展 望

 

2024年度の機能性流体分野の研究活動の動向*

 

山本 久嗣**

 

* 202469日原稿受付

**富山高等専門学校,〒939-8630富山県富山市本郷町13番地

 


1.はじめに

広くご存じの通り機能性流体は外部からの因子(磁場,電場,光,熱など)の影響により固有の物理的あるいは化学的な特定機能が発現される流体を総称するものである.機能性流体の歴史は古く,1900年代半ばに提案・開発がなされている.工業利用への応用についてはその後1947年に,電気粘性(ER)流体がブレーキやクラッチ機構への応用がなされた.翌年には磁気粘性(MR)流体がクラッチへの応用が発表された.電気流体力学(EHD)の物理現象は1800年代より明らかになっており,1959年にイオンドラッグポンプとしての利用が,また磁性流体は1965年に無重力空間下での液体燃料の流れを磁場により制御する手法が検討された.現在においてはMR流体,ER流体に対して磁場,電場印加により粘性変化を行う流体,また機能性流体に端を発する機能性ソフトマテリアルに関連する研究もおこなわれている.機能性ソフトマテリアルでは電気的に表面の粘性を変化することのできる電気粘着ゲル,電場応答性に優れ大きな変化を行う機能性高分子材料からなるEAPソフトアクチュエーター,磁場に反応してその粘弾性ならびに弾性特性を大きく変化するMRエラストマーなどの開発がこれまで行われてきた.本報では現在における機能性流体分野の注目する研究について概要を紹介する.

2.研究動向と概要

2.1 電界共役流体(ECF),電気流体力学(EHD)流体に関する研究

 ECFの研究においてはコレクタとエミッタの形状を改良した新規のECFポンプが開発ならびに垂直電場における沸騰伝熱に関する研究が行われた.また,EHDポンプを用いた止血帯も提案されておりECFEHDにおいてはさまざまな研究成果が報告されている.

 The1)はベンチュリ形状のコレクタとティアドロップ形状のエミッタを備えた新型ECFマイクロポンプ(VD-ECF)を開発し,その特性を数値解析と実験で検証した.ポンプ性能はエミッタ角・コレクタ角に大きく依存し、特にコレクタ角2530度で最大効率10%を記録した.性能曲線を多様な条件で構築し,圧力差や流量の動作範囲も拡大され,その結果は電子冷却や医療分野への応用が期待される.

 Wang2)は電場と熱伝達の関係に着目し,均一な垂直電場下における核沸騰中の単一気泡の動的挙動および熱伝達性能を数値解析により検討したものである.気泡の変形から脱離に至る過程に着目し,電場の影響を定量的に評価した結果,微小重力環境下では電場が熱伝達の有効な強化手段となることが示された.さらに,二次元および三次元のシミュレーション結果を比較したところ,定性的には一致するものの,定量的には相違が存在した.Bond数,Bo = 1.2 の条件下では2Dモデルにおける電場による熱伝達向上率は2.07%であり,Electric Bond数,BoE = 500の条件では重力低下により熱伝達が36%減少した.一方,3D解析では電場による向上率が40.1%,重力低下による減少率が38.6%であった.これにより,2D解析も有効な参照手段であることが確認された.

 武井ら3),はEHDポンプを用いた新しい止血帯を開発した.止血帯は整形外科手術中に四肢の出血を空気圧で止め,術野を確保する医療機器であるが,従来は経験則に基づく高い一定圧で圧迫されるため,組織への損傷が懸念されていた.ラット実験では,圧力が高いほど身体への損傷が大きく,圧迫部周辺の組織酸素飽和度(rSO₂)が低下することを確認しており,rSO₂に基づく圧力調整が損傷軽減に有効である可能性を示していた.しかし,従来の空気圧式止血帯では精密な調整が困難である.そこで,電圧制御のみで圧力調整が可能なEHDポンプに着目し,rSO₂測定機能を搭載した止血帯を開発した.このシステムにより,高精度な圧力制御が可能となり,実際の臨床試験では,rSO₂の変化に応じて自動的に圧迫圧を調整できることを確認した.

