このたび,日本フルードパワーシステム学会の推薦により油空圧機器振興財団論文顕彰をいただきましたこと,大変光栄に思う.関係者各位に心よりお礼申し上げる.今回受賞の対象となった研究は,著者が関西大学着任時に新たに立ち上げた研究テーマの一つである.その成果がこのような評価を受けることになり非常に感慨深いものがある.本稿では,受賞論文である「微粒子励振型流量制御弁におけるねじり振動を利用した駆動原理の有効性評価」1)の内容について紹介する.
著者らは空気圧機器用の小型サーボ弁への応用を目指し,微粒子励振型流量制御弁2)の開発を行っている.この制御弁は,オリフィス板を圧電素子で励振させ,弁体として働く微粒子を動かし,弁開度を変化させる構造となっている.この制御弁は小型での大流量制御が可能2),高い応答性3)などの特徴を持つ.過去には,この駆動原理を用いた試作機において,印加電圧に比例した流量調整の実現4),シリンダの速度制御5)を行ってきた.受賞論文では,この制御弁の消費電力の低減を目指した新たな駆動原理を提案し,実験によりその有効性を明らかにした.
まず基本的な微粒子励振型流量制御弁の駆動原理を説明する.図1に制御弁の駆動原理図を示す.この流量制御弁はオリフィス板,微粒子とオリフィス板を振動させる圧電素子から構成されている.オリフィス板には複数のオリフィスがあり,制御弁内部に空気が供給されると,図1(a)のように,微粒子がオリフィス開口部に押し付けられる.圧電素子によりオリフィス板を振動させ,微粒子に外力を加えることで,図1(b)のように,オリフィスが開き流量が変化する.圧電素子への印加電圧によりオリフィス板の振動振幅を変化させることで,オリフィスの開口数を調整し流量を連続的に制御することが可能である.この動作原理では弁体となる微粒子の位置決め用の機構が不要で制御弁の小型化が可能となる.また,圧電素子を駆動源としているので応答性も高い.近年ではこの駆動方式による油圧制御機器の研究も進められている6).一方で過去の研究では,オリフィスの開口に必要な電力が大きいという問題点があった.そこで消費電力の低減を目指し,ねじり振動を用いた新たな駆動原理を提案した.図2にオリフィス上の微粒子にかかる力のつり合いを示す.微粒子は空気圧によりオリフィス板に押し付けられている.この制御弁では圧電素子によるオリフィス板の振動により,微粒子に外力を加えるているが,過去の研究では,オリフィス板の振動方向が空気圧による押し付け力と対向していた.その結果,オリフィス開口には空気圧による押し付け力よりも大きな力が必要であった.一方で,空気圧と対向する方向の力を利用することができれば空気圧による押し付け力よりも小さな力でオリフィスを開口できると想定される.そこで,本制御弁の消費電力の低減には空気圧と対向する振動を利用し,図2に示すように微粒子にかかる力の向きを調節する方法が有効であると考えられた.受賞論文では,圧電振動子によるねじり振動を用いることで,オリフィス板を円周方向に振動させ,微粒子に空気圧による押し付け力と垂直な方向の力を加える新たな駆動原理を提案した.この駆動原理の有効性を試作機を用いた実験により確認した.
駆動原理の有効性確認のために製作した試作機の断面図を図3に示す.試作機は内部が空洞のボルト締めランジュバン型振動子となっており,振動の節となる部分に空気圧継ぎ手が,振動の腹となる振動子先端にはオリフィス板が取り付けられている.この振動子の圧電素子を円周方向に分極することで,オリフィス板が回転するねじり振動が発生する.また圧電素子に印加する電圧の周波数をオリフィス板の共振周波数とすることで,オリフィス板に厚み方向に変形する振動モードが発生する.その結果,駆動周波数を切り替えることで,ねじり振動による空気圧に対向する振動と,オリフィス板の振動による直交方向の振動の比率を切り替えることが可能である.図4にこの振動子で発生する振動モードの例を示す.図4(a)はねじり振動であり,オリフィス板が円周方向に振動することで,オリフィス板の外周部の変位が大きくなっていることがわかる.図4(b),(c)はオリフィス板が振動するモードであり,空気圧に対して対向方向に変形していることが確認できる.この試作機を用いて,印加周波数により微粒子にかかる力の向きを変化させた際にオリフィス開口に必要な振動加速度の大きさを測定した.オリフィスの開口状態は流量計により流量変化を測定することで確認し,レーザードップラー振動計により空気圧と直交するねじり振動と対向するオリフィス板上の振動を測定することで微粒子にかかる振動加速度を求めた.実験の結果を図5に示す.図5よりねじり振動の比率が大きい場合,オリフィスが開口した際の振動加速度が低いことが確認できる.振動により微粒子にかかる力は振動加速度に比例すると考えられるため,空気圧と直交する振動を用いることで,オリフィス開口に必要な力を低減できることが示された.また,この実験結果はモーメントのつり合いより推定される開口に必要な振動加速度とよく一致していることが確認できる.この結果より空気圧と直交する方向の振動を用いることが,微粒子励振型流量制御弁に有効であることが示された.
5.おわりに
この研究により小型の空気圧サーボ弁の省力化に向けて新たな可能性を示すことができた.今後この駆動原理によるサーボ弁の実用化を目指し,連続的な流量制御の実現,流量制御特性評価など研究を進める予定である.
1) 廣岡 大祐, 東 一毅, 古城 直道, 山口 智実: 微粒子励振型流量制御弁におけるねじり振動を利用した駆動原理の有効性評価, 日本フルードパワーシステム学会論文集, 50巻, 1号, p. 7-13
2) D. Hirooka, K. Suzumori, T. Kanda : Flow control valve for pneumatic actuators using particle excitation by PZT vibrator, Sensors and Actuators A155, p.285-289 (2009)
3) D. Hirooka, K. Suzumori, T. Kanda: Design and Evaluation of Orifice Arrangement for Particle-Excitaion Flow Control Valve, Sensors and Actuators A171 p.283-291 (2011)
4) D. Hirooka, T. Yamaguchi, N. Furushiro, K. Suzumori, T. Kanda: Particle-Excitation Flow-Control Valve using Piezo Vibration-Improvement for a High Flow Rate and Research on Controllability, 電気学会論文誌E(センサ・マイクロマシン部門誌), 137巻, 1号, p. 32-37 (2017)
5) D. Hirooka, T. Yamaguchi, N. Furushiro, K. Suzumori, T. Kanda: Optimization of Orifice Position in Particle-exciation Valve for Proportional Flow Control, ROBOMECH Journal, Vol.4, 25, p. 1-11 (2017)
6) 廣岡 大祐, 山口 智実, 古城 直道, 鈴森 康一, 神田 岳文: 微粒子励振型流量制御弁を用いた空気圧シリンダの速度制御, 日本フルードパワーシステム学会論文集, 46巻, 2号, p. 7-13 (2015)
7) 浮田貴宏,鈴森康一,難波江裕之他:微粒子励振型流 量制御弁による油圧制御,日本フルードパワーシステ ム学会論文集,Vol. 47,No. 6,p. 1-8(2016)
廣岡大祐 君
2012年岡山大学大学院博士課程後期修了.同年関西大学システム理工学部助教,2019年同准教授,現在に至る.空気圧アクチュエータ,流量制御弁,空気圧機器の制御などの研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会,精密工学会などの会員.博士(工学).
E-mail:hirooka(at)kansai-u.ac.jp
URL: https://wps.itc.kansai-u.ac.jp/msl/
図1 Schematic of particle-excitation variable
図4 Vibration modes of the prototype