展 望
2019年度の学会誌のレビュー*
塚越秀行**
*2020年6月30稿受付
** 東京工業大学工学院システム制御系,〒152-8552 東京都目黒区大岡山2-12-1
2019年には,(一社)日本フルードパワーシステム学会誌「フルードパワーシステム」第50巻第1号〜第6号,および電子出版緑陰特集号第50巻第E1号を発行した.各号は,数件の記事からなる特集と,その他の多様な記事により構成されている.特集以外の記事としては,学会長および学会副会長の年頭挨拶,学会関連行事のニュース,会議報告,駐在員日記,トピックス(Youは日本をどう思う?学生さんへ,先輩が語る,など),研究室紹介,および学会企画行事の報告記事などである.以下では,各号の特集の概要について紹介する.
第50巻第1号 特集「油圧ポンプの関連技術動向」
油圧ポンプの概要および最近の研究開発事例や今後の技術動向について解説している.具体的には,油圧ポンプの素描について総論として説明された後,前半では,油圧ポンプの根幹技術:非エロ―ジョンノッチの開発,小型アキシアルピストンポンプの球面弁板の特長と活用事例,自動車に用いられるベーンポンプの開発,外接ギヤポンプの仕組みと低騒音化技術の変遷について紹介している.後半では,油圧ポンプの開発におけるCAEの適用事例,高剛性作動油の特徴と効果,なども説明している.
第50巻第2号 特集「ロボットに役立つフルードパワーの要素技術」
フルードパワーで駆動されるロボットに有効なアクチュエータ・弁・駆動源などの要素技術について特集している.具体的には,油圧駆動ロボットに役立つ油圧要素技術,振動駆動式マイクロ空気圧弁,ラバーレス人工筋肉,回生機構をもつ空気圧供給システム,クエン酸と炭酸水素ナトリウムの化学反応を利用した空気圧源,マイクロロボットに有効な機能性流体,などを紹介している.
第50巻第3号 特集「大学における水圧研究」
大学で展開されている水圧研究に関する最新情報を掲載している.具体的には,水圧技術の基礎研究に関する取り組み,水圧シリンダの特性,水圧用流量制御弁におけるキャビテーション現象,水圧用リリーフ弁・圧力制御弁・静圧軸受けに関する研究成果を紹介している.
第50巻第4号 特集「医療に関わるフルードパワー」
血液・リンパ・呼吸・尿・唾液など,生体に流れるさまざまな流体のメカニズムを医療的観点からとらえた現象や治療技術について特集している.まず,脳蘇生のための生理状態自動制御を紹介している.つぎに,睡眠時無呼吸症候群にみる流体力学とその治療方法,および繊毛による生体流れの駆動について説明している.さらに,リンパの流れに視点をおいた新しいリンパ学,計測融合血流解析の医療応用,人工心臓に関する情報を掲載している.
第50巻 第E1号 電子出版緑陰特集号
平成30年度のフルードパワー技術に関する展望として,油圧分野,空気圧分野,水圧分野および機能性流体分野の動向について解説している.また,小特集「日本フルードパワーシステム学会賞受賞者および研究委員会の紹介」として,学術論文賞,技術開発賞,SMC高田賞の各受賞者による解説,および技術功労賞,学術貢献賞の各受賞者ならびに名誉員による随想,および活動中の研究委員会およびフルードパワー特別研修会の活動報告を掲載している.
第50巻第5号 特集「フルードパワーを支える製造・加工技術」
フルードパワー機器を支えるモノづくりの基盤となる製造技術や加工技術に関する最新事情や適用事例を紹介している.具体的には,フルードパワー機器用部品のバリ取り・エッジ仕上げ技術,油空圧部品の洗浄事例と洗浄技術に関する最新情報,HVOF溶射法を用いた高耐食シリンダロッドの開発,電解加工と精密電解加工の特徴と加工事例,高圧ホースおよびホースアセンブリの製造技術,リリーフバルブ組立作業自動化技術の開発,などを解説している.
第50巻第6号 特集「高水圧を利用した世界」
機械加工や食品製造などの製造加工分野において,従来技術では解決困難だった課題に対し,高水圧の利用によりブレークスルーを実現した研究事例を特集している.具体的には,高静水圧下における硬脆材料の延性モード切削加工,食品用高圧処理装置,超高圧水による塑性加工を用いた拡管技術,食品製造のための高圧力(高静水圧)技術,微細層流ウォータージェットを用いたレーザー加工機,などに関する情報を紹介している.
2019年の学会誌のレビューを行った.学会誌編集委員会は,会員の皆様にフルードパワーに関する最新情報を提供するとともに,学会の広報活動としても役立ち,さらに楽しんで読んでいただけるような学会誌の発行を目指している.学会誌へのご意見,ご要望をお待ちしております.
塚越秀行 君
1998年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了.
同年日本学術振興会特別研究員,1999年東京工業大学助手,2004年同大学院助教授,准教授 現在に至る. 2001年〜2004年科学技術振興事業団さきがけ21研究員兼任.生物に学ぶ流体駆動原理・レスキューロボット・医療福祉用アクチュエータなどの研究に従事.2007年度文部科学省若手科学者賞, 2012年IEEE Robotics and Automation Best Service Robotics Paper Award, 2015年Journal of Robotics and Mechatronics Best Paper Award, などを受賞. 博士(工学).
E-mail: htsuka(at)cm.ctrl.titech.ac.jp