資 料

 

機能性流体フルードパワーシステムに関する研究委員会*

 

中野政身**

 

* 202064日原稿受付

** 東北大学未来科学技術共同研究センター

980-8577宮城県仙台市青葉区片平2-1-1 東北大学産学連携先端材料研究開発センター内

 


1.本研究委員会の概要

ER(Electro-Rheological)流体,液晶,EHD(Electro-Hydro-Dynamic)流体・ECF(Electro-Conjugate-Fluids) MR(Magneto-Rheological)流体,磁性流体及び機能性ソフトマテリアルなどは,電場や磁場などの外場に反応して流体の物理化学的性質が変化する機能性流体である.これまで,これらの機能性流体を活用した様々な特徴的なデバィス・システムが提案・実証あるいは実用化されてきている.フルードパワーの分野でも,機能性流体を活用したフルードパワーシステムが種々提案され,振動制御やロボティクスの分野等において実用化の事例も見受けられようになってきている.このような機能性流体を活用したフルードパワーシステムは,機器の高性能化,小型化,高機能化,省エネルギー,クリーン化(対環境性),低振動・騒音化,高い信頼性や安全性の確保など,機能性流体の機能・特長を活かすことによってフルードパワー技術のブレークスルーを牽引するポテンシャルを有している.本研究委員会(委員長:中野政身,幹事:吉田和弘,副幹事:竹村研治郎,柿沼康弘,委員29名)は,機能性流体フルードパワーシステムの構築と更なる実用化を図ることを目的に,20184月に設置されました.その後,以下の調査研究項目に関して,研究テーマの設定と実施,及び研究成果発表を行なうなどして,2年目の活動を展開してきたところである.

(1) 新規機能性流体の創製・評価と高機能化,(2) 機能性流体を活用したバルブ,クラッチ,ブレーキ,ダンパー,アクチュエータ,ポンプ,センサなどの機能性流体要素テクノロジーの研究開発と実用化,(3) 機能性流体フルードパワーシステムの構築と実用化.

2.2019年度の研究活動

 2019年度は本研究委員会の2年目であり,第5回〜第6回の2回の研究委員会を開催して,委員からの話題提供などを実施して調査研究活動を展開して来ている.以下に,各回の研究委員会で講演があった研究成果のテーマとその概要等を列挙して研究活動の報告とする.なお,年4回の研究委員会開催を目論んで,2020227()2020317()の両日に開催企画をしていたが,新型コロナウイルス感染症拡大のために開催を延期としている.

2.1 第5回研究委員会(2019730(),於:CIC東京,15名出席)

(1) フレキシブルERマイクロバルブとその応用(東京工業大学:吉田和弘 幹事

 柔軟材料と強化材料を用いたハイブリッド構造のフレキシブルERマイクロバルブ(FERV)とそれを応用したソフトマイクロアクチュエータが紹介された.まず,柔軟な屈曲と圧力による流路の膨張の抑制を同時に実現するため,UV硬化性の導電性高分子PEDOT:PSSおよびPDMS(シリコーンゴム)による柔軟構造と,フォトレジストSU-8による強化構造を用いたFERVが提案され,FEM解析によりその有効性が示された.また,従来に比べシンプルなMEMSプロセスが開発され,試作に成功した流路長さ5 mmFERVは屈曲状態でも真直状態とほぼ同等の静特性が得られることなどが示された.次に,FERVを集積したPDMS製液圧室2個を並列に配置した1自由度屈曲アクチュエータ2個を90°回転し直列に接続した2自由度アクチュエータが提案され,設計,試作された1自由度ソフトアクチュエータ部の空気圧駆動実験結果,およびFEM解析に基づく2自由度アクチュエータの屈曲特性が示された.講演後,活発な質疑応答が行われた.

(2) 変位依存型可変減衰オイルダンパーの開発と免震建物への適用(清水建設梶F福喜多輝 委員)

 まず,地震の震源地の分布などの基本情報が概観され,建物を地震に対して強くする耐震,揺れを伝えにくくする免震,揺れを吸収する制震について説明された.免震構造とは,基礎(下部構造)と上部構造を分け振動の伝播を抑えるもので,分割部位により基礎免震,中間層免震があると説明され,免震建物の事例が紹介された.次に,振動変位が大きいときは減衰力を大きくして上部構造の振動変位を抑え,振動変位が小さいときは減衰力を小さくして上部構造の加速度を抑える,変位依存型可変減衰オイルダンパーが紹介された.これはオイルダンパーのピストンの連通管路に直径が軸方向両端で大きいロッドを挿入しシリンダに固定した構造で,振幅変位が大きいとき連通管路断面積が小さくなり減衰力を増すもので,免震層に入れて使用する.変位に対する荷重の特性は,従来のオイルダンパーでは楕円のような軌跡となるのに対し,本ダンパーでは変位が小さいとき荷重が小さく切り替えられる特性となることが説明された.最後に,本ダンパーを建物に応用した事例が紹介された.講演後,参加委員より様々な質問があり,活発な議論が行われた.

(3) Innovative applications of MR technology on vehicle suspension system東北大学:Sun Shuaishuai委員

 高速鉄道において,振動低減および安定性向上のために,横方向の振動と臨界速度が重要であることが指摘され,15自由度モデルにより各パラメータと臨界速度の関係が検討された.まず,新しい横方向振動減衰技術について説明された.MRFダンパーを用いてスカイフック制御を行った結果,臨界速度は324 km/hとなり,MRFダンパーなしの場合の276 km/hに比べ向上することが示された.また,共振周波数を上げるためのMRF技術を応用した剛性制御について紹介された.MREMRエラストマー)を用い振動を遮断するアイソレータが紹介された.次に,横方向剛性能動制御サスペンションのためのゴム継手の研究事例について紹介された.MREを用いたゴム継手,MRFダンパーとゴムを組み合わせた継手,およびSTFShear Thickening Fluid)を用いたゴム継手が示され,数値シミュレーションの結果,MRFダンパーとゴムを組み合わせた継手はMREを用いたゴム継手に比べ剛性変化が大きいこと,STFを用いたゴム継手は降伏応力が低いことなどが示された.講演後,参加委員より様々な質問があり,活発な議論が行われた.

2.2 第6回研究委員会(20191121(),於:富山国際会議場,24名出席)

 2019年秋季フルードパワーシステム講演会1)において,本研究委員会としてOS「機能性流体フルードパワーシステムの創成展開」(オーガナイザー:中野政身(東北大学),西田均(富山高専))を企画し,本OSを第6回研究委員会とした.本研究委員会のメンバーを中心に,一般講演10件の発表があり,参加者が約45名で,活発な質疑応答のもと大変盛会であった.

参考文献

1)         2019年秋季フルードパワーシステム講演会講演論文集, p.65-95, (2019.11.20-22)

 

著者紹介

中野なかの政身まさみ 君

1982年早稲田大学大学院機械工学専攻博士後期課程修了.1981年早稲田大学助手,1982年山形大学助手,助教授を経て,1997年同教授,2008年東北大学教授流体科学研究所,2018年同教授未来科学技術共同研究センター,現在に至る.機能性流体,流体関連振動・騒音,振動制御などに関わるスマート流体制御システム工学に従事.日本フルードパワーシステム学会(理事),日本機械学会,自動車技術会などの会員.日本機械学会フェロー,JABEEフェロー.

E-mail: masami.nakano.b2(at)tohoku.ac.jp

URL: http://www.masc.tohoku.ac.jp/projects/index.html