解 説
技術開発賞受賞について*
Andreas Guender**,浦井隆宏***
* 2019年6月21日原稿受付
** Bosch Rexroth AG, Zum Eisengießer 1, 97816 Lohr am Main, Germany
*** ボッシュ・レックスロス株式会社,〒150-0002 東京都渋谷区渋谷3-6-7
この度は,「円筒型新油圧パワーユニット(CytroPac)」に関して,日本フルードパワーシステム学会・技術開発賞という栄えある賞をいただき,大変光栄に思っている.本開発技術は,インバータ制御される可変速ドライブの油圧ポンプを搭載した油圧ユニットであり,経済性に優れた油圧システムである.小型化にあたり,下記8つの特許技術(申請中を含む)を取り入れ,インダストリー4.0対応を目指したConnectivity技術を搭載したものである.
- Heat pipe cooling of Oil
- Heat pipe cooling of Motor
- Cold Plate with internal stainless steel tube to cool motor, oil and frequency converter
- Internal Motor Pump Group
- Degassing optimized tank design
- Compact design of the components
- Some Frequency Converter Functionalities
- Filter element design
以下にその概要を説明する.
堅牢設計の本油圧パワーユニットは,インバータ制御される可変速ドライブの油圧ポンプを搭載しており,応答性の高い,経済性に優れた油圧システムである.冷却機構は,ヒートパイプを用いて,極限まで小型化されている.搭載されているインバータコントローラは,搭載センサーの接続ポイントとなり,センサーデータは機械制御装置に直接通信できる.これにより,通常は必要となる接続キャビネットが不要となり,結線の手間を省くことができる.今日言われているインダストリー4.0コンセプトの製造ラインに組み込むのに必要な,コネクティビティが達成できる,超小型油圧ユニットである.関連するすべての稼働状態を常時モニタすることで,油圧システムの最適化,異常発生時の即時通知が可能となる.
以上の様に,本製品は必要な主要機能を全て搭載した,革新的設計の油圧ユニットである.タンクサイズは最適設計により小型化され,油圧作動油の高い消泡性も達成している.騒音源をハウジング内部に設置することで,低騒音化を達成しており,最大ノイズレベルは63dB(A)である.
表1に概要仕様,図1に外寸法を示す.
3.1 小型化,消泡性
タンクは,シミュレーション解析により,最大35L/min吐出流量のレベルに対し,わずか20Lのサイズのコンパクト化を達成した.フィルターは新設計によるカートリッジタイプを採用し,交換時の作業性向上と,交換時に作動油の汚染を防ぐことができるようにした(図2).
タンク内にリブ構造を採用し,戻り配管をらせん状にすることで,戻ってきた作動油が気泡で白濁するのを防ぐ対策を施した(図3).
3.2 冷却機構
円筒型の新設計ヒートパイプシステムにより,最大冷却能力2kWの冷却機構の小型化が達成された.冷却機構はタンク内に設置され,油圧作動油のもつ熱を,上部に設置された冷却プレートに伝えられ,冷却プレート内を流れる冷却水にて排熱される.
冷却プレートおよび冷却水配管は,シミュレーションにより熱交換を最大化できる小型設計を達成した(図4).
3.3 インダストリー4.0対応
本油圧ユニットは状態監視機能として,3つのバージョンがある.“Basic”仕様は,作動油量,油温,およびフィルタ清浄度センサのモニターに,各センサーと機械側制御装置に配線を行うことで,評価を行う.
”Advance”仕様は,内蔵するインバータコントローラがこれらセンサーの接続ポイントとなり,コネクター端子に各出力が接続されており,上位機械側制御装置に送られる.油圧ユニットの状態は,同時に目視油面計に内蔵されたLEDの点滅(色,点滅速度)にて確認することができる.
“Premium”仕様は,これらセンサー出力が,SercosやPROFINETなどのマルチイーサネットインターフェースで,機械側制御装置に出力される.容易に状態監視することが可能となり,インダストリー4.0システムに組み込むことができるようになる.LEDで目視で状態監視することができることは,Advance仕様と同じである.
以上のように,本油圧ユニットは,これまでにない小型化,省エネ化,静音性を達成した,インダストリー4.0対応可能となる状態監視機能を搭載した,最新の技術を盛り込んだ製品である.ヨーロッパ中心に,工作機械分野での採用が進んでおり,特に自動車向け製造ラインでの標準油圧ユニットになっていくものと考えられている.
Andreas Guender 君
Dipl.-Ing. (FH) Mechanical Engineering, University of Applied Sciences Wuerzburg-Schweinfurt in the year 2012; Started at Bosch Rexroth in 2012 as an engineer for hydraulic power units.
E-mail: Andreas.Guender@boschrexroth.de
うらいたかひろ
浦井隆宏 君
1987年東京工業大学大学院修士課程修了.同年日本ムーグ(株)入社.2001年横浜国立大学大学院社会人博士課程修了.2004年現ボッシュ・レックスロス(株)入社,現在に至る.油圧サーボシステムの研究・開発に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会などの会員.博士(工学).
E-mail: Takahiro.urai(at)boschrexroth.co.jp
表1 概要仕様
定格圧力 |
最大24MPa |
動力 |
最大4kW |
流量 |
最大35L/min |
タンクサイズ |
20L |
駆動 |
インバータコントロール I/O接続 |
状態監視 |
センサー内臓 |
冷却機構 |
ヒートパイプ |
タンク設計 |
消泡化機構 |
図1 外寸法
図2 フィルター
図3 タンク,消泡性設計
図4 冷却機構(ヒートパイプ及び冷却プレート)
図5 インダストリー4.0対応