展 望
2024年度の水圧分野の研究活動の動向*
飯尾 昭一郎**
* 2025年6月16日原稿受付
**信州大学,〒380-8553長野県長野市若里4-17-1
・Nieら3)は,ゾウの鼻の巻き付き動作から着想を得て,3次元らせん型水圧ソフトアクチュエータ(3D-SWHSA)が提案されている.これは,水中マニピュレータ向けに,よりターゲットを絞ったソフトアクチュエータによる捕捉方法を提供することを目的としたものである.3D-SWHSAは,複数の曲げ・ねじりユニット(Bending-and-Twisting Units:BATUs)で構成されており,加圧によりらせん状に巻き付く変形を生じる構造となっている.本研究では,仮想仕事の原理とYeoh 3次モデルを統合して巻き付き動作の予測モデルを構築し,構造パラメータを変化させたBATUに対する曲げ・ねじり挙動を有限要素解析(FEA)によって調査している.最適な構造パラメータを選定した後,3D-SWHSA全体の曲げ変形能力をシミュレーションし,その挙動を実験により検証した.柔軟性,適応性,および生体適合性を評価するため,空気中および水中での捕捉実験が行われ,いずれも成功裏に実施された.ヒトデやナマコといった軟体生物に加え,ウミニナやカニなど硬質な殻を有する生物も無害に捕捉できることが確認された.また,単一の3D-SWHSAでは捕捉が困難な場合や対象物が想定範囲を超える場合には,2体の3D-SWHSAを連携させることで協調的に巻き付き,対象を安定して捕捉することが可能である.本研究は,海洋探査,漁業,および水中作業など,さまざまな海洋アプリケーションにおける3D-SWHSAの高い有用性と発展性を実証している.
・Gaoら4)は,6自由度を備えた深海用水圧マニピュレータの開発動向を紹介している.水圧システムは,油圧に比べて深海環境への適応性に優れており,水の粘度変化が小さいため,高圧下でも性能の低下が抑えられる.また,海水をそのまま駆動媒体として利用できるため,油漏れや頻繁なメンテナンスといった油圧システム特有の課題を根本的に解消できる.一方で,水圧には潤滑性の低さや腐食性の高さといった課題もある.これに対応するため,往復プランジャーシールを用いた耐環境型アクチュエータが開発された.マニピュレータは,ジョイント1〜3に水圧リニアシリンダー,ジョイント4・5にロータリーシリンダー,ジョイント6にラジアルピストンモーターを搭載し,それぞれ用途に応じた動作を実現している.ヒンジ位置の最適化には粒子群最適化(PSO)アルゴリズムが適用され,ジョイント1および3の最大駆動力はそれぞれ43.4%,53.8%低減された.また,メインアームにはトポロジー最適化が施され,構造重量は23%,最大変形量は62.4%削減されている.順運動学解析の結果,マニピュレータの作業範囲は2.5mに達し,空間カバー率は75%以上であることが示された.さらに,逆運動学解析により,エンドエフェクタの姿勢制御も可能であることが確認されている.位置追跡試験では,個別アクチュエータの制御精度が1.5mm以内,マニピュレータ全体としてのエンドエフェクタ制御精度が18mm以内を達成している.これらの成果により,本マニピュレータは,2.5mのリーチと5000Nの持ち上げ能力,および18mm以内の高精度な位置決め性能を備えており,深海探査や作業ロボットへの応用に対して高い実用性が期待されている.
・Mengら5)は,水中油圧マニピュレータ(UHM)に搭載される水圧高速On/Offバルブ(WHSV)の総合性能向上を目的に,多目的最適化手法を提案している.WHSVは環境負荷が小さく,連続運転が可能なことから,海洋探査用途で油圧に代わる選択肢として注目されている.WHSVは2ポジション2ウェイ構造で,水中対応として1J117軟磁性材料,Si₃N₄セラミックボール,17-4PHステンレス製バルブシートを使用しており,深海用には圧力補償器も装着可能である.制御には複合PWM(CPWM)戦略を導入しており,特に負電圧の振幅と持続時間が,応答時間・電力損失・衝撃性能に与える影響を評価している.負電圧の振幅や持続時間の増加により閉鎖時間は最大66%短縮される一方,電力損失と衝撃応力は約20〜45%増加する傾向がある.これらのトレードオフを解決するために,本研究ではOLHSサンプリング,クリギング代理モデル,NSGA-II,TOPSIS法を組み合わせた最適化を実施している.その結果,閉鎖時間をわずか3.3%増加に抑えつつ,電力損失を9.8%,衝撃応力を14.5%,最大変形を19.8%低減する最適解を得ている.
