解 説
2024年度 技術開発賞受賞について*
下山 弘高**
* 2025年6月16日原稿受付
**NACOL株式会社,〒424-0038 静岡県静岡市清水区西久保415番地
1.はじめに
この度は「スプール式水圧用切換弁」(図1)が日本フルードパワーシステム学会にて2024年度技術開発賞を受賞する事となり大変光栄に思う.
従来,さまざまな機械装置の駆動源は,主に電気,油圧,空圧であった.それぞれの駆動源にはメリットとデメリットがあるので,通常はこれらを組み合わせて1台の機械装置を駆動させる.上記3種類以外の新しい駆動源として,動力伝達の媒体として水道水を使用する水圧駆動がある.
水圧駆動にはつぎのような特徴がある.使用する水道水は生活の中に豊富にあり,入手と廃棄性に優れる.図2に示すように,ポンプから吐出された水は,さまざまなバルブによって,流れの方向,圧力,流量が制御される.アクチュエータが水圧モータの場合には回転運動,水圧シリンダーでは直線運動に変換され,外部へ仕事として伝達される.その出力質量比は油圧駆動には劣るが,電動や空気圧に対して高いので,比較的小型でも,高推力や高トルクな機械的運動が可能である.また水圧の最大の特徴は,機械を動かす要であるアクチュエータに機械油と電気を一切含まない事である1)2)3) .
国内の水圧技術に関しては,約30年前から研究が盛んになり,黎明期から大学や企業の研究部門において,水圧駆動システムのエネルギー効率改善4)5)や各種バルブ機器6)7)8)の開発が行われてきた.いくつかの参考文献では,水圧技術の高い環境融和性がさまざまな生産プロセスにもたらす利点を述べている.一方で,作動流体である水道水の低粘度と低潤滑性に起因する内部漏れや摩擦摩耗の克服が,水圧技術の発展に対する課題としている.
弊社では,2019年度から,独自の水圧機器の開発を始め「NADS(ナデス)※」ブランドとして製品化を進めている.現在では,水圧用のポンプやモータ,各種制御用バルブの販売をしている.NADSのコンセプトは,低価格で,取り扱いやすく,環境を汚さず,安心して使える水圧システムを構成可能な要素技術となる事である.圧力は,いわゆる低圧領域に区分される4.0MPa以下であり,従来の油圧と空気圧の中間にある新たな市場への導入を進めている.代表的な市場は,食品加工機械と防爆関連機械である.まだ導入が始まって日が浅いため,システムとしてはOnとOffを制御するだけのきわめて単純なものが大多数である.
(※ NADSはNACOL Aqua Drive Systemの略)
従来の空気圧や油圧の場合,水の流れる方向の切換えにはスプール方式の弁が頻繁に用いられるが,水圧用のスプール式切換弁が過去に製品化された事はなかった.しかし弊社では,従来とは違った製品概念を打ち立てる事によって,スプール式水圧用切換弁を開発したので,その特徴や社会実装例などを紹介する.
2.技術内容と今後の展望
2.1 スプール式水圧用切換弁
スプール式切換弁の特徴は,ポペット式に比べ長いストロークを必要とするが,圧力の影響をほとんど受けずに流れの方向を切換える事ができる.また構造が単純で安価な事から,油圧技術では多用されている.しかしながら,過去に水圧用として量産販売された製品はなかった.水道水を作動流体として使用する場合,作動油よりもかなり低粘度であるので,油圧用スプール式の弁と同じ設計では,「漏れ」と「潤滑」に関する問題が生じる.これらは相反する課題であり,漏れを減らそうとすると,潤滑に関する問題を増大させる.逆もまた然りである.この度開発をした水圧用スプール式切換弁では,スプール形状,加工方法,スプールの自動調心技術などによって,バルブ内の漏れをほぼゼロ,摺動部品同士の固着,低潤滑による摩擦と摩耗といった課題を,低コストで克服した.
図3にスプール式水圧用切換弁の内部構造を示す.弁の内部にはスプールが納められており,そのスプールを左右に動かす事によって,流れの向きと流量を制御する.Pポートには水圧源(通常はポンプ)が接続されており,上側のAとBポートはアクチュエータである水圧シリンダーと接続している.シリンダー内部に水を入れると,その流れの向きに応じて前進(伸びる)・後退(縮む)をする.シリンダーの逆側ポートは排出用のTポートと接続しており,ピストンを挟んで逆側の部屋から押し出された水は,ここを通過してタンクへ戻る.このように油圧用や空気圧用と比較しても,構造上の大きな違いはない.また使用方法も同様である.
