解 説

 

SMC高田賞を受賞して*

 

小林 卓巳**

 

* 2022610日原稿受付

** 岡山理科大学大学院博士課程システム科学専攻,〒700-0005 岡山県岡山市北区理大町1-1

 


1.はじめに

このたびは,栄誉ある日本フルードパワーシステム学会 SMC 高田賞を賜り,誠にありがとうございます.また,日本フルードパワーシステム学会(JFPS)の関係者の方々,ならびに共著者である岡山理科大学の赤木徹也教授はじめ本研究にご協力いただいた皆様方に心より感謝申し上げます.受賞論文である「Development of Small-sized Servo Valve using Gate Mechanism and Diaphragm (ゲート機構とダイヤフラムを用いた小型サーボ弁の開発)」について,その研究背景や概要を解説させていただきます.

2.研究背景

 過去10年間で,ウェアラブル空気圧駆動システムは多くの研究者により研究されている.このシステムでは,制御弁の大きさとコストは開発上の大きな問題となる.これは,空気圧システムで最も高価な制御機器が制御弁であることに起因する.例えば,典型的な電磁サーボ弁では,シールを保ちながらスプールを動かす複雑な構造となるためコスト高となり,低コストのサーボ弁は重要な課題であり,多くの研究者が開発を行ってきた.それらの多くはオンオフ動作を行う制御弁であり,間欠的な流量調整を行うものが主であった.そこで我々は以前の研究で,屈曲チューブの曲げ角度を安価なRCサーボモータで変えることで流量を制御できる低コストサーボ弁を開発し,ゴム人工筋肉の位置決め制御へ応用した.しかし,この弁は屈曲チューブの耐久性という問題を有するとともに,弁の遅延が,モータ速度とオーバーラップゾーンの大きさに依存するということがわかった.そこで本論文では,モータの回転角度が小さく,バルブの開閉を制御できる耐久性のある開閉機構を有する低コスト弁として,ゲート機構とダイヤフラムを用いた弁の開発を検討した.また,提案した弁と屈曲チューブを用いた弁を使用した場合の位置決め制御結果などについて述べる.

3.屈曲チューブを用いた低コストサーボ弁

1に,以前開発した屈曲チューブを用いた4ポート型サーボ弁の構造を示す.弁は,4つの座屈した軟質ポリウレタンチューブ(内径2.5o,外径4o),4つのストレートコネクタと2つのY字型コネクタ,小型RCサーボモータと回転ディスクから構成され,弁の質量は73g,サイズは90×79×53oである.図2に弁の動作原理を示す.図2の中央に示すように,モータが時計回りに回転すると,左側の排気用チューブと右側の供給用チューブの屈曲角度が減少し,両方のチューブが完全に閉じられる.それと同時に,左側の供給チューブと右側の排気用チューブの屈曲角度が増加し,両方のチューブの開口面積は,モータの回転角に応じて増加する.これにより,左側の出力ポートは供給ポートとして,右側の出力ポートは排気ポートとして機能する.また図2の右側に示すように,モータが反時計回りに回転すると,左側の出口が排気ポートとして機能し,右側の出口が供給ポートとして機能する.以上のように屈曲サーボ弁は,2つの出力ポートからの供給流量と排気流量の両方を同期してアナログ的に制御できる.

4.ゲート機構を用いたサーボ弁

上記のサーボ弁は,開口面積を変えるために座屈チューブに大きな変形を加えるため,耐久性に問題がある.また,よく用いられる図3に示す,ポペットにより開口面積を変える場合,流体の圧力と運動量により,開閉の瞬間,ポペットへの反力が大きく変化し,モータの回転角に比例した流量制御が困難になる.そのため,開閉による反力の影響が少ない新たな開閉機構を考える必要がある.そこで,本論文では,図4に示すゲートを基にした新しい開口方法を提案した.このゲート機構は,供給圧力や流体の流れの運動量の影響を受けることなく,小さな力でゲートを操作でき,ゲートの変位に比例して開口面積(流量)を制御できる.本研究では,ゲートと流路の間のシールを効果的に維持するため,ダイヤフラムを介して開閉する機構を考案した.図5に,ゲート機構を用いた試作弁の概略を示す.試作弁は,RCサーボモータ,2つのコイルスプリングを備えた回転ディスク,4枚のゲートを備えた2つのゲートユニットで構成される.回転ディスクはRCサーボモータの軸に接続され,2つのゲートユニット間に配置する.図6に,ゲートユニットの外観と分解図を示す.ゲートユニットは,幅2.4o,深さ1oのV字型溝を施した樹脂製のゲートプレートとベースプレート,厚さ0.5oのシリコーンゴムシート,2枚の樹脂製ゲート,3つのコネクタから構成される.ダイヤフラムは,2つのプレートの間に挟まれ,ゲートプレート側の2つの穴にゲートが取り付けられる.図7に,ゲート機構とダイヤフラムを用いた試作サーボ弁の外観とその分解図および回転ディスクの構造を示す.弁は2つのゲートユニットが3Dプリンタで製作した一体型フレームに取り付けられ,同フレームに回転ディスクの付いたRCサーボモータも設置されている.回転ディスクは,1つのコイルバネを介して両側のゲートを押す構造を有する.試作弁のサイズは31×46×43o,質量は39gと以前の弁に比べ半分程度と小型・軽量である.図8に試作サーボ弁の動作原理を示す.図は左から給気,保持,排気状態を示し,保持状態では中立位置にある回転ディスクも示している.そして,給気と排気ではディスクはそれぞれ反時計回りと時計回りに回転する.弁の動作原理は,図8中央のディスクが中立位置にある場合,ディスクは4つのゲートを均等に押し,各ゲート機構を閉じた状態を維持する.図8の左に示すように,ディスクが反時計回りに回転した場合,ポート1の排気側のゲートがさらに押し付けられ,逆に,供給側ゲートの押付力が解放され,ダイヤフラムによってゲートが押し戻されることでゲート機構が開き給気動作を行う.同様に,ポート2は排気として機能する.なお,ゲートとディスクの幾何学的関係から,ゲート開口部の断面積はディスクの回転角に比例する.また,図8右に示すように,ディスクが時計回りに回転すると,ポート1は排気,ポート2は給気として機能する.

