解 説

 

油空圧機器技術振興財団論文顕彰を受賞して*

 

藤田 壽憲**

 

* 2024715日原稿受付

** 東京電機大学120-8551東京都足立区千住旭町5

 


1.はじめに

はじめに油空圧機器技術振興財団論文顕彰を受賞し,論文「Study on Multi-Cylinder Type Wind Powered Air Compressor Applied Hypocycloid(内サイクロイド運動を利用した多気筒型風力空気圧縮機に関する研究)」1)を評価して頂いたことを大変名誉なことと感じるとともに,本学会よりご推薦いただいた方をはじめ関係者に心より御礼申し上げます.本稿では論文が最も評価されたポイントではないかと感じている創エアの必要性について私見を述べるとともに,受賞論文の概要について紹介する.

2.省エアから創エアへ

 ここ20年近く空気圧アクチュエータはエネルギー効率の低さから電動アクチュエータに押されてきた.そのため省エア技術ばかりに焦点が当てられていた.しかし,それだけでは電動化の流れに太刀打ちできない.圧縮空気は電動圧縮機,すなわち電気エネルギーにより製造されている.もし,これを再生可能エネルギーや廃熱など未利用エネルギーで製造できたら,効率が低くても空気圧は使われるはずである.それどころか電動アクチュエータよりも有利となり,空気圧アクチュエータの使用が広がるかもしれない.これからの時代には省エア技術ばかりでなく,創エア技術が必要だと考えている.このことから再生可能エネルーである風力エネルギーにより圧縮空気を製造する風力空気圧縮機の研究を開始した.

3.論文概要

3.1 研究目的

産業界で消費される電気エネルギーの約20%は電動空気圧縮機に使用されている.地球温暖化の主因である温室効果ガスの削減が世界的な課題となっている今,電動空気圧縮機には消費電力削減が求められている.この削減のためには再生可能エネルギーのひとつである風力エネルギーの利用が有効である.そこで本研究では風車で直接,圧縮機を駆動する風力空気圧縮機を提案した.

3.2 風力空気圧縮機とは

 1に工業プラント内の生産ラインにおける圧縮空気の供給例を示す.工場では複数の圧縮機によって隈なく張り巡らされた空気配管に圧縮空気を供給している.本研究で提案する風力空気圧縮機は工場内で使用する圧縮空気の全てを賄うものではない.電動圧縮機と併用し,工場の屋根などの空きスペースに設置して風力圧縮機により使用する圧縮空気の一部を賄い,電動空気圧縮機の台数を減らすことによって,温室効果ガスの削減を目指すものである.圧縮空気の使用量は時々刻々変化しており配管内圧力も変動している.このため空気圧縮機が発停しても影響はなく,風力発電によって空気圧縮機を駆動する場合と比べると,風力圧縮機を増設する場合は空気配管に接続するだけでよく,簡単であり低コストでの導入が可能である.

3.3 提案する風力空気圧縮機

 図2に提案する風力空気圧縮機の構成を示す.空気圧縮機では空気の圧縮に大きなトルクが必要となる.このため風車の回転軸を減速機に接続しトルクを増幅した後,空気圧縮機を駆動する.通常のレシプロ形圧縮機に用いられるピストン−クランク機構ではピストンに首振り運動が発生しシール性を悪化させる.そこで図3a)のように内サイクロイド運動を応用した圧縮機構とした.内サイクロイド運動とは図のように定円上を内接しながら転がる動円の円周上の定点が描く軌跡のことである.定円と動円の比が2:1のとき理想的な直線を描く.首振り運動がないため摩擦力を小さくし,シール性を高めることができる.内サイクロイド運動をリンク機構により実現し多気筒化した上で,漏れ対策としてピストンリングではなくゴムパッキンを,リード弁ではなくチェック弁を用いることにより,低回転でも圧縮可能な空気圧縮機を実現した.また低速であるためフライホイールでトルク変動を吸収することは困難である.このため図3b)のように4気筒化することによってトルク変動を抑制した.このためにリンクを延長し,位相をπ/2ずらしたシリンダを配置した.さらに,これをもう一対回転軸に対し点対称に配置することにより4気筒化した.同時に風力空気圧縮機の特性解析を行い,これに基づき風力空気圧縮機を設計した.

3.4 風力空気圧縮機の特性

風力圧縮機を製作し,その特性を測定した結果を解析結果とともに図4に示す.特性解析結果は実験結果とおおよそ一致しており,解析モデルにより風力圧縮機の設計および特性が予測できることがわかった.結果は日本の年間平均風速3m/sにおいて,最大吐出圧力0.8MPa,最大効率12%となることを示しており,風車効率を改善すれば目標とする20%が達成できることから,風力空気圧縮機の実用化の見通しが得られた.

4.おわりに

本論文での風力圧縮機は風速3m/sで減速機を設計しているため,せっかくエネルギー密度が高い高風速で効率が悪化する.風速に合せて減速比を変えることが必要であり,現在はこの観点から研究を継続している.今後は風力エネルギーに限らず,あらゆる再生可能エネルギーや未利用エネルギーによる創エア研究が活発になることを願っている.

なお本論文は当時,東京電機大学大学院修士課程であった田上亮太君との共著であり,ともに油空圧機器技術振興財団論文顕彰を受賞させていただいたことを付言する.

参考文献

1)    Fujita, T., Tanoue, R.: Multi-Cylinder Wind-Powered Air Compressor Using Hypocycloid Motion, JFPS International Journal of Fluid Power System, Vol.16, No.1, p.17-23 (2023)

 

著者紹介

ふじた  としのり

藤田 壽憲 君

1988年金沢大学大学院工学研究科修士課程修了.同年,金沢市役所を経て石川職業訓練短期大学校(現:石川能力開発短期大学校)講師.1992年より東京工業大学助手.2002年東京電機大学助教授, 2004年同大学教授,現在に至る.流体計測・制御,主として空気圧システムの解析,制御の教育・研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,計測自動制御学会などの会員.博士(工学)

E-mail: tfujita(at)mail.dendai.ac.jp

 



図1 工場における圧縮空気供給例

 


図2 風力空気圧縮機の構成

 


a) 単気筒形

4気筒形
図3 提案する内サイクロイド運動を利用した風力空気圧縮機

 


図4 風力空気圧縮機の特性