展 望

 

2023年度の学会誌のレビュー*

 

柳田 秀記**

 

* 202449日原稿受付

**(元)豊橋技術科学大学機械工学系2023年度JFPS学会編集委員長

 


1.はじめに

本記事では2023年度(20234~20243月)に発行された会誌全7号(Vol. 54No. 3, 4, E1, 5, 6, Vol. 55No. 1, 2)について特集内容の概要を紹介する.会誌「フルードパワーシステム」では毎号(緑陰特集号(E1号)除く)の特集記事のほか,会長・副会長の挨拶,会議報告,学会企画行事,研究室紹介,トピックス記事(「学生さんへ,先輩が語る」,「Youは日本をどう思う?」,「笑顔で活躍お仕事フルードパワー便」,「駐在員日記」)などが掲載されている.トピックス記事は学校や研究機関に籍を置く人や学生さんの記事もあるが,多くは賛助会員企業の社員さんに執筆していただいている.

2.学会誌特集のレビュー

54巻第3号(20235月号) 特集「医療福祉技術を支えるフルードパワー」

 出力,柔軟性,可操作性などの点で特徴を有する各種のフルードパワーを利用した医療福祉機器について特集した.数値流体解析を用いた補助人工心臓の設計事例,空気圧を用いた手術支援システム,空気圧人工筋を用いた身体運動支援システム,油圧を用いた短下肢装具の開発事例,マイクロ流体システムを用いた細胞融合技術,空気圧を利用したリハビリテーションデバイス,MR流体を用いた繊細ハプティックデバイスと医療ロボットについて解説されている.

 

54巻第4号(20237月号) 特集「フルードパワーにおける品質向上技術の活用」

 フルードパワーにおける品質向上技術に関して,@設計の最適化,A機器のセンシング技術,B機器の状態監視をキーワードに特集した.@に関しては,連成解析における遠心ファン翼形状最適化の1編,Aに関しては,電磁切換弁の状態検出の1編,Bに関してはもっとも多く,建設機械用油圧機器の状態監視,センサ技術を利用した故障予知と遠隔メンテナンス,オイル状態監視による建設機械の見守り,水グリコール系難燃性作動油の状態監視システム,ターボコンプレッサの稼働状況のリモートモニタリングの5編により構成されている.

 

54巻第E1号(20238月号) 電子出版緑陰特集号

 2022年度に行われたフルードパワーの各分野(油圧,空気圧,水圧,機能性流体)の研究活動の動向の解説に始まり,小特集「日本フルードパワーシステム学会賞受賞者および研究委員会の紹介」として,学術論文賞,技術開発賞,SMC 高田賞,学術貢献賞,技術功労賞,油空圧機器技術振興財団論文顕彰の受賞者ならびに新名誉員による解説または随想が掲載されている.そして,資料として,4研究委員会の2022年度における活動状況が掲載されている.

 

54巻第5号(20239月号) 特集「ゴム人工筋を駆動する圧力源の新展開」

 ゴム人工筋の圧力源はもともとは空気圧であったが,近年では油圧,水圧,機能性流体のほか,燃焼や水の電気分解などを利用するまったく新しい圧力源も登場している.本号では,各圧力源により駆動される人工筋について特集した.具体的には,空気圧により駆動される細径化ゴム人工筋によるアシストスーツ,油圧駆動超高出力ゴム人工筋,人工筋の水圧駆動化の検討,EHDポンプ駆動の人工筋,気液相変化により駆動される人工筋,DMEの燃焼により駆動される人工筋,水の電気分解/合成を利用した人工筋について解説されている. 

 

54巻第6号(202311月号) 特集「機能性流体フルードパワーシステムのフロンティア展開」

 本号では,機能性流体を活用した応用についてのフロンティア的研究開発事例を紹介し,機能性流体のフルードパワーシステムへの応用とその可能性に関する最新情報が提供された.交流圧力源を用いたERマイクロアクチュエータシステム,電界共役流体の流動によるチップ上での液滴の生成とソーティング,EHDポンプを用いたロボット駆動機構,イオン液体静電噴霧による二酸化炭素分離吸収,車両用ドライMR流体ブレーキ,MR流体ブレーキの装着型力覚提示装置への応用,MR流体を活用した吸盤,磁気混合流体(MCF)を用いた精密研磨について解説されている.

 

55巻第1号(20241月号) 特集「フルードパワーを活用した超高圧技術」

 耐圧・疲労試験,構造試験,燃料噴射,加工,深海環境の再現などの分野では超高圧(液圧では数百MPa,ガス圧では数十MPa)技術が必要となる.本号では,高圧発生技術と高圧対応技術,それらの研究成果について特集した.超高圧インパルス耐圧試験機の高圧発生技術とサーボ制御,200MPaを超えるディーゼルエンジン用燃料噴射技術,高圧容器用サイクル試験装置と破裂試験装置,建築構造実験用超高圧油圧試験装置,フルードパワーシステム評価のための高圧試験,高水圧技術を活かした「チューブハイドロフォーミング」,深海調査・観測機器のための高圧実験水槽の概要・成果等について解説されている.

 

55巻第2号(20243月号) 特集「触覚技術と応用技術」

 人への安全や作業効率の改善のために機械の遠隔操作の向上は不可欠となっているが,遠隔操作に欠かせない技術として触覚技術が期待されている.本号では,触覚技術の紹介とフルードパワーへの応用例などについて特集した.空中超音波による非接触での触覚提示技術,空気圧で駆動する人工指による材質認識システム,繊細ハプティックデバイスの実現を目指したMR流体デバイス,力触覚技術とその土木分野への応用,建設重機の遠隔操作に対するリアルハプティクス技術,フルードパワーを用いたウェアラブルな全身型力覚提示システムについて解説されている.

3.おわりに

学会誌「フルードパワーシステム」では,フルードパワーおよびその周辺技術や科学等に関する基礎的あるいは最新の情報の提供を行っている.学会誌の発行周期に合わせて隔月で編集委員会を開催し,特集内容やトピックス記事等について検討している.学会誌は発行の都度会員のページで閲覧できるようになっており,各記事の図や写真がカラーで閲覧できるので,こちらもぜひご活用いただきたい.

最後に,学会誌に記事をご執筆いただいた著者の皆様に厚く御礼を申し上げる.学会誌へのご意見や特集テーマなどへのご希望をお知らせいただけると幸いである.

 

 

著者紹介

柳田顔写真やなだ  ひでき

柳田 秀記 君

1982年豊橋技術科学大学大学院工学研究科修士課程修了.同年同大学教務職員,1992年同助教授,2012年同教授,20233月定年退職.同年4月名誉教授.2020‐2023年度日本フルードパワーシステム学会理事・編集委員長.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会,日本設計工学会の会員.工学博士.

E-mail: yanada.hideki.ls(at)tut.jp