5.弁特性とシリンダの位置決め制御への応用

9に,試作弁のモータ回転角とポート1(☐)と2(〇)からの出力流量の関係を示す.実線と破線は,モータがそれぞれ反時計回りと時計回りに回転した場合を示す.図9に示すように,試作弁はゲートの長さを変えることでオーバーラップゾーンの範囲を調整でき,モータの振動を考慮して±3°のオーバーラップゾーンを設定した.図9から,中立位置から11°の角度変化で最大流量50 L/minANRが得られることがわかる.ここで,水中での漏れ試験から試作弁は中立位置において空気漏れがないことを確認している.また,弁の動特性評価のため,図10に弁を給排気した場合の出力圧力の時間変化を示す. 10から,給気時のむだ時間は43.8 ms,排気時は45.1 msである.また,全給気/全排気の切替操作による試作弁の周波数応答を図11に示す.図から,弁の帯域幅周波数はゲイン線図から約9 Hzであり,推定共振角周波数は位相線図から約28 rad/sであることがわかる. この結果から試作弁は1Hz程度の動特性が必要な空気圧ソフトアクチュエータに用いたウェアラブル駆動システムに十分適用可能と考える.図12に,試作弁を用いた空気圧シリンダ(内径16 mm,ストローク100o)の多点位置決め制御結果を示す.制御はPID制御則を用い,比例ゲイン:1.78 /o,微分ゲイン:25.4 /o,積分ゲイン:3.00×10-4 /oとし,オーバーラップゾーンの補正として0.119 %を通常のPID制御入力に上乗せした.図12から,定常誤差の標準偏差は0.78 oと小さく,オーバーシュートもなく,比較的精度よく追従制御が実現できていることがわかる.

 

6.おわりに

以前の屈曲チューブを用いた安価なサーボ弁に対して,より耐久性のある開閉機構として,ダイヤフラムを利用したゲート機構を考案し,安価なRCサーボモータを用いた安価なサーボ弁を提案・試作した.また,試作弁のモータ回転角と出力流量特性から,試作弁は2つの出力ポートからの流量を同期してアナログ的に調整可能であることを確認した.また,試作弁の質量39gと以前の屈曲弁の半分程度であり,回転角11°で最大流量50 L/minANR)が得られた.また試作弁による空気圧シリンダの多点位置決め制御結果から,定常追従偏差の標準偏差は0.78 mmと比較的精度よく位置決めできることがわかった.また弁の動特性実験から,弁のむだ時間は,給気時44 ms,排気時45 msであることや,周波数応答実験から,試作弁の帯域周波数はゲイン図から約9 Hzであり,推定共振角周波数は位相図から約28 rad/sであることを確認した.したがって,試作弁は,約1 Hzの動特性を必要とする空気圧ソフトアクチュエータを使用したウェアラブル駆動システムへの応用に役立つものと考える.以上,今回の受賞を受けて,空気圧駆動システムの重要な要素であるサーボ弁の小型化と低コスト化に向けた新たな弁の開発に従事するとともに,弁自体の性能改善に関しても今後検討したいと考えています.SMC高田賞を賜り,誠にありがとうございました.重ねてお礼申し上げます.

 

著者紹介

こばやしたくみ

小林卓巳 君

2022年岡山理科大学大学院工学研究科知能機械工学専攻修了,同年,博士課程(後期)システム科学専攻に入学,令和4年度日本学術振興会の特別研究員(DC1)に採択,現在に至る.低コスト・小型制御弁の開発に従事.日本フルードパワーシステム学会の会員.修士(工学)

E-mail: t22sd27qs(at)ous.jp

 


 

 



1 屈曲チューブを用いた小型サーボ弁


2 試作サーボ弁の動作原理


3 ポペット型弁の開閉時の反力


4 提案するゲート機構のモデル


5 ゲート機構とダイヤフラムを用いたサーボ弁


6 ゲートユニットの外観と分解図

  

7 ゲート機構とダイヤフラムを用いたサーボ弁の外観と分解図および回転ディスクの構造

  

8 試作サーボ弁の動作原理(左から給気,保持,排気状態)


9 モータ回転角度と両ポートの出力流量の関係


10 全給気/排気動作時の出力圧力変化


11 試作サーボ弁の周波数応答結果(左:ゲイン線図,右:位相線図)


12 空気圧シリンダの多点位置決め制御結果