 

2.2 磁性流体(MF),磁気粘性流体(MRF),磁気混合流体(MCF)に関する研究

MFの研究では,磁性流体を用いた強制対流伝熱に対する実験ならびに数値解析による検討や,非磁性の液滴と磁性流体の複合液滴の磁場下における運動現象に関する報告がなされている.また,MCFでは,磁場に加えて電場を同時に印加する加工法における加工圧の理論に関する研究報告がなされた.そして,MR流体を用いた振動抑制装置の開発に関する研究報告がなされた.

Gursoy4)は,磁性流体(Fe₃O₄/水)を用いた強制対流において,ディンプルフィン,直流磁場を組み合わせた急拡大管内の強制対流伝熱を実験および数値解析により検討した.ディンプルフィンによる境界層の破壊と二次流れ生成,磁性流体による熱伝導率と粘性の向上,さらにローレンツ力による流れの撹拌により伝熱性能が大きく改善された.最適条件では,滑面管と比較して平均ヌセルト数は約280%,性能評価指標は約208%向上することを明らかにした.

 Xinping5)は非磁性液滴を磁性流体で包んだ複合液滴が,回転する一様磁場下で非磁性媒質中に浮遊する状況を対象に,2次元直接数値シミュレーションを実施した.複合液滴の運動と変形を解析した結果,安定状態では液滴が同心状態または偏心状態のいずれかに落ち着くことが判明し,これは磁場の回転周波数と磁気ボンド数に依存する.同心状態では,内外の液滴が磁場に追従して回転するが,磁場との間にヒステリシスが生じ,その影響は内液滴より外液滴で顕著であった.また,磁場周波数の増加により,内外液滴間の位相差や偏心状態から同心状態への遷移時間が増加することが明らかになった.

 西田ら6)MCFに砥粒を加えた加工液を用いて磁場と電場を同時に印加した場合の研磨除去量に対する経験式を導いた.実験では,開発した円板型永久磁石工具を用いた研磨装置,磁場と電場を同時に印加できる平行円板型研磨機および磁場を印加できる平行円板型レオメータを用いた。これらの実験装置を用いて,MCF加工液に磁場と電場を同時に印加した場合の研磨除去量は,磁場による加工圧力と電場による加工圧力の重ね合わせに関係することを明らかにした.

 松岡ら7)MR流体を用いて慣性モーメントを可変とする振動抑制装置(VSD)を開発し,系列慣性質量効果による振動低減を目指した.試作機による実験で,電磁石の電流制御により慣性質量効果の切り替えが可能であることを確認し,流体の凝固状態に関する理論モデルも提案された.本研究では,VSDの内部での流体挙動を数値流体解析(CFD)により解明した.3種類のフライホイールと2種類の電磁石を組み合わせた計20ケースに対し,OpenFOAMを用いた数値解析と実験を実施し,等価慣性質量を求めた.解析の結果,磁場印加時に磁極方向に自然対流が発生し,最終的に磁極付近以外で粒子が固化することを明らかにした.

 

 

2.3 ソフトマテリアル

ソフトマテリアルに関しては,磁性エラストマーの磁場と構造による特性制御に関する研究や磁性エラストマーの準静的な磁化応答に関する研究が実施されている.

 Barron8)は磁場の印加により剛性や減衰特性を可変にできる磁性エラストマー(MRE)に対して,従来の固体粒子を含む複合材料(RC)に加え,近年開発された磁性流体を包有相とする複合材料(FC),さらにその両者を組み合わせたハイブリッド型MREの磁気機械特性を実験的に評価した.また,材料構造,無磁場時の物性,および印加磁場と弾性率・特異損失との関係を示す設計マップの作成を目的として,材料モデルも構築した.モデルは磁気および機械エネルギーの原理に基づいており,包有相の状態(固体・液体)が変形時のエネルギー密度変化に影響することを示す.さらに,磁気機械結合係数が無磁場時の材料特性に依存することを明らかにし,これにより所望の特性に応じたMREの設計が可能になることを示した.

