向*

 

飯尾 昭一郎**

 

* 2019822原稿受付

** 信州大学工学部380-8553 長野県長野市若里4-17-1

 


1.はじめに

水圧分野については,その環境融和性の観点から福祉,海洋,鉱業,産業などにおいて,油圧・空気圧・電動と比較して導入に優位性がある領域への応用が継続的に検討されている.その一方で,作動流体の特性に起因する様々な課題解決に向けた研究も推進されている.ここでは,平成30年度に国内外で発表された水圧分野の研究の概要を述べる.

2.研究の動向

稲田ら1)2)は,水圧駆動による人工筋についてモデル化と変位予測制御についての検討結果を報告した.モウラら3)は,水圧シリンダーの駆動システムのモデル化と変位予測制御の検討結果について報告した.小川ら4)は,水と空気を作動流体とするバルーンアクチュエータを,外部配管を持たない移動ロボットの6脚に適用し,作動流体が水と空気の場合を比較したときの駆動特性の違いについて報告した4)

省エネルギー化に関する取り組みも報告されている.八木澤ら5)は,供給源からの供給流量が一定である水圧モータ回転速度制御系に対して,ポンプの供給圧を低減させることで高効率化を図る回路として,制御弁における絞り損失を低減する回路と,アキュムレータによりエネルギーを回収する回路を提案し,それらの省エネルギー効果を報告した.

要素研究として,榊原ら6)は,サーボ弁の耐久性向上を目的として,スプールとスリーブにセラミックを使用することにより摩耗抑制効果を発揮できることを報告した.また,Mingxing7)は,インジェクションシステムで使用する比例弁についてポペット形状の最適化によりスラスト軽減効果を示した.He8)は,リリーフ弁についてキャビテーション抑制による性能改善を目的とした弁の内部構造を検討し,理想的なバルブポート構造のキャビテーション抑制効果を示した.Ruilong9)は,ギアポンプのギアシャフトとジャーナルベアリング間の潤滑ギャップを分析するための数値モデルを報告した.Ernst10)は,斜板式ピストンポンプのシリンダブロックボア部に形成する微細表面構造がポンプ効率や耐久性に与える影響を示した.Fulbright11)は,変位可変リンク機構を有する水圧ポンプの動特性のモデルについての検証結果を報告した.

試験装置に関する研究として,Wang12)は,水圧用バルブのキャビテーションとエロージョンのフローパターンメカニズムを調べるための試験装置の構成等について報告した.

3.おわりに

 以上,本稿では平成30年度の水圧分野での取組みについて報告した.基礎から応用まで様々な視点からの取組みがおこなわれており,着実に新しい知見が獲得されている.今後も水圧関連技術の構築,応用が進み,普及することを期待したい.

 

参考文献

1)    稲田諒,伊藤和寿,小林亘:非対称Bouc-Wenモデルを用いた水道水圧駆動人工筋のモデル化と適応モデル予測変位制御への適用,フルードパワーシステム講演会講演論文集,p.38-40 (2018)

2)    稲田諒,石川浩平,伊藤和寿,小林亘:水道水圧駆動人工筋のヒステリシスモデルのモデル化と適応モデル予測変位制御,フルードパワーシステム講演会講演論文集,p.82-84 (2018)

3)    モウラ レナート,伊藤和寿:Hammersteinモデルを用いた水圧シリンダーシステムのモデル化と非線形モデル予測変位制御シミュレーション,フルードパワーシステム講演会講演論文集,p.41-43 (2018)

4)    小川草太,脇元修一,神田兵文:空圧・水圧駆動が可能なアクチュエータシステムによる柔軟脚機構の提案,ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集,2018(0), 2A2-H15 (2018)

5)    八木澤遼,伊藤和寿,PHAM Ngoc Pha,池尾茂:ポンプ供給圧低減による水圧モータシステムの高効率化,日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.49No.3, p.72-79 (2018)

6)    榊原光騎,柴田和志,鈴木駿也,芦澤怜史,大道武生:水圧サーボ弁の耐久性の向上(セラミックス材による摩耗の低減),ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集,2018(0), 2P1-B03 (2018)

7)    H. MingxingL. YinshuiW. Defa et al.: Numerical Analysis and Optimisation of the Flow Forces in a Water Hydraulic Proportional Cartridge Valve for Injection SystemIEEE ACCESSVol.6p.10392-10401 (2018)

8)    X. HeW. HaihangH. Mingyu et al.: Optimal Design and Experimental Research of the Anti-Cavitation Structure in the Water Hydraulic Relief Valve Journal of Pressure Vessel Technology-Trans. the ASMEVol.140No.5, 051601 (2018)

9)    D. Ruilong, C. Yinglong, Z. Hua: Numerical analysis of the lubricating gap between the gear shaft and the journal bearing in water hydraulic internal gear pumps, Proc. the Institution of Mechanical Engineers Part C- Journal of Mechanical Engineering ScienceVol.232No.12, p.2297-2314 (2018)

10)M. Ernst, M. Ivantysynova: Axial Piston Machine Cylinder Block Bore Surface Profile for High-Pressure Operating Conditions with Water as Working Fluid, 2018 Global Fluid Power Society PhD Symposium (GFPS), Samara, p. 1-7 (2018), https://doi: 10.1109/GFPS.2018.8472386.

11)N. J. Fulbright, J. D. Van de Ven: Dynamic Response of Pressure Compensated Variable Displacement Linkage Pump, Proceedings of Symposium on Fluid Power and Motion Control 2018FPMC2018-8825V001T01A011p.1-10 (2018)https://doi.org/10.1115/FPMC2018-8825

12)H. WangH. XuZ. ZhaoV. PooneethL. Jiao: Development of Visualized Water Hydraulic Experiment System for Studying the Bubble Flow Pattern Inside Valve, Proceedings of Symposium on Fluid Power and Motion Control 2018FPMC2018-8904V001T01A054 p.1-9 (2018)https://doi.org/10.1115/FPMC2018-8904

 

著者紹介

いいおしょういちろう

飯尾昭一郎 

2004年宮崎大学大学院博士課程修了.

同年信州大学工学部助手,2011年同大学准教授,現在に至る.水車をはじめとする流体機械,水圧システムに関する研究などに従事.日本フルードパワーシステム学会,ターボ機械協会,日本機械学会などの会員.博士(工学)

E-mail: shouiio(at)shinshu-u.ac.jp