つぎにスプール弁のOn/Off切換特性を図4に示す.連通動作(T1)が0.05秒,戻り動作(T2)が約0.2秒なので,高周波数制御に対しては課題を残している.本製品は定格流量を10L/minとしているが,一部のユーザからは大流量化に対して要望があるので今後開発をしていく.
また今回製品化した切換弁は,On/Off制御のみでなく,水が通過する流路面積を連続的に調整する事が可能な,いわゆる比例弁のシリーズ化も同時に進めている.スプールの変位と流量,つまりシリンダーの伸縮速度は,ほぼ比例関係にある.また中立点近傍では流量がゼロとなる不感帯が存在するので,アクチュエータに負荷を掛けた状態でも長時間停止させる事ができる.
2.2 社会実装の例
これまでNADSシリーズは食品加工装置,半導体関連装置,防爆産業,水圧を使った試験装置などの分野で市場獲得をしてきた.
ここで紹介する例は,熱処理ラインに適用されたシステムであり,前述とは異なる分野である.図5に示すように,レバータイプのスプール式水圧用切換弁によって,シリンダーとモータを駆動させるだけのきわめて単純な水圧システムである.近くに火種がある環境なので,水圧駆動をさせれば,オイルレスで安全性が高いシステムを構成可能であるが,導入に際して最も評価されたメリットは,システム駆動用の水圧源を,元々存在していた冷却水系統と共有化させた点である.つまりユーザはアクチュエータを駆動させるために,新しい動力源を準備する必要がなく,単に配管作業をするだけでシステム構築ができ,イニシャルコストにおける優位性を出す事ができた.このように水のラインが,工場インフラとして備わっているケースでは,市場獲得のチャンスが多くあると考えられる.
3.おわりに
本稿ではスプール式水圧用切換弁を,水圧駆動技術の動向を交えながら紹介させていただいた.今後もさまざまな製品を開発して,水圧駆動が多くの機械設計者にとって一般的な選択肢になるよう努め,フルードパワー業界の発展に寄与していきたい.
4.謝辞
技術開発賞の受賞にあたり,推薦して頂いた諸先生方に深く感謝申し上げる.また開発費用の一部が静岡県産業振興財団の新成長産業戦略的育成事業助成事業によって賄われた事を記すと共に,技術開発や市場開拓に関するサポートや助言を頂いた同財団の研究開発支援チーム各位に謝意を表す.
参考文献
1) 浦田, 宮川: “水圧駆動技術入門”,日刊工業新聞社, 2002.
2) E.Trostmann: “Wasserhydraulik-Steuerungstechnologie”Marcel Dekker, Inc., 1996.
3) 池尾: 水圧駆動システム「特集 食品機械とフルードパワー」 油空圧技術 46-13
4) 小林, 伊藤, 池尾: “水圧スイッチング動力伝達システムのエネルギー効率に関する研究(第 1 報,エネルギー回生効率に関する実験的考察)” 日本フルードパワー学会誌論文集, Vol.42, No.2, pp, 19-24, 2011.
5) 小林, 伊藤: “水圧スイッチング動力伝達システムのエネルギー効率に関する研究(第 2 報,シミュレータの構築および性能改善に向けた検討)” 日本フルードパワー学会誌論文集, Vol.43, No.1, pp, 19-24, 2012.
6) 朴, 北川: 水圧用比例ポペット弁の開発及び基礎特性解析, JFPS論文集 36-2, 2005
7) 吉田:水圧電磁比例制御弁の安定性に関する考察, KYB技報 No.57 2018-10
8) 下山, 牧田, 杉村: ロボット駆動に用いられる水圧機器の開発, ロボット学会誌 Vol.43 No.3, pp.275〜278, 2025
しもやま ひろたか
下山 弘高 君
2011年 静岡大学大学院 理学研究科 修士課程修了.放射化学専攻.2011年よりNACOL株式会社に在籍. 営業部,製造部を経て,現在は技術部に所属. 水圧用機器の研究開発に従事. JFPS日本フルードパワーシステム学会会員.
E-mail: hshimoyama(at)nacol.co.jp
![]() 図1 スプール式水圧用切換弁 |
![]() 図2 水圧駆動システムの構成例 |
![]() 図3 スプール式切換弁の内部構造 |
![]() 図4 応答性試験結果 |
![]() 図5 水圧システム回路図(ポンプは冷却水を使用) |