解 説
2022年度SMC高田賞受賞について*
土方 聖二**
* 2023年6月16日原稿受付
**日立建機株式会社,〒300-0013茨城県土浦市神立町650
上記で示した,図3の設計指針と砂利積み動作のデータを用いて新油圧ハイブリッドシステムの油圧回路を構築した.具体的には,砂利積み動作のデータをアクチュエータ毎に負荷圧と流量の頻度分布として表し,図3の設計指針と重ね合わせアキュムレータで駆動する領域とポンプで駆動する領域を明確化した.砂利積み動作のデータを分析した結果を図4に示す.最も頻度が高い領域を1として黄色で表し,頻度が低い領域は相対的に1より小さくなるように示している.図4の分析結果より,頻度が高く赤い色と重なる領域はポンプで駆動できるように油圧回路を構成し,頻度が低い,または頻度が高くても赤色の領域と重ならない箇所はアキュムレータだけで駆動するように油圧回路を構成し簡素化を図った.
図4の分析結果に基づいて構築した新油圧ハイブリッドシステムの油圧回路図を図5に示す.構築した油圧回路をシミュレーションでモデル化しシステム効率とアキュムレータのパラメータについて検証した.
図6に,シミュレーションにより解析した砂利積み動作におけるエネルギーフロー図を示す.図6(a)が従来の3ポンプオープンセンタシステム,図6(b)が新油圧ハイブリッドシステムを示し,それぞれ軽油の熱エネルギーの内,どれだけのエネルギーがアクチュエータに使われたかを示している.3ポンプオープンセンタシステムでは11.1%のエネルギーがアクチュエータに使われ,新油圧ハイブリッドシステムでは14.6%のエネルギーをアクチュエータで使用できていることから,24%の燃費低減効果の可能性を確認することができた.燃費低減の要因としては,エンジンを低回転数で使用しエンジンを効率良く使えていること,さらにブームと旋回のエネルギーを回生していることが挙げられる.
図7にはアキュムレータのパラメータを変化させたときの燃費改善効果を示している.それぞれ横軸がセット圧,縦軸が燃費改善効果,各プロットはアキュムレータの体積を変化させた場合の影響を示している.図7(a)はMPアキュムレータについてのシミュレーション結果であり,アキュムレータのセット圧は低い方が,燃費改善効果が大きいことが分かる.これはセット圧を高くしてしまうと,アキュムレータ圧とアクチュエータ圧に大きな差が生じ絞り損失が大きくなってしまうためである.またアキュムレータ容量が小さい方が,僅かに改善効果が大きくなる.この理由としては,アキュムレータ容量が小さい方がアキュムレータの圧力変動が大きくなり,アキュムレータ圧がアクチュエータ圧に近づき圧力損失が低減するためである.
図7(b)はHPアキュムレータについてのシミュレーション結果である.HPアキュムレータはパラメータを変更しても大きく燃費は変化しなかった.その理由としては,HPアキュムレータは旋回エネルギーを回生しているが,旋回時に回生できるエネルギーはそれほど大きくないためシステム全体へ与える影響が小さいためだと考えられる.
本稿では,新油圧ハイブリッドシステムの油圧回路を構築するための設計指針と,構築した油圧回路のシミュレーション結果を紹介し,受賞論文の概要について述べた.シミュレーションによる検証の結果,新油圧ハイブリッドシステムは,3ポンプオープンセンタシステムに対して24%燃費を低減できる可能性があることを示した.さらに,アキュムレータのパラメータを変化させたときの燃費改善効果をシミュレーションで検証し,MPアキュムレータに関しては容量とセット圧をなるべく小さくすることにより,燃費低減効果が大きくなることが分かった.
1) Siebert, J., Geimer, M.: Reduction of System Inherent Pressure Losses at Pressure Compensators of Hydraulic Load Sensing Systems, 10th International Fluid Power Conference (10. IFK), Dresden, Germany (2016)
2) Dengler, P., Geimer, M., Baum, H., Schuster, G., Wessing, C.: Efficiency Improvement of a Constant Pressure System Using an Intermediate Pressure Line, 8th International Fluid Power Conference (8. IFK), Dresden, Germany (2012)
3) Pöttker, A.: Mechanic- hydraulic co-simulation on mining excavators, 5th International Fluid Power Conference (5. IFK), Aachen, Germany (2006)
4) Nakamura, T., Nakamura, K., Okano, Y., Ishikawa, K., Sato, K., Azuma, H., Kanehama, M., Kajita, Y.: Hydraulic Device for Working Machine, Japan Patent, WO 2012/157705 A1, JP 2012-201803A (2012)
5) Vukovic, M., Murrenhoff, H.: STEAM – A Mobile Hydraulic System with Engine Integration, ASME/BATH 2013 Symposium on Fluid Power & Moyion Control, Sarasota, Florida, USA, DOI: 10.1115/FPMC2013-4408 (2013)
6) Vukovic, M., Leifeld, R., Murrenhoff, H.: STEAM – a hydraulic hybrid architecture for excavators, 10th International Fluid Power Conference (10. IFK), Dresden, Germany (2016)
7) Hijikata, S., Weishaar, P., Sugimura, K., Schmitz, K., Murrenhoff, H.: A hydraulic hybrid architecture combining an open center with a constant pressure system for excavators, 11th International Fluid Power Conference (11. IFK), Aachen, Germany (2018)
8) Hijikata, S., Weishaar, P., Leifeld, R., Schmitz, K.: Experimental evaluation of system efficiency for a hydraulic hybrid architecture of excavators, MM science journal, DOI:10.17973/MMSJ.2018_10_201831 (2018)
9) Hijikata, S., Ito, K., Murrenhoff, H.: Investigation of Accumulator Parameters for a Novel Hybrid Architecture, J. Robot. and Mechatronics, Vol. 32 No. 5, PP. 876-884, DOI: 10.20965/jrm. 2020. P0876 (2020)
ひじかたせいじ
土方聖二 君
2008年日立建機株式会社入社,現在に至る,油圧システムの研究開発に従事.日本フルードパワーシステム学会の会員.
E-mail: s.hijikata.un@hitachi-kenki.com
図1 負荷圧と流量の定義 |
図2 コンスタントプレッシャーシステム |
図3 新油圧ハイブリッドシステムの設計指針 |
(a)ブーム | (b)アーム |
(c)バケット | (d)旋回 |
図4 砂利積み動作のデータ解析 |
図5 新油圧ハイブリッドシステムの油圧回路 |
(a) 3ポンプのオープンセンタシステム |
(b) 新油圧ハイブリッドシステム |
図6 エネルギーフロー図 |
(a) MPアキュムレータ |
(b) HPアキュムレータ |
図7 アキュムレータパラメータと燃費改善効果 |