展 望
2024年度の機能性流体分野の研究活動の動向*
山本 久嗣**
* 2024年6月9日原稿受付
**富山高等専門学校,〒939-8630富山県富山市本郷町13番地
2.1 電界共役流体(ECF),電気流体力学(EHD)流体に関する研究
Wangら2)は電場と熱伝達の関係に着目し,均一な垂直電場下における核沸騰中の単一気泡の動的挙動および熱伝達性能を数値解析により検討したものである.気泡の変形から脱離に至る過程に着目し,電場の影響を定量的に評価した結果,微小重力環境下では電場が熱伝達の有効な強化手段となることが示された.さらに,二次元および三次元のシミュレーション結果を比較したところ,定性的には一致するものの,定量的には相違が存在した.Bond数,Bo = 1.2 の条件下では2Dモデルにおける電場による熱伝達向上率は2.07%であり,Electric Bond数,BoE = 500の条件では重力低下により熱伝達が36%減少した.一方,3D解析では電場による向上率が40.1%,重力低下による減少率が38.6%であった.これにより,2D解析も有効な参照手段であることが確認された.
武井ら3),はEHDポンプを用いた新しい止血帯を開発した.止血帯は整形外科手術中に四肢の出血を空気圧で止め,術野を確保する医療機器であるが,従来は経験則に基づく高い一定圧で圧迫されるため,組織への損傷が懸念されていた.ラット実験では,圧力が高いほど身体への損傷が大きく,圧迫部周辺の組織酸素飽和度(rSO₂)が低下することを確認しており,rSO₂に基づく圧力調整が損傷軽減に有効である可能性を示していた.しかし,従来の空気圧式止血帯では精密な調整が困難である.そこで,電圧制御のみで圧力調整が可能なEHDポンプに着目し,rSO₂測定機能を搭載した止血帯を開発した.このシステムにより,高精度な圧力制御が可能となり,実際の臨床試験では,rSO₂の変化に応じて自動的に圧迫圧を調整できることを確認した.
2.2 磁性流体(MF),磁気粘性流体(MRF),磁気混合流体(MCF)に関する研究
Xinpingら5)は非磁性液滴を磁性流体で包んだ複合液滴が,回転する一様磁場下で非磁性媒質中に浮遊する状況を対象に,2次元直接数値シミュレーションを実施した.複合液滴の運動と変形を解析した結果,安定状態では液滴が同心状態または偏心状態のいずれかに落ち着くことが判明し,これは磁場の回転周波数と磁気ボンド数に依存する.同心状態では,内外の液滴が磁場に追従して回転するが,磁場との間にヒステリシスが生じ,その影響は内液滴より外液滴で顕著であった.また,磁場周波数の増加により,内外液滴間の位相差や偏心状態から同心状態への遷移時間が増加することが明らかになった.
西田ら6)はMCFに砥粒を加えた加工液を用いて磁場と電場を同時に印加した場合の研磨除去量に対する経験式を導いた.実験では,開発した円板型永久磁石工具を用いた研磨装置,磁場と電場を同時に印加できる平行円板型研磨機および磁場を印加できる平行円板型レオメータを用いた。これらの実験装置を用いて,MCF加工液に磁場と電場を同時に印加した場合の研磨除去量は,磁場による加工圧力と電場による加工圧力の重ね合わせに関係することを明らかにした.
松岡ら7)はMR流体を用いて慣性モーメントを可変とする振動抑制装置(VSD)を開発し,系列慣性質量効果による振動低減を目指した.試作機による実験で,電磁石の電流制御により慣性質量効果の切り替えが可能であることを確認し,流体の凝固状態に関する理論モデルも提案された.本研究では,VSDの内部での流体挙動を数値流体解析(CFD)により解明した.3種類のフライホイールと2種類の電磁石を組み合わせた計20ケースに対し,OpenFOAMを用いた数値解析と実験を実施し,等価慣性質量を求めた.解析の結果,磁場印加時に磁極方向に自然対流が発生し,最終的に磁極付近以外で粒子が固化することを明らかにした.
