随 想

 

JFPS名誉員を拝命して*

 

大内英俊**

 

* 2019621原稿受付

** 山梨大学,〒400-8511 山梨県甲府市武田4-3-11

 


1.はじめに

この度,JFPS名誉員を拝命した.身に余る光栄と感謝申し上げる.大学院修士のときにフルードパワーの世界に入って以来約40年,多くの諸先輩方,同僚,後輩,学生の皆様の助けを借りてここに至ることができた. 油圧サーボ要素の研究から始めて,サーボ弁を活用した流量計測,ポンプ騒音低減,油圧ポンプによる浮力エンジンへと発展し,空気圧シリンダの位置決め,圧電素子の流体分野への応用へと続いた.以下に概要を示したい.

2.運動量理論

 流体の流れの場の中に一つの閉曲面を検査面として考え,面上各点の流速が与えられると,面内の流体に働く力は運動量理論によって計算できる.数値解析による研究が進められているとはいえ,本理論は特に非定常問題において大きな役割を果たしている.このような場合,従来の文献では暗黙のうちに検査面は時間的に固定して計算されていた.本研究では,検査面は移動または変形することを前提として流体力を求める一般式を導いている(図1 1) ).

3.振動流量の計測

振動流量を計測する一つの方法として,ピストンとシリンダで構成される流量計に,流体の圧縮性の影響が無視できる程度にまでシリンダ内の圧力変動を十分小さく抑制する装置を付加し,ピストン速度から直接流量を得る方法を提案した.そのうえで,油圧回路における絞りの圧力差-流量間の周波数特性を500Hzまで実測した結果を示した(図2 2) ).

4.電わい素子PMNを用いた高速電気油圧サーボ弁

電気油圧サーボ弁の高速化のために,その電気機械変換部に圧電素子を採用して単純化,小形化が図られていたところ,PMNと称される電わい材料が開発された.圧電素子と同様,応答が速く力が強いうえに,電界-歪間の関係にヒステリシスがないという優れた性質をもっている.そこでこの材料でバイモルフ形の素子を製作し,ノズル-フラッパ弁を初段増幅部とする,バンド幅1kHz以上のサーボ弁を試作した(図3 3) ).

5.直動形油圧サーボ弁における静的状態量の測定

直動形油圧サーボ弁のスプールがPWM駆動されるとき,スプール支持ばねの特性がわかれば,静的条件下では駆動電流をもとにスプールに作用する流体軸力が実測できる.スプールの変位も利用すると,軸力補償がある場合は実験データを利用して,軸力補償がないと考えた流体軸力が推測できる.その流体力の値を介して,弁通過流量と負荷圧力が求められることを示した(図4 4) ).

6.可変容量形ピストンポンプの加振力補償による騒音低減

油圧用の可変容量形斜アキシアルピストンポンプにおいて,発生する加振力を内蔵の傾転角制御用ピストンを利用してアクティブに制御し,騒音を低減する方法を実験的に試みた.本補償法は,ポンプ騒音の周波数成分に音響レベルの卓越したピークがあり,それらの周波数が制御弁の公称限界周波数を超えていても,駆動可能周波数範囲内であれば,騒音低減に有効であることを示した(図5 5) ).

7.積層圧電素子の打撃力を利用した粒子選別

積層圧電素子は,電圧を急激に印加すると,接触している物体を弾き飛ばすような打撃力を発生する.この衝撃的な力を利用してピストンを駆動し,流体を噴出する方式のポンプを試作した.応用例として,色の異なる粒子を鉛直管路内で連続的に落下させ,これらをセンサで検出し,タイミングを計って噴出流体で選別する機器を構築し,その性能を示した(図6 6) ).

8.近接スイッチを利用した空気圧シリンダの繰返し位置決め

 自動化ラインにおける空気圧シリンダの使用を想定し,基本的に比較的小質量の同種の物品の同一位置への繰返し位置決めを簡便に行える方法を提案した.本手法は,ある最適な速度から急制動を開始すると,停止位置のばらつきが最小となるという実験結果に基づくものである.近接スイッチを目標位置とその手前に設置し,それらの信号を利用してON/OFF切換弁を二段階に操作する.実験により,実用的な精度が維持できることを示した(図7 7)

9.深海探査用水中グライダーの浮力エンジンの開発

 地球環境の変動を観測するために,深海の温度や塩分を長期的に探査する必要がある.本研究は,海中を沈降と浮上を繰返しながら滑走する,水中グライダーと呼ばれる機器において,浮力調整のための装置を開発することを目的としている.超小型の油圧アキシアルピストンポンプを用いて,耐圧容器外のブラダの油を出し入れして浮力を調整するものである(図8 8) ).

10.おわりに

この機会に自身の研究過程を振り返ってみた.未完成の部分も多々あり,反省している.なお,共同研究者のお名前は,参考文献の項に記載して感謝の意としたい.本学会のますますのご発展を祈念している.

参考文献

1)         池辺洋,大内英俊:運動量理論への寄与,油圧と空気圧,Vol.8, No.2, p.114-121 (1977)

2)         大内英俊,池辺洋:振動流量計測法の一提案,計測自動制御学会論文集,Vol.18, No.10, p.987-991 (1982)

3)         大内英俊,中野和夫,内野研二,野村昭一郎,遠藤弘:電わい素子PMNを用いた高速電気-油圧サーボ弁,油圧と空気圧,Vol.17, No.1, p.74-80 (1986)

4)         黄艶,大内英俊:直動油圧サーボ弁における静的状態量の測定,日本油空圧学会論文集,Vol.30, No.6, p.147-151 (1999)

5)         大内英俊,増田健二,長田佐:可変容量形ピストンポンプの加振力補償による騒音低減(補償効果の実験的検証),日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.33, No.3, p.76-81 (2002)

6)         Ohuchi, H., Ishii, T., and Muramatsu, S. : Particle Sorting Using a Jet Pump, Int. J. of Automation Technology, Vol.4, No.6, p.524-529  (2010)

7)         MUSTAFFA, M., T.,大内英俊:近接スイッチを利用した空気圧シリンダの繰返し位置決め(第1報,制動法の提案),日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.43, No.4, p.109-115 (2012)

8)         浅川賢一,渡健介,大内英俊:小型アキシャルピストンポンプを用いた水中グライダー用浮力エンジンの開発,日本船舶海洋工学会講演会講演論文集,No.17, 2013A-GS27-2, p.397-400  (2013)

著者紹介

おおうちひでとし

大内英俊 君

1978年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程満期退学.1979年同大学精密工学研究所助手.1984年山梨大学工学部助教授.2004年同大学工学部教授,2015年同定年退職.油圧制御,空気圧制御,圧電素子応用の研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会などの会員.工学博士.

E-mail: ohuchi.hdts(at)gmail.com

 

 

 

 

 

 

1 運動量理論における検査面の設定

 

 

2 振動流量の計測装置

 

 

3 電わい素子PMNを用いた高速サーボ弁

  

 

4 直動サーボ弁の静的状態量の測定

 

 

5 可変容量形ピストンポンプの加振力補償による騒音低減

 

   

6 積層形圧電素子を利用した噴射ポンプによる粒子選別

 

  

7 近接スイッチを利用した空気圧シリンダの繰返し位置決め

 

 

8 小形油圧ポンプを用いた浮力エンジンの開発