展 望

2020年度の油圧分野の研究活動の動向*

 

桜井 康雄**

 

* 2021614日原稿受付

**足利大学工学部,〒326-8558栃木県足利市大前町268-1

 

1.はじめに

本稿では,2020年度の油圧分野における国内の研究動向について,20204月から20213月の間に刊行された国内の学術誌「日本フルードパワーシステム学会論文集」,「秋季フルードパワーシステム講演会講演論文集」,「日本機械学会論文集」を調べ報告する.

2.研究内容概要

2.1 日本フルードパワーシステム学会論文集

 2020年度の標記論文集には5編の論文が掲載されており,油圧関連の論文は1編であった.大島1)は磁気粘性流体(MR流体)の流動特性を考慮した矩形波パルスを用いた制御法を提案し,MR流体バルブによる油圧アクチュエータの速度と推力の同時制御を試みた結果を報告している.制御周期が0.025s以上であれば,この研究で提案された手法で油圧アクチュエータの速度と出力圧力の同時制御が可能であると考えられるとのことである.図1(a)MR流体バルブを,(b)にこの研究で提案された実験回路を示す.この実験回路は一次側にポンプにより加圧する作動油,制御部となる二次側にMR流体を使用している.一次側と二次側は圧力変換用のシリンダにより動力の伝達が行われている.これにより,MR流体の粒子がポンプにダメージを与えるという問題を回避している.

 

2.2 2020年秋季フルードパワーシステム講演会講演論文集

 2020年度はコロナ禍のため春季フルードパワーシステム講演会は中止された.秋季フルードパワーシステム講演会は岡山理科大学を会場として通常の参加型とオンライン型の併用で2020128(), 9()に実施された.ここでは,32件の講演が行われており,水圧関連の研究3件を含めると,32件中11件が液圧に関する研究である.武田2)は慣性力を利用したデジタル油圧制御回路を試作し,負荷絞りの内径がある値以下であればデューティ比に対して負荷用アキュムレータ圧が線形的に制御できることを実験により明らかにしている.市3)は自動変速機のバルブボックスの油圧インピーダンスの計測技術を開発することを目的とし,図2に示した流量加振技術と非定常流量計測技術を組み合わせた装置を用い,負荷絞り弁のより正確なインピーダンス測定が行えることを示した.廣瀬4)は汎用数値流体解析ソフトウェアSimerics MP+の有効性を検討するために, ポペット弁体表面上の圧力分布のシミュレーションを,Simerics MP+ではポペットの変位を固定および可動させた場合,ANSYS-CFXではポペットを固定した場合で行い,それらの結果を比較した.その一例を図3に示す.これらのシミュレーション結果の比較により,Simerics MP+は十分な計算精度と移動境界への適応性を有することを明らかとした.近澤5)は油圧アームの低粘性化制御に対し,制御対象が厳密に線形かつ低次であることを駆使して油圧アームの低粘性化制御の性能を向上させる手法を提案し,その有効性をシミュレーションにより検証した結果を報告している.

新井6)は,対称性を有する油圧アームのインピーダンス制御系に対して保存量に着目した効率な検証方法を提案し,その有効性を検討した結果を報告している.加藤7)は,安全性,費用,環境の点で問題のある油圧アームの実機を用いた実験に代わる手法として,油圧シリンダの代わりにDC サーボモータを用いた油圧アーム制御のための模型実験法を提案し,シミュレーションにより非線形応答が再現できることを確認し,その手法の有効性を示した.田中8)は,気泡を含む油を容器内に閉じ込め加圧と減圧を繰り返す場合の油の体積変化率と圧力変化を図4に示した実験装置により測定した.その結果,体積変化率と圧力変化の関係は,初回の圧縮の途中で剛性が変化する特長的な現象と加圧・減圧で異なる挙動(図5)を示すことを明らかにした.古谷9)は斜板式アキシアルピストンのポンプピストンおよびスリッパの吐出し区間から吸込み区間の全周にわたる回転運動を低速と高速回転の無負荷状態および高速回転の加圧条件の下で画像処理により非接触計測した結果を報告している.鶴原10)は水道水圧駆動人工筋に適応モデルマッチングを用いたサーボ機構付きモデル予測制御を適用した結果,提案された手法は負荷や周波数変化に対してロバストであることが明らかとなったこと,0.3Hzの目標軌道に対しては定常状態で72%性能が改善されたことを報告している.森山11)は人工筋のセンサレス変位制御への拡張を目的とし,非対称Bouc-Wen モデルに無限インパルス応答の構造を組み込んだモデルを用いて変位推定を行う手法を提案し,その精度を検証した結果を報告している.岡崎12)は水圧シリンダのシール締め代が耐久性と摩擦特性に及ぼす影響を実験的に検討した結果を報告している.