Barronら8)は磁場の印加により剛性や減衰特性を可変にできる磁性エラストマー(MRE)に対して,従来の固体粒子を含む複合材料(RC)に加え,近年開発された磁性流体を包有相とする複合材料(FC),さらにその両者を組み合わせたハイブリッド型MREの磁気機械特性を実験的に評価した.また,材料構造,無磁場時の物性,および印加磁場と弾性率・特異損失との関係を示す設計マップの作成を目的として,材料モデルも構築した.モデルは磁気および機械エネルギーの原理に基づいており,包有相の状態(固体・液体)が変形時のエネルギー密度変化に影響することを示す.さらに,磁気機械結合係数が無磁場時の材料特性に依存することを明らかにし,これにより所望の特性に応じたMREの設計が可能になることを示した.
Borinら9)はMREの磁化を準静的に繰り返すことによる磁気応答性の影響を調査している.MREはシリコーンゴムとカーボニル鉄粉から構成され,振動試料型磁力計により評価された.柔らかいマトリクスを持つ試料では,磁化初期の微分磁化率曲線にピークが現れ,そのピーク位置は磁化の繰返し回数により変化する.また,異なる極性の磁場で得られる初期磁化率曲線は対称ではなく,繰返し磁化を行うことで対称性が得られる.これらの曲線は粒子の移動に関わる可逆・不可逆過程の影響を受ける.一方,剛性の高いマトリクスを持つ試料は,従来の軟磁性材料に類似した磁気応答を示す.本研究は,マトリクスの弾性が磁気特性に与える影響を明らかにしており,MRE設計に有用な知見を提供するものとなった.
1) The, L. K., Toan, D., Nguyen Minh Duc, Ich, N. L. : A new design of electro-conjugate fluid micropumps with Venturi and teardrop-shaped electrodes, Physics of Fluids, Vol.36, No.9, 092017 (2024)
2) Wang, Q., Perez, A. T., Guan, Y., Wu, J. : Numerical analysis of single bubble dynamics and heat transfer in electric field-enhanced nucleate boiling, International Journal of Heat and Fluid Flow, Vol.108, 109430(2024)
3) 武井裕輔, 石川龍, 村田隼人, 前田浩行, 前田睦浩, 寺阪澄孝, 下大川丈晴, 長妻明美, 安齊秀伸, 三井和幸:EHDポンプを駆動源とする患者の負担軽減を目指したターニケットの開発,生体医工学,Vol.63, No.1, p.16-24(2025)
4) Gursoy, E., Gurdal, M., Gedik, E., Arslan, K.: Experimental and numerical study on ferrohydrodynamic and magneto-convection of Fe3O4/water ferrofluid in a sudden expansion tube with dimpled fins, Journal of the Taiwan Institute of Chemical Engineers, Vol.164, 105676(2024)
5) Xinping, Z., Xiao, W., Zhang, Q., Zhang, F. : A droplet in a ferrofluid droplet under a rotating magnetic field, Journal of Engineering Mathematics, Vol.146, No.1, p.6-26 (2024)
6) 西田均,山本久嗣,島田邦雄,井門康司: 磁場と電場の同時印加によるMCF研磨の加工除去量の特性,日本AEM学会誌,Vol.32, No.1, p.89-94(2024)
7) 松岡太一,大谷健太: 磁気粘性流体を用いた可変慣性モーメント型振動抑制装置(フライホイール内の流体の挙動),日本機械学会論文集,Vol.90, No.935(2024)
8) Barron III, E. J., Williams, E. T., Lazarus, E., Bartlett, M. D.: The magneto-mechanical coupling of multiphase magnetorheological elastomers, Journal of Physics: Condensed Matter, Vol.37, 135101(2025)
9) Borin, D., Vaganov, M., Odenbach, S.: Magnetic training of the soft magnetorheological elastomers, Journal of Magnetism and Magnetic Materials,Vol.589, 171499 (2024)
やまもと ひさし
山本 久嗣 君
2011年金沢大学大学院自然科学研究科物質科学専攻博士後期課程修了.2014年富山高等専門学校ソリューションセンター助教,准教授を経て, 2021年同校機械システム工学准教授,現在に至る.流体研磨,機能性流体の研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会などの会員.博士(工学).
E-mail: h.yamamoto(at)nc-toyama.ac.jp