展 望

 

2021年度の機能性流体分野の研究活動の動向*

 

山本 久嗣**

 

* 202259日原稿受付

**富山高等専門学校939-8630 富山県富山市本郷町13番地

 


1.はじめに

ご存じの通り機能性流体とは外部から磁場や電場,光などの因子を流体に印加することにより固有な機能が発現される流体を総称するものである.機能性流体の工業利用について考えるとその歴史は,70年以上も前にさかのぼることとなる.1940年代の電気粘性(ER)流体によるブレーキやクラッチ機構への応用,あるいは電気流体(EHD)ポンプであるイオンドラッグポンプは1950年代から,また無重力下での液体燃料供給制御に磁性流体を用いた工業利用への検討は1960年代として開発・研究が行われてきた.現在においては磁気粘性流体(MRF),電気粘性流体(ERF)における磁場,電場印加により粘性変化を行う流体,また機能性流体に端を発するソフトマテリアルに関連する研究もおこなわれている.本報では2021年度現在における機能性流体分野の研究活動について本学会ならびに関連する学会の学術講演会にて発表された研究について紹介する.

2.研究動向と概要

2.1 MRFERF

 MRFとしては流路の制御,クラッチなどへの応用研究がおこなわれ,ERFとしてはマイクロバブルや小型制動装置への応用研究などが行われている.

·            小林ら1)は体積1 mm3の積層形ERマイクロバブルの提案ならびに試作を行いその特性を明らかにしている.

·            川久保ら2)は超精密加工用エアタービンスピンドルに対して,ホール素子による粘性センサとMR可変ダンパを用いた回転数制御について検討を行っている.

·            外川ら3)ER流体を用いた小型制動装置に関する研究を実験とシミュレーションから行い,その動作特性を明らかにした.

·            澁田ら4)は,ALF有限要素法を用いて,無重力環境における直流磁場下での導電性液滴の振動を解析するスキームを構築し,直流磁場の印加が導電性液滴の振動に与える影響について調査した.

·            今村ら5)は,感音性磁性流体に低沸点溶媒となるn-ヘキサンの混合比量変化が流動・熱輸送能力に及ぼす影響を検討した.

·            山ノ内ら6)は,多磁極によって非一様磁場が印加された円管内を流れる棒状磁性粒子の分散系を対象に,非一様磁場に対する棒状磁性粒子の吸着特性をブラウン動力学シミュレーションにより詳細に検討した.

·            高野ら7)は,多重円盤型ハプティックMRクラッチ(以下H-MRC)の小型化を検討し,開発した小型H-MRCの応答性評価ならびに沈殿評価を行っている.

·            廣島ら8)は,ミクロサイズの線ダスト粒子を混合させた磁気混合流体(以下MCF)の熱伝導率を実験的に調査し,線ダスト粒子の体積割合と内部構造が熱伝導率に与える影響について検討した.

·            山田ら9)は,磁性流体の凝固融解過程の解明に着目し,強磁性微粒子及び磁場印加が凝固融解に与える影響に関して示差走査熱量計による調査を行っている.

·            和田ら10)は,水ベース磁性流体に対して12-アミノドデカン酸を分散剤として用いることによる粒子への吸着性,吸着後の分散性について検討をした.

·            朝香ら11)は,磁性流体を補修電極とした磁性流体フィルタを開発し,その補修効率の評価を行っている.

·            山本ら12)は,磁気混合流体を用いた円筒内面加工の高能率化に対し,磁場に加えて電場の印加で砥粒の制御が向上することによる効果を検討した.

 

2.2 ECFEHD

ECFに関しては,ECFポンプを用いた流路-圧力特性に関して,あるいは.交流電場を用いた誘電柄移動と交流電気浸透流現象を細胞操作への応用検討に関する,また磁性流体の電気分解効率に関する研究がなされている.

·            桜井ら13)は,異形管ECFポンプの流量−圧力特性を明らかにし,加えて液浸冷却システムへの実装を容易にするための改良を行いその性能も明らかにした.

·            稲邉ら14)は,懸濁液に対して交流電場下を用いた誘電柄移動と交流電気浸透流による細胞評価技術の応用について検討を行っている.

·            平野ら15)は,磁性流体の電気分解に着目し,電解時に凝縮物が電極に付着することで電界の妨げとなる現象に対して電圧波形操作が電解効率に及ぼす影響について検討した.

 

2.3 ソフトマテリアル

ソフトマテリアルに関しては,高分子ポリマーに磁性粒を分散・着磁させたポリボロシロキサンの動的粘弾性に関する研究,あるいはMCFゴムを用いた触覚センシング技術に関する研究が実施されている.

·            野村ら16)はダイラタンシーを有するポリボロシロキサンからなるSilly Puttyに硬質磁性微粒子を分散させたMagnetic Silly Puttyおよび着磁させたPermanent Magnetic Silly Puttyを作成しそれぞれの動的粘弾性測定から硬質磁性微粒子の分散及びその着磁がダイラント流体に及ぼす影響を明らかにしている.

