展 望

 

2021年度の学会誌のレビュー*

 

柳田 秀記**

 

* 2022512日原稿受付

** 豊橋技術科学大学機械工学系,〒441-8580 愛知県豊橋市天伯町雲雀ヶ丘1-1

 


1.はじめに

本記事では2021年度(20214~20223月)に発行された会誌全7号(Vol. 52No. 3, 4, E1, 5, 6, Vol. 53No. 1, 2)について特集内容の概要を紹介する.会誌「フルードパワーシステム」では毎号(緑陰特集号除く)の特集記事の他,会長・副会長の挨拶,会議報告,研究室紹介,トピックス記事(「Youは日本をどう思う?」,「学生さんへ,先輩が語る」,「駐在員日記」,「笑顔で活躍お仕事フルードパワー便」),学会企画行事などが掲載されている.トピックス記事は学校や研究機関に籍を置く人や学生さんの記事もあるが,多くは賛助会員企業の社員さんに執筆していただいている.

2.学会誌特集のレビュー

52巻第3号(20215月号) 特集「超大型機械を支える油圧技術」

 油圧の最大の特長はそのパワー密度の高さにあるが,その特長をもっとも利用している超大型油圧機械・システムの事例について特集した.具体的には,超大型油圧ショベルの油圧システム,オフロードダンプトラックのブレーキシステム,鍛圧機械用高圧大流量機器,実大三次元振動破壊実験設備(E−ディフェンス),コンクリートミキサ車の油圧システムとICT,ダム・水門用油圧装置について,構造,作動原理,性能,特徴,展望などが解説されている.

 

52巻第4号(20217月号) 特集「スポーツ分野における流体工学」

 コロナ禍により1年遅れで2021年に開催された「東京2020オリンピック」にちなんで,スポーツと流体の関係の紐解きをテーマとしてボール競技(サッカー,野球,ゴルフ),水泳,自転車,スキーに関係する流体工学を特集した.具体的には,サッカーボールの空力特性のCFD解析,スポーツボール(野球,ゴルフ,サッカー)の飛翔軌道と流体力学,エアタービンを用いた空圧式ボール発射装置,抵抗力を減らし推進力を増やす水泳の流体力学,自転車用エアロヘルメットの空力検証技術,スキージャンプと流体解析技術について解説されている.

 

52巻第E1号(20218月号) 電子出版緑陰特集号

 2020年度に行われたフルードパワーの各分野(油圧,空気圧,水圧,機能性流体)の研究活動の動向が解説されている.小特集「日本フルードパワーシステム学会賞受賞者および研究委員会の紹介」として,学術論文賞,SMC 高田賞の各受賞者による解説,学術貢献賞,油空圧機器技術振興財団論文顕彰の各受賞者ならびに名誉員による随想あるいは解説,および活動中の研究委員会の活動報告を掲載している.

 

52巻第5号(20219月号) 特集「フルードパワーシステムとIoT・スマートファクトリー」

 フルードパワーシステムの発展のために重要な技術と考えられるIoTInternet of Things)とスマートファクトリーに焦点を当てて特集した.フルードパワー分野にとらわれず,IoT・スマートファクトリーを取り扱う幅広い分野から話題提供されている.具体的には,モノづくり現場における時代の変化と油圧機器のあり方,製造現場におけるスマートファクトリーの取り組み,ロボットメーカによるロボット安心ライフサイクルサポート,建機メーカにおけるICTIoTソリューション,スマートファクトリーへのタクトタイムコントローラの活用について解説されている.

 

52巻第6号(202111月号) 特集「AI技術とフルードパワー」

 コンピュータの性能が大きく向上したことにより,機械学習をはじめとしたAI技術が日常生活用品へも適用されるようになっている.本号では,フルードパワー分野へのAI技術の活用・研究状況について特集した.具体的には,人工筋肉中のゴムのダイナミクスとAIの組み合わせによるセンサーエミュレーション,乱流の機械学習と制御,AIを用いたハンディ油漏れ検出,物理モデリングを活用したAIによる予知保全,AIと制御系設計(モデルベース開発を利用した強化学習)について解説されている.

 

53巻第1号(20221月号) 特集「IFPEX2021

 第26回フルードパワー国際見本市(International Fluid Power Exhibition 2021, IFPEX2021)は,「新たな時代に向けた挑戦〜地球環境とものづくりに貢献するフルードパワー〜」をテーマに2021106日〜8日に開催された.本号では,IFPEX58年のあゆみを振り返るとともに,IFPEX2021における油圧・水圧・空気圧各分野の技術動向及びカレッジ研究発表の内容が紹介されている.また,展示されていた油圧ロボットや空気圧バイクの紹介,出展者ワークショップで2社により講演された内容(CO2削減と省エネ/BCPへの取り組み,カーボンニュートラル実現に向け空圧機器が貢献できること)が解説されている.

 

53巻第2号(20223月号) 特集「JFPSフルードパワー国際シンポジウム函館2020

 コロナ禍により1年遅れで2021101213日に開催されたJFPSフルードパワー国際シンポジウム函館2020について特集した.具体的には,函館会場,会議の運営,会議プログラム,招待講演,油圧・空気圧・機能性流体・水圧の各分野の研究動向,展示分科会活動報告,表彰,受賞者の声が記されている.

3.おわりに

学会誌「フルードパワーシステム」では,フルードパワーおよびその周辺技術や科学等に関する基礎や最新情報の提供を行っている.学会誌の発行周期に合わせて隔月で編集委員会を開催し,特集内容やトピックス記事等について検討している.学会誌は20211月号から発行の都度会員のページで閲覧できるようになっており,各記事の図や写真がカラーで閲覧できるので,こちらもぜひご活用いただきたい.

最後に,学会誌に記事をご執筆いただいた著者の皆様に厚く御礼を申し上げる.学会誌へのご意見・ご提案をお知らせいただけると幸いである.

 

著者紹介

やなだひでき

柳田秀記 君

1982年豊橋技術科学大学大学院工学研究科修士課程修了.同年同大学教務職員,1992年同助教授,2012年同教授,現在に至る.電気流体力学現象,水圧シリンダ,油圧ポンプなどの研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会などの会員.工学博士.

E-mail: yanada(at)me.tut.ac.jp