展 望

 

2022年度の水圧分野の研究活動の動向*

 

眞田 一志**

 

* 2023424日原稿受付

**横浜国立大学大学院工学研究院,〒240-8501神奈川県横浜市保土ケ谷区常盤台79-5

 


1.はじめに

文献データベース(CiNiiGoogle Scholar)で「水圧」,「water hydraulic」を含むキーワード検索を行い,2022年度の水圧研究を調査した.各機器の基礎研究や水の特性を生かした応用研究が行われている.以下に概要を紹介する.

2.国内外の研究動向

Chen1は,水圧システムによって駆動される布強化ソフトマニピュレータを提案し,ソフトマニピュレータと油圧システムの両方の動特性について考察した.慣性力,弾性力,減衰力,曲げモーメントとねじりモーメントの組み合わせの影響を考慮したニュートン・オイラー反復法を利用してソフトマニピュレータの動的モデルを確立した.その動特性では,シリンダの慣性,摩擦,および水の応答の影響が考慮された.最後に,シミュレーション結果とソフトマニピュレータのさまざまな条件下での定常特性および動特性に関する実験データを比較することで,提案された動的モデルの精度が検証された.

 

Dong2は,炭鉱で使用される高圧大流量水圧プランジャーポンプにおける吸引弁の故障メカニズムについて研究した.高圧大流量水圧プランジャーポンプの実用化では,吸引弁板のシール面に回転摩耗や材料損失の兆候がある.バルブの早期故障を説明するために高圧大流量水圧プランジャーポンプの吸引プロセス中のバルブプレートの力と動きの数学的モデルを確立した.3次元数値流体解析(CFD)と非線形有限要素法を使用して,バルブプレートの操作プロセスと危険な状態が数値的に分析された.結果は,不均一な流れ場の作用下で,閉鎖プロセス中の低速回転と重負荷の組み合わせ効果が材料の損失を引き起こす重要な要因であることを示した.摩耗面の微細構造と元素組成に応じて,特定の摩耗破壊メカニズムが決定され,数値的方法の有効性が検証された.最後に,改良された弁板材料が提案された.高圧大流量水圧ポンプのフィールドテストでは,改良後にバルブプレートの摩耗が大幅に減少したことが示された.

 

Wang3は,水中把持のための水圧駆動ソフトロボットハンドの設計・製作・操作について研究した.提案されたデザインは,人間の手の5本の指に加えて,アクティブな柔らかい手のひらに対称に配置された冗長な柔らかい親指を持っている.ソフトフィンガーは,双方向の曲げとたわみ運動を可能にするために4つのチャンバーで設計された.3つのパームアクチュエータの屈曲動作を強化および拘束するための新しい弾性繊維強化構造が提案された.水中ロボットハンドの汎用性は,Feix分類法の人間の把持ジェスチャをもとに評価された.さらに,複数の視点から同時に把握を捉えるための低コストの1カメラマルチミラーイメージングアプローチを提案した.

 

Li4は,タングステンカーバイド強化Niベースでコーティングされた17-4PHおよび42CrMo4に対して,5つのCuベースの材料と3つのポリエーテルエーテルケトン(PEEK)ベースの複合材料に対して摩擦および摩耗試験を実施した.水圧ラジアルピストンポンプのスリッパ/偏心駆動とピストン/スリーブギャップシールのしゅう動部の組み合わせを表すために,2種類のピンオンディスク試験片を使用した.実験結果によれば,QSn8-0.3スリッパ材料が17-4PH(0.156)とコーティング-42CrMo4(0.894)の両方に対してしゅう動に対してもっとも高い定常摩擦係数を示した.ガラス繊維強化PEEKは,2つの試験片に対してもっとも高い定常摩擦係数(0.540および0.420)を示した.ZCuPb15Sn8 / 17-4PHは,代表的なスリッパ/偏心駆動のしゅう動ペアで最高の摩耗率を示した.ガラス繊維強化PEEK/17-4PHは,代表的なピストン/スリーブギャップシールのしゅう動ペアでもっとも高い摩耗率を示した.2種類のしゅう動ペアの摩耗メカニズムは,走査型電子顕微鏡,表面測定,およびエネルギー分散型分光分析によって特徴つけられた.さらに,硬度,PV値,コーティング,および補強が2種類のしゅう動ペアのトライボロジー挙動に及ぼす影響を解析した.