 

2.3日本機械学会論文集

 中川13)は油圧システムから生じる騒音が問題となることが予想される建設用および農業用車両の静粛性に貢献するため,これら車両に装備されている油圧式変速機の進化論的計算法の遺伝的アルゴリズムを用いた最適設計プロセスを提案し,その有効性を示した.丹野14) 植込みボルト,通しボルト,両ナットボルトを適用した締結体の残留軸力を初期軸力で除算した有効軸力係数を推定するための式群および解析手法と有効軸力係数の向上策を示した.

.おわりに

 本稿では2020年度に国内で発表された油圧関連の研究を概観した.本稿が何らかの参考になれば幸いである.

参考文献

以下,日本フルードパワーシステム学会論文集 Vol.51

1)    大島信生, 福田真也, 清水悠平:矩形パルス波制御による磁気粘性流体バルブによる油圧アクチュエータの速度と推力の同時制御,No.232-38.

以下,2020年秋季フルードパワーシステム講演会講演論文集

2)    武田侑己,安藤大我,眞田一志,名倉 忍:慣性配管を利用したデジタル油圧回路の基本特性の実験について,41-43.

3)    市川玄,千葉崇宏,藤田昌孝,眞田一志:絞り弁への油圧インピーダンス計測手法の適用について,44-46

4)    廣瀬直紀,清水文雄,許宗T:ポペット弁の内部流れ解析,47-49

5)    近澤健太,宇佐美太一,小原匡揮,酒井悟:油圧アームの低粘性化制御の性能向上,51-54.

6)    新井遼,酒井悟:対称性を有する油圧アームの保存量に基づくインピーダンス制御系の検証法,54-56.

7)    加藤輝雄,新井遼,澤田康平,酒井悟:油圧アーム制御のためのDCサーボモータを用いた模型実験法について,57-59.

8)    田中豊,岸優介,駒屋耕大,坂間清子:気泡を含む油の加圧減圧過程における挙動,60-62.

9)    古谷拓実,芳賀俊希,風間俊治:ピストンポンプのピストンとスリッパの回転運動の可視化計測(1行程の挙動観察),87-89.

10) 鶴原理司,稲田諒,伊藤和寿:適応モデルマッチングを用いた逆最適化による水道水圧駆動人工筋のモデル予測変位制御,7-9.

11) 森山開,伊藤和寿:IIR 構造を用いた非対称Bouc-Wen モデルによる水道水圧駆動人工筋の変位推定,10-12.

12) 岡ア和満,川崎敦也,藤井秀峰,横山博史,柳田秀記:シール締め代が水圧シリンダの耐久性と摩擦特性に及ぼす影響,69-71.

以下,日本機械学会論文集 Vol.86

13) 中川修一, 池上聡一郎, 深田和範, 大内田剛史:帰納的アプローチによる油圧式変速機の最適設計プロセス,No.8901-16.

14) 丹野洋平:油圧テンショナを用いた各種ボルト締結体の軸力推定手法,No.8861-12.

 

著者紹介

桜井康雄

桜井さくらい康雄やすお 君

1986年上智大学大学院博士前期課程修了.富士重工業(株),上智大学助手等を経て2000年足利工業大学講師,2001年同大学助教授,2007年同大准教授,2009年同大教授,2018年足利大学教授,現在に至る.油空圧システムの動特性解析,ECFを用いたシステムの開発に従事.日本フルードパワーシステム学会・日本機械学会の会員.博士(工学)

E-mailysakurai(at)ashitech.ac.jp URL: http://www2.ashitech.ac.jp/mech/sakurai/

 


 

 

図1 MR流体バルブと実験回路 (a)MR流体バルブ
(a)MR流体バルブ
図1 MR流体バルブと実験回路 (b)実験回路
(b)実験回路

図1 MR流体バルブと実験回路1)

 

図2 油圧インピーダンス計測用実験装置
図2 油圧インピーダンス計測用実験装置3)
 
図3 シミュレーション結果の比較の一例
図3 シミュレーション結果の比較の一例4)

 

図4 油圧操作器を用いたガス遮断器の構成
図4 油圧操作器を用いたガス遮断器の構成8)
 
図5 加圧過程と減圧過程の体積変化率に対する圧力変化
図5 加圧過程と減圧過程の体積変化率に対する圧力変化8)