・鈴木6)は,福島第一原子力発電所の廃炉作業に用いられるロボットの駆動系を対象に,過酷な環境下でも使用可能な小型水圧モーターの開発を目指している.原子炉格納容器内に設置された限られた開口部を通過するには,モーターには高い小型性に加え,十分なトルク性能と放射線耐性が求められる.設計にはバルブレス構造を実現するロータリーピストン方式を採用し,外形寸法50mm角のコンパクトな構成と,3.5MPaの定格圧力を達成している.モーター内部では,ローターにルーロー三角形を基本としたプロファイルを用い,内周形状としてペリトロコイド曲線を採用したハウジングとの非接触回転を可能にしている.ローターの三頂点には,作動油のリークを抑えるため,PEEK素材のアペックスシールを装着している.さらに,シール先端と干渉しないようハウジングの形状も最適化されている.供給圧力の切り替えにより双方向回転が行えるよう,サイド部には4つの給排水ポートを設けている.従来型のロータリーエンジンに見られる位相制御ギアは,モーターの小型化を優先し,あえて省略されている.性能評価のための実験では,約0.5MPaの差圧で回転が確認され,圧力の切り替えにより逆回転も可能であることを確認した.一方,圧力が1.5MPaを超えると,ローターの回転が停止する現象が生じた.この原因としては,ローター上下の圧力バランスの崩れにより発生する流体による拘束効果(流体固着)が示唆されている.対策としてローターに貫通孔を設けたが,この改良では高圧時の停止現象は解消されなかった.今後の検討課題としては,連続回転の安定性の確保と,負荷条件下での出力・効率などの動力性能評価を挙げている.
ご紹介した研究は,水圧技術の多様な応用展開を示しており,水中・放射線環境といった極限条件においても,その安全性・柔軟性・環境適合性を備えたシステムの実現が着実に進展していることを示している.空気–液圧サーボ増圧器を活用した故障検出と安全制御,らせん型ソフトアクチュエータによる生物模倣型捕捉技術,高性能水圧マニピュレータにおける構造最適化と高精度制御,高速On/Offバルブの多目的最適化,さらに放射線耐性と小型化を両立する水圧モーターの開発など,いずれも次世代の水圧システムに求められる要素を高度に統合している.これらの成果は,従来の油圧・電動システムでは対応が困難であった応用領域に対し,水圧が有効な選択肢となる可能性を示すものであり,今後のさらなる発展が期待される.
1) 小林亘:JFPS2024広島における水圧分野の研究動向,フルードパワーシステム,Vol.56,No.2,p.64-66 (2025)
2) 渡邊悠希,谷口友美,玄相昊:空気-液圧サーボ増圧器で駆動される水圧ロボットの状態推定とフェイルセーフ制御,日本ロボット学会誌,Vol.42,No.9,p.928-931 (2024). https://doi.org/10.7210/jrsj.42.928
3) Songlin Nie, Linfeng Huo, Hui Ji, Shuang Nie, Pengwang Gao, Hanyu Li:Deformation Characteristics of Three-Dimensional Spiral Soft Actuator Driven by Water Hydraulics for Underwater Manipulator,Soft Robotics,Vol.11,No.3, p.410-422 (2024). https://doi.org/10.1089/soro.2023.0085
4) Gao, H., Wu, D., Gao, C., Xu, C., Yang, X., Liu, Y.:Development of a Six‑Degree‑of‑Freedom Deep‑Sea Water‑Hydraulic Manipulator, Journal of Marine Science and Engineering, Vol.12, Article 1696 (2024). https://doi.org/10.3390/jmse12101696
5) Meng, L., Zhang, H., Xu, F., Wang, Y., Wu, D.:Comprehensive performance improvement of a water hydraulic high‑speed on/off valve for underwater hydraulic manipulators using a multi‑objective optimization method, Frontiers of Mechanical Engineering, 19, Article 39 (2024). https://doi.org/10.1007/s11465-024-0809-z
6) 鈴木健児:ロータリーピストン型水圧モータのハウジング形状設計に関する研究,日本機械学会2024年度年次大会 論文集, セッション J111‑01.
いいお しょういちろう
飯尾 昭一郎 君
2004年宮崎大学大学院工学研究科システム工学専攻修了.同年信州大学助手,助教を経て,2011年信州大学工学部准教授,現在に至る.持続可能な小規模水力発電の研究開発に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会などの会員.博士(工学).
E-mail: shouiio(at)shinshu-u.ac.jp