資 料

 

油圧機器のトライボロジーなど基盤技術に関する基盤研究委員会 *

 

西海 孝夫**

 

* 2024531日原稿受付

** 芝浦工業大学UniKL JUPプログラム 非常勤講師135-8548東京都江東区豊洲3-7-5

 

1.はじめに

 本研究委員会は,油圧機器のトライボロジーなどさまざまな基盤技術の発展を目的に20154月に特別委員会として設置され活動を行ってきた.2019年度からは基盤強化委員会のもとでの基盤研究委員会に名称変更となった.本委員会は,例年では年に数回の研究委員会を開き,その中で話題提供や工場見学などを実施してきたが, 残念ながら本年度もオンラインでの開催となった.本稿では,昨年度の議事録をもとに本委員会の活動内容について報告する.

2.研究委員会の活動状況

2023年度の活動はオンラインにて2回行われ,状況は以下のとおりである.

 

【第1回】

日時:20231116 () 14:0017:00Microsoft Teams利用,出席者:19 

(a)  話題提供者:河田 健一氏(ダイキン工業株式会社 営業部

  題目:「油圧機器の脱炭素社会への対応と製造業DX化における課題と提案」

近年高まる持続可能な社会の実現に向けた取り組みは「SDGs (持続可能な開発目標)」として方向性を定められ,生産性,コストダウンを最優先に改善に取り組んできた製造業は,もう一つの大きな課題を突き付けられている.

SDGsにおいては,生産性の延長線上にある省資源,省エネに加え,廃棄物低減や誰もが働きやすい職場づくりなども課題と置かれている. ポンプ,シリンダなどの油圧機器は,人における心臓,筋肉に相当する重要な役割を担っている. 生産工場における油圧機器の消費電力は,工場全体に対して占める割合が大きく,過去から省エネルギー技術が進展し,多数の企業が省エネルギー商品を開発しているが,その事例について紹介いただいた.新たな観点として,油圧機器の持つ物理量を装置の運用において意味のある情報として提供することで,油圧システム全体を正常に,また,むだなく稼働させることが期待できる.今回は,回転数制御ポンプを使用した予知保全等の取り組みについて紹介いただいた. さらに製造業におけるDX 化における課題と解決に向けたひとつの方向性について紹介いただいた.

 

(b)  話題提供者: 相昊 氏(立命館大学 理工学部)

題目:「エアハイドロサーボによる水圧アクチュエータの制御」

屋外作業の無人化ニーズが高まっており,その中でも,人の腕による力仕事を代替する器用なマニピュレータに対する潜在的な需要は依然高いと考えられる.とくに近年は,海洋資源探査や水辺や水中での工事案件増加に伴い,作業用の水中マニピュレータに対する堅実なニーズがあると考えられる.

本研究では,空気-液圧サーボ増圧器を用いて水圧を操作することにより,ホースで接続された遠方の水圧アクチュエータを制御する,新しいタイプの防爆水圧マニピュレータを試作した.空気液圧サーボ増圧器(Air-Hydraulic Servo Booster, AHSB)と呼ばれる本駆動方式は,静油圧トランスミッション(HST)の一種であるため,従来の水圧ポンプや水圧サーボ弁においてしばしば問題になる高速摺動部を持たない.また,作動液として水道水を用いるので安全で引火の恐れがなく,唯一の電子機器である磁気式エンコーダを除けば,ロボット本体は防爆規制を受けない.ロボットのハードウェアと制御システムの概要と,本体を駆動源から12m 離した場合の制御実験についてご紹介いただいた.また,駆動ユニットに備わっている空気圧センサ等の複数のセンサ値から内部状態を推定し,それによって故障検出を行う方法の概要を説明いただいた.

 

【第2回】

日時:2024216 () 14:0017:00Microsoft Teams利用,出席者:18

(a)  話題提供者:竹中 氏(防衛大学校 理工学研究科

題目:「CFD解析による油圧ポンプの内部インピーダンス特性

まず,ポンプの内部通路のような複雑な流路形状を対象とした3次元の非定常数値解析(CFD)によって油圧ポンプの内部インピーダンスを求める手法や手順について説明いただいた.対象のポンプは,アキシアルピストンポンプと外接ギヤポンプの2種類であり,それぞれの内部流路の体積が最大および最小になる場合に対して解析結果を得たことが示された.つぎに,従来の簡易的な数学モデルと油圧ポンプの内部インピーダンスを測定する手法についての説明いただき,これらとの比較により,f < 2500 Hzの周波数領域において従来の数学モデルよりもCFD解析結果の方が実験結果に一致することが明らかになった.

 

(b)  話題提供者:菖蒲 紀子 委員(ENEOS株式会社 潤滑油研究開発部 工業用潤滑油グループ)   

題目:「新規多機能添加剤CuDTPを用いた油圧作動油の研究」

酸化防止性,耐摩耗性,極圧性を有する多機能添加剤であるジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)は,油圧作動油の添加剤として古くから使用され,ZnDTPを含むZn系作動油が主流とされてきた.しかし,ZnDTPは酸化や熱により分解し,最終的に油へ不溶なスラッジとなり,これがフィルター閉塞などのトラブルを引き起こすことが知られている.過去事例において,ZnDTPとオレイン酸銅との併用により酸化安定性が向上すること,その要因はジアルキルジチオリン酸銅(CuDTP)の形成によることが明らかとなっていた.

そこで本研究では,ZnDTPより酸化防止性,耐摩耗性に優れる含硫黄金属錯体であるジアルキルジチオリン酸銅(CuDTP)に着目している.CuDTP配合油と,従来技術であるZnDTP配合油とについて,実際のポンプを用いた酸化試験を行った結果として,CuDTP配合油において酸化防止性が向上していること,またその酸化防止メカニズムについて紹介いただいた.さらに,劣化油の潤滑性や,CuDTPのアルキル鎖長による潤滑性への影響についても,同様にZnDTP配合油以上であり問題なく,その作用メカニズムとして硫化銅(CuS)の形成が寄与している可能性があることについて紹介いただいた.

3.おわりに

この数年度の活動は,コロナ禍の中で対面での会議開催ができずWeb開催となったが,今年度こそは委員会の諸氏が一堂に会する機会を持つことができればと思っている.

最後に,話題提供や議事録作成にご協力いただいた河田氏,玄氏,竹中氏,菖蒲委員に対し,また日頃より本委員会の業務に尽力いただいている高辻幹事と一柳幹事に対し,この場をお借りして御礼申し上げる.

著者紹介

にしうみ たかお 

西海 孝夫 君

1976年青山学院大学理工学部機械工学科卒業,1979年成蹊大学大学院工学研究科博士前期課程機械工学専攻修了,1983年成蹊大学助手,1992年防衛大学校助手,その後に講師,助教授を経て2007年同校教授, 2019年芝浦工業大学MJHEPプログラム機械工学科教授,現在University of Kuala LumpurJapan Universities ProgrammeUniKL JUP)にて芝浦工業大学非常勤講師として従事.日本フルードパワーシステム学会評議員,博士(工学).

E-mail: nishiumi(at)shibaura-it.ac.jp