 Borin9)MREの磁化を準静的に繰り返すことによる磁気応答性の影響を調査している.MREはシリコーンゴムとカーボニル鉄粉から構成され,振動試料型磁力計により評価された.柔らかいマトリクスを持つ試料では,磁化初期の微分磁化率曲線にピークが現れ,そのピーク位置は磁化の繰返し回数により変化する.また,異なる極性の磁場で得られる初期磁化率曲線は対称ではなく,繰返し磁化を行うことで対称性が得られる.これらの曲線は粒子の移動に関わる可逆・不可逆過程の影響を受ける.一方,剛性の高いマトリクスを持つ試料は,従来の軟磁性材料に類似した磁気応答を示す.本研究は,マトリクスの弾性が磁気特性に与える影響を明らかにしており,MRE設計に有用な知見を提供するものとなった.

3.おわりに

以上のように,2024年度においても機能性流体関連の研究発表ならびに研究活動は世界で広く実施されていることがわかった.特にこれまでの既存の技術開発のみならず,機能性流体においては新たな可能性を多岐にわたるフィールドで示す可能性を秘めており,基礎研究はもとより技術融合分野における研究技術レベル向上を成すことを期待する.

参考文献

1)    The, L. K., Toan, D., Nguyen Minh Duc, Ich, N. L. : A new design of electro-conjugate fluid micropumps with Venturi and teardrop-shaped electrodes, Physics of Fluids, Vol.36, No.9, 092017 (2024)

2)    Wang, Q., Perez, A. T., Guan, Y., Wu, J. : Numerical analysis of single bubble dynamics and heat transfer in electric field-enhanced nucleate boiling, International Journal of Heat and Fluid Flow, Vol.108, 109430(2024)

3)    武井裕輔, 石川龍, 村田隼人, 前田浩行, 前田睦浩, 寺阪澄孝, 下大川丈晴, 長妻明美, 安齊秀伸, 三井和幸:EHDポンプを駆動源とする患者の負担軽減を目指したターニケットの開発,生体医工学,Vol.63, No.1, p.16-24(2025)

4)    Gursoy, E., Gurdal, M., Gedik, E., Arslan, K.: Experimental and numerical study on ferrohydrodynamic and magneto-convection of Fe3O4/water ferrofluid in a sudden expansion tube with dimpled fins, Journal of the Taiwan Institute of Chemical Engineers, Vol.164, 105676(2024)

5)    Xinping, Z., Xiao, W., Zhang, Q., Zhang, F. : A droplet in a ferrofluid droplet under a rotating magnetic field, Journal of Engineering Mathematics, Vol.146, No.1, p.6-26 (2024)

6)    西田均,山本久嗣,島田邦雄,井門康司: 磁場と電場の同時印加によるMCF研磨の加工除去量の特性,日本AEM学会誌,Vol.32, No.1, p.89-94(2024)

7)    松岡太一,大谷健太: 磁気粘性流体を用いた可変慣性モーメント型振動抑制装置(フライホイール内の流体の挙動),日本機械学会論文集,Vol.90, No.935(2024)

8)    Barron III, E. J., Williams, E. T., Lazarus, E., Bartlett, M. D.: The magneto-mechanical coupling of multiphase magnetorheological elastomers, Journal of Physics: Condensed Matter, Vol.37, 135101(2025)

9)    Borin, D., Vaganov, M., Odenbach, S.: Magnetic training of the soft magnetorheological elastomers, Journal of Magnetism and Magnetic Materials,Vol.589, 171499 (2024)

 

著者紹介

やまもと ひさし

山本 久嗣 君

2011年金沢大学大学院自然科学研究科物質科学専攻博士後期課程修了.2014年富山高等専門学校ソリューションセンター助教,准教授を経て, 2021年同校機械システム工学准教授,現在に至る.流体研磨,機能性流体の研究に従事.日本フルードパワーシステム学会,日本機械学会などの会員.博士(工学).

E-mail: h.yamamoto(at)nc-toyama.ac.jp