資 料

 

油圧機器のトライボロジーなど基盤技術に関する基盤研究委員会 *

 

西海 孝夫**

 

* 2023417日原稿受付

 **芝浦工業大学 UniKL JUPプログラム非常勤講師  〒135-8548 東京都江東区豊洲3-7-50

 

1.はじめに

 本研究委員会は,油圧機器のトライボロジーなどさまざまな基盤技術の発展を目的に20154月に特別委員会として設置され活動を行ってきた.2019年度からは基盤強化委員会のもとでの基盤研究委員会に名称変更となった.本委員会は,例年では年に数回の研究委員会を開き,その中で話題提供や工場見学などを実施してきた.しかし周知のとおり, 一昨年度からはコロナ禍の影響のため,定期的な開催ができず,残念ながら本年度もオンラインでの開催となった.本稿では,昨年度の議事録をもとに本委員会の活動内容について報告する.

2.研究委員会の活動状況

2022 年度の活動はオンラインにて2回行われ,状況は以下のとおりである.

 

【第1回】

日時:20221129 () 14:0017:00Microsoft Teams利用,出席者:22 

(a)  話題提供者:土方聖二氏(日立建機 先行開発センタ)

  題目:「油圧ショベル向けハイブリッドシステムの比較検討及び油圧蓄圧式ハイブリッドシステムの紹介」

本話題提供では,以下について説明いただいた.建設機械におけるカーボンニュートラルの実現のためには,油圧システムの効率改善は今後も重要であることから,ハイブリッドシステムの比較検討を行った.油圧ショベルのハイブリッドシステムは大きく分けて電動と油圧の 2 種類があり,回生対象としてはブームと旋回の2つのアクチュエータがある.そのためシステムと回生対象の組合せにより,大きく4つの回生システムに分類でき,それぞれ特徴が異なる.これらの比較検討に基づいて,コストの要求がより厳しい 12t 油圧ショベル向けに油圧蓄圧式ハイブリッドシステムを開発した.このシステムの特徴は,アキュムレータの圧力が高いときにはメインポンプをアシストし,アキュムレータの圧力が低いときにはパイロットポンプをアシストするもので,このシステムを搭載した 12t 油圧ショベルでは 6%の燃費低減を実現することができた.

 

(b)  話題提供者:亀田幸則氏(カヤバ梶@ 基盤技術研究所 情報技術研究室)

 題目:油状態センサを用いた油圧機器向け状態監視システム

まず,油圧機器における故障の原因として作動油の劣化が要因の一つであることを説明いただいた後,作動油メンテナンスの実状として,現在多く用いられている時間基準保全(TBM)から近年では状態基準保全(CBM)が主流であるとの説明をいただいた.つぎに,開発中の油圧機器向け状態監視システムの概要と,システムを実現するうえで重要となる油状態センサ,通信端末に関して紹介いただいた.油状態センサに関しては,作動油の酸化劣化や汚損を比誘電率と導電率を用いて検知すること,油状態センサを用いて劣化油を測定した結果などを紹介いただいた.通信端末については,移動体向けの端末と工場設備向けの端末のそれぞれに関して,仕様や特長に関して紹介いただいた.最後に,油圧機器向け状態監視システムの実証実験の事例として,工場設備の状態監視事例とミキサー車の状態監視事例を紹介いただいた.工場設備の状態監視事例としては,比誘電率の上昇後導電率が急激に上昇し油圧ポンプが破損したデータより,事前に故障の予兆を捉えられており,メンテナンスサイクルの最適化,機器のダウンタイム最小化が可能であることを紹介いただいた.

 

【第2回】

日時:2023314 () 14:0017:00Microsoft Teams利用,出席者:24 

(a)  話題提供者:中辻隆委員川崎重工業 精密機械ディビジョン 技術総括部 コンポーネント設計部 ポンプ設計課)

  題目:「油圧ポンプの信頼性向上と作動油に求められる仕様

まず始めに,建設機械や産業車用で使用されている油圧ポンプの信頼性向上の取組と作動油に求められる仕様について紹介いただいた.続いて,油圧ポンプの故障には,実機の仕様条件に起因したものと作動油に起因したものに大別されることを説明いただいた.近年では高圧化や高速回転化といった従来の機器仕様よりも高い仕様を要求されることがあるため,製品の信頼性向上を図る取組として,CFD解析を利用したポンプ内部の圧力分布の把握やエロージョンの発生メカニズムとその抑制技術,ならびに各種部品の最適設計技術に関して説明いただいた.また,油圧システムのトラブルを防ぐためには,作動油の状態を適切に管理することが重要であり,実機での清浄度管理に加えて,作動油に求められる機能として,耐焼付性,耐摩耗性,消泡性等があり,作動油が影響を及ぼす油圧ポンプの部位に関して,具体例を示しながら構造的に説明いただいた.

 

(b)  話題提供者:三枝直人氏(油研工業 事業推進部 中核製品プロジェクト

 題目:「低炭素化社会に向けた油圧コンポーネントメーカとしての取り組み」

低炭素化社会の実現に向けて国内でさまざまな取組みが推し進められている.その背景として,近年の記録的な気象災害においては温室効果ガスの継続的な排出が影響を与えていると考えられており,温室効果ガスの排出量を低減させることが急務となっている.油圧要素機器が低炭素化社会に対して貢献できることを考えた時に,省エネとライフサイクルの観点に着目するといくつかの実行可能な手段があることが分かった.環境に関連したアプリケーションとして風力発電機と環境機械の採用事例があるが,製品が故障すると重大事故に繋がることが予想されるため,故障管理や予防・予知等のライフサイクルへの配慮が重要であることを確認した.今回は実例として,電磁切換弁スプール位置センサレス検出と直動形高応答比例電磁式方向・流量調整弁ELDFG用アンプのデジタル化を挙げて説明いただいた.

3.おわりに

 この数年度の活動は,コロナ禍の中で対面での会議開催が許されずにWeb開催となったが,ある程度コロナ禍が鎮静化している今年度こそは委員会の諸氏が一堂に会する機会を持ちつつ,引き続きオンライン会議による二刀流で活動できることを願っている.

 最後に,話題提供や議事録作成にご協力いただいた土方氏,亀田氏,三枝氏,中辻委員に対し,また日頃より本委員会の業務に尽力いただいている高辻幹事と一柳幹事に対し,この場をお借りして御礼申し上げる.

 

著者紹介

西海 孝夫

にしうみたかお

西海孝夫 君

1976年青山学院大学理工学部機械工学科卒業,1979年成蹊大学大学院工学研究科博士前期課程機械工学専攻修了,1983年成蹊大学助手,1992年防衛大学校助手,講師,助教授を経て2007年同校教授, 2019年芝浦工業大学MJHEPプログラム機械工学科教授,現在 芝浦工業大学 非常勤講師.油圧および流体力学に関する教育研究に従事,日本フルードパワーシステム学会員,博士(工学)
E-mail: nishiumi(at)shibaura-it.ac.jp