展 望
2023年度の油圧分野の研究活動の動向*
酒井 悟**,新井 遼**
* 2024年8月2日原稿受付
**信州大学学術研究院工学系,〒380-8553長野市若里4-17-1
2023年度の日本機械学会論文集に掲載された油圧関連の論文は1編であった.また,JSME Mechanical Engineering Journalには0編,JSME Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturingには1編の油圧関連の論文が掲載されている.北澤ら23)は衝撃吸収機構を内蔵し,少ない部品点数で高応答・高出力と接触親和性を両立するアクチュエータの開発を目的とし,気泡の混入した作動油を動力伝達に利用するシリンダを提案している.混合作動流体室に3.5 %程度の気泡が混入した作動油を封入した場合,シリンダ駆動開始時において応答性を保ちつつ,発生するサージ圧が約40 %抑えられること,混合作動流体室に約2 %の気泡が混入した作動油を封入することで,駆動開始・停止時に発生するサージ圧を極めて小さくできること,提案シリンダの出力および応答特性と衝撃吸収の特性が混合作動流体室に封入する作動油中の気泡の体積混合比を制御することによって調整できることなどを解析および実験的に明らかにした.TAOら24)は磁歪電気油圧式アクチュエータの挙動解析のための流体慣性と圧縮性を考慮したインピーダンス網のモデリングを提案している.連続式・圧力損失・運動方程式に基づいて要素の挙動を記述しつつ,電気―機械と油圧―機械のアナロジーからM-EHAのインピーダンス網を定義して,出力性能の支配因子を解析している.M-EHAの構造を解析して,マニホールド,シリンダ,アキュムレータなど各要素の周波数特性を入手している.またアクチュエータ構造としての最適化のための指針を得ている.シミュレーションでは生じない後退動作が実験では生じることを確認しつつ(図1),2個の共振周波数の支配因子が負荷のパラメータなどに依存することを定量的に明らかにしている.
2023年度における主に国内で発表された油圧関連の研究トピックの概要を示した.本稿が何らかの参考になれば幸いである.
1) 橋本大樹,眞田一志:油圧インピーダンス計測におけるパラメータ同定,2023年春季フルードパワーシステム講演会論文集,p.53-55 (2023)
2) 加藤輝雄,新井遼,酒井悟:油圧アームのための同定入力の修正法の改善について,2023年春季フルードパワーシステム講演会論文集,p.56-58 (2023)
3) 風間俊治,林玖憲:キャビテーション壊食に及ぼす噴流衝突面の支持剛性の影響について,2023年春季フルードパワーシステム講演会論文集,p.59-61 (2023)
4) 駒屋耕大,木村匠吾,田中豊,坂間清子:気泡を含む油の加圧減圧過程における挙動(加圧保持から減圧後の気泡の状態),2023年春季フルードパワーシステム講演会論文集,p.62-64 (2023)
5) 佐藤恭一,下岡隆雅,佐藤斗南,佐々木新:4ポート独立可変重合スプール弁の設計と弁操作用回転・直動2自由度電磁アクチュエータの適用,2023年春季フルードパワーシステム講演会論文集,p.65-67 (2023)
6) 清水文雄,田中和博:スプール弁の環状溝が流体力に及ぼす影響,2023年春季フルードパワーシステム講演会論文集,p.69-71 (2023)
7) 林光昭:HBC(Hydraulic Buck Converter)についての考察,2023年春季フルードパワーシステム講演会論文集,p.72-74 (2023)
8) 湯浅日和,佐藤淳希,小笠原萌,田中みなみ,川上幸男:油圧シリンダを有する歯科医療従事者用スツール傾斜機構の検討,2023年秋季フルードパワーシステム講演会論文集,p.51-53 (2023)
9) 梅本諒,酒井悟,新井遼,江口剛紀,小野和輝:非線形油圧アームの動力学の特徴に基づく解析モデル,2023年秋季フルードパワーシステム講演会論文集,p.54-56 (2023)
10) 小野和輝,酒井悟,新井遼,近澤健太:非線形油圧アームの力サーボ制御系のロバスト性能,2023年秋季フルードパワーシステム講演会論文集,p.57-59 (2023)
