資 料
油圧機器のトライボロジーなど基盤技術に関する特別研究委員会[U] *
西海 孝夫**
* 2021年4月20日原稿受付
**東京都立産業技術高等専門学校 〒140-0011 東京都品川区東大井1-10-40
1.はじめに
本研究委員会は,油圧機器のトライボロジーなど基盤技術の発展を目的に2015年4月に設置され,1年の活動延長を申請して3年間の活動を行ってきた.一昨年度からは基盤強化委員会のもとでの特別研究委員会に名称変更となった.本委員会は,例年では年に数回の研究委員会を開き,その中で話題提供や工場見学などを実施してきた. しかし周知のとおり, 今年度はコロナ禍の影響のため,定期的な開催ができず,残念ながらオンラインで1回のみの開催となった.本稿では,昨年度の議事録をもとに本委員会の活動内容について報告する.
2.研究委員会の活動状況
本研究委員会は,表1に示すとおり24名の委員で構成されている.2020年度の活動状況は以下のとおりである.
日時:2020年12月9日(水)9:30〜11:30,Microsoft Teams利用,出席者:26 名
(a) 話題提供者:Mr. Blayne McKenzie(Lubrizol),富松委員(日本ルーブリゾール)
題目:「Hydraulic efficiency approach」
Lubrizol’s total hydraulic solution enables greater profitability for end users by reducing fuel consumption in mobile equipment and electricity use in stationary systems. A mobile field trial, utilizing an off-highway wheel loader generated diesel fuel savings of 1.4 to 2.7%. In a stationary hydraulic injection molding field trial, the Lucant-containing lubricant delivered an 8.5% reduction in electricity consumption. Lubrizol’s Total Hydraulic System Efficiency Rig enables research in a controlled lab environment and without the many constraints and variables inherent in field testing. Originally conceived to mimic a real-world skid-steer, this rig incorporates the many components of a hydraulic system. An off-the-shelf commercial piston pump feeds a hydraulic circuit, complete with hydraulic pipes, hoses, and valves, ultimately powering a hydraulic piston motor. Efficiency testing is carried out over a broad range of conditions to capture the diverse duty cycles of a skid steer. In this testing, the combination of Lucant and Lubrizol® 5703 delivers efficiency gains over both a mono-grade (3.8% improvement) and a conventional multi-grade (1.6% improvement). Lucant delivers these efficiency benefits by reducing losses from secondary flows generated as the fluid travels around the various bends, twists, and turns…and, in the case of real-world hydraulic equipment…through valves, filters, and other non-linear hardware flow paths. It does this by forming flexible chains of small diameter with respect to their overall contour length. Conventional viscosity modifiers have long side chains and comparatively short backbones that prevent tight coiling and reduce flexibility, resulting in reduced extensibility and no detectable viscoelastic component. The viscoelastic chains of Lucant store, and thus extract, energy from the coherent vortices, leading to their decay, and ultimately greater hydraulic system efficiency.
【簡約】
2017年11月の本研究会の続報として,特殊ポリマー(ルーカント)による効率向上に関して紹介した.前報では,ホイールローダーを使用した実機試験に関して報告したが,今回は射出成型機の結果を共有した.
また,曲折部を流れる作動油の二次流れに着目し,粒子画像流速測定法(particle image velocimetry, PIV)使用した現象解析を行い,一般的に作動油に使用されるポリマー (PMA)と比較し,ルーカントが2次流れの低減に貢献することを確認した.
(b) 話題提供者:篠田委員(RMFジャパン)
題目:「フィルタシステムを用いたプロアクティブ保全の紹介」
まず,潤滑油用の各種オフラインフィルタとして使用されている深層フィルタによるコンタミナントの補足メカニズムを紹介され,β値とMTDの重要性について説明があった.
