随 想
2022年度学術貢献賞受賞について*
眞田 一志**
* 2023年4月24日原稿受付
**横浜国立大学大学院工学研究院,〒240-8501神奈川県横浜市保土ケ谷区常盤台79-5
このたび学会より学術貢献賞を頂きましたことは,まことに光栄に思います.東京工業大学に1986年,助手として採用していただいて以来,今日に至るまで大学教員としてフルードパワーに関する教育研究を継続してこれたのは,その間の諸先輩,諸先生のご指導のお陰である.この機会に,これまでの教育研究活動の中から,二三の事例を紹介して謝意に代える.
大学時代の卒業研究では,管路内に停留する空洞の影響により,弁操作に伴い流量が過渡的にオーバーシュートする場合があることを実験と解析によって示した1).修士論文では,水圧管路における弁操作によって引き起こされる液柱分離現象を代表的な類型に分類することで,現象の予測や理解が容易になることを実験と解析で示した2).これらの研究はいずれも管路における流体過渡現象に関する研究であり,屋外に長大な管路の実験装置を製作して実験を実施するなど,私の研究の方向性を決めることになった.
当時の文部省在外研究員の機会を頂戴して,1991年11月から1992年8月までの10ケ月間,連合王国バース大学のフルードパワー研究室にて在外研究を行った.バース大学では,Burrows教授,Edge教授にご指導いただいた.滞在中に,ドイツのアーヘン工科大学のコロキウムにて,管路網の周波数応答の計算法に関する研究発表3)を行い,この論文について後日学会より,SMC賞を受賞した.10カ月間の滞在の研究成果として,Richards講師,Longmore講師,Johnston講師との共著で,管路動特性の最適化有限要素モデルの論文4)を発表することができた.また,関連する研究論文5)に対して平成12年度日本油空圧学会学術論文賞を受賞した.この研究成果が現在に至るまで私の研究の重要な一部を占めることを振り返ると,この10ケ月間の在外研究は実に貴重な機会となった.油圧系のモデル化誤差を考慮した自動変速機における回転数の2自由度制御の研究論文6)を中心として学位論文をまとめ,1996年に東京工業大学より博士(工学)の学位を授与された.
その後,横浜国立大学に異動し,機械工学における制御工学を教育研究分野として担当することとなった.大型車の加速時の車間距離の自動制御に関する遠藤氏の研究7),管路における波動伝ぱ速度の推定に関する王氏の研究8),大型商用車用油圧パワーステアリングのモデリングに関する高氏の研究9),EPS用モータのステータコア構造と巻線工法に関する石上氏の研究10),絞り制御弁内蔵型空気ばねを用いた鉄道車両の車体上下振動低減に関する風戸氏の研究11)(平成21年度日本フルードパワーシステム学会学術論文賞),動作感応形パワーアシスト椅子に関する秋山氏の研究12),管路動特性の最適化有限要素モデルを用いたカルマンフィルタに関する小澤氏の研究13)(平成24年度油空圧機器技術振興財団学術論文顕彰),ガス封入式アキュムレータの状態変化に関するZhang氏の研究14)を研究指導した.いずれも博士(工学)の学位授与に結実したことは諸氏の研究成果であり,その努力と熱意に敬意を表す.この他にも,DDVC方式燃料噴射装置による舶用ディーゼルエンジンの噴射量制御に関する研究15)(平成28年度油空圧機器技術振興財団論文顕彰)など,フルードパワーの基礎に関する学術研究を行ってきた.
学会が主催する第1回の国際シンポジウムは1989年に東京工業大学百周年記念館にて開催され,小生も実行委員の一人として作業に従事した.当時は,大会運営を自分たちで担当し,まさに手作りの国際会議であった.その後,国際会議の運営の一部を外部業者に委託するようになった.第10回JFPSフルードパワー国際シンポジウムの実行委員長を務めることとなり,福岡のアクロス福岡と福岡工業大学を会場として開催した.国内外から多数の皆様にご参加いただいたことは,今でも鮮明に記憶に残っている.
