展 望

 

2020年度の学会誌のレビュー*

 

柳田 秀記**

 

* 202163日原稿受付

**豊橋技術科学大学機械工学系,〒441-8580愛知県豊橋市天伯町雲雀ヶ丘1-1

 


1.はじめに

記事のタイトルには他の展望記事と同様に「年度」と記されているが,例年「年内」に発行された学会誌の特集内容がレビューされている.タイトルと内容の不一致が気になる性分のため,本記事では2020年内に発行された会誌(全7号,例年のレビュー対象)に加えて2021年に発行された会誌(1月号,3月号)について特集内容の概要を紹介する.会誌「フルードパワーシステム」では毎号(緑陰特集号除く)の特集記事の他,会長・副会長の年頭挨拶,会議報告,研究室紹介,トピックス記事(「Youは日本をどう思う?」,「学生さんへ,先輩が語る」,「駐在員日記」),学会企画行事などが掲載されている.トピックス記事は学校や研究機関に籍を置く人や学生さんの記事もあるが,多くは賛助会員企業の社員さんに執筆していただいている.

2.学会誌特集のレビュー

(次の二つは2019年度発行)

51巻第1号(20201月号) 特集「創立50周年記念企画フルードパワーエキスパートからみる将来への提言

 2020年は,当学会が19703月に日本油空圧協会として発足してからちょうど50年に当たり,それを記念して本特集号が企画された.油圧,空気圧,水圧,機能性流体の各分野の第一線で活躍された(されている)研究者・技術者の方々(前・元会長含む)や元副会長から,研究・技術開発・学会活動等の回想と将来展望・期待について語られている.

 

51巻第2号(20203月号) 特集「創立50周年記念企画フルードパワーユーザーからみる将来への期待

 50周年記念の第2号として,フルードパワーユーザーの立場からフルードパワーへの期待が語られている.MR流体を用いた建物の振動制御装置,鉄道車両の車体支持装置や車体傾斜制御装置に用いられている空気圧システム,ペットボトル圧縮梱包機に利用された油圧システム,建機の油圧システムとロボット化,人工透析装置用液圧ポンプ,海洋開発で利用されるフルードパワー技術についての紹介とそれらシステムの課題と期待が記されている.

 

(以下は2020年度発行)

51巻第3号(20205月号) 特集「ターボ機械最前線」

 フルードパワーの技術者・研究者が身近に感じていながら普段はあまり対象とすることがない各種ターボ機械について特集した.具体的には,トルクコンバータ,補助人工心臓用ターボポンプ,プラズマとライダーを用いた大型風車,ターボ分子ポンプ,ターボ機械内の高精度流れ解析技術,小型ターボジェットエンジンについて,構造,動作原理,最新技術動向,課題が解説されている.

 

51巻第4号(20207月号) 特集「フルードパワーのクリーン化技術最前線」

 半導体・液晶パネル製造,医療機器・食品製造分野等におけるフルードパワー機器に関わる各種クリーン化要素・システム技術を取り上げ,その最新技術を特集した.具体的には,ミニマルファブ(ハーフインチウェーハを用いた小型半導体・MEMS製造装置),半導体デバイス・液晶パネル製造用レジストポンプ,磁性流体を用いた真空装置技術,真空装置に必要な漏れ試験技術,プラズマ流による殺菌・ウイルス不活性化,抗菌・除菌フィルタの要素・評価技術について解説されている.

 

51巻第E1号(20208月号) 電子出版緑陰特集号

 2019年度に行われたフルードパワーの各分野(油圧,空気圧,水圧,機能性流体)の研究活動の動向が解説されている.小特集「日本フルードパワーシステム学会賞受賞者および研究委員会の紹介」として,学術論文賞,SMC 高田賞の各受賞者による解説,学術貢献賞,油空圧機器技術振興財団論文顕彰の各受賞者ならびに名誉員による随想あるいは解説,および活動中の研究委員会の活動報告を掲載している.

 

51巻第5号(20209月号) 特集「フルードパワーの最新解析技術動向」

 モデルベース開発(MBD)やデジタルトランスフォーメーションが注目されている背景を踏まえ,フルードパワーシステムに使用される装置・要素の最新解析技術を特集した.具体的には,斜軸式油圧モータの挙動計測と混合潤滑解析,油圧機器のキャビテーション流れ解析,流体機械へのモデルベース開発手法の適用とケーススタディ,モデルベース開発のためのパラメトリックCAE活用法,ベーンポンプの流れ解析,CFDによる調節弁でのエロージョン解析について解説されている.

 

51巻第6号(202011月号) 特集「トータルシステムの効率向上」

 フルードパワーシステムのトータルの効率向上方法として,機器・要素の効率向上とシステムの制御・使い方での効率向上に関する最新の話題を特集した.建設機械におけるロードセンシングシステム,油圧ショベル用省エネ油圧システム(3ポンプシステム),電空ハイブリッド超精密鉛直位置決めステージの制御,転がり軸受の低トルク化技術,自動車用トランスミッションにおける効率向上システム,空気圧システムのエネルギー消費の評価,鉄道車両用真空式トイレの省エネルギーについて解説されている.

 

52巻第1号(20211月号) 特集「自然災害に関わる流体現象とフルードパワー」

 世界各地で自然災害が発生していることを背景に,自然災害に関わる流体現象,災害のメカニズム,フルードパワーによる防災技術について特集した.風速を測ることと風災害への対処,海象現象の予測,令和元年東日本台風にともなう千曲川水害,地震による液状化現象,最近の高波・高潮による港湾施設の被害状況について解説されている.

 

52巻第2号(20213月号) 特集「持続可能社会とフルードパワー」

 再生可能エネルギーやエネルギーの有効利用技術など持続可能社会のためのフルードパワー技術の最新情報を特集した.具体的には,風力が望むフルードパワー,波力発電を支えるフルードパワー技術,五島の奈留瀬戸における浮沈式潮流発電システムの研究開発,上水道施設を使用した水力発電,超臨界水を利用した地熱発電技術について解説されている.

3.おわりに

学会誌「フルードパワーシステム」では,フルードパワーおよびその周辺技術や科学等に関する基礎や最新情報の提供を行っている.学会誌の発行周期に合わせて隔月で編集委員会を開催し,特集内容やトピックス記事等について検討している.冊子とは別に,昨年までは1年分まとめて学会誌のpdfを学会ホームページの「会員のページ」に掲載していたが,20211月号から発行の都度会員のページで閲覧できるようにした.各記事の図や写真がカラーで閲覧できるので,こちらも是非ご活用頂きたい.

最後に,学会誌に記事をご執筆いただいた著者の皆様に厚く御礼を申し上げる.学会誌へのご意見・ご提案をお知らせいただけると幸いである.

 

 

著者紹介

柳田秀記

柳田やなだ秀記ひでき 君

1982年豊橋技術科学大学大学院工学研究科修士課程修了.同年同大学教務職員,1992年同助教授,2012年同教授,現在に至る.電気流体力学現象,水圧シリンダ,油圧ポンプなどの研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会などの会員.工学博士.

E-mailyanada(at)me.tut.ac.jp