つぎに,潤滑油管理の必要性について,プロアクティブ保全を中心に紹介いただき,油圧機器のトラブルの大半を占めるコンタミナントの監視と除去が,装置の健全性について説明があった.とくに,油圧機器でクリアランスが小さいアクチュエータなどでは,4μm相当の微粒子を徹底的に除去することが求められている.このコンタミナントの計数法による粒径毎の個数の測定は,ISO4408で規定されているコードにより区分され,NAS法に代わる方法である.
最後に,フィルタシステムによる浄油の実例として,大型建機油圧システムやトンネル大型建機の油圧システムのフラッシング,建機部品のテストスタンドの浄油事例およびバーニッシュ前駆体の除去事例を紹介され,その効果とプロアクティブ保全への展開について解説された.
3.おわりに
昨年度の活動は,コロナ禍の中で対面での会議開催が許されずにWeb開催となったが,海外からの話題提供者を招き,英語での有益な情報交換の場を持つことができた.今年度こそは委員会の諸氏が一堂に会する機会を持ちつつ,引き続きオンラインによるグローバルな色彩の強い委員会活動ができることを願っている.
最後に,話題提供や議事録作成にご協力いただいた富松委員と篠田委員,日頃より本委員会の業務に尽力いただいている一柳幹事と高辻幹事に対し,この場をお借りして御礼申し上げる.
著者紹介
西海孝夫 君
1976年青山学院大学理工学部機械工学科卒業,1979年成蹊大学大学院工学研究科博士前期課程機械工学専攻修了,1983年成蹊大学助手,1992年防衛大学校助手,講師,助教授を経て2007年同校教授, 2019年芝浦工業大学MJHEPプログラム機械工学科教授,現在 東京都立産業技術高等専門学校機械システム工学コース 非常勤講師.油圧および流体力学に関する教育研究に従事,日本フルードパワーシステム学会員,博士(工学)
E-mail:
dr.nishiumi(at)gmail.com
表1 油圧機器のトライボロジーなど基盤技術に関する特別研究委員会[U]の構成
(2021年3月,順不同)
東京都立産業技術高等専門学校 |
機械システム工学コース 非常勤講師 |
西海 孝夫 |
防衛大学校 |
システム工学群 機械システム工学科 教授 |
一柳 隆義 |
株式会社タカコ |
技術本部 第一開発部 |
高辻 和正 |
川崎重工業株式会社 |
精密機械・ロボットカンパニー |
伊藤 宙 |
株式会社不二越 |
油圧事業部 技術部 産機技術室 |
井上 皓平 |
出光興産株式会社 |
潤滑油二部 営業研究所 設備油グループ |
横山 翔 |
潤滑油協会 |
専務理事 事業部長 |
大塚 正和 |
日本フルードパワー工業会 |
第一技術部 第二業務部 部長 |
大橋 彰 |
KYB株式会社 |
基盤技術研究所 要素技術研究室 |
小川 睦 |
コマツ |
開発本部 材料技術センタ 第一グループ |
川北 成美 |
イートン株式会社 |
技術部 |
黒川 道夫 |
日立建機株式会社 |
開発・生産統括本部 研究・開発本部 |
櫻井 茂行 |
RMFジャパン株式会社 |
シニア コンサルタント |
篠田 実男 |
日本アキュムレータ株式会社 |
常務取締役 |
杉村 健 |
株式会社日立製作所 |
研究開発グループ |
鈴木 健太 |
福井工業高等専門学校 |
機械工学科 教授 |
田中 嘉津彦 |
日本ルーブリゾール株式会社 |
工業油潤滑油添加剤 テクニカルマネージャー |
富松 幸亮 |
ヤンマー株式会社 |
中央研究所 基盤技術研究部 |
中川 修一 |
ダイキン工業株式会社 |
油機事業部 技術部 |
中辻 順 |
ENEOS株式会社 |
潤滑油カンパニー |
野中 暁 |
油研工業株式会社 |
研究開発部 |
平島 久央 |
ボッシュ・レックスロス株式会社 |
技術部 ポンプ・モータ技術課 第1係 |
松澤 正善 |
大生工業株式会社 |
技術部 |
水落 桂 |
株式会社南武 |
事業企画室 室長 |
八木 勉 |