会長在任中に,学会創立50周年を迎え,各種の記念事業を実施できたことは,賛助会員と正会員の皆様の温かいご協力とご支援によるものであり,御礼申し上げる.記念事業の一環として,学会創立50周年記念誌16),機能性流体テキスト17)を発行した.創立50周年記念式典のオンライン開催,学会誌特集号の発行,学会誌表紙デザインの刷新,学会事務局の設備の更新なども記念事業として実施した.この時期はちょうど新型コロナウィルス感染症の拡大によって慎重な対応が求められる時期に重なり,実行委員会と学会事務局の万全の準備の下,諸行事をオンラインで実施することができた.
このようにして振り返ってみると,諸先生,諸先輩,学生や企業のお立場でご一緒に研究することになった皆様との出会いが私の教育研究活動にとって貴重な支えになったことに感謝します.今後も微力ながら可能な限り,学会のさらなる発展に協力させていただければ幸いである.
1) 趙 彤,真田一志, 北川 能, 竹中俊夫:管路内の停留空洞が過渡流量変動に及ぼす影響,日本機械学会論文集(B編),50巻460号,p.3116/3123 (1894)
2) 真田一志,北川 能,竹中俊夫:水圧管路における液柱分離の類型化による解析手法の検討,日本機械学会論文集(B編),56巻523号,p.585/593 (1990)
3) K Sanada and A Kitagawa: A New Technique of Calculating Frequency Characteristics of a Piping System,10th Aachener Fluid-technisches Kolloquium,Vol.2,p.49/57 (1992)
4) K Sanada,C W Richards,D K Longmore and D N Johnston: A finite element model of hydraulic pipelines using an optimized interlacing grid system,Proceedings of Institution for Mechanical Engineers, PartT: Journal of Systems and Control Engineering, Vol.207, p.213/222 (1993)
5) 真田一志:最適化有限要素モデルによる管路の流体過渡現象のシミュレーション,日本油空圧学会論文集,第31巻第1号,p.1/6 (2000)
6) 真田一志,北川 能:油圧系のモデル化誤差を考慮した自動変速機における回転数の2自由度制御の研究,計測自動制御学会論文集,32巻1号,p.106/113 (1996)
8) 王 盛,真田一志:管路における波動伝ぱ速度の推定に関する研究,日本油空圧学会論文集,第32巻第3号,pp.65/70 (2001)
9) 高 炳サ,眞田一志,降幡健一:大型商用車用油圧パワーステアリングのモデリングに関する研究,日本フルードパワーシステム学会論文集,第39巻第2号,p.19/27 (2008)
10) 石上 孝,北村正司,眞田一志:EPS用モータのステータコア構造と巻線工法の考察,電気学会D部門誌,Vol.128,No.12,p.1411/1417 (2008)
11) 風戸昭人,菅原能生,小金井玲子,眞田一志:絞り制御弁内蔵型空気ばねを用いた鉄道車両の車体上下振動低減,日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.40, No.6, p.103/110 (2009)
12) 秋山悠基,眞田一志:動作感応形パワーアシスト椅子に関する研究,日本フルードパワーシステム学会論文集,第41巻第6号,p.107/114(2010)
13) 小澤 明,眞田一志:管路動特性の最適化有限要素モデルを用いたカルマンフィルタに関する研究,日本フルードパワーシステム学会論文集,第42巻第5号,p.89/94 (2011)
14) S. Zhang, H. Iwashita, K. Sanada: Soave-Redlich-Kwong Adiabatic Equation for Gas-loaded Accumulator, 日本フルードパワーシステム学会論文集,49巻3号,p.65/71 (2018)
15) 眞田一志:DDVC方式燃料噴射装置による舶用ディーゼルエンジンの噴射量制御,日本フルードパワーシステム学会論文集,第47巻第3号,p.15/21 (2016)
16) 日本フルードパワーシステム学会編:日本フルードパワーシステム学会 50年のあゆみ (2021)
17) 中野政身編:機能性流体入門 −基礎と応用−,日本工業出版 (2021)
さなだかずし
眞田一志 君
1986年東京工業大学大学院理工学研究科修士課程制御工学専攻修了.1986年東京工業大学助手,1998年横浜国立大学工学部生産工学科助教授,2001年横浜国立大学大学院助教授,2004年横浜国立大学大学院教授,現在に至る.博士(工学).
E-mail: sanada-kazushi-sn(at)ynu.ac.jp