解 説

 

油空圧機器技術振興財団論文顕彰について*

 

吉満俊拓**

 

* 2020722日原稿受付

**神奈川工科大学創造工学部ロボットメカトロニクス学科,〒243-0292神奈川県厚木市下荻野1030

 


1.はじめに

このたび,日本フルードパワーシステム学会からの選考で油空圧機器技術振興財団顕彰を受賞させていただき,大変光栄に思う.励みとなる賞をいただき,財団の方々をはじめ関係各位に厚く御礼を申し上げる.本稿では,受賞した「空気圧腱駆動機構を用いた人工指による材質認識システムに関する研究」1) の概要を紹介する.本論文は萩原千尋氏、大下功祐氏(現,兜x士ゼロックス)が在学時に行った実験結果を論文にまとめたものである.

2.背景と目的

 ヒトが物に触れたときに感じる金属のような冷たい触感や木材特有の温もり,綿のふわふわした感触といった触覚から感じ取る質感は脳の処理によって与えられる.ヒトが物に触れたときに脳内で感じる質感は個体差があるために,いくつの要素から感覚を得ているか解明することは困難である.しかし,生理学的に見た触覚受容器の種類から考えて,大別して「圧力」「振動」「温度」の3要素から複合的に判断していると言える.3因子で材質認識のシステムを構築することに成功している.本研究では質感の要素を質感因子と呼び,それぞれ「硬さ因子」「表面状態因子」「温度因子」と呼称している.

本研究では,歪ゲージと熱電対を用いて,表面状態,硬さ,温度を検出する関節を持つ人工指を製作し,空気圧アクチュエータを用いて能動的な触知覚動作を導入することによりヒトに近い触覚感性機能を持つ空気圧式人工指を開発した(図1).また,これらによって質感因子をヒトから得られる評価と同等にするため,ヒトの脳内における神経細胞の結線構造を模擬したニューラルネットワークの最適化を行いヒトと同等の材質の判別を行える材質認識システムを構築するものである.

3.研究概要

ヒトのような触覚感性を持つ認識システムを構築するには,ヒトの脳内で起こる感性を定量的な値で抽出して,後のニューラルネットワークでの教師データとして利用する必要がある.また,能動的な触知覚動作を人工指へ導入するためにもヒトの触覚感性データは必要である.ヒトの感性情報を抽出するための心理評定法は,いくつか提案されているが,今回マグニチュード推定法をベースに用いた.回使用する20種類の試料のなかで質感が近しいものと思われる試料を1種に分類した.具体的には「銅,アルミニウム」,「アクリル,アクリル(傷)」,「杉,檜,オイルレザー」「ゴム,硬質ゴム」「発泡スチロール,段ボール,グローブ革」であり,本研究で行う材質認識の精度もこの13種類を判別できることを目標とする.硬さ因子と表面状態因子の散布図で表したものを図2にしめす.

本研究では関節の曲げを利用した能動的な触知覚動作を提案した.具体的には,押さえつけ動作時に得られた硬さ,温度因子を利用して,なぞり動作時の試料に対しての押さえつけ力を調節するというものである.また,このときの押さえつけ力の決定には,ニューラルネットワークを導入した.

本研究で提案した測定を20種類の試料に対してそれぞれ3回行った.各質感因子の測定結果をヒトの触覚感性データと受動的な触知覚動作による各質感因子を並べて図345にしめす.図より,特に受動的な触知覚動作の際に問題であった表面状態因子データが改善されていることがわかり,これより能動的な触知覚動作の人工指への導入が材質認識システムにとって有益であることがわかる.

4.おわりに

 能動的な触知覚動作は,ヒトの感覚情報,運動指令を用いて行っている過程を模擬して動作の構築した.これによって,受動的な触知覚動作では解決できないヒトの質感因子との違いが発生してしまう問題を解決することができた.またリアルタイムな認識システムも構築した.本システムをFPGAやマイコン等に移植することで独立した材質認識システムを構築することも可能であり,活動電位変換,ニューラルネットワークを独立したチップに集約して同期させることで処理時間を短縮することも可能と考える.上記の課題解決に向けてさらに研究を進めたい.

参考文献

1)         吉満俊拓,大下功祐,萩原千尋,小山 紀 空気圧腱駆動機構を用いた人工指による材質認識システムに関する研究,日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.49No.3p.80-88 (2018)

 

著者紹介

吉満俊拓

吉満よしみつ俊拓としひろ 君

2000年明治大学大学院博士後期課程修了
同年神奈川工科大学工学部助手.現在は准教授.空気圧制御システムの研究に従事,日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会,計測自動制御学会などの会員.博士(工学).

E-mail: yosimitu(at)rm.kanagawa-it.ac.jp

 

1 Outline of recognition system

 

2 Scatter diagram for hardness factor and surface factor

 

3 Performance evaluation of the hardness factor

 

4  Performance evaluation of the surface factor

5  Performance evaluation of the temperature factor