解 説
2021年度油空圧機器技術振興財団論文顕彰について*
佐藤 恭一**
* 2022年6月18日原稿受付
** 横浜国立大学大学院工学研究院,〒240-8501 神奈川県横浜市保土ヶ谷区常盤台79-5
以下,本稿では顕彰いただいた「Improving the Overall Efficiency of an Electro-hydraulic Drive System by using Efficiency Maps」について,論文の概要を紹介させていただく.
EHDSの全効率は,サーボモータシステムの効率と油圧ポンプの効率の積となる.図4に示すように, EHDSの全効率マップは,サーボモータシステム(アンプとモータ)と油圧ポンプの効率マップの座標軸を組み合わせることによって作成される.一例として,図5にサーボモータシステムの効率マップとある容量比の油圧ポンプの効率マップを組み合わせた全効率マップを示す.表2より,EHDSの全効率は容量比α= 0.5で最大効率となるが,この場合,サーボモータシステムと油圧ポンプは,コンポーネント単独で見た場合はそれぞれの最大効率となっていない.これは,α= 1の場合の油圧ポンプの効率はα= 0.5の場合よりも高いものの,目標流量の実現にはモータ速度を低速にするため,サーボモータシステムの効率が低下し,結果としてEHDSの全効率が低下したことによる.
「可変速度モータ」と「可変容量油圧ポンプ」(VS-VP:Variable-Speed and Variable-displacement Pump)のEHDSの全効率を向上するため,図6に示す制御システムにおいて,モータ速度nmと容量比αを同時に制御するする.このシステムの目標は,全効率マップのデータに基づいて,指定された流体動力(ポンプ吸い込み・吐出圧力差Δp,流量Q)に対してnmとαを調整することにより,全効率を最適化することである.すなわち,Δpの特定の値に対して,コントローラーは17の全効率マップ(α=αi, i=1~17)を用意し,作動範囲などの特定の制約を考慮しながらこれらの値を比較し,最高効率となった全効率マップから動作点(nm,α)が決定する.この動作点でEHDSのモータ速度と容量比を制御する.
提案した制御方法の利点を評価するため,サーボモータシステムとポンプで構成されるEHDSについて,3つのケースの全効率のシミュレーションを実施した.通常,油圧ポンプ駆動の固定回転速度モータとしては誘導電動機が使用される.誘導電動機の効率は,全動作範囲でサーボモータの効率よりも低いため,本研究ではモータを統一して3ケースとも同じ仕様のサーボモータとした.
ケース1:(VS-FP)可変速度モータと固定容量油圧ポンプ(α:最大容量比で固定運転)
ケース2:(FS-VP)固定速度モータと可変容量油圧ポンプ(nm:定格回転数で固定運転)
ケース3:(VS-VP)可変速度モータと可変容量油圧ポンプ
負荷へのポンプ吐出流量を制御する流量制御モードと,圧力を制御する圧力制御モードに関するシミュレーション結果を,それぞれ図7と図8に示す.なお,論文では,流量制御モードでの設定圧力,圧力制御モードでの設定流量を複数の条件でシミュレーションしており,図7,図8はその一例である.流量制御モード(図7)では,ケース3のVS-VPユニットは、nmとαの2自由度制御により,動作点においてケース1,2の全効率を下回ることはなく.優れた全効率を示した.VS-VPユニットの利点は,特に低流量範囲で顕著に示されている.圧力制御モード(図8)においても,ケース3のVS-VPユニットは,すべての動作点においてケース1,2の全効率を下回ることはなく,優れた全効率を示した.
1) Ha Tham PHAN, Yasukazu SATO, Improving the Overall Efficiency of an Electro-hydraulic Drive System by using Efficiency Maps, JFPS International Journal of Fluid Power System, Vol. 14, Issue 1, p.10-18 (2021)
2) HA THAM PHAN, Study on high efficiency electrohydraulic drive system using a servo motor driven variable speed, variable displacement hydraulic pump (サーボモータ駆動可変速・可変容量油圧ポンプを用いた高効率電動油圧駆動システムに関する研究), 横浜国立大学 博士論文, 甲第2239号 (2021-09-17)
3) Ha Tham Phan, Yasukazu Sato, Experimental Validation of Improvement of the Overall Efficiency for Electro-hydraulic Drive System using Efficiency Maps, Proceedings of the 11th JFPS International Symposium on Fluid Power HAKODATE 2020, Paper No. GS2-06 (2021)
さとうやすかず
佐藤恭一 君
1992年横浜国立大学大学院工学研究科博士課程修了.同大学講師,准教授を経て,2012年同大大学院工学研究院教授,現在に至る.油圧動力の伝達,制御,メカトロニクスに関する研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会,自動車技術会などの会員.博士(工学).
E-mail:sato-yasukazu-zm(at)ynu.ac.jp
図1 バルブレス電動油圧駆動システム |
表1 各種電動油圧駆動システム |
図2 モデルと実験パラメータから取得したサーボモータシステムの効率マップ |
図3 モデルと実験パラメータから取得したポンプの効率マップの一例(容量比α=0.5の場合) |
図4 EHDSの全効率マップの作成(圧力Δp,流量Q,トルクT,回転速度n,最大押しのけ容積D,容量比α,添え字m:モータ,p:ポンプ |
図5 EHDSの全効率マップの一例 (容量比α=0.5の場合) |
表2 ある運転点(Q=5L/min,Δp=10MPa)における容量比αごとのEHDSの全効率の例 |
図6 EHDSのモータ速度,ポンプ容量の2自由度制御システム |
図7 流量制御モードの各種EHDSの全効率の一例 (圧力Δp=12.5MPaで流量Qを5〜24L/minの範囲で変化させた場合) |
図8 圧力制御モードの各種EHDSの全効率の一例 (流量Q=9L/minで圧力Δpを4〜24MPaの範囲で変化させた場合) |