展 望

 

2022年度の学会誌のレビュー*

 

柳田 秀記**

 

* 2023417日原稿受付

**(元)豊橋技術科学大学,JFPS編集委員長

 


1.はじめに

本記事では2022年度(20224~20233月)に発行された会誌全7号(Vol. 53No. 3, 4, E1, 5, 6, Vol. 54No. 1, 2)について特集内容の概要を紹介する.会誌「フルードパワーシステム」では毎号(緑陰特集号除く)の特集記事の他,会長・副会長の挨拶,会議報告,学会企画行事,研究室紹介,トピックス記事(「Youは日本をどう思う?」,「学生さんへ,先輩が語る」,「駐在員日記」,「笑顔で活躍お仕事フルードパワー便」)などが掲載されている.トピックス記事は学校や研究機関に籍を置く人や学生さんの記事もあるが,多くは賛助会員企業の社員さんに執筆していただいている.

2.学会誌特集のレビュー

53巻第3号(20225月号) 特集「進化を続ける空気圧機器」

 産業各分野の自動化・省力化に広く使われている空気圧機器は社会環境やものづくり環境の変化に対応して進化を続けている.本号では空気圧機器の最近の進化について特集した.空気圧サーボシステムのデジタル化,空気圧システムの無線通信システム,エアー消費を半減するパルスブロー製品,重量物の搬送をサポートする助力装置,小型軽量な積層樹脂マニホールド,不定形状物体吸着用バルーンハンドについて解説されている.

 

53巻第4号(20227月号) 特集「フルードパワーと音」

 流体の流れに起因する音の発生メカニズム,ファンや水圧用スプール弁の騒音特性,管楽器の制御と空力音の数値解析について特集した.流れにともなう騒音の発生メカニズムや特性についての解説記事から始まり,プラズマアクチュエータを用いた空力音制御,トーン性に着目したファン騒音の音質評価指標と改善,水圧駆動システムにおけるキャビテーション現象の評価と対策,タイの伝統楽器クルイの自動吹奏ロボットによる音色表現,管楽器(リコーダ,シングルリード)の空力音響解析について解説されている.

 

53巻第E1号(20228月号) 電子出版緑陰特集号

 2021年度に行われたフルードパワーの各分野(油圧,空気圧,水圧,機能性流体)の研究活動の動向の解説に始まり,小特集「日本フルードパワーシステム学会賞受賞者および研究委員会の紹介」として,学術論文賞,技術開発賞,SMC 高田賞の各受賞者による解説,学術貢献賞,技術功労賞の各受賞者の随想,油空圧機器技術振興財団論文顕彰の受賞者ならびに名誉員による解説が掲載されている.そして,資料として活動中の研究委員会の活動状況が掲載されている.

 

53巻第5号(20229月号) 特集「フルードパワーとカーボンニュートラル」

 120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げている.本特集では,フルードパワーの各分野での温室効果ガス排出ゼロの目標達成に向けての取り組みを紹介している.具体的には,油圧ショベル向け油圧蓄圧式ハイブリッドシステム,油状態センサを用いた油圧機器向け状態監視システム,低炭素化社会実現に向けた油圧要素機器の開発,空気圧機器メーカにおけるCO2削減の取り組み,フルードパワーのカーボンニュートラルへの挑戦について解説されている.

 

53巻第6号(202211月号) 特集「社会を支える分離技術」

 SDGsの達成にも寄与する重要な分離技術について,流れや流体に関係するものを中心に最新情報を特集した.具体的には,高性能液体サイクロン技術,マイクロバブルを用いた水溶性加工油からの異物分離,信大クリスタルを用いた汚染水からの重金属イオン分離,河川水からの最新塵芥除去技術,下水処理における膜処理技術,建設機械油圧回路中の気泡の分離と除去,固体吸収材を用いた火力発電所からのCO2分離回収について解説されている.

 

54巻第1号(20231月号) 特集「フルードパワーとソフトロボティクス」

 柔らかさを積極的に取り入れたロボットやアクチュエータなどを対象とするソフトロボティクスについて特集した.ソフトロボティクスにおけるフルードパワーという総説的な記事に始まり,ラバーアクチュエータを活用したソフトロボットハンド,ソフトロボット技術を用いた蠕動運動機構の事業化,減圧駆動式ソフトグリッパの動作原理と応用例,物体操作を学習するロボットアームの空気圧腱駆動可変剛性手首,質量・体積可変な水駆動ソフトロボットのロコモーション,ソフトロボットのアクチュエーションとセンシング(電界共役流体と光導波路の導入),外骨格を使用しない空圧式パワーアシストウェアとその周辺機器の開発について解説されている.

 

54巻第2号(20233月号) 特集「フルードパワーとハイブリッド」

 異なる駆動方式を組み合わせるハイブリッド技術はフルードパワー分野でも取り入れられ,省エネなどに寄与しており,本号ではハイブリッド技術の最新情報が特集されている.油圧ハイブリッド技術の最新動向についての総論に始まり,油圧ポンプ回転数制御システムへの単純適応制御の適用事例,電空ハイブリッドアクチュエータのボンドグラフ法によるシステムモデル表現,電空ハイブリッド超精密鉛直位置決め装置,空圧・電動ファクトリー(空気圧機器と電動機器が共存したミニ工場を模擬したもの),そして,空水増圧機構を組み込んだ空水圧ハイブリッドロボットについて解説されている.

3.おわりに

学会誌「フルードパワーシステム」では,フルードパワーおよびその周辺技術や科学等に関する基礎的あるいは最新の情報の提供を行っている.学会誌の発行周期に合わせて隔月で編集委員会を開催し,特集内容やトピックス記事等について検討している.学会誌は発行の都度会員のページで閲覧できるようになっており,各記事の図や写真がカラーで閲覧できるので,こちらもぜひご活用いただきたい.

最後に,学会誌に記事をご執筆いただいた著者の皆様に厚く御礼を申し上げる.学会誌へのご意見や特集テーマなどへのご希望をお知らせいただけると幸いである.

 

 

著者紹介

 

やなだひでき

柳田秀記 君

1982年豊橋技術科学大学大学院工学研究科修士課程修了.同年同大学教務職員,1992年同助教授,2012年同教授,20233月定年退職,同年4月名誉教授.20206月より日本フルードパワーシステム学会理事・編集委員長.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会,日本設計工学会の会員.工学博士.

E-mail: yanada.hideki.ls(at)tut.jp