·            池田ら17)は,MCFゴムデバイスの性能向上に向けた紫外線,γ線あるいは紫外線とγ線の同時照射時における指型触覚MCFゴムの電圧特性が報告された.

3.おわりに

上述のように,機能性流体関連の研究発表は,本学会においては減少傾向にあるが,機械系をはじめとした他の学会においては数多くの研究発表が実施されていることがわかった.機能性流体の活躍するフィールドは基礎から応用まで幅広く現在しており,各分野において研究は着実に進められている.近い将来に日本の新たな研究技術の潮流を創るものと考えます.

参考文献

1)         小林賢人,吉田和弘,金俊完,積層型ERマイクロバルブに関する研究,2021年春季フルードパワーシステム講演会講演論文集,  p.27-29 (2021)

2)         川久保一希,加藤友規,ケオナムチャイ,ヴァニサラ,山下和将,MRダンパを用いた超精密加工用エアタービンスピンドルの回転数制御に関する検討,2021年春季フルードパワーシステム講演会講演論文集,  p.33-35 (2021)

3)         外川貴規,佐藤悠太,田中豊,小型自律移動ロボットに搭載する機能性流体を用いた制動装置の開発-搭載用電源の設計と動作シミュレーション-2021年春季フルードパワーシステム講演会講演論文集,  p.36-38 (2021)

4)         澁田謙太,河野晴彦,ALE 有限要素法による直流磁場下における導電性液滴の振動の数値解析,日本機械学会2021年度年次大会講演論文集,S055-39(2021)

5)         今村 宏彰,田澤 拓也,山口 博司,二液混合型磁性流体の混合比と熱輸送能力の関係,日本機械学会2021年度年次大会講演論文集,S052-12(2021)

6)         山ノ内 雄渉,佐藤 明,二村 宗男,非一様磁場中における棒状磁性粒子の吸着特性に関するブラウン動力学シミュレーション,日本機械学会2021年度年次大会講演論文集,S052-07(2021)

7)         高野 哲仁,山口 晃徳,池田 旭花,阿部 功,菊池 武士,ハプティックMRクラッチの開発および応答性の評価,2021年度磁性流体連合講演会講演論文集,p.9-11(2021)

8)         廣島雄平,岩本悠宏,井門康司,藤岡里美,廣田泰丈,センダスト粒子を混合した磁気機能性流体の熱伝導異方性,2021年度磁性流体連合講演会講演論文集,p.17-18(2021)

9)         山田剛士,岩本悠宏,井門康司,Ignat TolstorebrovDSCによる磁性流体の凝固融解過程における熱特性の解明,2021年度磁性流体連合講演会講演論文集,p.19-20(2021)

10)     和田光平,伊田翔平,クヤジョン,鈴木一正,宮村弘,バラチャンドランジャヤデワン,水ベース磁性流体作製へ向けた新規分散剤の検討,2021年度磁性流体連合講演会講演論文集,p.28-30(2021)

11)     朝香 祐輔,桑原 拓也,磁性流体と低温プラズマ放電を用いた低電気抵抗微粒子の捕集特性,2021年度磁性流体連合講演会講演論文集,p.31-32(2021)

12)     山本 久嗣,西田 均,大澤 諭司,茶木智勝,百生 登,島田 邦雄,磁気混合流体を用いた電磁場印加による円筒内面に対するマイクロ加工,2022年度精密工学会春季大会学術講演会論文集,B21, p.108-109(2022)

13)     桜井康雄,枝村一弥,異形管を用いたECFポンプに関する研究,2021年春季フルードパワーシステム講演会講演論文集,  p.30-32 (2021)

14)     稲邉 仁,小原 弘道,佐藤 亮太,対向した先鋭電極による電場と流れを利用した細胞操作技術,2021年度磁性流体連合講演会講演論文集,p.37-38(2021)

15)     平野智哉,岩本悠宏,井門康司,石井陽祐,川崎晋司,バラチャンドランジャヤデワン,磁性ナノ流体を用いた水電解に対する電圧波形の影響,磁性流体連合講演会講演論文集2021-12,p.44-45 (2021)

16)     野村鴻介,福西遥佳,岩本悠宏,林幹大,井門康司,硬質磁性微粒子分散系高分子ポリマーの粘弾性特性,磁性流体連合講演会講演論文集2021-12,p.3-4 (2021)

17)     池田 遼(東京工業大学),島田 邦雄(福島大学),高橋 秀治(東京工業大学),木倉 宏成(東京工業大学),磁気混合流体ゴムを用いた触覚センシング技術および環境発電技術の基礎研究と放射線環境への応用,磁性流体連合講演会講演論文集2021-12,p.12-16 (2021)

 

著者紹介

やまもとひさし

山本久嗣 君

2011年金沢大学大学院自然科学研究科物質科学専攻博士後期課程修了.2014年富山高等専門学校ソリューションセンター助教,准教授を経て, 2021年同校機械システム工学准教授,現在に至る.流体研磨,機能性流体の研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会などの会員.博士(工学)

E-mail: h.yamamoto(at)nc-toyama.ac.jp