 

・杉山ら5は,曲げタイプの流体エラストマアクチュエータ(BFEA)について,空気圧作動BFEAと水圧作動BFEAの特性の違いを実験的に評価した.作動速度,発生力,時間領域制御特性,静的および動的位置決め制御特性の4つの評価目標を設定した.結果は有意な特性差を示した.さらに,これらの差は主に空気と水の圧縮性,粘度,剛性の違いによるものであることが示唆された.

 

・鈴木ら6は,廃炉作業ロボットのクローラを放射線環境下で駆動するための水圧モータを開発した.放射状に配置された4ピストンの往復運動を回転運動に変換するカム機構を採用し,モータの回転速度とトルクの脈動を低減した.カムプロファイルは,回転速度とトルクの理論上の脈動がゼロになるように設計した.カムへの負荷と出力トルクの関係を実験により確認した.シリンダへの水の流れを切り換える分配弁としてスライドプレート方式を採用した.分配バルブは,モータの出力軸と同期するスコッチ・ヨーク機構によって駆動された.開発したモータは無負荷状態で0.2MPaの圧力で始動した.回転数の実験値は理論値とほぼ同じであり,内部漏れとドレン流量が十分に小さいことを示した.

 

・辻野ら7は,プレストレッチを施した誘電エラストマーアクチュエータ(DEA)の変位制御を実現するための水圧印加による動特性を解析した.この実験システムは,エラストマーを面外方向に伸ばすことができる.したがって,この実験システムは,3次元形状のDEAの駆動に適用できる.また,3次元形状DEAの変位を制御することで,臓器模型や触覚提示装置への応用も可能である.これらのDEAの変位を制御するためには,この実験システムの動特性を解析する必要がある.本研究では,動特性を解析するためにこのシステムの物理モデルを構築し,変位と周波数応答の実験値を理論値と比較した.

 

参考文献

1)  Chen, Y., Sun, Q., Guo, Q., Gong, Y.: Dynamic Modeling and Experimental Validation of a Water Hydraulic Soft Manipulator Based on an Improved Newton—Euler Iterative Method, Micromachines, Vol.13, No.1, 130, https://doi.org/10.3390/mi13010130 (2022)

2)  Jie Dong, Yipan Deng, Wenbin Cao, Zhongkai Wang, Wensheng Ma, Defa Wu, Hong Ji, Yinshui Liu: Wear failure analysis of suction valve for high pressure and large flow water hydraulic plunger pump, Engineering Failure Analysis, Vol. 134, April 2022, 106095, https://doi.org/10.1016/j.engfailanal.2022.106095 (2022)

3)  H. Wang et al.: A Bidirectional Soft Biomimetic Hand Driven by Water Hydraulic for Dexterous Underwater Grasping, IEEE Robotics and Automation Letters, Vol. 7, No. 2, pp. 2186-2193, April 2022, doi: 10.1109/LRA.2022.3143297 (2022)

4)  Li R, Wei W, Liu H, et al.: Tribological behavior of tribo-pairs in water hydraulic radial piston pumps, Proceedings of the Institution of Mechanical Engineers, Part L, Journal of Materials: Design and Applications, doi:10.1177/14644207221149861 (2023)

5)  杉山 , 沓澤 , 大脇 , 林部 充宏:空圧/水圧両用駆動に向けたBending-type Fluidic Elastomer Actuatorの動作特性評価, ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集 2022, セッションID 2P1-K05 (2022)

6)    鈴木 健児, 由井 明紀:放射線環境下での廃炉作業ロボット駆動用水圧モータの開発, 動力・エネルギー技術の最前線講演論文集2022, セッションID E114, p. E114- (2022)

7)    辻野 昇陽, 早川 健:水圧伸長型誘電エラストマアクチュエータの変位制御に向けた動特性解析, ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集2022, セッションID 2A1-L07 (2022)

 

著者紹介

さなだかずし

眞田一志 君

1986年東京工業大学大学院理工学研究科修士課程制御工学専攻修了.1986年東京工業大学助手,1998年横浜国立大学工学部生産工学科助教授,2001年横浜国立大学大学院助教授,2004年横浜国立大学大学院教授,現在に至る.博士(工学)

E-mail: sanada-kazushi-sn(at)ynu.ac.jp