11) 江口剛紀,酒井悟,天願海斗,梅本諒,小野和輝:非線形油圧アームの動力学の特徴に基づくモデル予測制御実装,2023年秋季フルードパワーシステム講演会論文集,p.60-62 (2023)
12) 風間俊治:弁体をもたないバルブの開発(第1報:考案),2023年秋季フルードパワーシステム講演会論文集,p.63-65 (2023)
13) 佐々木優真,風間俊治:弁体をもたないバルブの開発(第2報:実験),2023年秋季フルードパワーシステム講演会論文集,p.66-68 (2023)
14) 名倉忍,柳田悠太,眞田一志:デジタル油圧の建設機械向けパイロット元圧回路への応用に関する研究・減圧効率への低圧圧力源チェック弁が及ぼす影響について,2023年秋季フルードパワーシステム講演会論文集,p.69-71 (2023)
15) 鶴原理司,伊藤和寿:方向忘却付き適応 FRITに基づく逐次的ロバスト制御器調整法のフルードパワーシステムへの応用,2023年秋季フルードパワーシステム講演会論文集,p.116-118 (2023)
16) 若生瑛貴,田中豊,坂間清子:油の気泡含有率の簡易計測法(計測法の提案と測定誤差の検討),2023年秋季フルードパワーシステム講演会論文集,p.119-121 (2023)
17) 駒屋耕大,田中豊,坂間清子:気泡を含む油の加圧減圧過程における挙動 (減圧過程における数学モデルの修正),2023年秋季フルードパワーシステム講演会論文集,p.122-124 (2023)
18) 竹中洸,一柳隆義:CFD 解析による油圧ポンプの内部インピーダンス特性,2023年秋季フルードパワーシステム講演会論文集,p.125-127 (2023)
19) 増田精鋭,清水文雄,田中和博:ポペット弁のヒステリシス特性に与える減衰力の影響の検討,2023年秋季フルードパワーシステム講演会論文集,p.128-130 (2023)
20) 阿部悠人,佐藤恭一:学習に基づく効率マップを用いた電動油圧駆動システムの速度・容量 2自由度制御,2023年秋季フルードパワーシステム講演会論文集,p.131-133 (2023)
21) 橋本大樹,藤田昌孝,眞田一志:油圧インピーダンス計測技術に関する研究,日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.54,No.2,p.19-26 (2023)
22) 名倉忍,柳田悠太,眞田一志:デジタル油圧の建設機械向けパイロット元圧回路への応用に関する研究,日本フルードパワーシステム学会論文集,Vol.54,No.1,p.10-17 (2023)
23) 北澤勇気,坂間清子,菅原佳城:作動油中気泡の圧縮性を衝撃吸収効果として活用した油圧アクチュエータに関する研究,日本機械学会論文集,Vol.89,No.927,p.23-00114 (2023)
24) Menglun TAO,Feng LIN,Liang SHU,Hongbi DENG,Yeheng ZHANG: Research on impedance network modeling and output characteristics of magnetostrictive electro-hydraulic actuator Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing,Vol.17,No.2,JAMDSM0018 (2023)
さかい さとる
酒井 悟 君
1998年京都大学工学部卒業,2003年京都大学農学研究科博士後期課程修了,京都大学情報学研究科JSPS特別研究員(PD),Twente大学客員研究員,千葉大学助教を経て,2010年信州大学学術研究院工学系准教授,2023年同教授,現在に至る.
E-mail:satorus(at)shinshu-u.ac.jp
あらい りょう
新井 遼 君
2020年信州大学工学部機械システム工学科卒業,2022年信州大学大学院総合理工学研究科工学専攻機械システム工学分野修士課程修了,2022年より信州大学大学院総合医理工学研究科総合理工学専攻エネルギーシステム工学分野機械システム工学ユニット博士課程進学,現在に至る.
E-mail:22hs201e(at)shinshu-u.ac.jp
図1 上:インピーダンス網モデル(一部),下:モデルと実験の応答比較(60Hz, 200Hz) 24) |