解 説
2021年度学術論文賞を受賞して*
風間 俊治**
* 2022年6月5日原稿受付
** 室蘭工業大学大学院,〒050-8585 北海道室蘭市水元町27-1
フルードパワーシステムは,しばしば,油圧(水圧を含めて,液圧)と空気圧,ならびに電気駆動式(以下,電動)との特徴や性能の比較検討がなされる.本学会でも,電動モータおよび油圧モータをはじめとするアクチュエータ間や原動機と油圧ポンプとの動力密度や加速性能,あるいは空気圧システムとの比較検討がなされている2).結論のひとつとして,動力密度は油圧が最も高いことなどと合わせて,唯一のシステムに絞りきる見方ではなく,おのおのの特長を生かして適材適所の考えで活路を見出す方向がよいことなどが述べられている.
さて,運転時の動力の視点で互いのシステムを評価する場合には,エネルギーの変換をつかさどる機器である,主に各種モータへ目を向けることは自然であり,また,システム全体への影響度合いも高いといえる.一方で,副次的にはなろうが,それらを構成する伝達要素が,つまり,油圧および空気圧システムにおいては配管が,電気駆動システムにおいては配線が不可欠であり,条件によっては,システム全体の小型軽量化や損失・効率に対して無視し得ない因子になり得ると考えられる.
そこで著者は,この伝達要素に着目して,油圧ホース,空気圧チューブ,電力ケーブルが伝達可能な動力と,それらの質量や寸法との関係について,簡略化したモデルに基づき,管路や電線の損失を含めつつ,具体的な数値による見積りも交えて,その特長や差異を論じた.
3.1 配管・配線のモデル
図1 に配管・配線を大幅に簡略化したモデルを示す.各システムの目的や用途は多岐に亘り,機器や回路も多種多様である.また,配管には継手やバルブなどが,配線には端子や配電盤などが不可欠であり,それらの回路には補器類や制御装置なども含まれるが,ここでは省略している.
油圧システムについてはゴムホースを,空気圧システムについては樹脂チューブを考える.ホース,チューブともに,地面と平行に置かれた,内面の滑らかな直管路とする.助走区間は無視して十分に発達した定常流を仮定の上,Darcy–Weisbachの式を,乱流の管摩擦係数についてはBlasiusの式を適用して,圧力降下や動力損失を見積った.他方,電線の伝送動力(電力)についても,水平に真直ぐに張られた状態のもと,力率100%を仮定して,電圧降下や動力損失を見積った.
3.2 損失を含む伝達動力について
図2 は油圧ホースの単位長さ当たりの質量 m’ kg/m に対する伝達動力 P kW を示す.圧力損失 Dp を考慮しない場合(Dp = 0 Pa)とホース長さL = 100 mとして損失 Dp を考慮した場合を示している(ホース直径 Do に対する結果は省略する).同図から,幅広い範囲に亘り動力 P は質量 m’ の指数関数によりほぼ近似される.
図3 は空気圧チューブの外径 Do とライン圧pに対する圧力降下の比 Dp/p を,材質(ナイロンとウレタン)およびチューブ長さ L(10 m と 100 m)に関して示している.特に,外径 Do が小さく長さ L が長い場合に大きな比 Dp/p を生じる.
図4 は電気ケーブルの(無損失とした場合の)伝送電力 P0 に対する伝送効率 h について,電圧(200,600 V)とケーブル長さ(10,100 m)をパラメータとして示している.低い電圧で長いケーブルの場合,電力 P0 が小さい条件において効率 h が下がる.
図5 は油圧ホース,空気圧チューブ,電力ケーブルの,単位長さ当たりの質量 m’ に対して,損失を考慮した伝達動力 P との関係を一括して示している.破線は,プロットしたすべてのデータに対する近似直線である.一部でプロットと破線が解離している部分は見られるものの,質量 m’ と動力 P は指数関数でおおむね近似できることが示されている.取り分け,油圧と空気圧の棲み分けが明確に見て取れる.片や油圧と電動は拮抗している.本条件においては,同図の右上の高動力条件下において油圧が電動を上回るが,逆転する条件も認められる.
油圧,空気圧,電動の各システムにおける動力伝達要素の伝送可能動力について,管路摩擦による圧力降下および電気抵抗による電圧降下に基づく損失に着目して,等価的な簡易モデルに対する数値例を用いた比較を試みた.配管や配線の種類や仕様および損失の要因等は限定的ながら,動力伝達の視点で油圧,空気圧,電動の相違を比較して,各システムの特徴を示した.なお,データは各社のホームページやカタログ等の公開資料を参考にした.あらためてここに記して謝意を表する.
1) T. Kazama: Transmitted Power of Piping and Wiring in Hydraulic, Pneumatic, and Electric Drive Systems (Considerations for Loss in Pipes and Wires), JFPS International Journal of Fluid Power System, Vol. 13, Issue 2, p. 9-16 (2020)
2) 特集「電動か?フルードか?」,フルードパワーシステム,34-2 (2003)
風間俊治 君
1988年 横浜国立大学大学院修了.2005年 室蘭工業大学教授,現在に至る.主に,トライボロジー,キャビテーション,設計工学などの教育研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会,日本トライボロジー学会等の会員.博士(工学).
Email: kazama(at)mmm.muroran-it.ac.jp
図1 油圧・空気圧システムの配管および電動システムの配線の動力伝達モデル
図2 油圧ホースの単位長さ当たりの質量と伝達 |
図4 電力ケーブルの伝送電力と効率の関係 |
図3 空気圧チューブの外径と圧力損失比の関係 |
図5 油圧ホース,空気圧チューブ,電力ケーブ |