解 説

 

SMC高田賞について*

 

小島明寛**

 

* 2020619日原稿受付

** 中央大学研究開発機構112-8551東京都文京区春日1-13-27

 


1.はじめに

この度は,栄誉ある日本フルードパワーシステム学会SMC高田賞を賜り,誠に光栄である.受賞論文「天然ゴムの伸張結晶化を用いた軸方向繊維強化型空気圧人工筋肉の長寿命化」の共著者である中央大学中村太郎教授をはじめ,本研究にあたりお世話になった皆様に深く感謝いたします.本稿では,受賞対象論文の研究経緯と概要を紹介する.

2.研究の背景と目的

 当研究の発端は私が在籍している中央大学中村研究室で研究を行っているソフトアクチュエータ:軸方向繊維強化型人工筋肉1)にある.近年では人間親和性の高いアクチュエータとしてソフトアクチュエータの研究が盛んに行われている2).駆動原理などによりさまざまなタイプがあるが,その中でも軸方向繊維強化型空気圧人工筋肉は出力密度の高さや安定した動作などからもっとも実用的なソフトアクチュエータのひとつである.一方で,本人工筋肉はゴムの大変形を利用しているため,疲労寿命が短く実用化に向けた課題となっていた.

そのため,本研究では軸方向繊維強化型人工筋肉の長寿命化に取り組んでいる.

3.軸方向繊維強化型人工筋肉

1に軸方向繊維強化型人工筋肉の構成と収縮メカニズムを示す.本人工筋肉はゴムチューブを軸方向にひきそろえた補強繊維で覆い,さらにその上を外層ゴムで覆った構造となっている.このゴムチューブに空気圧を印加すると補強繊維の拘束により,半径方向にのみ膨張して軸方向には収縮する.本人工筋肉は最大で38 %程度収縮し,生体筋と同等の収縮率を持つ.また,内筒のかかる空気圧全体で収縮力に寄与するため,同径,同圧下のMcKibben型と比較して,初期長において3倍以上の出力が可能であることが,実験と理論の両面から確認されている(2 )3)

4.人工筋肉の長寿命化

4.1 高分子の破壊 

ゴム材料などの高分子材料が一定荷重を受けて破断に至る過程は,局所的な分子鎖の切断(亀裂の発生)から,亀裂の伸展,全体的な破断,であると考えられている4).この亀裂の発生や伸展を抑制することで長寿命化ができると考えた.亀裂伸展の抑制による長寿命化のイメージを図3に示す.

4.2 天然ゴムの伸張結晶化

本研究では亀裂の伸展を阻害する手法として,天然ゴムの伸張結晶化特性5)に着目した.本特性は,外部応力によりゴム分子鎖が伸張方向に配向して結晶化するというものである.実際に広角X線回折を用いて,伸張結晶層の形成を確認した.図4に天然ゴムの応力ひずみ曲線を図5に広角X線回折の測定結果を示す.測定結果から,天然ゴムの伸張結晶層の形成を確認することができた.結晶層の形成は可逆的であり,伸張過程ではひずみ4程度から形成されはじめ,収縮過程ではひずみ3程度まで維持されるが,それ以下になると消失する.

4.3 疲労寿命試験

 伸張結晶化による軸方向繊維強化型人工筋肉の長寿命化効果を確認するために疲労寿命試験を実施した.伸張結晶性のある天然ゴム(NR)と伸張結晶性のないスチレンブタジエンゴム(SBR)で作製した人工筋肉を用い,結晶性の有無による疲労寿命への影響確認を行った.試験はあらかじめ最低収縮率および最高収縮率となる圧力を測定し,その圧力を6秒周期で印加し,破壊するまでの伸縮回数を測定した.本試験では,結晶層を維持するために人工筋肉の空気圧排出時にも一定の圧力を保持している.本方式での動作(プレストレッチ方式)の概要を図6に示す.また,疲労寿命試験結果を図7に示す.図より通常の駆動では数千回程度であったNR製人工筋肉の疲労寿命がプレストレッチ駆動にすることで数十万回となり,約100倍の長寿命化を図ることができている.一方で伸張結晶性のないSBRではプレストレッチ駆動でも寿命の向上は見られなかった.これから,プレストレッチ駆動による人工筋肉の長寿命化効果はゴムの伸張結晶性によるものであると考える.

5.おわりに

 本稿では受賞論文について簡単に紹介した.今後は,現状では仮説となっているプレストレッチによる長寿命化メカニズムの解明と効率的なプレストレッチの検討を行う.また,印加した空気圧を保持する方法以外でのプレストレッチを与える方法について取り組んでいく.

参考文献

1)         Nakamura, T., Shinohara, H.,:Position and force control based on mechanical models of pneumatic artificial muscles reinforced by straight glass fibers, Proc. Of IEEE International Conference on Robotics and Automation ICRA, p.186-190(2007)

2)         則次俊郎,高雷:湾曲型空気圧ゴム人工筋肉を用いた腰部パワーアシスト装置の開発, 日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.36, No.6, p.143-151(2005)

3)      Tomori, H., Nakamura, T.,:Theoretical Comparison of McKibben-Type Artificial Muscle and Novel Straight-Fiber-Type Artificial Muscle, International Journal of Automation technology, Vol.5, No.4, p.544-550(2011)

4)         ゴム工業便覧,日本ゴム協会,p.149-151(1994)

5)         登坂雅聡:架橋ゴムの伸長結晶化,高分子論文集,Vol.71, No.11, p.493-500(2014)

著者紹介

小島こじま明寛あきひろ 君

2007年千葉大学工学部物質工学科卒業.2020年中央大学大学院理工学研究科博士課程後期課程修了.2017年より中央大学研究開発機構専任研究員.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会などの会員.博士(工学)

E-mail: a_kojima(at)bio.mech.chuo-u.ac.jp

 

 

    

 

 

 

1 軸方向繊維強化型人工筋肉

 

2 軸方向繊維強化型とMcKibben型の収縮力の比較

 

3 亀裂伸展阻害による長寿命化

 

 

4 天然ゴムの応力ひずみ曲線

 

 

5 広角X線測定結果

 

 

6 人工筋肉のプレストレッチ駆動

 

 

7 疲労寿命試験結果